お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

あーもんど

文字の大きさ
45 / 98
第二章

シナリオにこだわった理由

しおりを挟む
「────このままだと、世界が滅びる・・・・・・からよ」

 重々しい口調で放たれた一言に、私は言葉を失う。
だって、乙女ゲームの世界でそんな事態になるとは思いもしなかったから。
思わず口元を押さえて固まる私の前で、ルーシーさんは苦笑を零した。

「まあ、いきなりこんなこと言われても信じられないよね。でも、本当なの。だって、この世界にもちゃんと存在しているでしょ?────魔王・・が」

「!!」

 そっか!魔王!

 クライン公爵家の一件で間接的に関わった人物を思い浮かべ、私は戦慄する。
と同時に、納得した。
『確かにこれなら、よくある展開かも!』と思って。

「『貴方と運命の恋を』のシナリオで魔王は倒され、世界に平和が訪れるんですね?」

「そういうこと。で、私はそのためにハーレムエンドを目指していたって訳。このルートが一番魔王に勝ちやすいから。まあ、そこに辿り着くまでが大変なんだけど……っと、それはさておき」

 横道にそれかけた話題を元に戻し、ルーシーさんはコホンッと咳払いする。

「当初の予定では、とにかくシナリオ通りに動いてゲームをクリアする筈だったの。でも────」

 ガシッと私の両肩を掴み、ルーシーさんは呆れたように溜め息を零した。

「────お人好しの貴方に悪役は無理だって、よーーーく分かったから予定変更よ」

「あっ、えっと……すみません」

 シュンと肩を落として俯く私に、ルーシーさんは小さく首を横に振る。

「まあ、いいのよ。ある意味、これが一番正しい選択かもしれないし。だって────真のラスボスとまで言わしめたリディアが、味方になったんだから」

 『まさに鬼に金棒よ』と言い、ルーシーさんは明るく笑った。
どうやら、慰めや励ましではなく本心でそう言っているらしい。

「リディアが真のラスボス……?」

「そう。基本的にゲームのリディアはエンディング前の卒業パーティーで断罪されて終わるんだけど、たま~に魔王戦の前に現れて私達を攻撃してくるんだよね。で、どういう訳かめちゃくちゃ強いの。ぶっちゃけ、魔王以上」

 スッと真剣な表情に変わり、ルーシーさんはふと空を見上げた。

「まあ、奇想天外・神出鬼没の魔王も充分厄介なんだけど……あのリディアと対面するよりは、全然マシ。だって、勝率10%以下だよ?」

 『マシで強すぎ』と零し、ルーシーさんはどこか遠い目をする。
そのリディアにコテンパンに叩きのめされた時のことでも、思い出しているようだ。
『あんなん無理ゲーだわ』とボヤきつつ、彼女は目頭を押さえる。

「結局、公式から何のアクションもなかったから強さの理由は分からずじまいなんだけど、ファンの間では『ギフト関係じゃね?』って噂になっている。ほら、リディアって────五つ・・もギフトを持っているからさ」

「えっ?五つ?」

 反射的に聞き返してしまう私は、目を剥いて固まった。
何故なら、私が持っているギフトの数は────四つだから。
ニコラス大司教にもハッキリとそう言われたため、間違いない筈。

 私がリディアに憑依したからかな?それで設定が変わってしまったのかもしれない。

「あの、ルーシーさん。ゲームのリディアは、どういうギフトをお持ちなんですか?」

 数だけでなく内容も変わっている可能性を考え、私は恐る恐る尋ねた。
すると、ルーシーさんは怪訝そうな顔をしながらも一先ず答える。

「えっと……確か────『万能属性』と『嘆きの亡霊』と『分身』と『共鳴』と『魔力無限』だったと思う」

「そうですか……教えていただき、ありがとうございます」

 幸いと言っていいのか分からないけど、内容はほぼ同じ。
でも、そうなると余計分からなくなる。
だって、ギフトの数が足りないなんてどう考えてもおかしいもの。
私とリディアで内容が違えば、『中身中の人によって変わってくるんだね』と納得出来るんだけど。

