【R-18】異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re:

山下敬雄

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3 炸裂【バーンファイア】

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▽不黒文のSP校長室▽にて


「キミがダンジョンから持ち帰ってくれた武器の数々。例えばこの水の短刀、魔力を込めて用いればこのように──水不足はあまり問題なく解決されるだろう。これは持ち運び可能な魔法の蛇口のようなものだ。一杯いかが?」

「たしかにそーですね? あざっす」

 水の短刀からじょぼじょぼと、ワイングラスに注がれた水を受け取り、ピネスはそれを飲み干した。頷いてみせ、それが安全な飲み水であることを校長に示した。

 それから校長はまたもうひとつのワイングラスへと、短刀から水を生成し注ぎ、自分も渇いた喉をうるおしていく。そして机上に両肘を置き、前で三角に手を組み合わせた仕草をした。話は雰囲気のある本題に移った。

「さて、ここからが本題だが、これからキミにはもう一度ダンジョンに向かってもらうことになった」

「たしかにそーで……え? いや……せんせー、俺ってば、たしかさっき帰ってきたばかりの?」

「キミは適当に返事をしてないだろうな? まぁまぁピネスくん──心配するな、今度は私とだ」

「へ?」

 校長室のいかめしい黒机の前で突っ立つピネスの耳に、また驚くべき命令が告げられた。

 校長の左の黒い目がニッコリと、生徒の顔を見て微笑んだ。








▽校舎屋上▽にて


「何やら今日は風が騒がしいね。ミント、バジル、ローズマリー、ラベンダー、レモングラス、ふふ、今日は新入りもいるのかな?」

 違法建築されたペントハウスを出たところ。学校屋上の露天スペースは、緑プランターに囲まれたオシャレな屋上菜園をしている。

 ティーカップに揺れる飴色の水面をみつめて、金色の短い髪をゆっくりとかき上げた。白い波打ちカップをことりと、ラウンドテーブルの上に置き、彼女はあわてず優雅に席を立つ。

 屋上の魔術師宛に、屋上のドア付近に束ねて届けられた新種のハーブをみつめて────。





▽調理室▽にて

 ここは調理室、そのキッチンスペース上にドンと置かれた米がある。【ガイアの恵み】と書かれた米袋が2つ、異様な白き存在感を放っており近寄りがたい。

 それでも彼女は、おそるおそる目にした夢の光景に、生唾を飲み誘われるように近づいた。

 三角頭巾を被り、黒いポニーテールに結った、日本人らしい容姿の彼女は、付随されていた一枚のメモを手にする。

「不黒校長から『出かけるから米を炊いてくれ、おにぎり』……でっデデデですってぇーーーー!!!」

 メモに書かれたオーダーを読み上げても、彼女はまだ信じられない。

「お米お米わっしょいお米! なにこれ、ですってぇ、じゃなくてデスティニー!? もう毎日四苦八苦心、苦しくひもじく、うっすいおかゆ作って病んでたからぁぁぁぁーーーー!!! おにぎりぃぃじゃなくておむすびぃぃ、あ、どっちにしろ握るううううう──ほんとに握っていいの? ……あははははぁぁーー!!!」

 増えない材料と増えつづける苦悩に縛られていた彼女の魂は、解放される。

 届けられた【ガイアの恵み】2袋は、お食事班の女子高生、緒方結美おがたゆみのポニーテールを、いつまでもぴょんぴょんと喜び跳ねさせた。





▽用務員室▽にて

「私の銀狼ぎんろうが消えている……」

 立ち尽くす、水色帽の水色作業服。

 刺股などの武器にとりわけ詳しい彼女は、飾り眺めていた刺股コレクションがひとつ、自分の部屋の中から減っていることに気付いた。

 ちゃんと被れていなかった水色の作業帽子が、寝癖頭に跳ね除けられ、ぽとりと地に落ちる────。

 作業服の女は呆然と、ほどよい長さの茶髪の頭を掻きむしる。

「ほわぁー……もう一回寝るとしますか……まだまだ異常なぁーし……ふわぁ……はほ」

 掻きむしり余計寝癖がひどくなった彼女は、寝ぼけが治るまで寝ることにした。そのまま床に敷いていた布団へと、作業着のままずぼらにも再び潜り込んだ。




▼▼▼
▽▽▽




 カラフルな光を発す魔法の曳光弾が、ダンジョンの暗がりの彼方へとばら撒かれ────バケモノの断末魔が重なり響いた。

「これが例の魔導兵器〝刺股ダブル改〟か」

「あのー、それ俺の……」


▼不黒ダンジョン1F▼にて


 ケイオスエネルギーを補充され、またランダム生成されたダンジョン。その迷路内の一階でさっそく暴れる不黒文校長は、報告にあった例の【刺股ダブル改】の威力の良さに感心しつつ、手に取るその銀色の得物を眺めながら、何度か頷いてみせた。

 一方、持たされた【緋色のショートソード】をどことなく哀しい目で見つめた浦木幸生徒。開幕から大暴れし良い笑顔をつくる校長と、元相棒の輝かしい銀の姿を、今の自分の手にしている慣れぬ武器と見比べた。

