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第二章
居場所
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『お二人とも優しいから、無理しているのでは?』と疑問に思うものの……こちらを見る目は本当に穏やかで、真っ直ぐだった。
少なくとも、嘘をついている訳ではなさそう。
『じゃあ、本当に私を……受け入れてくれるの?』と困惑する中、兄は手の甲でそっと私の頬を撫でる。
「明日、どんな真実を聞かされてもお前を大切に思う気持ちは変わらない」
「だから、安心して話し合いに挑め。俺達がついている」
味方であることを明言し、リエート卿はポンポンッと軽く背中を叩いた。
『何も心配する必要はないんだぞ』とでも言うように。
溢れんばかりの厚意と優しさを向けられ、私は────ついに泣き出してしまった。
『悲しいのも辛いのも皆の方だ』と思って、ずっと我慢していたからか、どうにも涙を止められない。
「お兄様、リエート卿……ありがとうございます!本当に、本当に……!」
震える体をギュッと抱き締め、私はひたすら感謝を伝えた。
すると、兄は少し呆れたように笑う。
「礼なんて、いい。それより、こんなに不安にさせて悪かったな」
よしよしと私の頭を撫でながらもう一方の手で涙を拭い、兄は『もう大丈夫だからな』と繰り返す。
とても、とても優しい声で。
「やっぱ、もっと早く伝えるべきだったか?ごめんな、リディア」
『明日のために仕事を片付けていて』と語り、リエート卿はそっと肩を抱き寄せてきた。
そのおかげか、不安と緊張で冷えていた私の体は徐々に暖まっていく。
「これ、良かったら使っておくれ。返さなくていいから」
号泣している私を見兼ねてか、レーヴェン殿下はハンカチを差し出した。
『新品だから安心して』と述べる彼の前で、何故か兄がソレを受け取る。
「ありがとうございます、レーヴェン殿下」
「どういたしまして……?」
困惑気味に瞬きを繰り返すレーヴェン殿下に、兄は小さく頭を下げた。
かと思えば、ハンカチでいそいそと私の目元を拭う。
「はぁー。相変わらず、甲斐甲斐しいですねー。さすが、シスコン」
『過保護ー』と冷やかすルーシーさんは、呆れたように肩を竦める。
が、兄は素知らぬ顔でスルー。
「おい、リエート。お茶を淹れて来い。こんなに涙を流したら、そのうち脱水症状になる」
『早く水分補給させなければ』と言い、兄は心配そうにこちらを見つめた。
以前と変わらぬ愛情を注いでくれる彼の姿に、私はつい笑みを漏らしてしまう。
本当に凄く嬉しくて。
私、ここに居てもいいのね。
一度は『戻れない』と諦めていた筈の居場所が手に入り、私は目を細める。
場合によってはまた失うことになるかもしれないが、それでも今はこの結果を……皆の気持ちを大事にしたかった。
◇◆◇◆
────そして、迎えた話し合い当日。
私達は正装に身を包み、緊張した面持ちで皇城を訪れた。
どことなく緊迫した空気を感じ取りながらそれぞれ席に着き、煌びやかな室内を見回す。
今回は極々少数の集まりで、しかも非公式のため普通の客室へ通されたが……どうも落ち着かなかった。
私、ちゃんと話せるかしら?
