お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

あーもんど

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第三章

平凡な私でも《ルーシー side》

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 ギュッと強く手を握り締め、私は思わず俯いた。
久々に感じる無力感に打ちひしがれながら。

 最近はずっと傍に朱里達が居てくれたから、何でも出来そうな気がしていたけど、私一人じゃ……何も出来ない。
本物のヒロインのような勇気や優しさは、持ち合わせていないんだ。
だから────

「────私はヒロイン聖女として、ここに来た訳じゃない。ただの一人の人間として、自分と大切な人達を守るために必要なものを取りに来たの」

 聖なる杖をただの道具や手段として扱い、私は本心を曝け出した。
『なっ……!?』と面食らう聖獣を前に、私は一歩前へ出る。

「平凡で結構。どうせ、私には人々を救うなんて崇高なこと出来ないから」

 野外研修のとき嫌というほど思い知らされた自分の本質を見据え、私は盛大に開き直った。
唖然としている聖獣に詰め寄り、至近距離で青い瞳を見つめる。

「でもね、私にだって意地はあるの。自分の出来ることは精一杯やろう、という意地がね。それで家族や友達の助けになるなら、尚更」

 腰に当てた手を下ろしつつ、私は自信ありげに笑う。

「傍から見れば利己的な女に映るだろうけど、それで構わない。それが私だもん」

 いくら上品に取り繕ったって変わらない自分のさがを示し、一歩後ろへ下がった。
呆然とした様子で固まる聖獣を見つめ、手に持ったもの・・・・・・・を握り締める。

「悪いけど、どれだけ諦めさせようとしても無駄だから。こっちはもう悩みに悩みまくって、腹を決めているの。今更外野に何を言われたって、揺るがないよ」

「……強情なやつだ」

「そう?身の程を弁えていて、実に謙虚だと思うけど?」

「いや、どこが……」

 ゲンナリしたように溜め息を零し、聖獣はかぶりを振る。

「とりあえず、君の気持ちは分かった。じゃあ、こうしよう。僕の与えた試練を突破出来たら、聖なる杖を……」

「────あっ、それならもう持っているから大丈夫」

 先程拝借した白い杖を背中の後ろで振り、私はニッコリと微笑む。
と同時に、全力疾走で来た道を引き返した。

「い、いつの間に……!?」

 ポスポスと自身の胸元を叩き、聖獣は目を白黒させる。
衝撃のあまり固まる白い虎を前に、私は

「そのモフモフに杖を隠しているのはゲームで知ってんのよ、バーーーカ!」

 と、叫んだ。
『な、なんだと!?』と狼狽える聖獣を置いて、私はぐんぐんスピードを上げていく。

 本当はこんな窃盗まがいの真似、したくなかったんだけど……まあ、受け渡しを渋るあっちが悪いよね。
本来の持ち主はヒロインなんだし、問題ないでしょう。

 『大体、試練って何よ?』と文句を言いつつ、私は出口を目指す。
────と、ここで後ろからけたたましい足音が聞こえてきた。

「おい!そこ、止まれ!まだ話は終わっていない!というか、こんな展開認めない!」

 物凄い速さで距離を詰めてくる聖獣は、『色々おかしい!』と批判する。
力ずくで杖を取り戻す気である白い虎に、私はニッコリと微笑んだ。

「聖獣はさ、その堅苦しい性格を直した方がいいよ。誰も居ない空間に二十~三十年ほど閉じ込められば、ちょっとは頭が冷えるんじゃない?」

 杖の先端を聖獣に向け、私は『どう?』と尋ねる。
その途端、あちらは一気に青ざめた。
というのも、このアイテムの効果が────あらゆるものを封印出来る、というものだから。
たとえ、杖を守る存在である聖獣であろうと例外ではない。

 聖なる杖がこっちの手に渡った時点で、貴方は詰んでいるの。
大人しく、諦めたら?

