【R-18】異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re:

山下敬雄

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9 校内クエスト、新たなパーティー

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 校長室を出て廊下を渡っていく。浦木幸はさっそく課せられた校内クエストをどうしようかと思い悩みながら。とりあえず、廊下の向こう側の階段、その踊り場まで着く頃には何か思いつくだろうと、オートマチックに歩を進めていく。

 ピネスは向かってくる足音に気づかず。されど、どこか聞き慣れた一声が耳に入った。

「は?」

「お?」

 対向からやってきた靴音は止まり、自分の歩みもその動きにリンクし止まった。

 中2の夏には変わっていた彼女の真っ直ぐに伸びたオレンジの髪、睨むような青いジト目、白くだらけたルーズソックス。

 相変わらずの黒髪、その鼻口の造形、背だけは自分より高く成長し、だが、いつもの間の抜けた省エネな感じの表情は今日の彼にはなく──。

 出会した男女二人は、お互いの顔を一瞥して、また時は一歩一歩すれ違うように動き出す。

「なんでスルーしてくれてんの」

「なんでってぇ? なんとなく見たことあったっけ、なぐらいの感じで淡々と」

 ピネスは鉢合わせたオレンジさんと、行き違うように動き出した足を止めた。
 前方斜めで睨むジト目の彼女がいる。『は?』以外のつづきの言葉をそのオレンジが投げかけてくるとは、彼は思わなかった。

 ピネスは彼女と久々にしゃべる雰囲気に違和感の記憶を抱きながらも、また淡々と答えていく。

「幼稚園から中学高校、こんなとこまでついてきてきもいんだけど、ハぬけ」
「だから今そよ風のようにスルーってやつを」
「なにそれ調子乗ってるってわけ?」
「いやっ?」
「乗ってるでしょ」
「いやいやーゼンゼン」
「これ、あんたがなんかしたの?」
「これって?」
「このおかしな世界のことだけど」

 彼女が右に見る窓の景色をピネスも見る、校庭が赤紫の濁りに覆われている。それはおかしな世界だと、彼女は言う。そう言われればその通りでしかないと、もう随分と今更のことだが彼も思った。

「あぁー、確かにおかしいな。でも俺にはどうしようもないぞ?」
「は? なんかあんた最近ごちゃごちゃやってんでしょ」
「ごちゃごちゃ、俺が? あぁーまぁ、あっちでゴブリンを斬ったり叩いたり、ミコシ担いだりごちゃついてはいるな」
「は? つまんないんだけど、もういい?」
「あぁ? そうか? わかった」

 テンポよく話していてこれから盛り上がるのかと思ったら、男は女につまらないと言われて突き放され、突然二人の会話は終わりを迎える。

 引き止めたのはあちらであり、突然冷めたような態度で当たられるのは強引だとも思えたが。

 ピネスは『まぁこんなものだろう?』と、オレンジ髪の彼女とのやり取りを心の中で納得するしかなかった。

 彼女と自分を繋いでいるのは幼馴染という一点。過ぎゆく年月とともにその他の肉付け、味付けされた記憶は、諸々ぼろぼろと老朽化し失せていく。彼女とはそんな薄い関わりになった。

 不思議と溜息も漏れない。彼がなんの気なしにまた、フツウの一歩を進もうとしたそのとき──

「あんたってさ」

「なっなんだ?」

「──やっぱ調子乗ってんでしょ、ハぬけ」

 ピネスを見つめる無表情無感情のこわい目は、そう言い残し──そよ風のように道を去っていく。

「なんだってんだ?」

 茶色いローファーの靴音を追っていく。ピネスは微かに靡くオレンジ髪の背をじっと見つめた。やがて首を傾げ、つぶやいていた。

 久々に遠い遠い幼馴染と喋ったと思えば、調子に乗っている、と結論を出され決めつけられた。こんなのはミステリーともいえない。脳裏に一方的にオレンジのモヤをのこされた、だが──

