お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

あーもんど

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第二章

個人発表の制作

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◇◆◇◆

「────で、これは何?」

 テーブルの上に並べられた宝石を指さし、ルーシーさんは頬を引き攣らせる。
『誰がこんなもの持ってこい、と言った!?』とでも言うように。

「さて、問題です。今から約三十分前、私はなんと言いましたか?」

「えっと、確か……『ビーズと紐を持って、校舎の空き教室に集合』と仰っていました」

 一緒にブレスレットを作ることになった後、直ぐに一度解散したことを思い出し、私は身を縮める。
だって、目の前にあるのはどう考えても……ビーズじゃないから。
『紐の方は多分セーフ……かな?』と冷や汗を流す私の前で、ルーシーさんは大きく息を吐いた。

「うん、そうだよね。それで、どうして宝石・・を持ってきた訳?」

 『理由があるなら聞こうじゃない』と言い、ルーシーさんは腕を組んだ。
ついでに足も。

「あの、本当にわざとじゃなくて……私も普通にビーズを持ってくるつもりだったんです。でも、お兄様とリエート卿に相談したら『宝石でいいじゃん』という話になってしまい……」

「二人の押しに負けた、と?」

「はい……」

 ガクリと項垂れるようにして首を縦に振り、私はじっと宝石を眺めた。

「勝手なことをしてしまい、申し訳ございません。一度、相談するべきでした」

「いや、もういいよ。リエート達に丸め込まれたのは、何となく分かったから。それより、これ量多くない?」

 『何個作るつもり?』と呆れるルーシーさんに、私は慌ててこう答える。

「実はルーシーさんの分も含まれていて。お兄様とリエート卿から、二人で使うよう言われています。余った分は売るなり、誰かにあげるなりしていいとのことです」

「それはまた太っ腹な……」

 『さすが、公爵家』と呟きながら、ルーシーさんは宝石を一つ摘み上げた。
それを光に照らして透かして笑い、『綺麗ね』と目を細める。

「あっ、しっかり穴も空いているじゃん。これなら、使える」

 『ビーズと大して手間は変わらない』と言い、ルーシーさんは目を輝かせた。
一番の難点が解決して喜んでいる彼女を前に、私もホッとする。

「ここに来る前に、リエート卿が大急ぎで穴を空けてくれたんですよ」

「じゃあ、尚更こっちを使わないとね」

 『リエートに申し訳ない』と主張し、ルーシーさんは宝石を一旦テーブルの上に戻した。
かと思えば、紫系統の宝石をごっそり持っていく。
ついでに、紺色の宝石も。

「こういうのは早い者勝ちよ」

「ふふっ。はい」

 友人同士の軽いジョークにちょっと憧れていた私は、ついつい笑みを漏らしてしまう。
『じゃあ、私も遠慮なく』と言ってロードクロサイトやサファイア、サンストーン、ダイヤモンドを手に取った。
あと、タンザナイトも。
『この宝石はリディアの瞳とそっくりだから』と考える中、ルーシーさんよりブレスレットの作り方をレクチャーされる。

 ただ、宝石を紐に通して結ぶだけなので比較的簡単だが、思ったより難しい。
というのも、私達の材料は宝石だから。
ある程度形を整えられているとはいえ、一つ一つ大きさが違う。
まあ、傍から見れば誤差でしかないだろうけど。
でも、作り手としてはちょっとこだわっているのだ。
大粒小粒大粒小粒の順番にしようとか、徐々に大きくなっていくようにしようとか。

「ふふっ。凄く楽しいです」

「私も。物作りなんて、小学校の自由研究以来だもん」

「あら、その時はどのようなものをお作りに?」

「確か、手作りカレンダーとかクッションとかだったかな?」

 自然と話に花が咲く私達は、ニコニコと笑いながら作業を進める。
そして、お昼前にはブレスレットを十個ほど作り上げていた。

「とりあえず、練習も兼ねてたくさん作ったけど……こんなに要らないな」

「個人発表で提出出来るのは、基本一つだけですものね」

「じゃあ、発表用と自分用以外はリエートとニクスにあげましょ。材料を提出してくれたお礼ってことで」

「いいですね。早速、渡しに行きましょう」

 『善は急げです』と言い、私は席を立つ。
ルーシーさんも同じように立ち上がり、テーブルの上を片付け始めた。
『こっちは発表用と自分用』と分ける彼女に習い、私も幾つかブレスレットを手に取る。
残りは宝石を持ってきた時の袋に詰め、蓋を閉めた。

「あっ!悪いんだけど、これはリディアが持ってくれる?」

「もちろん、構いませんよ」

 二つ返事で了承し、私は袋を慎重に持ち上げた。
落とさないよう気をつける私の前で、ルーシーさんはどこかホッとしたような表情を浮かべる。

「ありがとう。私が持つと、絶対に巻き込んじゃうからさ」

「えっ?」

「まあ、見ていれば分かるよ」

 口で説明するのは面倒なのか、ルーシーさんは『ほら、行くよ』と促してきた。
先頭を歩く彼女に釣られるまま、私も空き教室を出る。
と同時に────ルーシーさんは真っ赤になった。
比喩表現でも何でもなく、本当に……。

「ち、血……!?」

「違う、ペンキ。この子にぶつかって、掛かっちゃったの」

 そう言って、ルーシーさんは前方で倒れる男子生徒を示す。
よく見ると、彼の手にはペンキの缶が。

「す、すみません!ちゃんと前を見ていなくて……!」

「いや、大丈夫です。それより、怪我はありませんか?」

 焦ったように顔を上げる男子生徒へ、ルーシーさんは手を伸ばした。
が、ペンキのことを思い出し、慌てて服や体を綺麗にする。
『光の乙女』の能力である浄化を応用して。
『ああいう使い方もあるのか』と感心する中、ルーシーさんはすっかり元通りになった。
ついでに床や壁も。

「申し訳ありませんが、ペンキはもう一度運んできてください。多分、中身残っていませんよね」

「えっ?あっ、本当だ……!じゃなくて、何から何まですみません!」

 ペコペコと頭を下げる男子生徒は、ルーシーさんの手を借りて立ち上がった。
かと思えば、直ぐさま踵を返す。
『まだ倉庫にペンキ、あったっけ!?』と慌てる彼を見送り、私はパチパチと瞬きを繰り返した。

「えっと……先程仰っていた『見れば分かる』って、このことですか?」

「そう」

 間髪容れずに頷いたルーシーさんに、私は困惑を示す。
だって、あまりにも彼女の態度が淡々としているから。
それに、いまいち事情を呑み込めなかった。

「あの……申し訳ありませんが、詳しい説明をお願いしてもいいですか?正直、訳が分からなくて」
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