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第二章
論文発表《ルーシー side》
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目隠しをしているから見えないけど、今頃きっと目をキラキラさせているんだろうな。
などと思いながら、私は視線を前に戻した。
と同時に、次の作品が発表され、競売に掛けられる。
案の定先程のような白熱した競りはなかったが、フィリアは楽しそうだった。
────そうこうしている内に時間は過ぎていき、気づけば夕方に。
そこでようやくフィリアの関心はオークションから離れ、『他のところを回りたい』と言う。
でも、この時間帯になると大体の出し物は終わってしまうため、少し悩んだ。
「えーっと……プログラムを見る限り、確実にやっているのは論文発表ですね」
ポケットに折り畳んで入れていたプログラムを取り出し、私は『どうしますか?』と問う。
すると、フィリアは
「じゃあ、そこに行きましょう」
と、間髪容れずに頷いた。
なので、ちょっと急ぎ気味に論文発表の会場へ向かう。
一応まだやっているとはいえ、恐らく最後の一人か二人くらいだろうから。
よし!何とか間に合った!
滑り込みで入場を果たし、思わずガッツポーズする私はフィリアと共に後方の席へ座る。
時間ギリギリだったため、いい席は埋まってしまっているのだ。
ただ、映画館のように坂状になっているためそこまで問題はない。
本日最後の発表者である、レーヴェンの顔がよく見える。
「皆さん、初めまして。レーヴェン・ロット・デスタンです。学園祭一日目の論文発表のトリを務めさせていただきます」
『よろしくお願いします』と言って、レーヴェンは優雅にお辞儀した。
その途端、どこからともなく『ほう……』と感嘆の声が漏れる。
恐らく、彼の見目麗しさに感激したのだろう。
隣に座るフィリアも、『あら、いい男ね』と言うくらいだから。
「さて、早速ですが私の論文を発表していきます」
『時間もありませんので』と述べ、レーヴェンはステージの後方を振り返った。
すると、示し合わせたかのように背景幕が下がり、難しそうな数式の並ぶ紙を披露する。
多分、論文の説明で使うのだろう。
「もう既にお気づきの方も居るかもしれませんが、私の論文のテーマはずばりギフトの数です。私自身、複数持ちで何故このような恩恵を受けられたのか長年疑問に思っていまして」
クルリとこちらに向き直り、レーヴェンは演説台の上にそっと手を置いた。
「これから発表するのは、私の辿り着いた一つの結論です。正解ではありませんので、ご容赦を」
『まだそこまでの確信はありません』と語り、レーヴェンは背筋を伸ばす。
と同時に、表情を引き締めた。
「まず、前提条件としてギフトの分布や選定は神が行っているものとします。そうでなければ、説明のつかない事項も多いので。例えば、ギフトの複数持ちの共通点とか」
ピンッと人差し指を立て、レーヴェンは柔和に微笑む。
「あくまでこれは私の把握している範囲の話ですが、ギフト複数持ちに大きな共通点はありません。身分、性別、魔力量、運動量、出身地……実にバラバラです。ただ────ギフトの複数持ちの多くは、困難に立ち向かう運命にあると感じます」
確信の滲んだ声色でそう言い、レーヴェンは手を下ろした。
そして演説台に少しばかり体重を載せ、こちらに身を乗り出す。
「何故そう判断したかと言うと、複数持ちは皆人生において大きな試練を迎えているからです。それは世界の命運を握るものだったり、家族の柵を断つものだったり……ある意味こじつけかもしれませんが、『平穏な人生を歩めない』という点は共通しているように感じます」
……確かにそうかも。
ゲームのリディアなんて、まさに苦難に満ちた人生だったから。
家族に疎まれ、初恋の人を奪われ、許嫁に近い男性さえも掠め取られる。
自分の居場所をヒロインに侵略されていく恐怖は、計り知れない……。
昔はよく考えもせず、『この女、性悪~』なんて思ったけど……同じ立場だったら、私もヒロインを恨むかもしれない。