『アレならばそう言う』

 浦木幸というキャラに対する現在のオレンジさんの当たりはこんなものだろうと納得して、晴れた。納得したピネスは彼女の背を見るのをやめ、また前へと歩き出した。

 ゆらゆら廊下を進みゆき、自ら遠ざかる長いオレンジ髪、彼女の耳に動き出したダサいスニーカーの靴音が聞こえる。

「なにあいつ……やば」

 驚き見つめざるをえない、痛々しい背中が遠くみえる。








 グラウンド底の赤空を見つめながら、黒髪を風になびかせる。赤い階段を上りきったピネスは、今、手すりに両肘を置きながらじっと思いふける。

「校内クエストっ……といってもなぁーー」

 なんとなく、まずは屋上へと────。足を運んだピネスは校長に課された校内クエストをどうこなすか、とりあえず一番高く一番よく見えるところからプラン立てていくことにした。

 そして出会ってきた女子たちの顔を順々に思い浮かべていく。

(校長は家庭科3だし、きのこの人はきのこをおやきだろぅ、なんか煙ってっけど大丈夫か?)

 遠く地上の方からもくもくと煙る様を見つけて、苦笑いをしていると────

『だれ?』

「あぁ?」

 そっと耳に流れてきた人声に、手すりの青年は振り返る。屋上を彩る緑ハーブ鉢の景色の中から、静かに現れてくる細身のシルエットがある。

 黒のブレザー、黒のスカートは同じ不黒高校のもの。爽やかな金髪のショートカットに、不思議な飴色の瞳が付いている。そんな見たことのない綺麗な女子生徒だ。

「こんなところにいてはいけないよ」

「?? なんで?」

 立ち止まり柔らかな口調で語りかける女子生徒までの距離は4.50m。相撲の土俵の直径とおなじくらい開いている。

「ふらっと屋上にくるとね、ここを卒業できなくなるって噂」

「へぇー、でも普通に垂れ幕とかされてたり? それってここからじゃね?」

「そうだね。君はだれ?」

「俺? 2-D浦木幸。あんたは?」

「ふふっそのせなか、寒くないの」

「あぁー、────さむい」

 気になる男子の痛そうな背中には、異界の寒風がながれ当たりつづける。そんなじっと寒がる彼のいる4.50mの間合いを、微笑む金髪ショートの彼女が詰め寄って────



▼▼
▽▽



 装い新たに堂々と、一歩一歩降りていく階段。久々に包まれるちゃんとした一枚つづきの布地に、なぜか安心感を覚える。予期せぬ巡り合わせで、校内クエストをふらっとこなし上機嫌。宿題と憂いのなくなった男子生徒は浮かれながら────

 下りと上りのベクトルは鉢合わせた。鼻先とおでこが当たる寸前で、両者接触を回避。慌てて3階の踊り場で体勢を崩したポニーテールの女子が、つい閉じてしまった目を開くと──つい先日出会い、もう見慣れた容姿の男を見つけてしまった。

「えっえっ浦木くん??」

「あぁー緒方さん、奇遇だな」

「きっきぐぅだね…………あれっその服は?」

「あー、なんか知らないロックフェスのシャツ、もらっちゃって」

 【第1回不黒ロックフェス】と黒地に赤文字で書かれた半袖シャツを、ピネスは着ている。

「そっそうなんだ……」

「そうだけど、どした? 緒方さんなんかへ」

「いやっべっべつに。そーだ、お腹とか空いてるかなーーってこっこれなんか握りすぎちゃって!」

「おおぉ、さんきゅー。ちょうどすさまじく腹減ってたんだわ。今度は何味?」

 ピネスが嬉しそうな顔で聞き返すも、

「──ってもういないな緒方さん。……おにぎりぃ……なぜかゲットだぜ!」

 ドタバタと3階の廊下を走り去る音が、もう遠く聞こえる。

 ピネスは奇遇にも鉢合わせた緒方からずっしりと詰まった風呂敷包みを譲り受けた。『異能幸運、ラッキーぃ♪』などと、重なるラッキーに上機嫌につぶやき浦木幸は階段を鼻唄混じりに下っていった。






