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第二章
私の流儀《ルーシー side》
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◇◆◇◆
「ヒロイン役を降りてください、ルーシー嬢」
そう言って、私に詰め寄ってくるのはクラスメイトのアマンダ・エイミー・アボットだった。
取り巻きを使って周囲を固める彼女は、多目的室から出られないよう画策する。
もうすぐ練習の開始時刻だと分かった上で。
つまり、単なる嫌がらせ。
きっと、レーヴェンのお相手を務めるのが平民の私で不満タラタラなのだろう。
ゲームのアマンダも、同じようなことをしていたから。
一つ違う点を挙げるとすれば、リディアの取り巻きじゃないことくらい。
『イザベラと同様、改心するかな?と思ったんだけど』と肩を竦め、私は嘆息する。
どうやって、ここから抜け出そうかと思って。
シナリオ通りに行けば、いずれかの攻略対象者に助けられるが……どこまでゲームの知識を信じて、いいのやら。
『最悪、アマンダの思惑通りになるかも……』と危機感を抱いていると、彼女に耳を引っ張られた。
「ちょっと!聞いてらっしゃるの!?」
耳元で大声を出し、アマンダは『しっかりして下さる!?』と喚く。
「もう……!何で人の話も聞けない貴方が、ヒロイン役なのよ!明らかに不釣り合いではなくて!?」
「……」
それは私が一番分かっている。ただのモブだった私に、こんな大役務まらないって。
「リディア様の方が、余程ヒロイン役に相応しいわ!ただの平民の貴方なんかより、ずっとね!」
「っ……」
今までずっと感じていたことを指摘され、私は思わず顔を歪めた。
胸の奥がズシリと重くなり、息をするのも苦しくなる。
……時々思うことがある。
本当は私が悪役で、あの子がヒロイン役になる筈だったんじゃないかって。
だって、そうじゃないとおかしいもん。ガチで配役ミスじゃん。
でもさ────
「あら、出しゃばったことをした自覚はおありなのね?良かったわ!」
黙りこくる私を見て、アマンダは高笑いした。
『分かればいいのよ』とでも言うように。
「さあ、今からでも身の程を弁えてヒロイン役を降りなさい!それが皆のためよ!」
ここぞとばかりに畳み掛け、アマンダは私の心をへし折りに掛かる。
『愚鈍な平民の分際で!』と罵る彼女を前に、私はフッと笑みを漏らした。
と同時に、アマンダの手を掴み、
「ぜっっったいにお断り!」
と、断言する。
そして、耳から彼女の手を引き剥がした。
────こっちにだって意地はある。
リディア達にここまで色々よくしてもらって……協力してもらって……信じてもらって、無責任にヒロイン役を放り出すことなんて出来ない。
皆の期待に応えないと。
痛む耳をそのままに、私はアマンダの目を真っ直ぐ見つめ返す。
自分の中にある迷いを捨て去るように。
「たとえ、不釣り合いでも大役を任された以上やり切る!それが私の流儀よ!」
『こちとら、もう開き直ってんの!』と心の中で叫びながら、私は口角を上げた。
強気な態度を見せる私の前で、アマンダは一瞬たじろぐ。
まさか、こんなに早く立ち直るとは思わなかったらしい。
『あともうちょっとだったのに』と眉を顰め、悔しそうに歯軋りした。
かと思えば────
「聖女候補だかなんだか知らないけど、平民の分際で調子に乗らないで!」
────怒りのままに私の頬を叩こうとする。
それも、扇で。
『ちょっ……武器あり!?』と焦る私は、反射的に目を瞑った。
衝撃に備えて、身を固くするものの……何も起きない。
痛みはおろか、頬に何か当たる感触さえなかった。
あ、あれ……?