『噛んだり、吃ったりしたらどうしよう?』と悩み、私はギュッと手を握り締める。
が、手に持っている鍵の存在を思い出し、慌てて力を緩めた。
うっかり曲げてしまったら不味い、と。
これはリディアの憑依を話す上で必要なものだから、丁寧に扱わないと。
手のひらにある鍵を見つめ、私は『とりあえず、大丈夫そう』と安堵する。
────と、ここで部屋の扉が開かれた。
「四人とも、待たせてすまない。そろそろ、話し合いを始めよう」
そう言って、応接室に足を踏み入れたのは────この場をセッティングした張本人、ノクターン皇帝陛下だった。
慌てて立ち上がって挨拶する私達に、彼は手を挙げて応じ、座るよう促す。
『あくまで非公式の場なんだから楽にしていなさい』と告げ、歩を進めた。
その瞬間────ノクターン皇帝陛下の背後から、私達の両親が姿を現す。
浮かない顔で陛下の後に続く二人に、私はぎこちなく微笑んだ。
「ご、ごきげんよう」
「「ああ……」」
両親は『頷くのがやっと』という様子で返事し、私の後ろを通り過ぎる。
そして、ノクターン皇帝陛下の着席を待ってから、自分達も三人掛けのソファに腰を下ろした。
まるでお通夜のような空気が流れる中、私はふと母の手元を見る。
良かった。ちゃんと持ってきてくれたのね。
手紙で頼んでおいたものを目で確認し、私は少しホッとする。
だって────この箱がなければ、鍵を持ってきた意味がないから。
対となる二つの存在が揃い、初めて役目を果たすのだ。
「さて、まずは魔王が現れた当時の状況を詳しく話してくれるかな?」
こちらに考える時間を与えるためか、ノクターン皇帝陛下は敢えて前振りを挟む。
そんなのもう聞き飽きている筈なのに。
私の周りに居る人達は、本当にみんな優しいわね。
またちょっと泣きそうになるもののグッと堪え、私は質問に答える。
もちろん、皆で。
「なるほど。レーヴェンから粗方事情は聞いていたが、全員から話を聞いてみて良かった。やはり、人によって感じ方や捉え方は異なるからな」
『助かった』と語るノクターン皇帝陛下は、アメジストの瞳をスッと細めた。
と同時に、こちらへ視線を向ける。
「では、次に────憑依の件を話してもらえるかな?リディア嬢」
「はい」
間髪容れずに首を縦に振り、私は席を立った。
すると、隣に座るルーシーさんや正面に座るリエート卿から気遣わしげな視線を向けられる。
が、私はもう本当に大丈夫だ。
だって、昨日たくさん泣いたから。それにいっぱい勇気を貰った。
これ以上ないくらい、いいコンディションだ。
暗い表情の両親は気に掛かるけど、頭は凄く冴え渡っている。
それに猶予をくれたおかげか、気持ちも大分落ち着いてきた。
『これなら、冷静に話せそうだ』と考え、私は前を向く。
と同時に、背筋を伸ばした。
「先に結論から、申し上げます。私は────リディア・ルース・グレンジャーではありません」
少なくとも、嘘をついている訳ではなさそう。
『じゃあ、本当に私を……受け入れてくれるの?』と困惑する中、兄は手の甲でそっと私の頬を撫でる。
「明日、どんな真実を聞かされてもお前を大切に思う気持ちは変わらない」
「だから、安心して話し合いに挑め。俺達がついている」
味方であることを明言し、リエート卿はポンポンッと軽く背中を叩いた。
『何も心配する必要はないんだぞ』とでも言うように。
溢れんばかりの厚意と優しさを向けられ、私は────ついに泣き出してしまった。
『悲しいのも辛いのも皆の方だ』と思って、ずっと我慢していたからか、どうにも涙を止められない。
「お兄様、リエート卿……ありがとうございます!本当に、本当に……!」
震える体をギュッと抱き締め、私はひたすら感謝を伝えた。
すると、兄は少し呆れたように笑う。
「礼なんて、いい。それより、こんなに不安にさせて悪かったな」
よしよしと私の頭を撫でながらもう一方の手で涙を拭い、兄は『もう大丈夫だからな』と繰り返す。
とても、とても優しい声で。
「やっぱ、もっと早く伝えるべきだったか?ごめんな、リディア」
『明日のために仕事を片付けていて』と語り、リエート卿はそっと肩を抱き寄せてきた。
そのおかげか、不安と緊張で冷えていた私の体は徐々に暖まっていく。
「これ、良かったら使っておくれ。返さなくていいから」
号泣している私を見兼ねてか、レーヴェン殿下はハンカチを差し出した。
『新品だから安心して』と述べる彼の前で、何故か兄がソレを受け取る。
「ありがとうございます、レーヴェン殿下」
「どういたしまして……?」
困惑気味に瞬きを繰り返すレーヴェン殿下に、兄は小さく頭を下げた。
かと思えば、ハンカチでいそいそと私の目元を拭う。
「はぁー。相変わらず、甲斐甲斐しいですねー。さすが、シスコン」
『過保護ー』と冷やかすルーシーさんは、呆れたように肩を竦める。
が、兄は素知らぬ顔でスルー。
「おい、リエート。お茶を淹れて来い。こんなに涙を流したら、そのうち脱水症状になる」
『早く水分補給させなければ』と言い、兄は心配そうにこちらを見つめた。
以前と変わらぬ愛情を注いでくれる彼の姿に、私はつい笑みを漏らしてしまう。
本当に凄く嬉しくて。
私、ここに居てもいいのね。
一度は『戻れない』と諦めていた筈の居場所が手に入り、私は目を細める。
場合によってはまた失うことになるかもしれないが、それでも今はこの結果を……皆の気持ちを大事にしたかった。
◇◆◇◆
────そして、迎えた話し合い当日。
私達は正装に身を包み、緊張した面持ちで皇城を訪れた。
どことなく緊迫した空気を感じ取りながらそれぞれ席に着き、煌びやかな室内を見回す。
今回は極々少数の集まりで、しかも非公式のため普通の客室へ通されたが……どうも落ち着かなかった。
私、ちゃんと話せるかしら?