「なーにピネスくん、私のビルドに間違いはない。これは私が持つべきものだ」

「えぇー……? ふつうに困るんすけど俺のメインウェポンを没収されちゃー。俺、こんなリーチのない剣なんて直接使ったことないし、なんか弱くないすか? さっきからまだ一振りもできてませんけど俺」

「いやいや私のビルドだ間違いない。うおーーーーこれはいいッ、いいものだ! 私の〝ふぅーちゃんスペシャル改〟の爽快魔法威力はーーーー!!! ドゥルドゥルドゥルドゥルっっ────」

「俺の刺股ダブルはどこに……改だけ……あとそのビルドってなに」

 カラフル、賑やかに、大人気なく。不黒文は新鮮な緑の獲物を目に見つけては、はしゃぐ子供のようにダンジョンで魔法弾を連射しつづけた。








⬜︎タコイカ学習帳
ピネスくんのビルド:

緋色の幸福なショートソード★★★★★★★
クリティカル時威力 中
クリティカル時バーンファイア
炎熱耐性+4

ミノたのベルト★★★★★★★★★
クリティカル時威力 大
クリティカル時威力 中
クリティカル時ALL 小
狂暴+1

とても健康な脛当て★★★★★★
クリティカル時継続回復 小
クリティカル時シールド硬 中
健康+2


わたしのビルド:

とても属性なゴブリンソード★★★★★★★★★★
振るとファイアボールが出る
振るとサンダーボールが出る
振るとウォーターボールが出る
振るとカオスボールが出る
振るとライトボールが出る

いつもクールなゴブリンソード★★★★★★
振るとアクアボールが出る
振るとアクアボールが出る
クール+3

覇者の臙脂のミノたのマント★★★★★★★★★
魔法威力 中
ALL 小

黒い漆黒のレザーグローブ★★★★
魔法威力 小
闇+2

駆け寄る死のタウルスブーツ★★★★★★★★
使役 中
闇+4
移動速度 小
⬜︎



 ひとりでに浮かぶ赤いタコイカ学習帳は、記載記憶した現在の2人の様子を示したページを開いてみせている。


「なんなんすかこれ」

「まぁまぁそう、いぶかっしーむな。先ずはピネスくんに話しておきたい、キミの異能は私が推測するに……【たぶんめっちゃ幸運】だ!」

「な、なにが……おれが幸運? 異能ってぇ、【刺股への理解度up】ではなく?」

「刺股の理解度だと? じょーだんあるか! まぁそう小ボケを挟まずに落ち着いてくれ。そもそも【異能】とは何かと……私は思ったのだよ。この閉ざされた断片のような世界で発現する異能とは、例えばこうなりたいという一種の願いのようなモノが反映されているのではないかと」

 ご大層なマント姿とブーツ、それに若者の目を惹く羨む銀のウェポンを携えながら、不黒文校長はどこともなくゆっくりと歩く。そしてゆっくりと味わうように歩いて、異能への考察を自慢げに語り終え、ダンジョンの通路半ばに突っ立つ生徒の顔へとニヤリと振り返った。

「はぁーなるほど、それが【異能】ですか。──あれっ? でも俺ぜんぜんそんなのねがっ」

「めちゃくちゃ願ってるぅーーーー!!!」

「な、なんすかそんな握り拳で腹の底から言うほどの……」

「はぁはぁ……失礼。いや、キミの名前、浦木幸はめちゃくちゃ願われてるのだよ。ラッキーと幸とハピネスと。ハはないけどピネスくんの方が呼びやすくていい」

「そりゃぁ……それってぇ、ただの名前ですし? ハぬけなんて不名誉っぽく呼ばれてることありますよ俺? そもそも他人の願いじゃな」

「親御さんを他人というなーーーー!!!」

「おっ……おぅ……」




「ってな感じで発現する異能には、その人のもつ強力な願いが反映されていると思われる」

「そーですね(なんか強引なような、やっぱ俺の願われじゃん)」

 ダンジョン通路でする生徒と校長2人の明るい会話劇はつづき──。ピネスはまだ未練がましく気になる銀色の得物にチラチラと目をくれながらも、相槌を打ち、校長の長話に表向き素直に納得していた。

「とにかく結論。ダンジョンから帰還を果たしたキミはとんでもなくツいているということだ。今現在のここまでもなお、op付きのレアドロップがぽこぽこじゃかじゃか出るのがその証左だろう」

 道中モンスターを屠りながら、拾った武器はとりあえずピンもキリも、ピネスの背負うリュックに詰め込まれていった。積めるスペースにはまだ幾分も余裕がある。校長は生徒のリュック背をかるく叩きながら、それが嬉しいのか朗らかに笑っている。