「シンプルクールなシャツね、どこでお売りなのかしら」

「あぁー……わりぃ、秘密で」

 今日もセットは完璧、ゴージャスにウェーブした金髪のマドンナは、ばったり出会った彼と握手して去っていく。

 ピネスのひらいた右の手のひらには、1個と半カケラの豆があり。それが何を意味するメッセージなのかは分からない。だが、この閉鎖環境では有難い食料を、握手するだけで手に入れてしまった。

「なんか階段や廊下歩いてるだけで色々ラッキーに貰えたな。異能幸運……やるなッ」






 1.5個のピーナッツをかじりありがたい塩味を感じながら、1Fの廊下をなんの気なしに探索し歩いていく。そして【茶室Fika Lagom】とかかれた丁度いい教室プレートを発見。

 『そういえばおにぎりとピーナツはあっても、茶はないな』ピネスは巡り合わせた学校ダンジョンの一室にかるくノックをし、その戸を開いた。

「なんだこのえらいせまい穴は……」

 扉の先にさらにあった狭い入り口、そこを頭を下げながら進入していく。

 猫の通り穴のような道順に添い、ピネスが進入を果たしたのは、────なんと畳の上。それっぽい和の雰囲気がそこにある。水彩画の掛け軸や、迫力のある木彫りの熊やら、味わい深い異国の皿。やはりいくつもあるこの雰囲気に適した茶器のセット。そして──

「茶室に外人?」

「失礼な輩、私のどこが外人」

 狭い入り口をくぐり面を上げたピネスの目には、正座した金髪の横顔が待ち構えていた。青い茶人帽を頭にのっけ、髪を纏めており思わず見惚れる綺麗なうなじが見える。彼女が着ている青と金の道服は、この和の雰囲気には物珍しい色合いであった。

「こりゃすまねぇ…どう見てもペラペラな日本人さんだ」

「またしても失礼、外人でも日本人でもない、茶人」

「ちゃじん? あぁー、その格好……なんかコップを木のやつで、〝かさささー〟って混ぜる人だ!」

「失礼、なんと風情のない言い回し、カタカナと擬音と駄文で茶人を表すなど言語道断」

「へっへぃ……たしかに……ノン風情だったかもしれねぇ?」

 くっきりとした顔立ちの茶人に対して出だしの挨拶を間違え、ことごとく怒りを買ってしまうピネス。久々にきっちり叱られたからか、何故かピネスの崩していた足は、自ずと、畳の上に正座の形を取ってしまっていた。

 ふと、彼の膝下を見た茶人は────

 ブレンドした抹茶を茶しにふるい、茶碗にお湯を注ぐ。茶筅ちゃせんでかさささーと泡立てていき、最後に静かに出来た泡立ちをそっと盛り上げるように、茶筅を茶碗から静かに引き上げていく。

「飲みなさい」

 さっと膝下へと差し出される。

 出された黒い茶碗に描かれた金色の十字模様が交わるところが、正座し待っていた彼の方を向いている。
 ピネスはおそるおそるソレを手に取り、一礼する青道着の茶人の仕草を見て────口をつけ、泡立つ鮮やかなグリーンを飲んでいく。

「あれっ? これ、お茶なのにクリーミーで甘くてうまい? あっ、けっけけ? けっこうなお点前で?(あってる?)」

 泡髭をつくりながら、ピネスは今飲んだ甘い茶の感想を、これを点てた茶人へと自分なりの作法で伝えた。

「当然ですっ、至極当然。──ラーゴム」

 彼の出された茶を飲む様をじっと観察していた茶人は、感想を聞き入れてから目を悠々と閉じた。そして小刻みに渋く味わうように頷いている。

「ら、らーごむ?」

「当然塩梅、ラーゴム。一期一会の必然の出来栄え」

「あぁー、なるほど。ところでここって、おにぎり、たべていい?」

「Fika、ラーゴム。存分にわびなさい」

「ふぃ、ふぃーか? おっおぅ……ラーゴム!」

 彼の問いかけにテンポ良く頷く、茶人、外人、スウェーデン人。ピネスが想像していた厳かな茶会とはちがい、わびていて、それでいて、ポジティブ、そんな堂々とした茶人が仕切っている。