訳が分からず一先ず目を開けると、そこには────リディアの姿が。
こちらに背を向ける形で間に入った彼女は、扇をバッチリ受け止めていた。
『いや、どういう運動神経してんの!?』と驚く私を他所に、リディアは厳しい目でアマンダ達を見る。
「これは一体、どういうことですか?アマンダさん」
「り、リディア様……あの……私は……」
いつもニコニコ笑っているリディアが無表情だからか、アマンダは顔を青くした。
取り巻き連中に関しては腰を抜いて、後ずさっている。
まあ、かくいう私もちょっとドキドキしているが。恋愛とは別の意味で。
怒っているリディアを見るのは二回目だけど、相変わらず恐ろしいな。
とはいえ、前回より全然マシだけどね。
『クラスメイトだから手加減しているみたい』と推測する中、リディアは小さく深呼吸する。
おかげで、少し空気は軽くなった。
「アマンダさん、どうしてルーシーさんに暴力を?」
「そ、それは……えっと……ルーシー嬢にヒロイン役を降りてもらいたくて……」
「何故です?ルーシーさんは誰よりも熱心に練習しているのに」
『彼女以上に適役は居ないと思いますが』と言い、リディアは怪訝そうに眉を顰める。
『もしや、ヒロイン志望だった?』と頭を捻る彼女の前で、アマンダはフルフルと首を横に振った。
「……り、リディア様にヒロイン役をやってもらいたかったんです」
「私に?」
「はい。だって────」
そこで一度言葉を切ると、アマンダは僅かに口先を尖らせた。
「────リディア様に悪役は似合いませんもの」
「……えっ?」
先程までのシリアスな雰囲気から、一変……リディアはショックを受けたような顔で固まる。
『わ、私ってそんなにダメ……?』と落ち込む彼女を他所に、アマンダは
「だって、リディア様はとってもいい方ですもの!誰にでも優しくて、親切で!まさにヒロインにピッタリ!悪役なんて、相応しくありませんわ!世界一、ミスマッチです!」
と、力説した。
それが更にリディアのHPを削っているとは、露知らず。
「わ、私って……本当に悪役向いてないのね……」
「はい!」
力いっぱい頷くアマンダに、リディアはトドメを刺される。
胸を押さえて蹲る彼女の前で、私は一つ息を吐いた。
『だから、いつもそう言っていたでしょう』と言う代わりに。
「えっ?えっ?リディア様!?一体、どうしまし……」
「アマンダ、リディアのHPはもう0よ」
ポンッとアマンダの肩に手を置き、私は小さく首を横に振る。
『もう手遅れだ』と示す私の前で、彼女は目を白黒させた。
「きゅ、急になんですの!?それに呼び捨て……」
「────今回のことは水に流してあげるから、しっかり反省するように!あと、リディアをそんなに慕っているなら、もう少しこの子の趣味に寄り添ってあげて!」
これ以上の長話は御免なのでアマンダの言葉を遮り、捲し立てた。
そしてリディアを無理やり立たせると、手を引っ張る。
『ほら、歩いて歩いて』と指示を出しながら、私は後ろを振り返った。
「じゃあ、また後でね!」
アマンダ達に笑顔で挨拶し、私はこの場を後にする。
根はいい子達みたいで、良かった。
話を聞く限り、リディアのことが好きすぎて暴走しちゃったようだし。
あと、多分シナリオの力も働いていたのかな……?
もし、そうならより一層気を引き締めないと。
アマンダ達の行動すら制御する強い力だとすれば、本番当日もアクシデントに見舞われるだろうから。
シナリオにあった事故の光景を思い浮かべ、私は警戒心を強める。
『リディアには、後で相談しよう』と思いつつ、とりあえず一階のホールへ急いだ。
「ヒロイン役を降りてください、ルーシー嬢」
そう言って、私に詰め寄ってくるのはクラスメイトのアマンダ・エイミー・アボットだった。
取り巻きを使って周囲を固める彼女は、多目的室から出られないよう画策する。
もうすぐ練習の開始時刻だと分かった上で。
つまり、単なる嫌がらせ。
きっと、レーヴェンのお相手を務めるのが平民の私で不満タラタラなのだろう。
ゲームのアマンダも、同じようなことをしていたから。
一つ違う点を挙げるとすれば、リディアの取り巻きじゃないことくらい。
『イザベラと同様、改心するかな?と思ったんだけど』と肩を竦め、私は嘆息する。
どうやって、ここから抜け出そうかと思って。
シナリオ通りに行けば、いずれかの攻略対象者に助けられるが……どこまでゲームの知識を信じて、いいのやら。
『最悪、アマンダの思惑通りになるかも……』と危機感を抱いていると、彼女に耳を引っ張られた。
「ちょっと!聞いてらっしゃるの!?」
耳元で大声を出し、アマンダは『しっかりして下さる!?』と喚く。
「もう……!何で人の話も聞けない貴方が、ヒロイン役なのよ!明らかに不釣り合いではなくて!?」
「……」
それは私が一番分かっている。ただのモブだった私に、こんな大役務まらないって。
「リディア様の方が、余程ヒロイン役に相応しいわ!ただの平民の貴方なんかより、ずっとね!」
「っ……」
今までずっと感じていたことを指摘され、私は思わず顔を歪めた。
胸の奥がズシリと重くなり、息をするのも苦しくなる。
……時々思うことがある。
本当は私が悪役で、あの子がヒロイン役になる筈だったんじゃないかって。
だって、そうじゃないとおかしいもん。ガチで配役ミスじゃん。
でもさ────
「あら、出しゃばったことをした自覚はおありなのね?良かったわ!」
黙りこくる私を見て、アマンダは高笑いした。
『分かればいいのよ』とでも言うように。
「さあ、今からでも身の程を弁えてヒロイン役を降りなさい!それが皆のためよ!」
ここぞとばかりに畳み掛け、アマンダは私の心をへし折りに掛かる。
『愚鈍な平民の分際で!』と罵る彼女を前に、私はフッと笑みを漏らした。
と同時に、アマンダの手を掴み、
「ぜっっったいにお断り!」
と、断言する。
そして、耳から彼女の手を引き剥がした。
────こっちにだって意地はある。
リディア達にここまで色々よくしてもらって……協力してもらって……信じてもらって、無責任にヒロイン役を放り出すことなんて出来ない。
皆の期待に応えないと。
痛む耳をそのままに、私はアマンダの目を真っ直ぐ見つめ返す。
自分の中にある迷いを捨て去るように。
「たとえ、不釣り合いでも大役を任された以上やり切る!それが私の流儀よ!」
『こちとら、もう開き直ってんの!』と心の中で叫びながら、私は口角を上げた。
強気な態度を見せる私の前で、アマンダは一瞬たじろぐ。
まさか、こんなに早く立ち直るとは思わなかったらしい。
『あともうちょっとだったのに』と眉を顰め、悔しそうに歯軋りした。
かと思えば────
「聖女候補だかなんだか知らないけど、平民の分際で調子に乗らないで!」
────怒りのままに私の頬を叩こうとする。
それも、扇で。
『ちょっ……武器あり!?』と焦る私は、反射的に目を瞑った。
衝撃に備えて、身を固くするものの……何も起きない。
痛みはおろか、頬に何か当たる感触さえなかった。
あ、あれ……?