「へー、俺はフクジマしか基準が分からないっすけど、校長先生が言うならそうなん……すね?」

「そうそうそーだ、こーちょーせんせーだぞっ!(フクジマ、だれだ?)」




 曖昧な【異能】に関してのミステリーが少し分かった気になり、2人はひと段落を終えて、共にダンジョンの変哲のない通路をまたその足で歩みはじめた。

 しかしまた少し、別の明らかでない部分が気になったピネス。気がつけばしれっと歩かされていた通路をゆく先頭から振り返り、立派な装備やら威厳あるマントを身につけた、プラチナ髪のそのお方に質問をぶつけてみた。

「ところで先生の【異能】は? 俺が【幸運】なら校長先生にもあるんですよね? 異能?」

「あぁ、私の異能は【魔力の目】だ」

「まりょく……のめ?」

「気づかないか、キミの内在魔力がもう随分と減っていたことに」

「え? いやぁー、あまり? 魔力って、あぁー……ゲームのMP的なやつですよね? ここってそんな概念なくないすか? たしかに魔法っぽいのは〝俺の〟刺股ダブル改からドゥルドゥルと出てましたけど」

「あるのだよ、私のちょっとばかし良いこの目には、キミの中のモノが行きと帰りで随分と減っているのが分かるのだ。それこそキミの思うゲームのようにな(〝私の〟ふぅーちゃん棒スペシャル改のことかな)」

 眼帯をつけた校長は悠然と髪をかきあげ、トレードマークにしているその黒い眼帯をゆっくりとさすりながらそう宣う。ピネスにとってそれは、言動と異能と見た目が一致する、どことなく説得力のあるものに見えた。

「校長先生がいうならそーなんすね」

「そーだ。キミはなかなか素直になってきたな」

「素直というかあまり深く考えるとブドウ糖がもったいないというか。ここって何をしようとも校長が……あぁー……絶対じゃないすか?」

「ハッハ、なるほど。キミはまさしく今風の悟りをひらいた若者かな?」

「俺が生きてるの他でない今ですし……今をなんとかしないとって……俺が言えた身じゃないすけど?」

「はは、それは言えてるなピネスくん(今か……前を、迷える未来を向いて生きる生徒の姿には、いつも感心させられるな)」

 そうこうまた歩きつづけ、小部屋に入り見つけた次への地下階段に、不黒文と浦木幸の2人は2人してそれを指さした。

 ダンジョンで何よりもだいじな探し物がふと見つかり、《不黒ダンジョン1F》にて、運命を共にする女校長と男子生徒は頷きあい笑いあった。

 ピネスを先頭に地下2Fへと、また目標の10Fを目指し、ふたりは未知の迷宮を堂々と歩き始めた────








⬜︎タコイカ学習帳
不黒文校長は通路から部屋へと向かい、【ふぅーちゃん棒スペシャル改】から魔法のガトリングガンを景気良く撃ち放ち……血気盛んに向かってきたミノたを、蜂の巣にし撃破した。
ピネスは構えていた剣を腰鞘へとしまい、とりあえずの拍手を送った。
《10Fミノたのボス部屋》

不黒文:
シールド値93%
魔力量87%

ピネス:
シールド値99%
魔力量36%
⬜︎


「あぁー……ところでこいつって、なんで復活してんすか、俺倒したっすよ? 丁度そんな感じで」

「ピネスくん、どうやらキミはあまり知らないのか? ダンジョンゲームといえばランダム生成が基本といえる。それが悪魔の課したルールか、悪戯か、そんなところだろう。ルールに則って……こいつらはたとえば、光のコスモスの対なるエネルギー、闇のケイオスエネルギーを補充しランダムダンジョンと共に復活を果たしている。だから倒しクリアしても、またダンジョンに出直したころにはリポップ、つまり自動復活するのだよ。それがダンジョンの大まかなサイクルさ」

「ぅーーーー……サイクル……へぇー、なるほど。──と言いたいところっすけど俺……ちょっとナニ言ってるのか半分も分かりません、はは」

「ふっふ、ピネスくん……素直だなキミは。そりゃそうだ、半分も私の告げたそこに真実はないのだから」

「え、なんすかそれ……なぜそんなぁ……作り話を? おりまぜちゃって……あっ、ありましたよ石像のワープポイントが、俺アレで帰ってきました、ブク高まで!」

 お喋りをしながら安全になった10Fのボス部屋に進入したピネスは、1回目のダンジョン探索の任で浄化した石像を見つけて、それを指で示した。

「おぉーこれが報告にあったものか……というかこれはガイア様さんの……ふむふむ。──よーし、一旦ここまでのお宝を回収厳選して、この調子で20Fまでいこーーっ!」

 近づいた石像を凝視観察し小刻みに頷くやいなや、校長ははしゃいだ様子で片腕を天へと突き上げ、彼へと振り向いた。

「えぇ?? 校長それ本気ですか?? てか話の展開はやいっすよ??」

「いやいや、なぁにピネスくん安心したまえ。実はなぁ、そのなぁー、こーちょーせんせーはー思ったよりぃ……ヤレたぁぁぁ!!! ということだハッハッハ!!!」

「やっ、やれた?(もしかして……あっダメだこの人、チカラに溺れてやがるんじゃないか? これはもしや……俺も若干患った初心者にありがちな【ダンジョンハイニナル現象】だ)」

