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第二章
学園祭の準備
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「そろそろ、時間ですね。では、各々準備に励むように」
『今日から授業は免除されますので』と言い残し、ジャクソン先生は教室を出ていった。
きっと、先生も先生で学園祭の準備があるのだろう。
それにアントス学園の催しは基本、生徒達に一任されているから。
『おんぶにだっこでは、成長しない』という考えにより。
「じゃあ、役割分担はさっき話し合った通りに。時間の空いている人は他の班の手伝いか、個人発表の準備をしておいてほしい」
場の空気を読んで、レーヴェン殿下は指示を出した。
というのも、クラスを仕切れる人物が彼しか居なかったため。
私は見ての通りリーダーに向いていないし、ルーシーさんは平民のため反感を買いやすい。
他の者達も個人の性格や立場により、何も言えない状況だった。
レーヴェン殿下が居てくれて、本当に良かったわ。
ホッとしたように肩の力を抜く面々を見て、私も少し安堵する。
と同時に、ルーシーさんの元へ向かった。
「私達キャストはどうしましょうか?」
「あー……脚本が出来上がるまで、何も出来ないもんね。私も細かいセリフや演出までは、知らないし」
前世の知識である程度演劇の様子を知っているルーシーさんは、『一応、教えておこうか?』と問う。
でも、私は断った。
脚本完成まで、楽しみにしておきたくて。
大して重要な場面じゃないなら、知らないままでいたかった。
「じゃあ、個人発表の準備でもする?今のところ、他の班の手伝いは必要なさそうだし」
細かい分担や段取りについて話し合うクラスメイト達を見つめ、ルーシーさんはそう提案する。
『今のうちにやっておかないと、すぐ忙しくなるよ』と言う彼女に、私はコクリと頷いた。
「そうしましょうか。ところで、個人発表って何をすれば?」
「団体発表と同様、基本自由だよ。と言っても、想像つかないだろうから具体例を話すと、魔道具の制作や論文の発表かな」
ツンッと人差し指で顎先を突き、ルーシーさんはおもむろに天井を見上げる。
「魔道具なんかの創作物は基本オークションで販売されて、その利益を学園と折半。どうしても手元に置いておきたい場合は、先生に言って。便宜を図ってくれるから。あと、論文の発表は時間制でプチ実験や試作品を配ってもOK。ただし、タイムオーバーになったら強制退場」
『時間配分を考えないと、詰む』と話し、ルーシーさんはこちらへ目を向けた。
と同時に、後ろで手を組む。
「確実に利益へ繋がるのは創作系だけど、発表系も『色んな人に見られる』と考えたらメリットは大いにある。顔を覚えられるのはもちろん、事業に投資してもらえるチャンスだから。実際、学園祭を機に貴族や商会に目を掛けられて、大出世した人は大勢居るよ」
『ほら、✕✕とか○○とか』と名前を出すルーシーさんに、私はコクコクと頷く。
だって、それらの人物は貴族の間でも有名な方々だから。
噂話に疎い私ですら、知っているレベルだ。
「なんだか、夢がありますね」
『学園祭=お祭り』程度の認識しかなかった私は、思わず感嘆の声を漏らす。
すると、ルーシーさんは小さく肩を竦めた。
「その分、競争率は凄まじいけどね。皆、少しでも完成度の高いものを披露して周囲の目に止まろうとするからさ。『ちょっといい作品』程度では、確実に埋もれる」
「な、なるほど……良作で溢れ返っているからこその苦難ですね」
なかなか厳しい現実を目の当たりにし、私は口元を押さえる。
今度は別の意味で何を発表すればいいのか分からずにいると、
「おや?難しい顔をして、どうしたんだい?」
と、レーヴェン殿下に声を掛けられた。
ニコニコ笑って私達の輪に入る彼は、艶やかな銀髪をサラリと揺らす。
「もしかして、個人発表について悩んでいる?」
「はい。何を発表すればいいのか、分からなくて……」
「私はもう決まっているんですけどね」
サラッとそう答えるルーシーさんに、私は思わず『えっ?』と声を漏らした。
「ち、ちなみに何をお作りに……?」
「ブレスレット」
「へっ?」
「だから、ブレスレットだってば」