お願いだから消えてよ、って。
そう考えると、リディアに憑依したあの子は本当に凄いよね。
逆境にも負けず……だからといって、自分の意見を押し通す訳でもなく皆が幸せになれる道を探してくれる。
その場所や人物に執着しないで、捨てる決断を出来る子なんだ。
これって相当勇気のいることなのに、あの子は笑顔でやってのけるの。
それで皆が幸せになれるならって。
呆れるほど優しいあの子を思い浮かべ、私はなんだか切ない気持ちになる。
『もっと欲張りになっても、バチは当たらないのに』と思ってしまって。
本物のリディアほど過激になれとまでは言わないが、もう少し我を通したっていい筈だ。
『せめて、何かに執着してよ』と嘆息する中、レーヴェンはアメジストの瞳をスッと細める。
「そして、何よりギフトの分布や選定には────何かしらの意図を……何者かの作為を感じます。だから、私はギフトの複数持ちに法則などないのではないかと考えているのです」
長年研究されてきたギフトの法則をまさかの一刀両断し、レーヴェンはゆるりと口角を上げた。
かなり思い切った……ある種の開き直りとも言える論文に、観客達は目を剥く。
ざわざわと騒がしくなる彼らの前で、レーヴェンは演説台から身を起こした。
「ギフトとは神から平等に与えられた恩恵であり、苦難を迎える者達への慈悲なのかもしれません」
ちょっと抽象的ではあるものの、締めの言葉である結論を述べ、一礼。
『ご清聴ありがとうございました』と述べるレーヴェンに、観客達は盛大な拍手を送った。
さすがに彼の論文を受け入れられている者はまだ少ないが、『面白い仮説だ』と感じている者は案外多い。
まあ、頭の固い学者なんかは『所詮、子供の妄想だな』と吐き捨てているが。
でも、ただ一人……妖精のフィリアだけは
「あら、結構いい線いっているわね」
と、感心していた。
多分、妖精達の間ではもうギフトに関する結論……というか、正解を導き出しているのだろう。
妖精は森の奥深くに住んでいるが故に娯楽が少なく、研究をしている者が多いそうだから。
おかげで、魔法文化もかなり進んでいるとのこと。
「『いい線』ということは、正解じゃないんですね」
「ええ、そうね。彼ったら、肝心なところで勘違いを起こしているみたいだから」
「と言いますと?」
「あら、それは秘密よ。ちゃんと人間の力で、正解を見つけなさい」
人差し指を唇に押し当て、フィリアは悪戯っぽく笑う。
『言ってしまったら、面白くないじゃない』と。
その様子はまるで宝探しを楽しむ子供のようだった。
我々人類としては世紀の大発見なのに、先に見つけた妖精達は何とも思ってないって……温度感凄いな。
「それより、早く行きましょう。日も暮れてきたし、そろそろ帰らなきゃ」
『パパに怒られちゃうわ』と言い、フィリアは席を立った。
釣られるように私も立ち上がり、一先ず会場を後にする。
そして、フィリアにお願いされるまま正門前へ案内した。
『こんなところで妖精結晶の受け渡しを?』と疑問に思っていると、フィリアに手を引かれる。
訳も分からず瞬きを繰り返す中、正門の隅っこに誘導された。
かと思えば、ほんの一瞬で周囲に結界が。
あっ、その手があったか。
などと思いながら、私は視線を前に戻した。
と同時に、次の作品が発表され、競売に掛けられる。
案の定先程のような白熱した競りはなかったが、フィリアは楽しそうだった。
────そうこうしている内に時間は過ぎていき、気づけば夕方に。
そこでようやくフィリアの関心はオークションから離れ、『他のところを回りたい』と言う。
でも、この時間帯になると大体の出し物は終わってしまうため、少し悩んだ。
「えーっと……プログラムを見る限り、確実にやっているのは論文発表ですね」
ポケットに折り畳んで入れていたプログラムを取り出し、私は『どうしますか?』と問う。
すると、フィリアは
「じゃあ、そこに行きましょう」
と、間髪容れずに頷いた。
なので、ちょっと急ぎ気味に論文発表の会場へ向かう。
一応まだやっているとはいえ、恐らく最後の一人か二人くらいだろうから。
よし!何とか間に合った!