 あっさりと持ち込んだおにぎりを食べる許可を得たピネスは、手荷物の風呂敷を広げていく。アルミの三角のカサカサ音にも茶人女子は頷いている。それもまた味わい、風情なのだろうか。

 美味しいお茶にはおにぎりがちょうどいい、その組み合わせの妙を居合わせる茶人は想像できるのだろう、また静かに頷いている。

 さっそくおにぎりを頬張り、茶もいただく。ピネが頷くと、頷くピネスにまた彼女も頷く。

 聞き慣れない外来語、スウェーデン人の彼女の教えるラーゴムの精神は、なんとなく道をゆく日本人の浦木幸に伝染した。





 ポニーテール娘はばったり出会った彼の顔を見て逃げ出した。それでも紅潮するこの顔に耳たぶにこもった熱は、走っても冷めず。

「なっなんか忘れてるかもっ……なんだっけ……ハァハァ……あーもぅーーっ、ダメっ……まっ……まともにっ……話せる気っ……しないかもっ……! ッ……ぁあーー!!」

 また自分の知らないピンクの記憶、知らない失敗を思い出してしまい、赤くなる。

 膝に手をつき、廊下にしゃがみ込み、どっと俯く。緒方結美の受けたメンタルダメージの回復には、未だもう少し時間を要しそうだ。






 茶室は茶会の真っ最中、そこにあらたな客人が現れ、わびた空間は一気に騒がしくなった。

「こっこのっカロリー泥棒!」

「だからごめんってぇ(カロリー泥棒ってなに)」

「お嬢様のカロリー物資を横から奪うなんて、とんでもないですよ!」

「あぁー……ほんととんでもないと思ってる。すまない、あまりにも腹が減ってたんだわ。それで俺の分だと思い込んでて」

「ハッ腹が減っていたからって、他人のモノをとっとるのはっっ」

 茶室へと入ってきた黒いタキシードを着た執事姿の客人は、必死な様子で推定盗人の男を咎める。

「はゆはゆはむっ」

 華奢な腕をした水色長髪のお嬢様は、ありついた三角米粒のカロリー物資を、その可愛らしい小さな口に頬張っていく。

 盗人の男は問われた罪をなんとなく認めるものの、世は異界カロリー争奪時代と言っても差し支えはない、やはり執事は仕えるお嬢様のためにその怒りの矛先を簡単におさめる訳にもいかず。

波綿岩死はめんがんし、心は波に浮かぶ綿のように、心は海に沈む岩のように。──飲みなさい」

 そんな諍いを見かねた茶人は至極冷静に、2人の膝下に同じ茶を点て差し出した。




「すみませんっ。予定のディナー時刻にお食事が届かないので心配になり、校内を探し回りあげく取り乱してしまい……お見苦しかったです……」

「いやっまぁそっちが謝ることでもないし、元はと言えば俺がぼーっと勘違いして起こったことだし、そのぉ──ごめんな?」

「いっ、いえっ……!?」

 正座し頭をさげる執事に、ピネスは頭をさげられる理由もないので、ただ面と向かい同じく謝った。

 面をあげた黒髪ショートの執事は、彼と目が合うと、なぜか顔を少し恥ずかしそうに背けた。

「投げ込まれた岩は、いっときの波乱を起こし、しかし一服終わればやがてまた穏やかな波となり……沈みゆく岩は腹底に坐る。──ラーゴム」

 茶人は目を閉じ、しみじみと頷く。

(なんかわかんねぇが、茶人すげぇな。深いな、うん)