『噛んだり、吃ったりしたらどうしよう?』と悩み、私はギュッと手を握り締める。
が、手に持っている鍵の存在を思い出し、慌てて力を緩めた。
うっかり曲げてしまったら不味い、と。
これはリディアの憑依を話す上で必要なものだから、丁寧に扱わないと。
手のひらにある鍵を見つめ、私は『とりあえず、大丈夫そう』と安堵する。
────と、ここで部屋の扉が開かれた。
「四人とも、待たせてすまない。そろそろ、話し合いを始めよう」
そう言って、応接室に足を踏み入れたのは────この場をセッティングした張本人、ノクターン皇帝陛下だった。
慌てて立ち上がって挨拶する私達に、彼は手を挙げて応じ、座るよう促す。
『あくまで非公式の場なんだから楽にしていなさい』と告げ、歩を進めた。
その瞬間────ノクターン皇帝陛下の背後から、私達の両親が姿を現す。
浮かない顔で陛下の後に続く二人に、私はぎこちなく微笑んだ。
「ご、ごきげんよう」
「「ああ……」」
両親は『頷くのがやっと』という様子で返事し、私の後ろを通り過ぎる。
そして、ノクターン皇帝陛下の着席を待ってから、自分達も三人掛けのソファに腰を下ろした。
まるでお通夜のような空気が流れる中、私はふと母の手元を見る。
良かった。ちゃんと持ってきてくれたのね。
手紙で頼んでおいたものを目で確認し、私は少しホッとする。
だって────この箱がなければ、鍵を持ってきた意味がないから。
対となる二つの存在が揃い、初めて役目を果たすのだ。
「さて、まずは魔王が現れた当時の状況を詳しく話してくれるかな?」
こちらに考える時間を与えるためか、ノクターン皇帝陛下は敢えて前振りを挟む。
そんなのもう聞き飽きている筈なのに。
私の周りに居る人達は、本当にみんな優しいわね。
またちょっと泣きそうになるもののグッと堪え、私は質問に答える。
もちろん、皆で。
「なるほど。レーヴェンから粗方事情は聞いていたが、全員から話を聞いてみて良かった。やはり、人によって感じ方や捉え方は異なるからな」
『助かった』と語るノクターン皇帝陛下は、アメジストの瞳をスッと細めた。
と同時に、こちらへ視線を向ける。
「では、次に────憑依の件を話してもらえるかな?リディア嬢」
「はい」
間髪容れずに首を縦に振り、私は席を立った。
すると、隣に座るルーシーさんや正面に座るリエート卿から気遣わしげな視線を向けられる。
が、私はもう本当に大丈夫だ。
だって、昨日たくさん泣いたから。それにいっぱい勇気を貰った。
これ以上ないくらい、いいコンディションだ。
暗い表情の両親は気に掛かるけど、頭は凄く冴え渡っている。
それに猶予をくれたおかげか、気持ちも大分落ち着いてきた。
『これなら、冷静に話せそうだ』と考え、私は前を向く。
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