滑り込みで入場を果たし、思わずガッツポーズする私はフィリアと共に後方の席へ座る。
時間ギリギリだったため、いい席は埋まってしまっているのだ。
ただ、映画館のように坂状になっているためそこまで問題はない。
本日最後の発表者である、レーヴェンの顔がよく見える。
「皆さん、初めまして。レーヴェン・ロット・デスタンです。学園祭一日目の論文発表のトリを務めさせていただきます」
『よろしくお願いします』と言って、レーヴェンは優雅にお辞儀した。
その途端、どこからともなく『ほう……』と感嘆の声が漏れる。
恐らく、彼の見目麗しさに感激したのだろう。
隣に座るフィリアも、『あら、いい男ね』と言うくらいだから。
「さて、早速ですが私の論文を発表していきます」
『時間もありませんので』と述べ、レーヴェンはステージの後方を振り返った。
すると、示し合わせたかのように背景幕が下がり、難しそうな数式の並ぶ紙を披露する。
多分、論文の説明で使うのだろう。
「もう既にお気づきの方も居るかもしれませんが、私の論文のテーマはずばりギフトの数です。私自身、複数持ちで何故このような恩恵を受けられたのか長年疑問に思っていまして」
クルリとこちらに向き直り、レーヴェンは演説台の上にそっと手を置いた。
「これから発表するのは、私の辿り着いた一つの結論です。正解ではありませんので、ご容赦を」
『まだそこまでの確信はありません』と語り、レーヴェンは背筋を伸ばす。
と同時に、表情を引き締めた。
「まず、前提条件としてギフトの分布や選定は神が行っているものとします。そうでなければ、説明のつかない事項も多いので。例えば、ギフトの複数持ちの共通点とか」
ピンッと人差し指を立て、レーヴェンは柔和に微笑む。
「あくまでこれは私の把握している範囲の話ですが、ギフト複数持ちに大きな共通点はありません。身分、性別、魔力量、運動量、出身地……実にバラバラです。ただ────ギフトの複数持ちの多くは、困難に立ち向かう運命にあると感じます」
確信の滲んだ声色でそう言い、レーヴェンは手を下ろした。
そして演説台に少しばかり体重を載せ、こちらに身を乗り出す。
「何故そう判断したかと言うと、複数持ちは皆人生において大きな試練を迎えているからです。それは世界の命運を握るものだったり、家族の柵を断つものだったり……ある意味こじつけかもしれませんが、『平穏な人生を歩めない』という点は共通しているように感じます」
……確かにそうかも。
ゲームのリディアなんて、まさに苦難に満ちた人生だったから。
家族に疎まれ、初恋の人を奪われ、許嫁に近い男性さえも掠め取られる。
自分の居場所をヒロインに侵略されていく恐怖は、計り知れない……。
昔はよく考えもせず、『この女、性悪~』なんて思ったけど……同じ立場だったら、私もヒロインを恨むかもしれない。
お願いだから消えてよ、って。
そう考えると、リディアに憑依したあの子は本当に凄いよね。
逆境にも負けず……だからといって、自分の意見を押し通す訳でもなく皆が幸せになれる道を探してくれる。
その場所や人物に執着しないで、捨てる決断を出来る子なんだ。
これって相当勇気のいることなのに、あの子は笑顔でやってのけるの。
それで皆が幸せになれるならって。
呆れるほど優しいあの子を思い浮かべ、私はなんだか切ない気持ちになる。
『もっと欲張りになっても、バチは当たらないのに』と思ってしまって。
本物のリディアほど過激になれとまでは言わないが、もう少し我を通したっていい筈だ。
『せめて、何かに執着してよ』と嘆息する中、レーヴェンはアメジストの瞳をスッと細める。
「そして、何よりギフトの分布や選定には────何かしらの意図を……何者かの作為を感じます。だから、私はギフトの複数持ちに法則などないのではないかと考えているのです」
長年研究されてきたギフトの法則をまさかの一刀両断し、レーヴェンはゆるりと口角を上げた。
かなり思い切った……ある種の開き直りとも言える論文に、観客達は目を剥く。
ざわざわと騒がしくなる彼らの前で、レーヴェンは演説台から身を起こした。
「ギフトとは神から平等に与えられた恩恵であり、苦難を迎える者達への慈悲なのかもしれません」
ちょっと抽象的ではあるものの、締めの言葉である結論を述べ、一礼。
『ご清聴ありがとうございました』と述べるレーヴェンに、観客達は盛大な拍手を送った。
さすがに彼の論文を受け入れられている者はまだ少ないが、『面白い仮説だ』と感じている者は案外多い。
まあ、頭の固い学者なんかは『所詮、子供の妄想だな』と吐き捨てているが。
でも、ただ一人……妖精のフィリアだけは
「あら、結構いい線いっているわね」
と、感心していた。
多分、妖精達の間ではもうギフトに関する結論……というか、正解を導き出しているのだろう。
妖精は森の奥深くに住んでいるが故に娯楽が少なく、研究をしている者が多いそうだから。
おかげで、魔法文化もかなり進んでいるとのこと。
「『いい線』ということは、正解じゃないんですね」
「ええ、そうね。彼ったら、肝心なところで勘違いを起こしているみたいだから」
「と言いますと?」
「あら、それは秘密よ。ちゃんと人間の力で、正解を見つけなさい」
人差し指を唇に押し当て、フィリアは悪戯っぽく笑う。
『言ってしまったら、面白くないじゃない』と。
その様子はまるで宝探しを楽しむ子供のようだった。
我々人類としては世紀の大発見なのに、先に見つけた妖精達は何とも思ってないって……温度感凄いな。
「それより、早く行きましょう。日も暮れてきたし、そろそろ帰らなきゃ」
『パパに怒られちゃうわ』と言い、フィリアは席を立った。
釣られるように私も立ち上がり、一先ず会場を後にする。
そして、フィリアにお願いされるまま正門前へ案内した。
『こんなところで妖精結晶の受け渡しを?』と疑問に思っていると、フィリアに手を引かれる。
訳も分からず瞬きを繰り返す中、正門の隅っこに誘導された。
かと思えば、ほんの一瞬で周囲に結界が。
あっ、その手があったか。
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