 意味は分からないが、なんとなく凄く深いことを言っているのは分かる。ピネスも頷く。

 執事は『はい……』とあたたかいため息まじりに過去の己の行いを悔い、頷く。

「はむはゆはゆ♪ッ──んんーーー!?」

 おにぎりを啄みながら、そんな平和に落ち着いたシーンに頷く青い小鳥のような少女は──異変。

 執事は慌て、ピネスはおどろく、茶人は慌てず急ぎ茶をお出しした。




 ほっと一息────渋めのお茶で喉をしめらせ落ち着かせていく。おにぎり5つ、カロリー摂取を半ば終えた艶やかな水色髪の女子生徒は、細くて透明感のあるその声で彼にご挨拶をした。

「よろしく。浦木」

「あぁよろしく、ええっと?」

「あっそうだねわたしの名前、むらさ──びぇっ!!?」

「ぬぉっ、おいっどしたっ!?」

 口元についたご飯粒が気になる、そんな可愛らしい笑顔がいきなり──向かい合わせていたピネスの正座する太ももへと向かいダイブした。

「いけませんっ! 正座のしすぎでお嬢様のカロリーが! やはり無茶をっ!」

「えぇ!? まじか! 足が痺れたとかじゃなくカロリー? 電池切れ??」

「ラーゴム、正座は自由。好きなようにわびなさい」

 正座の維持でカロリーを消費しすぎたというお嬢様。本当なのだろうか、ピネスは驚いた。膝の上にいる水色髪の後頭部を興味深そうに眺めた。

 執事女子は慌てて自分の膝上のまくらへと、電池と体力の切れたお嬢様を退避させる。

 粗茶を一服し落ち着いたと思えばまたドタバタ。女子3人男子1人、高校生たちの催す愉快な茶会がつづいている。




▼▼▼
▽▽▽




 また一つ異界での朝を迎え、時刻は10時、いつもの赤空ダンジョン日和。

 ピースする黒髪。腕を組むオレンジ。一礼する金髪。

 いつもの門前に集まった新しい面子、それぞれの顔を見回したピネスは、唖然と黙りこくる。目に入る新たな情報だけでも、彼にとって腹がいっぱいになりそうなものであった。

 やがて、ひらひらと校舎から飛んできた赤い蝶々の報せを浦木幸はその手に捕まえた────


⬜︎タコイカ学習帳
このところお疲れのキミにかわり、私の方で増えてきた希望者の中から、今回ゆく冒険のメンバーを厳選しておいた。

サンチュは元気、木浪は熱血、サーガは冷静。

我ながら性格的にも能力的にもひじょーにバランスの取れたパーティーに仕上がったと思う。(もちろんキミも含めてな)

異能の方もワクワクっ、かわいい生徒たちの可能性に大いに期待したいな!

ではではピネスくぅん♡今回も前回に引き続き良き引率リーダーとして、頑張りたまえーーーー

そうそう今回の引率目標、ダンジョンクエストはキミの成長を見込み20F到達までだ、うっかりまちがうなよっ?

あとブク高の制服はできるだけ清潔に保つように、痛々しいその背の勲章もかっこいいがな? ふっふ
⬜︎


(まじかよ……)