「平凡だろうとなんだろうと、『光の乙女』の所持者である以上、私もこの杖を使える。それは分かっているよね?」

 使い方もゲームを通して既に熟知しているため、抜かりはない。
『久々に転生者チートを使った気分』と浮かれる中、聖獣はピタリと足を止めた。
かと思えば、突然泣き崩れる。

「神よ~~~!何故、彼女のような性格破綻者を聖女にしたのです~~~!?」

 いや、『性格破綻者』って……そりゃあ、歴代の聖女やゲームのヒロインに比べればめちゃくちゃ性格悪いけど、ちょっと言い過ぎじゃない!?
てか、ガチ泣きじゃん!

 『ちょっと、おちょくり過ぎたか?』なんて思いながら、私は一度も足を止めることなく出口まで駆け抜ける。
そして、外で待っていた朱里へ抱きついた。

「ただいま~!バッチリ、アイテム回収してきたよ~!」

 手に持った白い杖をブンブン振り回し、私は『ほら、見て見て!』と笑う。
すると、朱里はホッとしたような表情を浮かべ、こちらに手を伸ばした。

「おかえりなさい。ご無事で何よりです」

 そっと私の頬を撫で、朱里は肩から力を抜く。
────と、ここで周辺の警戒に当たっていた男性陣が戻ってきた。

「おっ?もう戻ってきたのか!」

「思ったより、早かったな」

「お疲れ様」

 思い思いの言葉を述べてこちらに来ると、洞窟に目を向ける。
聖獣の泣き声が微かに聞こえるのか、彼らは一様に首を傾げていた。
が、『光の乙女』の所持者じゃないと聖獣の言葉は分からないため、ただの空耳と判断したらしい。
直ぐに興味を無くした。

「さて、そろそろ帰ろうか」

 『長居は無用だ』と言い渡すレーヴェンに、私達は賛同した。
もうすぐ夕暮れということもあり、直ぐに荷物をまとめて城へ向かう。
朱里の転移魔法を用いて。
やっぱりこれが一番早いし、安全だから。
『本当、便利だよね~』と思いつつ、私達はいつぞやの会議室へ足を運ぶ。

 そこには、もうグレンジャー公爵やノクターン皇帝陛下の姿があり……ピリピリとした空気を放っている。
そりゃあ、そうだ────これから、魔王戦の最終打ち合わせを始めるんだから。
『ニコニコしていられる余裕はないだろう』と考える中、私達はそれぞれ席に着く。
と同時に、ノクターン皇帝陛下が少しばかり身を乗り出した。

「ルーシー嬢、例のものは?」

「こちらに」

 聖なる杖をテーブルの上に置くと、ノクターン皇帝陛下は僅かに眉尻を下げる。

「では、本当にこれで……全て揃ったんだな」

「はい。あとは魔王に戦いを挑み、勝つだけです」

「……そうか」

 じっと杖を見つめ、ノクターン皇帝陛下は複雑な表情を浮かべた。
帝国の主としては喜ぶべきことなんだろうが、レーヴェンの父親としては心配で堪らないのだろう。
それは朱里やニクスの父であるグレンジャー公爵や、リエートの兄であるクライン小公爵も同じだった。
『ついに我が子を戦場へ送り出す時が来たのか』と落胆する彼らを他所に、ノクターン皇帝陛下は一つ深呼吸する。
と同時に、表情を引き締めた。

「────これより、魔王討伐作戦の最終確認を行う」


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明日から、二週間~一ヶ月ほど休載します。
更新を楽しみにしている方が居たら、申し訳ございませんm(_ _)m

本当はこのまま完結まで更新しようと思っていたのですが、『魔王戦の流れ、これでいいのかな?』と迷ってしまい……。
考える時間を(場合によっては、書き直す時間も)いただきたく……。

出来るだけ、早く更新を再開致しますので、少々お待ちいただけますと幸いです。


今後とも、『お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない』をよろしくお願いいたします┏○ペコッ
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