 【ダンジョンハイニナル現象】。初めてのダンジョン、モンスターを蹴散らし蹴散らし到達した10Fという区切りのいい数字と達成感。ダンジョンという未知の環境に適応するため普段使うことのないチカラを行使、行使したチカラの反動は必ずどこかに受けるもの。

 とくにメンタル部分にはその影響は出やすく顕著。ミノたという強大な区切りのボスを自らの手と爽快な魔法弾で葬った不黒文校長は、己でも気づかない程の昂った状態になっているのであった。

 今は何を言っても無意味だろう。あまり否定せず突っ立つピネスは、そんなテンション高めの校長を瞼を下げたジト目で見つめる。

 こう、無言で見つめる内に何か考えが変わればいいと、次に出てくるマシな校長先生のお言葉を期待して待った。








「ピネスくんキミはダンジョンに何を持っていく? 武器以外で」

 10Fミノたを倒した部屋にて、このまま行くにしても帰るにしても、しばしこの場で手荷物や貴重品の点検と休憩を取ることに。先ほどの戦闘の余熱が冷め切り、男子生徒が睨みをきかせた効果もあってか、冷静さを少し取り戻した不黒文校長はそう様子見をすることに決定した。

 そんな穏やかな時間の矢先に、ピネスが問われたひとつの質問。無人島に何を持っていくかの定番の質問と同じようなノリで、校長は生徒に問うた。

「なんすかそれ質問の内容が漠然すぎて? でもこれ俺が何か答えないと進まないヤツですよね。あぁー……なんだろ俺なら……さすまっじゃなくて、あ──ランタンとかどうですか。手に持ったら冒険の雰囲気ありますし」

「おーランタンか、そいつはなかなか良い線のお約束でいいじゃないか。冒険とは案外ロマンチストかぁー、ふふピネスくん。しかし惜しい、お分かりのようにダンジョンは空気中の微細なマナたちが、我々不思議な属性を持つダンジョンチャレンジャーやモンスターを『ココニイタココニイタタタカエタタカエアタックアタックアタック』とありがたく照らし反応してくれるので、視界は常に一定量明るい仕様だ。ランタンはたぶんいらん。まぁおっしゃるように視界の確保は大事だがな。いらんこともないな、キミのリュックに一応懐中電灯を持たせていただろう。必要な時がくればソレを使えばいい。が、上手くいっている今は使わなくてもいいだろうと私は思うぞ、ダンジョンはなんせ未知の世界だからな」

「なるほど?? ってそういやたしか、前のリュックにもありましたね赤い懐中電灯が」

「そうだキミを手ぶらでイカせないと言ったろ? それぐらいの小道具の準備はぬかりないさ、キミのただひとりの校長先生だからな」

「言って…………ましたねぇー。随分と良いテープもありましたし、アレ、助かりましたよ」

 校長の手持つ、カスタムされた例の銀の得物を見つめながら。ピネスは確かに命令されて赴いたダンジョンへの用意は、なかなか周到であったと思い返してみた。

「アレも用務員室から拝借したものだから、そこらのより効果はがっしりと強力だろう。ふふ、まぁそんなことより、さっきの質問だが」

「あぁえっと、なんでしたっけ? ダンジョンに何を持っていくかですよね? ランタンじゃないなら……ロープ?」

「キミは随分と危険なところに挑む冒険家だな。そういう映画のシーンがお気に入りなのかな、はは。あぁ、ちがう。ダンジョンに持っていくものといえばロープでもランタンでもなく────飯だろう!」

「めしっ??」

「??じゃないぞ。なぜ忘れる、一番重要な人の尽きぬ欲求をーーダンジョンで飯! ダンジョンで握り飯! ダンジョンでおにぎりぃぃぃ!!!」

 ででんっ、校長先生の隠された後ろ手から前へと突如繰り出されたのは、紫の風呂敷つつみ。さらにその風呂敷の結びを開いて見せたのは、アルミホイルに包まれた三角の数々。日本人も日本好きも、おにぎりとすぐに分かるそのシルエット。

「おにぎりぃぃぃ!? えっなんで?? おかゆは??」

「たわけ、ダンジョンでおかゆはそそられん! そんなのすぐ死にそう! 携帯もできんじゃろ! いいかよく聞けピネスくぅんっ! ダンジョンではなぁ……おにぎりorおむすびが、公式公認のスタンダード完全食なのだぁぁぁーーーーっはっは!!!」