「浦木せんぱーい! やっとご一緒できますねっ! ダンジョンっ!」

 近寄ってきたサンチュ女子はダブルピースを披露。これからダンジョンにおもむくのに、そんな元気な笑顔のダブルピースを貰ったのはピネスにとって初めてであった。

「平安伝説の茶器を求めて、ダンジョン&ラーゴム、──お点前拝見」

 ピネスはもはや分からない。平安時代のことも、伝説の茶器の浪漫も、ダンジョン&ラーゴムのカタカナも。

 目を見てしぶく頷いた茶人外人に対して、ピネスはなんとなく会釈するよう頷き返した。

「何こっち見てんの、ハぬけ」

 手にする謎の古杖を地に突き威嚇した。先日廊下ですれ違ったオレンジ髪と青いジト目が、そこにいるのは何故なのか。

「あぁー……校長先生……俺のことダンジョンマシーンかなにかと思ってたり、しない?」

「何言ってんの、聞こえないんだけど?」

 ピネスはボケっとしていた己のスイッチを切り替えた。その知り合いのジト目にかるく威嚇されても、茶人と後輩に期待されても、結局ゆく先はダンジョン。

 自分の元に集った女子3人の顔をもういちど見比べ、黒い頭髪を仕方なくかいた。


⬜︎タコイカ学習帳
木浪智火瑠きなみちかる:
木な岩なマジカルステッキ★★★★★★
魔力量 中
魔法威力 小
無+3
ロックボール3way

草原の星屑のコボルトベルト★★★★★★★
魔力量半分以下の時魔力消費量 小減
物理威力 小
闇魔法発動時魔力量 中減
光耐性+2

不黒のブレザー★
闇+1

不黒のスカート★

黒夜のいかしたウリボーマント★★★★★★★★
シールド値80%以上の時マナシールド10%
シールド値40%以下の時魔法威力 中減
地+1
闇耐性+7

炙られた地のラムネルーズソックス★★★★★
地魔法を使う度にスピード 小
火耐性+2
シールド値 小
⬜︎


 不黒高校の制服を中心に、ダンジョンで回収したレアドロップアイテムを追加コーディネート。

 背のマントが冒険者らしく風に揺れ、両手で杖つき尊大な魔法使いらしく、綺麗な瑠璃色の瞳が彼のことを見つめている。

「あれっこのマント?」

「なに?」

「いやぁー、なんでもない!」

「は?」


⬜︎タコイカ学習帳
サンチュ:
魔の光のブラックキャットショートソード★★★★★★★
物理威力 中
魔力量 中
光+4
闇耐性+1
光-2

ホワイトフロッグパーカー★★★★★★
シールド値 大
光+2
水+2
跳躍+1

不黒のスカート★

ホワイトキャットベルト★★★★★
魔力量自動回復 小
尻尾モード搭載
着地+1

フロッグシューズ★★★★★★★
スピード 中
蹴り+5
跳躍+1
⬜︎


「あははどうですかせんぱーい♡?」

 明るいサンチュはお茶目にも、両手でキャットポーズを披露しているが、それは半分カエル装備なのでケロっと鳴いてほしい。

「あぁーいんじゃね、強そうじゃん」

「は?」

「あ?」

 ピネスが今なんとなく放った後輩に対するお褒めの一言に、木浪は鋭く相槌を打つように反応。

 オレンジ髪の繰り出した威嚇に対して、ピネスは間の抜けた表情で、なにごとかと不思議そうな目で見つめ返した。

「あははせんぱぁい……」

 この場合褒めるべきは強さよりその白猫白蛙装備の可愛さ。ピネスは両手をやれやれと広げる幼馴染の仕草が分からず、首を傾げた。


⬜︎タコイカ学習帳
水野サーガ:
火の水の黒小太刀★★★★★★★★★
物理威力 中
魔法威力 小
居合術で属性力2倍
水+3
火+2

知の雨除けのドラヤキ笠★★★★★
水耐性+5
魔法耐性 小
察知+2

海の黄金の道中合羽★★★★★★★★
シールド硬度 小
シールド硬度 小
火耐性+4
水+4
DP入手量+2

天狗下駄★★★★★★
物理威力 小
風+3
蹴り+2
浮遊+1
⬜︎


「てかまじ強そうな雰囲気だな!(外人に刀と和装は反則か?)」

「至極当然っ、ふふ。茶道も武道もわびとさび、ラーゴム」

 金髪頭に古風な笠を被る、青と金ストライプ模様の合羽を翻し、スウェーデン人は鼻高々自慢げに何度も目を閉じうなずく。よほどその衣装が気に入っているようだ。

 茶人だった者は武人侍へとクラスチェンジ。そのエキゾチックな顔立ちと和風な装いのギャップと魅力に、じっと見入っていたピネスも感心している。

「なんでこっち見てんの、いちいち」

 顔をいちいちチラチラと見られるのは、人によってはうっとうしい行為なのかもしれない。相変わらずピネスには棘のある発言をかますオレンジさん。彼女のその心中は読めず、彼は一時あきらめた。