『何度も言わせないよ』とでも言うように、ルーシーさんは溜め息を零す。
やれやれと頭を振る彼女の前で、私はパチパチと瞬きを繰り返した。
「それは、えっと……魔道具のような効果があるブレスレットですか?」
「ううん。ただのアクセサリー」
先程の話しぶりから、一変……ルーシーさんは確実に埋もれそうな作品を提示する。
別にブレスレットが悪い訳ではないが、他作品の完成度を考えると……どうも、不安だ。
『大丈夫だろうか?』と思案していると、ルーシーさんは呆れたように肩を竦める。
「私は別に目立ちたいとか、才能を買ってほしいとか思ってないからいいの。どうせ、就職先……というか、卒業後の進路は決まっているから」
『わざわざ頑張る必要がない』と語り、ルーシーさんは腕を組んだ。
「それより、私はあっちに集中したいし」
『あっち』というのは、恐らく────魔王戦の準備、改めアイテム収集のことだろう。
ルーシーさん曰く、学園祭でとある人物が現れ、アイテムを授けてくれるようだから。
「でも、それは本番当日の出来事だろう?準備期間中は普通に楽しんだら、どうだい?」
『今、出来ることなんてあまりない』と指摘するレーヴェン殿下に、ルーシーさんは顔色を曇らせた。
きっと、彼女自身も分かっているのだろう。全ては当日次第だって。
でも、心情的には居ても立ってもいられないんだと思う。
「他のものと違って、失敗したら二度と手に入らないやつなんです。だから、出来るだけ慎重に事を進めたいというか……」
「なるほどね。じゃあ、応援するよ。でも、あまり根を詰めすぎないようにね。辛くなったら、相談して」
『出来るだけ力になるから』と申し出るレーヴェン殿下に、ルーシーさんはお礼を言った。
自分の想いや考えを肯定してもらえてホッとしたのか、表情は柔らかい。
本音を言うと、少し心配だけど……ルーシーさんを尊重しよう。
反対することで、逆に追い詰めてしまう場合もあるから。
「ルーシーさん、私も協力しますので何でも言ってくださいね」
「ありがとう。でも、貴方はまず個人発表で何をするか決めなさい」
「は、はい」
『他人のことを気遣っている場合?』と叱責され、私はシュンと肩を落とす。
まさに仰る通りだから。
『ぐうの音も出ないとは、このことか』と嘆息する中、ルーシーさんは額に手を当てた。
「貴方って、本当に……もう!」
苛立たしげに……でも、ちょっと呆れたように眉を顰めると、ルーシーさんはレーヴェン殿下へ目を向ける。
「ところで、レーヴェン殿下は個人発表で何をするか決まっていますか?出来れば、参考にしたいんですけど」
私のために質問してくれたのか、ルーシーさんは『ほら、ちゃんと聞きなさい』と手を引いた。
レーヴェン殿下の目の前へ誘導する彼女を他所に、彼はクスリと笑う。
「私はギフトの数に関する論文でも、発表しようと思っているよ。ここだけの話、手先はあまり器用じゃなくてね。創作系はちょっと難しいかな?と判断したんだ」
唇に人差し指を押し当て、レーヴェン殿下は『秘密だよ?』と述べた。
なんだか意外な欠点に、私はもちろんルーシーさんも驚く。
だって、あんなに器用に魔法を操っていたから。
それに苦手なことなんて、ないと思っていた。
「ふふふっ。分かりました。秘密にします」
「実は私もそれほど得意じゃないので、ちょっと嬉しいです」
「おや?仲間だね」
ルーシーさんと軽く握手を交わし、レーヴェン殿下は愉快げに目を細める。
『親近感が湧いたよ』と述べる彼を前に、私は頬を緩めた。
友人と友人が仲良くしている場面を見ると、なんだか嬉しくて。
私がフラグを折ってしまったせいで、二人の出会いを無にしてしまったから余計に。
まあ、ルーシーさんは『別にもういい』と言っていたが。
「で、リディアはどうするの?」
話に一段落ついたのか、ルーシーさんはこちらに視線を向ける。
『別に今すぐ決める必要はないけどさ』と付け足す彼女の前で、私は暫し考え込んだ。
「人前で喋るのはあまり得意じゃないので、出来れば創作系にしたいのですが……これと言って、作りたいものがないんですね」
「じゃあ、一緒にブレスレット作る?」
悩んでいる私を見兼ねたのか、ルーシーさんは『作り方くらい、教えてあげるよ』と申し出る。
まさかのお誘いに、私は目を輝かせた。
「まあ!よろしいんですか?」