「それどの公式ぃぃ!?」

「ワタシだぁぁーーーっはっは!!!(たった今こうしき)」

「ですよねぇッ!?(たった今!?)」

 不黒ダンジョンの攻略にあたる公式公認のスタンダード完全食は、おにぎりorおむすび、どちらも三角や丸なので好きに握ってそう呼べばいいのだ。

 2人がアルミホイルに包まれた三角フォルムの期待感に異様にテンションを上げるのは、やはり食欲、にんげんは食、胃袋とメンタルは直につながり相関しているものなのだ。

 どんなに良い頑丈なロープも、どんなに古くかっこいい光を放つお洒落なランタンも、ダンジョンで食べるおにぎりには勝れない。









⬜︎タコイカ学習帳
アルミホイルに包んだ3種のおにぎり

塩むすび
材料:
ガイアの恵み
パガダの塩

キノコ
材料:
ガイアの恵み
パガダの塩
キノコ(3-C のこっち)
しょうゆ
砂糖
ごま

バジP
材料:
ガイアの恵み
パガダの塩
パガダのペッパー
バジル(屋上)
オリーブオイル
鷹の爪(1-B サンチュちゃん)
生姜
ハチミツ
しょうゆ(少々)
砕いたピーナッツをまぶす(3-E Venus)

せいさくしゃ
不黒高校お食事班 2-A 緒方結美おがたゆみ
⬜︎



 紫の風呂敷の上に6つあるアルミ三角は、もう4つ減っている。

「おにぎりって食べれるんですね」

 くしゃくしゃのアルミホイルを剥きとりながら、ピネスは対面に座るいい食いっぷりをみせる女を見て、一言、意味深につぶやいた。

「むしゃもぐ、むぐみゃむっ……って当たり前だピネスくん、おにぎりは食べれる。どうした? おにぎりの概念のない握らない世界の住人かキミは、そんな当たり前の台詞をはいてしまうとは??」

「いやいや……そですね、あながち間違ってないです」

「ん──? むしゃはははそうだな、そんな世界の住人だったな私も、我々は。だが今は違うぞ、我々はダンジョンを攻略していくことで、こぉーんな最高のおにぎりをむしゃっむしゃむしゃしゃしゃしゃ……ふぬぅぅ……ふぅ……遠慮なく食べれるのりゃ!」

「ダンジョンを攻略で? そうかぁ……よく分かんないっすけど、とにかくこれは、なんか食べるとたぶん──泣けちゃいますね」

「泣けちゃう? なんだそれは、らしくないなピネスくん?? ははーん、なるほどな。たしかにこれは、泣けちゃうくらいに良いおにぎりだと思われる。だから、そーだなー、泣くというもう一つの意味では……どれどれ私がキミの分をひとつ食べてあげようか?」

「え? ……あぁーー、なら、そうしてください」

「ならそうさせてええっ!? いやこれはじょ、冗談だぞピネスくんっ? そこそこお得意のこーちょージョーークだぞっ? いやいや、遠慮せずこれはキミのぶんだ、残さず食べたまえ」

「泣けちゃえますから」

「随分泣きたくないのだな……今度はなんだ、おにぎりを食べて泣くシーンのあるあの有名映画か? そんな理由で食べない子は見たことないぞ、映画でもおにぎりは食いながら泣くものだ」

「ですよねぇ……なんか、俺ぇ……そんな映画とかの影響じゃなくて、ぶっちゃけると……今までのブク高の閉鎖生活で、胃袋が調教されたというか? 俺のカラダがおかゆのあのしめっけしか受け付けない? みたいで、あのだんだんと薄いあの手この手のおかゆのことをおもうと」

 ピネスはおにぎり片手に斜め上を見上げ、たそがれる。こんな閉鎖された訳のわからない生活環境でも振り返ってみれば、おかゆを食べて寝てを繰り返す精進料理のような毎日だったと。でもそれでどこか毎日、足りてもいた。

「おかゆで胃袋が調教!? 待て待てピネスくん、さすがにソレっヤバいっヤバいぞ人間の大切な部分が揺らぎかけているぞーー!! おーーよーーし、こーちょーせんせー、ふぅーちゃんの抜き打ちメンタルチェぇぇック!!!」

「めめ、メンタルチェック?」

 さすがにおにぎりが喉を通らないどころか、食べれないと申告する状況は深刻。心因性の何らかの病を患ってしまっている、そう判断した不黒校長は、急遽抜き打ちでメンタルチェックを行うことにした。

 眼帯のプラチナ髪の先生は、今一度、その精進し悟ったような生徒の目をしかと見て問う。

「キミは今ものすごく目の前のおにぎりを食べたいか?」

「そりゃもちろん食べたいですけど。なんでだろ……いざってなると、この三角の食べ方が分からな」

「はいダメェーーー!!! いやいやそれはひどいぞっキミは! いいかもう一度よく思い出せ考えろ、米を研ぐあの小気味のいい音をっ、水をちょろちょろ測り間違えるあの失敗を、ピッと炊飯器のボタンを唸らすあの興奮をっ!」

「……校長せんせー俺、米、炊いたことなくて」

 対面する生徒は黒髪をかきながら、そんな人生経験豊富な校長に、目のくらむ爆弾発言をする。

「因数分解よりそれ大事いいいいい!!! キミなにやってんの、ピネスくん! キミは…アレだ、米を研ぐという概念を炊くという概念の獲得機会を既に失っている人種だったか、パパッとライス、お母さんやさしいのか?」

