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番外編
仕事《へレス side》
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────これはロルフが長期休暇に入った頃のこと。
私は執務机に並べられた大量の書類を見て、眉間に皺を寄せていた。
これを私一人で、処理しないといけないのか。
さすがに骨が折れるな。
『計算だけでも、数時間掛かるぞ』と考えつつ、私はペンを走らせる。
────と、ここで部屋の扉をノックされた。
「旦那様、私です」
「入れ」
直ぐに入室の許可を出すと、部屋の扉が開く。
そして、現れたのは珍しく髪を結い上げているレイチェルだった。
『ここ最近、暑いからまとめているのか?』と思いながら、私は書面に視線を戻す。
「何か用か?」
作業の手を止めずに問い掛け、私は次の書類へ手を伸ばした。
黙々と仕事をこなす私の前で、レイチェルは一歩前へ出る。
「旦那様、もしご迷惑でなければ────私にも仕事をさせてください」
「!」
思わず作業の手を止め、私は目の前に居るレイチェルを凝視した。
すると、彼女は自身の胸元に手を添えてこう語る。
「以前にも話した通り、実家ではよく書類仕事を行っていたので、少しは力になれると思います。まあ、さすがにロルフの穴を埋めることは出来ないでしょうが」
『でも、居ないよりはマシな筈』と主張するレイチェルに、私は難色を示した。
出来れば、彼女には働いてほしくなかったので。
実家で大変な思いをした分、楽しく穏やかに過ごしてほしかった。
「気持ちだけ、もらっておこう」
「そうですか」
仕事に関することだからか、レイチェルはあっさり引き下がる。
「残念です。やっと、旦那様のお役に立てると思ったのですが」
僅かに眉尻を下げ、レイチェルは一歩後ろへ下がった。
「やはり、旦那様にはロルフしか居ないようですね」
……待て。その言い方には、少し語弊がある。
確かにあいつは仕事の出来るやつだし、頼りにしているが……。
『そうじゃない』と辟易しつつ、私は額に手を当てる。
「ロルフが原因で、断った訳ではない。ただ、妻には自由に過ごしてほしいだけだ」
「あら、そうだったんですか」
少しばかり目を見開き、レイチェルは驚いたような素振りを見せた。
かと思えば、僅かに身を乗り出す。
「でも、そういうことなら尚更仕事をさせてください。これは私の自由意思であり、願いですから」
『別に義務感を抱いて、申し出ている訳じゃない』ということを強調し、レイチェルはこちらを見据えた。
一点の曇りもない眼を前に、私は息を吐く。
こう言われては、断れないな。
実際人手が欲しいところだったこともあり、私は反論を諦めた。
「そうか。分かった。では、ここの書類の計算をしてくれ」
『出来るところまででいい』と告げ、私は中間決算に関する書類を手渡す。
すると、レイチェルは文章に軽く目を通してから顔を上げた。
「はい、お任せください」
迷わず首を縦に振るレイチェルは、予備のペンと新しい紙を持ってテーブルの方へ行く。
来客用のソファに腰掛けて早速作業を始める彼女に対し、私は
「無茶だけは、しないようにしろ」
と、声を掛けた。
────が、そんなの杞憂でしかなかった。
何故なら、彼女の事務処理能力はロルフ並みだったから。
計算能力においては、彼以上かもしれない。
早くて、的確。おまけにグラフなども、分かりやすい。
『実務経験アリとはいえ、凄いな』と素直に感心し、私はレイチェルの作成した書類を眺める。
彼女の協力があればこの繁忙期を乗り越えられそうだ、と思いながら。
「……ロルフはもう必要ないかもしれないな」
休暇中の幼馴染みを脳裏に思い浮かべ、私はスッと目を細めた。
私は執務机に並べられた大量の書類を見て、眉間に皺を寄せていた。
これを私一人で、処理しないといけないのか。
さすがに骨が折れるな。
『計算だけでも、数時間掛かるぞ』と考えつつ、私はペンを走らせる。
────と、ここで部屋の扉をノックされた。
「旦那様、私です」
「入れ」
直ぐに入室の許可を出すと、部屋の扉が開く。
そして、現れたのは珍しく髪を結い上げているレイチェルだった。
『ここ最近、暑いからまとめているのか?』と思いながら、私は書面に視線を戻す。
「何か用か?」
作業の手を止めずに問い掛け、私は次の書類へ手を伸ばした。
黙々と仕事をこなす私の前で、レイチェルは一歩前へ出る。
「旦那様、もしご迷惑でなければ────私にも仕事をさせてください」
「!」
思わず作業の手を止め、私は目の前に居るレイチェルを凝視した。
すると、彼女は自身の胸元に手を添えてこう語る。
「以前にも話した通り、実家ではよく書類仕事を行っていたので、少しは力になれると思います。まあ、さすがにロルフの穴を埋めることは出来ないでしょうが」
『でも、居ないよりはマシな筈』と主張するレイチェルに、私は難色を示した。
出来れば、彼女には働いてほしくなかったので。
実家で大変な思いをした分、楽しく穏やかに過ごしてほしかった。
「気持ちだけ、もらっておこう」
「そうですか」
仕事に関することだからか、レイチェルはあっさり引き下がる。
「残念です。やっと、旦那様のお役に立てると思ったのですが」
僅かに眉尻を下げ、レイチェルは一歩後ろへ下がった。
「やはり、旦那様にはロルフしか居ないようですね」
……待て。その言い方には、少し語弊がある。
確かにあいつは仕事の出来るやつだし、頼りにしているが……。
『そうじゃない』と辟易しつつ、私は額に手を当てる。
「ロルフが原因で、断った訳ではない。ただ、妻には自由に過ごしてほしいだけだ」
「あら、そうだったんですか」
少しばかり目を見開き、レイチェルは驚いたような素振りを見せた。
かと思えば、僅かに身を乗り出す。
「でも、そういうことなら尚更仕事をさせてください。これは私の自由意思であり、願いですから」
『別に義務感を抱いて、申し出ている訳じゃない』ということを強調し、レイチェルはこちらを見据えた。
一点の曇りもない眼を前に、私は息を吐く。
こう言われては、断れないな。
実際人手が欲しいところだったこともあり、私は反論を諦めた。
「そうか。分かった。では、ここの書類の計算をしてくれ」
『出来るところまででいい』と告げ、私は中間決算に関する書類を手渡す。
すると、レイチェルは文章に軽く目を通してから顔を上げた。
「はい、お任せください」
迷わず首を縦に振るレイチェルは、予備のペンと新しい紙を持ってテーブルの方へ行く。
来客用のソファに腰掛けて早速作業を始める彼女に対し、私は
「無茶だけは、しないようにしろ」
と、声を掛けた。
────が、そんなの杞憂でしかなかった。
何故なら、彼女の事務処理能力はロルフ並みだったから。
計算能力においては、彼以上かもしれない。
早くて、的確。おまけにグラフなども、分かりやすい。
『実務経験アリとはいえ、凄いな』と素直に感心し、私はレイチェルの作成した書類を眺める。
彼女の協力があればこの繁忙期を乗り越えられそうだ、と思いながら。
「……ロルフはもう必要ないかもしれないな」
休暇中の幼馴染みを脳裏に思い浮かべ、私はスッと目を細めた。
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