無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど

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第一章

第23話『朱』

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 不味い····不味い不味い不味い不味い不味い不味い!
短剣は鞘に収めちまったし、避けるにしたって俺の後ろにはウリエルがっ···!いや、そもそも俺の身体能力では避けられないだろう。
·····いや、待てよ?俺はレベル29。生命力は4000超えだ。さっきの戦闘の経験値も合わせれば、もっと···。だから、オークの攻撃くらい受け切れる····よな?
確証はないが、オークの攻撃ごときで死ぬほど俺は柔じゃない筈だ。それにオークの一撃で死んでしまうほど人族ヒューマンが脆いなら、この森は立ち入り禁止の危険区域になっている筈····!あの男も『余程のことがない限り、ドゥンケルの森で死ぬ事は無いでしょう』って言ってたしな····!
つまり───────この賭けの勝算は大きい。
 この攻撃を受け切った後に俺が反撃すれば問題はない筈だ。
ほんの数秒の間に結論を導き出した俺はやけにスローモーションに見えるオークと向き合う。走馬灯はない····つまり、俺の体は『死ぬ』と思っていない!

 ───────────来い!

 俺は棍棒を大きく振りかぶるオークを、目に焼きつけるように凝視する。何故かよく分からないが、このオークとの戦いには敬意を払わねばならない気がしたんだ。
────────大きく振りかぶったオークの棍棒が今まさに俺の脳天にぶち当たりそうになった、そのとき!

「─────────オトハに近付かないで!」

 悲鳴にも似た高い声が俺の鼓膜を揺さぶった。刹那、俺の目の前は紅蓮の炎に包まれる。彼岸花にも似た鮮やかなあかはゆらりと揺れ─────俺に立ち向かってきたオークを屠った。それはそれは驚くほど一瞬で····。
悲鳴をあげる暇もなく、あの世へ送られたオークはドロップアイテムとして生肉を置いていった。
 こ、れは····?
俺は驚きのあまり、目を大きく見開いて固まる。
 オークを屠った紅蓮の炎は風にゆらりと揺れ、幻か何かのようにスゥーと消えていく。その幻想的とも言える光景に俺は目を引かれた。

「───────綺麗な炎だ」

「!?」

 本来なら恐怖すべき存在である炎を····俺は何故か綺麗だと思ってしまった。跡形もなく消えていく紅蓮の炎は現実味がなくて····思わず手を伸ばしたくなる。この炎には他者を魅了する不思議な力があった。

『ドラゴンのブレスを綺麗だなんて····音羽は可笑しくなったんですか?いえ、失礼しました。音羽は元々可笑しい人間でしたね』

 おい、てめぇ!!デーモンエンジェル!何でお前はいちいち俺を貶してくるんだよ!お前は俺を貶さないと生きていけない特殊な体質か、何かか!?事ある毎に突っ掛かってくる癖、直したらどうだ!?
あと、俺は可笑しい人間じゃない!!確かに炎を綺麗だと思うのは変かもしれないが····それが俺の率直な感想だったんだよ!悪いか!?

『別に良いんじゃないですか?誰も悪いなんて言っていませんよ。ただ『変だなぁ』『可笑しいなぁ』『馬鹿なのかなぁ』って思っただけで』

 それ、十分『悪い』って思ってるだろ!つーか、『馬鹿なのかなぁ』ってなんだよ!!俺は馬鹿じゃねぇーよ!
 ビアンカの失礼極まりない発言に口元を引き攣らせながら、俺は横に居るウリエルを見下ろした。フードを深く被った彼女の表情は分からないが、俺が着ている服の袖をキュッと強く握り締めている。
どうしたんだ?服の裾なんて掴んで····。

「ウリエル、助けてくれてありがとう。凄く助かった」

「!····オトハは不思議な人····」

 俺が不思議な人?何でだ?俺はただお礼を言っただけなのに····。
コテンと首を傾げる俺を、ウリエルはゆっくりと見上げる。月光を帯びた紫結晶アメジストの瞳は美しく、他者を魅了する何かがあった。
紅蓮の炎と言い、この紫の瞳と言い·····ウリエルこそ、不思議な奴だ。他者を惹きつけてやまない少女は子供らしい無邪気な可愛さもあるが、時折見せる美しい一面が目を引く。大人の色気とも取れる、その穏やかでいて美しい何か····。
 俺はその紫結晶アメジストの瞳に吸い込まれるように意味もなく、じっと見つめた。時間が止まっているのでは?と錯覚にも似た勘違いを起こしてしまうほど、俺とウリエルは長い間見つめ合う。やけに大人びた紫結晶アメジストの瞳の奥に何か赤い····炎のようなものを見つけた。
目の錯覚···だろうか?

『うおっほん!幼女と見つめ合うのもラブラブするのも構いませんが、それは森を出てからにして下さい。夜の森で、幼女と青年が逢い引きなんて笑えませんよ』

 ラブラブはしてないだろ!見つめ合っているのは事実だから否定はしないが····!!でも、その含みのある言い方はやめてくれ!誤解を招く!
あと、逢い引きじゃなくて狩りだ!オーク狩りだ、これは!決して逢い引きなどではない!
 ビアンカの虚言癖はどうにかならないのか····?一日に何回嘘つけば気が済むんだ、この天使···いや、悪魔は····。
 『はぁ····』と深い溜め息を零した俺は紫結晶アメジストの瞳から視線を逸らし、ウリエルの頭にポンッと手を置く。赤ワイン色のマントで作られたローブは表面がつやつやで、手触りが良かった。

「とりあえず、ドロップアイテムを拾って森を出よう。夜の森に長居は無用だ」

「分かった」

 ポンポンッと軽く頭を撫でてやると、ウリエルは俺の提案に素直に応じる。どこぞの天使···いや、悪魔とは違って凄く素直で可愛い子だ。はぁ····ウリエルの素直さと可愛さを少しでもビアンカに分けてやれればなぁ····。そしたら、少しは虚言癖が····。

『黙って聞いていれば、何ですか!虚言癖だの嘘つきだの悪魔だのって····!音羽こそ、事実無根の罪を私に着せてこないでください!あと──────私は素直で可愛いです!』

 いや、それはない。悪いが、キッパリ言わせてもらう。絶対にそれはない!!
お前が素直で可愛い良い子なら、俺に毒を吐いたりしないし、嘘をばら撒いたりもしない!よって、有罪だ!有罪!
ビアンカが素直で可愛い良い子だったら、世界中の誰もが素直で可愛い良い子だよ。
 俺はここぞとばかりにビアンカに反論し、何か言葉が返ってくる前にと手を動かして思考をシャットアウトする。ぷるんとしたオーク肉をウリエルと共に拾い集め、脳内に響く金切り声を俺は完全に無視した。
 ────────さてと、ドロップアイテムは一通り拾い終わったし、森を出るか。
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