「はは……恥ずかしながら……ちなみに俺って因数分解も」

「馬鹿タレのたわけ、それはがんばれキミは学生だろ」

「ですよねぇー、はははむっ」

「って食えるのかいっ! ピネスくん今までの校長先生とのつまらないやり取りは、なんだったんだぁ?」

「あれ? なんかいけました? ははははえ──なんだこれ」

 ピネスは気がついたら笑いながら、アルミから剥き出された三角にかじりついていた。クラスの友達と対面し話しながら昼飯を食べるように、自然と手持つおにぎりは彼の口元をゆき、その米粒の体積を減らした。

 しかし、歯触りが何か普通のものと違う。『ボリボリぼりぼり』と米だけでは鳴らせない音が、口内からピネスの耳を突き抜ける。

 それは今まで食べてインプットされていたおにぎりの食感でも、色合いでも、香りでもなく、ピネスにとってまったく新しい宇宙を旅するような味わいであった。

「それは【バジP】だな。私もいただいたぞ(おにぎりにピーナッツがまぶしてコーティングされている洋風バジル風味の甘辛くてなかなかおもしろい味だったな)」

「バジP?」

「それを握ったその子のチャレンジ精神だ、──そうだなぁ? お味はいかがか……キミの感想を150文字以内で聞かせたまえ?」

 手のひらを地の上向きに返し、お茶目に指差しながら、校長はその創作おにぎり【バジP】を食した感想を驚く彼に求めた。

「うーん……いち」

「いち?(いまいち? 辛口は測り間違えると傷つくぞ)」

「いちばん」

「ほぉ?」

「全おにぎりでイチバン、──これ」

「イチバンっ!? なんだと……(私はこの歳で塩むすびがイチバンに躍り出たのになんだと……)」

 やはりあまりに長いおかゆ生活に慣れすぎ、おにぎりを食べるという概念を喪失しているのでは? おもしろい味のするそれがイチバンとは、変わった嗜好だと、校長は密かにそんなことを思いながらも。おにぎりにもあるジェネレーションギャップの一種、という事で納得しておいた。

 おかゆしか受け付けないと言っていたピネスの姿はどこへやら、そこになく。パクパクと男の子らしく、バジPにまぶされたピーナッツをこぼしながらがっついていた。

「ピネスくん、ハンカチだ」

「はむはふはびっ──あざっす」

 ピネスは手渡された校長女子のハンカチで、バジルとピーナッツに汚れた口元を拭った。

「おい、違うのだよ」

「へ?」

 てっきりこのあとおにぎりを食べながら大いに泣くと思われるシーンに、手渡した一枚のハンカチは、ただただその汚れた口元を拭われただけだった。

「なんでもない、忘れたまえ。ふふ、」

 どちらにせよ気の利く校長ということで、頬杖をしながら、生徒の食事シーンを微笑ましく彼女は見届けた。







⬜︎タコイカ学習帳
ピネスはゴブリンの喉元を一突きで貫いた。
ピネスは振りかぶり叩きつけられたコボルトの棍棒ごと斬り裂き、立つ獣をそのまま鮮やかな袈裟斬りにした。
《不黒ダンジョン13F石のつうろ》

校長:
シールド値90%
魔力量75%(悪魔の片眼により自然魔力回復力UP)

ピネス:
シールド値94%
魔力量41%
⬜︎



「ピネスくん、キミはほんとに体育3かな?」

「校長、体育の成績は関係ないってまえに送り出すとき言ってましたよね?」

「なっはっは、上手いこと言うな。まあまあ、そのなんだ? 良い動きをするからびっくりしたのだよ、キミの校長である私は」

「そーすか? 上手いことの意味はちょっと分かりませんが……あざっす。あぁーっと、たぶんこいつらモンスターっすから容赦はいらないからかと? ようは、こいつらが殺しにくるように、俺も殺せばいいんすよね? そうすると勝手にカラダが、いい感じに動くというか」

 モンスターをたった今臆せず斬り裂いた緋色のショートソードを片手に、黒ブレザーを羽織る不黒高校の一員である彼の背は振り返る。いたって真顔、フツウの顔で、彼は後ろに控えていた校長へと、自分がどういう心持ちで今敵を斬り動いたのかを説明した。

「殺しにくるから殺すか……それはそうであり、一つの真実的でひじょーに正解だが、なんか怖いぞキミ。本当にあのすぐおっぱいに視線がいきがちな可愛い私のピネスくんなのかい? それとどちらかというと、ここまで殺しに伺いに行ってるのはダンジョンにお邪魔している我々の方とも言えるぞ。まぁピネスくんがそれで動けるならキミの考えを尊重し、ここはダンジョンだ、あまり深く考える必要もなく、この調子でモンスターを倒しガンガン進めばいいと思うぞ。単純に男の子っぽく、冒険っぽくな!」