「うん。ただし、材料は持参してね」
『自分の分しかないから』と補足するルーシーさんに、私は笑顔で首を縦に振る。
「もちろんです」
『今日から授業は免除されますので』と言い残し、ジャクソン先生は教室を出ていった。
きっと、先生も先生で学園祭の準備があるのだろう。
それにアントス学園の催しは基本、生徒達に一任されているから。
『おんぶにだっこでは、成長しない』という考えにより。
「じゃあ、役割分担はさっき話し合った通りに。時間の空いている人は他の班の手伝いか、個人発表の準備をしておいてほしい」
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というのも、クラスを仕切れる人物が彼しか居なかったため。
私は見ての通りリーダーに向いていないし、ルーシーさんは平民のため反感を買いやすい。
他の者達も個人の性格や立場により、何も言えない状況だった。
レーヴェン殿下が居てくれて、本当に良かったわ。
ホッとしたように肩の力を抜く面々を見て、私も少し安堵する。
と同時に、ルーシーさんの元へ向かった。
「私達キャストはどうしましょうか?」
「あー……脚本が出来上がるまで、何も出来ないもんね。私も細かいセリフや演出までは、知らないし」
前世の知識である程度演劇の様子を知っているルーシーさんは、『一応、教えておこうか?』と問う。
でも、私は断った。
脚本完成まで、楽しみにしておきたくて。
大して重要な場面じゃないなら、知らないままでいたかった。
「じゃあ、個人発表の準備でもする?今のところ、他の班の手伝いは必要なさそうだし」
細かい分担や段取りについて話し合うクラスメイト達を見つめ、ルーシーさんはそう提案する。
『今のうちにやっておかないと、すぐ忙しくなるよ』と言う彼女に、私はコクリと頷いた。
「そうしましょうか。ところで、個人発表って何をすれば?」
「団体発表と同様、基本自由だよ。と言っても、想像つかないだろうから具体例を話すと、魔道具の制作や論文の発表かな」
ツンッと人差し指で顎先を突き、ルーシーさんはおもむろに天井を見上げる。
「魔道具なんかの創作物は基本オークションで販売されて、その利益を学園と折半。どうしても手元に置いておきたい場合は、先生に言って。便宜を図ってくれるから。あと、論文の発表は時間制でプチ実験や試作品を配ってもOK。ただし、タイムオーバーになったら強制退場」
『時間配分を考えないと、詰む』と話し、ルーシーさんはこちらへ目を向けた。
と同時に、後ろで手を組む。
「確実に利益へ繋がるのは創作系だけど、発表系も『色んな人に見られる』と考えたらメリットは大いにある。顔を覚えられるのはもちろん、事業に投資してもらえるチャンスだから。実際、学園祭を機に貴族や商会に目を掛けられて、大出世した人は大勢居るよ」
『ほら、✕✕とか○○とか』と名前を出すルーシーさんに、私はコクコクと頷く。
だって、それらの人物は貴族の間でも有名な方々だから。
噂話に疎い私ですら、知っているレベルだ。
「なんだか、夢がありますね」
『学園祭=お祭り』程度の認識しかなかった私は、思わず感嘆の声を漏らす。
すると、ルーシーさんは小さく肩を竦めた。
「その分、競争率は凄まじいけどね。皆、少しでも完成度の高いものを披露して周囲の目に止まろうとするからさ。『ちょっといい作品』程度では、確実に埋もれる」
「な、なるほど……良作で溢れ返っているからこその苦難ですね」
なかなか厳しい現実を目の当たりにし、私は口元を押さえる。
今度は別の意味で何を発表すればいいのか分からずにいると、
「おや?難しい顔をして、どうしたんだい?」
と、レーヴェン殿下に声を掛けられた。
ニコニコ笑って私達の輪に入る彼は、艶やかな銀髪をサラリと揺らす。
「もしかして、個人発表について悩んでいる?」
「はい。何を発表すればいいのか、分からなくて……」
「私はもう決まっているんですけどね」
サラッとそう答えるルーシーさんに、私は思わず『えっ?』と声を漏らした。
「ち、ちなみに何をお作りに……?」
「ブレスレット」
「へっ?」
「だから、ブレスレットだってば」
『何度も言わせないよ』とでも言うように、ルーシーさんは溜め息を零す。
