駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜

あーもんど

文字の大きさ
111 / 126
番外編

風邪

しおりを挟む
 ────とある日の早朝。
私はなんだか寝苦しくて、いつもより早い時間帯に目を覚ました。

 今日は異様に寒いわね。
それに体も怠くて……全く動く気になれない。

 『まだ寝足りないのかしら?』と思いつつ、私はゴロンと寝返りを打つ。
すると、隣で眠っている夫の姿が目に入った。
『そういえば、旦那様の寝顔を見るのは初めてかも……』と考える中、私は不意に咳き込む。

「────レイチェル」

 少し掠れた声で名前を呼ばれ、私は顔を上げた。
と同時に、先程まで眠っていた夫が体を起こす。

「顔が赤いな。それに呼吸も早い」

 寝起きにも拘わらず即座にこちらの異変を察知する夫は、使用人呼び出し用のベルに手を伸ばした。

「多分、風邪だろう」

 ────という夫の予想通り、私は熱を出していた。
医者曰く、そこまで酷いものじゃないので安静にしていれば大丈夫とのこと。

「レイチェル、薬だ。飲め」

 夫は医者の処方してくれた薬と水を差し出し、『ほら』と促す。
この時間帯、いつもなら執務室で仕事をしている筈なのに。
『心配で、まだ寝室に居るのかしら?』と考えながら、私は上体を起こした。

「ありがとうございます」

 薬が包まれた白い紙と水の入ったコップを受け取り、私はゆっくりと口元に運ぶ。
そして、何とか飲み終えると、夫が紙やコップを回収した。

「水、もう少し要るか?」

「いえ、大丈夫です」

「部屋の温度は?上げるか?」

「今がちょうどいいので、お気遣いなく」

 再びベッドに横になりつつ、私は『何もしなくていい』と告げた。
すると、夫はベッド脇に置いてある椅子へ腰を下ろす。

「そうか。では、寝ろ」

 両腕を組んでこちらを見下ろす夫に、私は

「はい、おやすみなさい」

 と、返事した。
その刹那、意識を手放し────約四時間後に目を覚ます。
薬のおかげか随分と体が楽になった私は、ホッと息を吐き出した。
が、傍で仕事している夫を見るなり青ざめる。

「えっ?旦那様……?」

 てっきりもう部屋から出て行ったのかと思っていたため、私は戸惑いを隠し切れなかった。
だって、ここに居たら風邪を移してしまうかもしれないため。
いや、本来なら今朝の時点で引き離すべきなのだが……。
『熱のせいで、そこまで気が回らなかったのよね……』と思いつつ、私は慌てて身を起こす。
と同時に、夫が顔を上げた。

「何をそんなに驚いている?」

「旦那様まで体調を崩すかもしれない事態に直面しているからです」

「感染のことを気にしているのか?なら、安心しろ。この程度の病では、私をどうすることも出来ない」

 『現に風邪を引いたことは一度もない』と言ってのけ、夫は水の入ったコップをこちらへ手渡す。

「第一、毎日一緒に寝ている時点でもう手遅れだろ」

「それは……確かに」

 『よく考えれば、発症のときも真横に居たし……』と思い返し、私は隔離や退室を諦める。
そのまま大人しく水を飲む私の前で、夫はこちらへ手を伸ばした。

「だから、レイチェルは自分の体調だけ心配していろ」

 優しく私の頭を撫で、夫は空になったコップを受け取る。

「とにかく安静にして、早く治せ。妻の苦しむ姿は……あまり見たくない」

 珍しく自分の気持ちを口にする夫に、私は少しばかり目を見開いた。
『思ったより、心配を掛けてしまったみたいね』と考えつつ、早く治すことを決意する。
夫にあまり心労を掛けたくなかったので。
何より、彼とまたお喋りしたり庭を散歩したりしたかった。
『寝るのは好きだけど、旦那様と過ごす時間を制限されるのは嫌』と思い立ち、私は療養に専念する。
────その結果、風邪は二日ほどで治り、またいつもの日常へ戻った。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました

つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。 けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。 会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...