「単純に男の子っぽく……冒険っぽく? ……なるほどそういうのも……え、おっぱ??」

 ピネスは校長の胸元服越しの豊かさを見つつ、対面する校長は『あっち向いてホイ!』と突然上を指差し遊びだした。

 上を見ながらやがて器用に瞳孔は下を見る。不思議な魅力と魔力と豊かさに視線が引き寄せらてしまうのは、男子としてのサガであると思われる。

 戯れを終えたピネスと校長の2人はアイテムを回収しつつ、ダンジョンのさらに先へと進んで行った。





▼▼▼
▽▽▽





⬜︎タコイカ学習帳
ゴブリンビッグシャーマンナイトは、再度ゴブリンを召喚した。

ゴブリンA、ゴブリンB、ゴブリンC、ゴブリンD、ゴブリンE~Gは、するどい爪牙を剥き出しに前衛のピネスへと襲いかかった。

不黒校長はゴブリンビッグシャーマンナイトにふぅーちゃん棒SP改から魔法のガトリング弾をお見舞いするも、やはり魔法耐性が高いのか決定打には到底至らず。

ゴブリンビッグシャーマンナイトは、中断された魔力の練り上げを剣に込めて再開した。2人の生命を保護するシールド値に中被害を与えた魔法【ゴブリンサンダー】をまた発動するつもりだ。


《不黒ダンジョン20Fゴブリンビッグシャーマンナイトの大部屋》


校長:
シールド値63%
魔力量47%(悪魔の片眼により自然魔力回復力UP)

ピネス:
シールド値44%
魔力量53%
⬜︎



 不黒ダンジョン20F、さしかかったボス部屋での戦闘は、10Fのミノたの時と同じような一方的な攻撃の通るボーナスステージではなく、

 部屋の扉を固く閉じ込められた限られたステージ内で、今もなお破茶滅茶と続いていた。

 そして命を賭けたそんなバトルの最中に、2人はあるゲームなどでありふれたシステムについて声を張り上げ言い争っていた。

「だからァァ、クリティカルってどうやって出すんですかぁー!?」

「何を言っている今までも出していただろ! クリティカルだ! 私のこしらえたクリティカルビルドに間違いはない」

「いや俺普通にコボルトとかゴブリンを斬って刺してただけなんですけど、なんか勘違いしてませんかぁー! って、だから敵多いって!?」

「ふむむ……Luck値の異常に高いと思われるピネスくんのクリティカルがここまで出ないのは、予想外の計算外だ……仕方ないな……よしっ」


【私の青春半分はヤツの灰色、愛しき死者を操るは秘められし灰色の眼】


 プラチナ髪にひそめた眼帯は開かれ、秘められし灰色の眼が今、露わになる。

 ぶつぶつと唱えた言葉と共に、一気に増幅した魔力を旗印とし、愛しき死者たちは忽然とあらわれ呼応する。

⬜︎タコイカ学習帳
不黒文校長は悪魔の眼を解放し、使役している中川、細川、三河、副島を召喚した。

中川:
異能【浮遊】

細川:
異能【波動】

三河:
異能【カリスマ】

副島:
異能【書記】
⬜︎

「な、なんだぁ!?」

 中川、細川、三河、副島は必死に戦うピネスの前へと躍り出て、彼を攻撃せんとしたゴブリンの群れを食い止めた。

「数の差は私が使役する召喚獣で埋める。遠くからの魔法はあまり効かないとなると、後はキミがあのシャーマンにクリティカルを決めるだけだピネスくん」

「いやっえっ?? 召喚獣?? どゆこと、これは一体??」

 目の前で戦う人型の召喚獣とはなんなのか。肌の色は血色悪く、服の背はボロボロだが、どことなく見覚えのあるフォルムにピネスは困惑した。

「大丈夫、キミはちょーツいてる!!! これ以上緑のゴブリン共とぐだぐだ長く消耗戦をやっていても埒が開かないと判断した。雑魚は校長先生が引き受けるっ、いきたまえ」

 校長は寄るゴブリンたちを引き受け、後ろに剣を翳し控える魔法耐性の高い【ゴブリンビッグシャーマンナイト】を、クリティカルを決め討ち取るようにピネス生徒に強く命じた。

「ッ──はぁ……次から次へと情報が多すぎてさぁ、とにかく俺が死ぬほどツいてりゃいいんでしょーー!!!」

 奮闘する4人の召喚獣たちと交戦するゴブリンの群れをありがたくすり抜け、ピネスはゴブリンビッグシャーマンナイトの巨躯を目指して、意を決して駆け抜けた。

「あぁ、ゆきたまえッ!」





 GBシャーマンナイトは再びゴブリンを2体召喚。迫り来るピネスに対して、自分を守るよう2体を左右から挟撃するように向かわせた。

 首を狙われたボスは狡猾にも無理してか、召喚できるゴブリンの頭数の上限を隠していたのだ。

 そしてGBシャーマンナイトの召喚するゴブリンは、それほど雑魚ではない。ピネスの一振り一撃では簡単には仕留められない程の強度を誇り、魔法【ゴブリンサンダー】の魔力を練り上げるまでの時間稼ぎ要員としては、それで十分な駒であった。