やれやれと頭を振る彼女の前で、私はパチパチと瞬きを繰り返した。
「それは、えっと……魔道具のような効果があるブレスレットですか?」
「ううん。ただのアクセサリー」
先程の話しぶりから、一変……ルーシーさんは確実に埋もれそうな作品を提示する。
別にブレスレットが悪い訳ではないが、他作品の完成度を考えると……どうも、不安だ。
『大丈夫だろうか?』と思案していると、ルーシーさんは呆れたように肩を竦める。
「私は別に目立ちたいとか、才能を買ってほしいとか思ってないからいいの。どうせ、就職先……というか、卒業後の進路は決まっているから」
『わざわざ頑張る必要がない』と語り、ルーシーさんは腕を組んだ。
「それより、私はあっちに集中したいし」
『あっち』というのは、恐らく────魔王戦の準備、改めアイテム収集のことだろう。
ルーシーさん曰く、学園祭でとある人物が現れ、アイテムを授けてくれるようだから。
「でも、それは本番当日の出来事だろう?準備期間中は普通に楽しんだら、どうだい?」
『今、出来ることなんてあまりない』と指摘するレーヴェン殿下に、ルーシーさんは顔色を曇らせた。
きっと、彼女自身も分かっているのだろう。全ては当日次第だって。
でも、心情的には居ても立ってもいられないんだと思う。
「他のものと違って、失敗したら二度と手に入らないやつなんです。だから、出来るだけ慎重に事を進めたいというか……」
「なるほどね。じゃあ、応援するよ。でも、あまり根を詰めすぎないようにね。辛くなったら、相談して」
『出来るだけ力になるから』と申し出るレーヴェン殿下に、ルーシーさんはお礼を言った。
自分の想いや考えを肯定してもらえてホッとしたのか、表情は柔らかい。
本音を言うと、少し心配だけど……ルーシーさんを尊重しよう。
反対することで、逆に追い詰めてしまう場合もあるから。
「ルーシーさん、私も協力しますので何でも言ってくださいね」
「ありがとう。でも、貴方はまず個人発表で何をするか決めなさい」
「は、はい」
『他人のことを気遣っている場合?』と叱責され、私はシュンと肩を落とす。
まさに仰る通りだから。
『ぐうの音も出ないとは、このことか』と嘆息する中、ルーシーさんは額に手を当てた。
「貴方って、本当に……もう!」
苛立たしげに……でも、ちょっと呆れたように眉を顰めると、ルーシーさんはレーヴェン殿下へ目を向ける。
「ところで、レーヴェン殿下は個人発表で何をするか決まっていますか?出来れば、参考にしたいんですけど」
私のために質問してくれたのか、ルーシーさんは『ほら、ちゃんと聞きなさい』と手を引いた。
レーヴェン殿下の目の前へ誘導する彼女を他所に、彼はクスリと笑う。
「私はギフトの数に関する論文でも、発表しようと思っているよ。ここだけの話、手先はあまり器用じゃなくてね。創作系はちょっと難しいかな?と判断したんだ」
唇に人差し指を押し当て、レーヴェン殿下は『秘密だよ?』と述べた。
なんだか意外な欠点に、私はもちろんルーシーさんも驚く。
だって、あんなに器用に魔法を操っていたから。
それに苦手なことなんて、ないと思っていた。
「ふふふっ。分かりました。秘密にします」
「実は私もそれほど得意じゃないので、ちょっと嬉しいです」
「おや?仲間だね」
ルーシーさんと軽く握手を交わし、レーヴェン殿下は愉快げに目を細める。
『親近感が湧いたよ』と述べる彼を前に、私は頬を緩めた。
友人と友人が仲良くしている場面を見ると、なんだか嬉しくて。
私がフラグを折ってしまったせいで、二人の出会いを無にしてしまったから余計に。
まあ、ルーシーさんは『別にもういい』と言っていたが。
「で、リディアはどうするの?」
話に一段落ついたのか、ルーシーさんはこちらに視線を向ける。
『別に今すぐ決める必要はないけどさ』と付け足す彼女の前で、私は暫し考え込んだ。
「人前で喋るのはあまり得意じゃないので、出来れば創作系にしたいのですが……これと言って、作りたいものがないんですね」
「じゃあ、一緒にブレスレット作る?」
悩んでいる私を見兼ねたのか、ルーシーさんは『作り方くらい、教えてあげるよ』と申し出る。
まさかのお誘いに、私は目を輝かせた。
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