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番外編
バレンタイン①
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「────バレンタイン?」
商会のトップ マルセルから届いた手紙を見つめ、私はパチパチと瞬きを繰り返す。
だって、見慣れない単語が羅列してあったから。
説明を読む限り、女性が好きな男性へチョコを渡すイベントみたいね。
元々は他国独自の文化だったようだけど、徐々に世界へ広まりつつあるらしい。
まあ、そのように手を回したのは間違いなく商人達でしょうけど。
『チョコのような高級菓子が大量に売れれば、お金になるものね』と考え、私は肩を竦める。
きっと、私にこの話をしたのも流行作りの一環でしょうね。
運良く興味を示してくれれば、周りに『ラニット公爵夫人もバレンタイン文化を楽しんでいる』と触れ込めるから。
『宣伝効果アップは間違いない』と確信しつつ、私は自室のソファから立ち上がった。
正直バレンタインにはあまり興味ないが、この頃お疲れの夫に差し入れとしてチョコを贈るのはいいかもしれない、と思って。
「ベロニカ、マルセルに連絡を取ってくれる?」
────と、お願いした数時間後。
私はマルセルの経営する商会へ赴き、チョコの試食を行っていた。
「もっと苦いものが、いいのだけど」
客室のテーブルに並べられたチョコを一瞥し、私は『この中にあるものじゃ、ダメね』と思案する。
旦那様は決して甘いものが嫌いな訳じゃないけど、進んで食べるほど好きでもない。
だから、出来ればビターチョコを買いたいのよね。
どちらかと言うと、苦いものの方が好きみたいだし。
『せっかくだから、本人の喜びそうなものを』と思い、私は顎に手を当てた。
────と、ここでマルセルが顔を上げる。
「分かりました。では────カカオ100パーセントのものを持ってきます」
そう言うが早いか、マルセルは席を立った。
「ただ、こちらはもう本当に……本当に凄く苦いので注意してくださいね」
────という忠告のあと、用意されたのは他のものより明らかに黒いチョコだった。
見た目からして苦そうなソレを前に、私はスッと目を細める。
と同時に、マルセルが少しばかり表情を硬くした。
「どうぞ、ご賞味ください」
黒いチョコの入った皿をこちらへ差し出すマルセルに、私はコクリと頷く。
そして、三つある粒のうちの一つを手に取り、口へ運んだ。
「!?」
口内に広がるビターな味わいに、私は思わず目を白黒させる。
だって、あまりにも予想外……いや、予想以上だったので。
『本当に凄く苦い……!』と狼狽える私の前で、マルセルが慌ててコップを差し出した。
「水です、ラニット夫人」
「あ、ありがとう」
マルセルからコップを受け取って中身を飲み干し、私は一息つく。
まだ若干チョコの後味は残っているものの、苦味は大分引いたので。
『後で口直しに何か甘いものを買おう』と考えていると、マルセルがそっと眉尻を下げた。
「やはり、カカオ100パーセントのものは紹介するべきじゃなかったですね……申し訳ありません」
商会のトップ マルセルから届いた手紙を見つめ、私はパチパチと瞬きを繰り返す。
だって、見慣れない単語が羅列してあったから。
説明を読む限り、女性が好きな男性へチョコを渡すイベントみたいね。
元々は他国独自の文化だったようだけど、徐々に世界へ広まりつつあるらしい。
まあ、そのように手を回したのは間違いなく商人達でしょうけど。
『チョコのような高級菓子が大量に売れれば、お金になるものね』と考え、私は肩を竦める。
きっと、私にこの話をしたのも流行作りの一環でしょうね。
運良く興味を示してくれれば、周りに『ラニット公爵夫人もバレンタイン文化を楽しんでいる』と触れ込めるから。
『宣伝効果アップは間違いない』と確信しつつ、私は自室のソファから立ち上がった。
正直バレンタインにはあまり興味ないが、この頃お疲れの夫に差し入れとしてチョコを贈るのはいいかもしれない、と思って。
「ベロニカ、マルセルに連絡を取ってくれる?」
────と、お願いした数時間後。
私はマルセルの経営する商会へ赴き、チョコの試食を行っていた。
「もっと苦いものが、いいのだけど」
客室のテーブルに並べられたチョコを一瞥し、私は『この中にあるものじゃ、ダメね』と思案する。
旦那様は決して甘いものが嫌いな訳じゃないけど、進んで食べるほど好きでもない。
だから、出来ればビターチョコを買いたいのよね。
どちらかと言うと、苦いものの方が好きみたいだし。
『せっかくだから、本人の喜びそうなものを』と思い、私は顎に手を当てた。
────と、ここでマルセルが顔を上げる。
「分かりました。では────カカオ100パーセントのものを持ってきます」
そう言うが早いか、マルセルは席を立った。
「ただ、こちらはもう本当に……本当に凄く苦いので注意してくださいね」
────という忠告のあと、用意されたのは他のものより明らかに黒いチョコだった。
見た目からして苦そうなソレを前に、私はスッと目を細める。
と同時に、マルセルが少しばかり表情を硬くした。
「どうぞ、ご賞味ください」
黒いチョコの入った皿をこちらへ差し出すマルセルに、私はコクリと頷く。
そして、三つある粒のうちの一つを手に取り、口へ運んだ。
「!?」
口内に広がるビターな味わいに、私は思わず目を白黒させる。
だって、あまりにも予想外……いや、予想以上だったので。
『本当に凄く苦い……!』と狼狽える私の前で、マルセルが慌ててコップを差し出した。
「水です、ラニット夫人」
「あ、ありがとう」
マルセルからコップを受け取って中身を飲み干し、私は一息つく。
まだ若干チョコの後味は残っているものの、苦味は大分引いたので。
『後で口直しに何か甘いものを買おう』と考えていると、マルセルがそっと眉尻を下げた。
「やはり、カカオ100パーセントのものは紹介するべきじゃなかったですね……申し訳ありません」
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