「……どうして、『魔力無限』だけないの」

「えっ!?」

 ボソリと呟いた私の一言に、ルーシーさんは大きな声を出した。
掴んだままの肩を揺さぶり、物凄い勢いで距離を詰めてくる。

「ちょっ……どういうこと!?公式ファンブックには、確かに『魔力無限』って書いてあったのに!」

「お、落ち着いてください。私もよく分からない状況で……」

 内心困惑しながらも必死にルーシーさんを宥め、私はそっと眉尻を下げた。
またもや増えてしまったリディアの謎にどう向き合えばいいのか悩んでいると、ルーシーさんは

「嗚呼、もう!憑依といい、ギフトといい……!イレギュラーなことが多すぎる!」

 と、叫ぶ。
髪をグシャグシャにする勢いで頭を掻き、彼女は『何がどうなってんのよ!』と少し苛立っていた。
『次から次へと、貴方は……!』と喚く彼女に、私はコテリと首を傾げる。

「あら、それを言うならルーシーさんの転生もイレギュラーなのでは?」

 素朴な疑問を直球でぶつけると、ルーシーさんはピタッと身動きを止めた。
かと思えば、やれやれとかぶりを振る。

「私はいいの。だって────ヒロインはゲームでも転生者って、設定だから」

「えっ!?そうだったんですか!?」

「うん。まあ、さすがにゲームのことまでは知らないけどね」

 『ちなみに転生者って判明するのはかなり終盤』と補足し、ルーシーさんは居住まいを正す。
どうやら、少し落ち着いたらしい。

「とりあえず、ギフトの件は一旦保留で。きっと、ここであれこれ言い合っても結論答えは出ないだろうし」

 『時間の無駄』とキッパリ切り捨て、ルーシーさんは乱れた髪を手櫛で整えた。

「で、本題に戻るけど────私達の最終目標は魔王を倒し、世界の滅亡を防ぐこと。そのためには、貴方の力が必要なの。ギフトが一つ足りないとはいえ、リディアのスペックはかなり脅威だから。絶対、魔王戦で役に立つ」

 グッと手を握り締め、ルーシーさんは力説した。
かと思えば、少しばかり声のトーンを落とす。

「でも、無理強いはしない。冗談抜きで、危険なことだから。もし、嫌なら断ってくれて構わな……」

「────やります」

 わざわざ逃げ道を用意してくれたルーシーさんに、私は食い気味で答えた。
だって、こんな話を聞いてしまったら断るなんて出来ない。
何より、ルーシーさんに全ての責任と義務を押し付け、自分だけ逃げるような真似はしたくなかった。
『友人だからこそ、苦しみも分かち合いたい』と考え、私は真っ直ぐ前を見据える。

「世界を救うとか、そんな大それたことが私に出来るとは思えませんが、少しでも助けになるなら喜んで協力します。ただ……」

 そこで一度言葉を切ると、私は苦笑にも似た表情を浮かべた。

「……お兄様方が納得してくれるか、ちょっと不安ですけど」

 一番の難関とも言える兄達の説得に、私は小さく肩を落とす。
難航するのは、目に見えているから。

 やっぱり、内緒でこっそり協力するしかないかしら?
でも、いつも傍に寄り添ってくれたお兄様や勘の鋭いリエート卿、そして私をよく見ているレーヴェン殿下を欺ける自信はあまりないわ。
正直、直ぐにバレそう……。

 三人から尋問を受ける様子を想像し、私は『どうしよう?』と悩んだ。
────と、ここでルーシーさんが自信ありげな笑みを零す。

「三人の説得は、私に任せて!絶対、納得させてみせるから!」

 『大船に乗ったつもりでいなさい!』と啖呵を切り、ルーシーさんは顎を逸らした。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

公爵令嬢が婚約破棄され、弟の天才魔導師が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。 だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。 「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」 こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!! ───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。 「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」 そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。 ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。 彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。 一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。 ※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

処理中です...