訳が分からず一先ず目を開けると、そこには────リディアの姿が。
こちらに背を向ける形で間に入った彼女は、扇をバッチリ受け止めていた。
『いや、どういう運動神経してんの!?』と驚く私を他所に、リディアは厳しい目でアマンダ達を見る。
「これは一体、どういうことですか?アマンダさん」
「り、リディア様……あの……私は……」
いつもニコニコ笑っているリディアが無表情だからか、アマンダは顔を青くした。
取り巻き連中に関しては腰を抜いて、後ずさっている。
まあ、かくいう私もちょっとドキドキしているが。恋愛とは別の意味で。
怒っているリディアを見るのは二回目だけど、相変わらず恐ろしいな。
とはいえ、前回より全然マシだけどね。
『クラスメイトだから手加減しているみたい』と推測する中、リディアは小さく深呼吸する。
おかげで、少し空気は軽くなった。
「アマンダさん、どうしてルーシーさんに暴力を?」
「そ、それは……えっと……ルーシー嬢にヒロイン役を降りてもらいたくて……」
「何故です?ルーシーさんは誰よりも熱心に練習しているのに」
『彼女以上に適役は居ないと思いますが』と言い、リディアは怪訝そうに眉を顰める。
『もしや、ヒロイン志望だった?』と頭を捻る彼女の前で、アマンダはフルフルと首を横に振った。
「……り、リディア様にヒロイン役をやってもらいたかったんです」
「私に?」
「はい。だって────」
そこで一度言葉を切ると、アマンダは僅かに口先を尖らせた。
「────リディア様に悪役は似合いませんもの」
「……えっ?」
先程までのシリアスな雰囲気から、一変……リディアはショックを受けたような顔で固まる。
『わ、私ってそんなにダメ……?』と落ち込む彼女を他所に、アマンダは
「だって、リディア様はとってもいい方ですもの!誰にでも優しくて、親切で!まさにヒロインにピッタリ!悪役なんて、相応しくありませんわ!世界一、ミスマッチです!」
と、力説した。
それが更にリディアのHPを削っているとは、露知らず。
「わ、私って……本当に悪役向いてないのね……」
「はい!」
力いっぱい頷くアマンダに、リディアはトドメを刺される。
胸を押さえて蹲る彼女の前で、私は一つ息を吐いた。
『だから、いつもそう言っていたでしょう』と言う代わりに。
「えっ?えっ?リディア様!?一体、どうしまし……」
「アマンダ、リディアのHPはもう0よ」
ポンッとアマンダの肩に手を置き、私は小さく首を横に振る。
『もう手遅れだ』と示す私の前で、彼女は目を白黒させた。
「きゅ、急になんですの!?それに呼び捨て……」
「────今回のことは水に流してあげるから、しっかり反省するように!あと、リディアをそんなに慕っているなら、もう少しこの子の趣味に寄り添ってあげて!」
これ以上の長話は御免なのでアマンダの言葉を遮り、捲し立てた。
そしてリディアを無理やり立たせると、手を引っ張る。
『ほら、歩いて歩いて』と指示を出しながら、私は後ろを振り返った。
「じゃあ、また後でね!」
アマンダ達に笑顔で挨拶し、私はこの場を後にする。
根はいい子達みたいで、良かった。
話を聞く限り、リディアのことが好きすぎて暴走しちゃったようだし。
あと、多分シナリオの力も働いていたのかな……?
もし、そうならより一層気を引き締めないと。
アマンダ達の行動すら制御する強い力だとすれば、本番当日もアクシデントに見舞われるだろうから。
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