 敵と味方、差し迫る距離に勝負するコマンドは選ばれる。

 バチバチと雷属性の魔力を帯びていくボスの念じる剣に、企み舐めずる青いゴブリン舌。

 左右から彼に迫る緑の餓鬼など────

 冷たい地を強く蹴りステップする普通のスニーカー、赤熱する緋色の剣は瞬く間に、2体の餓鬼の間をスピードを上げて追い越した。

 横薙ぎ一閃──。断面鮮やかな緑の胴と下のパーツがあわせて4つ、短い断末魔と共にばらばらと音を立て、彼の背方に落ちていく。



⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
▽用務員室▽……


 その陽気でおかしくウブなそよ風は、ダンジョン遥か彼方から、こじんまりとした用務員室で眠る彼女の元へと────。

「そうだイケイケぇ~~制圧だぁーふわっ!? だれだぁ~……私の夢に勝手にそんな風ふかせ、はいりこんでぇ~ふふぅ、それがきみの陽気かむにゃむぅ……へへ……たてなみとよこにゃみ……陽気を極めればこれすなわち陽術となり、陰術をも飲み込み、りようし、あいてはうちがわからしぬぅーー……ぐぅーーzzz」

 鼻をくすぐるそよ風は失せていく。

 怪言をのこし、彼女は眠った。
⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎



 ゴブリン2匹をその剣一太刀で撫で滅した。奇妙で心地良い感覚を浴びながら、黒いブレザー背の勢いはまだまだ風を切り止まらない。ただ敵を夢中で斬り捨て、足は前へと向かいつづけている。

(えさっきのがイチゲキ? 手ごたえ……訳わかんねぇ? アレがクリティカル??)

 迫る、迫り走る、クリティカルなどという怪奇現象を浦木幸は知りもしない。ただ今を懸命に走っていく。ただ、緋色に熱くなるその握る手に溜めた刃、敵を斬り裂いたそれが、どれだけのチカラを秘めたものなのか完全に分かっていた。

 今にも向かって来ている小さな敵の進行を阻止できず。ボスは大剣に溜め込んだ魔力をさらに練り上げる行為を、急遽切り上げた。そして、大きなゴブリンが天に祈るように掲げた大剣から、不完全な雷撃が迫り来るターゲットに向けて放たれた。

 しかし今の彼のその身に浴びせられた焦る青雷のマジックは、堂々の期待感に満ちた緋色の刃にはかなわない。熱い切先が襲う雷を跳ね除け、僅かにその身が痺れるばかり、走るその足は止まらない、止められない。

 この疾る剣には、そんな陰気な雷マジックをも上回る陽気な質が込められてある。敵を屠り、雷撃を弾き、握りしめる強大な味方をその手に育ち得たピネスはもう、確信する。

「【そうかッ……クリティカル破壊力235%】!!! そんでおまけにこうだろっ【運も何も燃え尽くせええバーンファイア】!!!」

 解き放たれん確信のイチゲキを抱えて、GBシャーマンナイトの地を引っ掻く最後の必死の太刀筋を避け、ドキドキと高鳴る一瞬と一瞬の駆け引きにも臆せず、ピネスは敵の心臓に飛び込んだ。

 巨躯のゴブリンに向かい跳躍し、その鉄鎧ごとを鋭く貫いた緋色の剣の切先は、ただ急所を刺すだけのクリティカルなイチゲキにとどまらない。

 巨躯の胸元を嘲笑うように踏みつけた、普通のスニーカーの両足は遠のく。

 深く貫いたままのショートソードをそこに残して、黒いブレザー姿の男子は、今、勇ましく敵に背を向け地へと着地した。

 剣の突き刺さった胸元はバチバチと魔力高鳴り、鮮やかな緋色に爆発する。発動した魔法は、内部から焼き尽くし爆ぜる【炎の魔法】。緋色の幸福なショートソードに込められたささやかなマジナイは、今掘り起こされ、起爆した。

 緑鎧の巨躯は、握る手のない大剣をからりとその地に落とし、粉微塵に倒れ。使役されていたゴブリンたちは、ボスの死に呼応するように死に絶える。

「俺はちょーーツいてる浦木幸だ! ハッ、燃え尽きるほどの運の尽きだなっ、あばよっバケもん!! ──はぁっはぁっ……」

 決め台詞は決まっていない。即興で組み立てた剥き出しの感情のままに浦木幸は叫んだ。

 そんな一人の男子生徒の任務を遂げ、急成長をとげた、炎にたたずむその勇ましい背姿を、

「はははピネスくん……キミは、今……過去最高にかっこいいぞぉ? んーーー? ふふ……ふふふふはっはっはーーーー!!!」

 ──見つめた校長は、剣一本そして持ち前のLuck値のみで大業をやってのけた一人の生徒を褒め称え、目の先に広がる緋色に爆する光景に、おもわず腹の底からシャウトした。

 生き残った校長の使役する召喚獣副島の異能書記は発動し、同学年、浦木幸の勇姿をその赤表紙のノートに自動記述、記録していく。



⬜︎タコイカ学習帳

浦木幸の魂のイチゲキ!!!
クリティカル技【バーンファイア】は見事炸裂!!!

〝大敵ゴブリンビッグシャーマンナイト討伐完了〟

《不黒ダンジョン20FGBシャーマンナイトの大部屋》
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