「いやっべつにぃ、そだそだ装備確認も済んだことだしダンジョン──いこーぜ」

 ピネスは気持ちを切り替え、ダンジョンへと向かう号令を3人へとすんなりとかける。

「わーい、いよいよですねーいきましょーーっ!!」

 サンチュは黒猫の剣を左腰から抜き出し、意気揚々元気にかかげる。友達とカラオケ屋に行くようなテンションだ。

「ラーゴム、準備上々」

 笠の顎紐をくいっとお直しする。よっぽどその格好が気に入っているのだろうか、味わう笑みを浮かべながら異国の侍はもういつでも準備上々。

 閉ざされた正門を手動で開いていく。はじまりの音とも言える厳かな門の音を聞きながら────

「おいっ? いこーぜ?」

「……」

 何故かオレンジ髪は、門をくぐらずに独り、校舎敷地内で突っ立ったまま動こうとしない。青い瞳で突っ立ち、見つめている。

「なっ、なんだ突然なんで杖ついた地蔵に……おーい? もういくぞー? きこえてっか?」

「あっせんぱいっ! ひょっとして……ごにょごにょ────だと思いますっ!」

 遠く止まったオレンジ髪の様子から何かに気づいたサンチュは背伸びし、ピネスの右耳にきっとそうではないかと耳打ちする。

「なっなるほど……あぁー、いこーぜぇ木浪っ」

「……」

「なぁサンチュさん……これ、ちがわない……?」

「あははぁ……だとおもったんですけどあははぁ……」

「おいっ、置いてくぞぉー木浪! まじのまじで俺はこれから校長命令でなんとなくダンジョンに向かうがっ!」

「はぁうっさ……きこえてるから、ハぬけ」

「ばっちし聞こえてたのかよっ! はは……」

 何はともあれやっと動き出したオレンジの幼馴染。開けた正門を過ぎ、先行していたピネスたちの元へと歩き出した。

「前途多難、私は水野サーガ。私のことはサーガと呼びなさい亭主」

「おっけーサーガ? だな。わかったサーガ(ていしゅ?)」

 幼馴染と幼馴染、謎の小競り合いのあと。金髪侍は彼の背にご丁寧に名乗り上げた。そしてダンジョンの引率リーダーであるピネスを亭主、自分をサーガと呼ぶように言った。

「私はいつも通りー、サンチュでっ! せんぱいっ!」

「あぁーわかった。いつも通りのサンチュな。──えっとじゃー、ちかる?」

「は?」

「これは一種のぉー、ジョーダンってやつをぉー、木浪さん? はっは……」

「はぁ? つまんないんだけど、ハぬけ」

「あのあの! そのっ〝はぬけ〟って、どうして? ……せんぱい?」

「亭主、至極決定」

 三者三様とはこのこと。呼び名の多い男はいつものように黒髪頭をかきながら、まとめ上げた。

「はははご自由に……──よし、なら行くか」

「だからさっさと行って」

「いざ平安伝説の茶器、お点前拝見」

「やっとですねっ! いこーーーーっ」

 装備も呼び名も確認し合い事前準備にぬかりはない。いざダンジョンへ、これ以上の問答足踏みはいらず。

 一歩一歩、ツギハギに縫われた彼のブレザーの背を追い、進みゆく────

 赤く渦巻き待つ魔のゲートの中へと、不黒高校の生徒たち四人は吸い込まれていった。
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