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19 攻略調査みどりのダンジョン
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「というわけで、ここ3日ほどの間、英気を養ってもらっていたわけだがっ。キミたちがじっくり課外授業を休んで貰っていた間に、不黒ダンジョンのことを調査していてね。んーー、その結果────やはり……まだこの先は早いな? と、私に備わるスペシャルなオセンスは警鐘を鳴らし告げるのだよ、まだはやい、とな。ふふふ」
ひとりお呼ばれした校長室。おしゃれなのか、いつもと違う緑色の眼帯をしたスペシャルな校長先生が椅子に掛けている。長い黒ストッキングの脚を組みかえながら、妖しく含み微笑いをし、立たせた彼へとダンジョンの調査結果を漠然と告げている。
ひとり部屋の中央に立たされた男子生徒は、今告げられた情報をよく反芻しながら、あやふやな様子で答えた。
「あのーー? ぅーー……あれ? 調査?? たしか、絶対行かないようにって言っていたのに校長……行ったんすか? ダンジョン?」
「ふっふピネスくん、何を馬鹿なことを言っている。私はここのスペシャルな校長先生だぞ? 舐めてもらっては困る」
両肘を机上に置きながら両手を組む。組んだ三角のテッペンに美しい形の顎を置く。そしてニヤリ、渋い顔をしながら一層表情を深め微笑う校長がいる。
「おっおぅ……? あれ? ほんとに、校長なのかな?」
自慢げな渋いポーズをしていた校長のお顔が、コテっと────右肘の方から崩れ、机の上にコミカルな調子で転んだ。首を傾げ見つめるその男子生徒の予想になかった反応に、校長のかっこつけていたポーズは崩壊。
「きっ、キミは私をなんだと思っている……。えほんっっごほんっっ!! ──キミとワタシはいわばダブル主人公、光と影、太陽と月、部下と上司、ひよことコカトリス! キミが動けない間はワタシがキミのた・め・ニッ! 動くものだろう?」
かっこつかない崩れたポーズから立ち直り、またニヤリ。いわばと例示した言葉のマシンガンを列挙し放ち、校長はまた微笑っているのだ。よほどその手腕のピラミッドに顎を乗せるポーズが、気に入っているようだ。
挙げられた例えはしっくりくるのかこないのか、ピネスは多少混乱しながらも、珍しく献身的な校長の働きを認めた。
「おっ……おぅう!? え、なんかあのそのぉー……すごく素直に見直しました」
「どこのドイツの欧州のどこに見直す点があるというのだシュトーレン! なんて冗談はさておき……そんなにそのキミのお目目には、このスペシャルさんの姿が曇ってみえていたか? ふふまったくこのた・わ・け♡ふっふっふー、ふふ」
もはや何を言っているのかは分からないが、校長がいつも以上にすこぶる元気であるということは、ピネスには存分に伝わり分かった。
「ごほんのえほん……──本題だ。しかし、ここだと周りに被害が出るかもしれん場所を変えるぞっついてこい!!!」
「え、はい?」
週間少年ジャイアントに載っている漫画の主人公のような台詞を言う。臙脂色のミノタウルスのマントを翻し、偉そうな椅子から立ち上がった校長は冒険者不黒文へと変身する。
分からぬことはいつものこと、ピネスは勇ましく立ち上がった校長の尻についていった。
▼▼
▽▽
校長室から辿り着いたのはいつもの正門前ではなく、今はもう役割をあまり果たしていない東門前へと。そこは学生たちの自転車置き場であり、この異境に学校ごとトばされたのは、夏休み中のアクシデントだったため自転車の数は少なく、もの寂しい。
箱型のサイクルポート、みずいろの屋根の下、ぽつりぽつりとある生徒たちのモノ……。
どこかしんみりとした雰囲気も味わいつつ、通り過ぎてゆく────。
東門前、【徐行】とかかれた注意看板もなつかしいもの。閉ざされていた門が、ガラガラと音を引き開く。そして、緑に渦巻くどこかデジャヴする色違いの光景が、その東門の向こうにはあった。
二人、ゆっくりと立ち並び、校長は腰に両手をあて声を張り上げた。
「名付けて【みどりのダンジョン】!!!」
「なっ……名付けてと言われて……も???」
「稼ぎ稼いだ今までのDPで、ここ東門に新たなゲートを解放したというわけっだぁーーーーい」
「え!? そうなんすか! この、すこしうるさく渦巻いてるのって……まさに、あっちにもあったダンジョンの入り口ってことっすよね……? でも、なんでわざわざ……敵を増やしてんの? え、どゆこと……」
「だから言ったろ早いのだと。まぁ簡単にいえばな、この世界にはあの正門先にあるようなダンジョンが複数存在すると分かった。分かった以上、その時その時で適したレベルのダンジョンを選ぶ。そうする方が良いと、私は考えたというわけだピネスくん。だから早い、のだと!」
「ぅーー……なっ、なるほど?」
「ふふふ、とにかくだ! 明日からはこの【みどりのダンジョン】で頑張ってもらうぞ? ピネスくん」
勇ましく指をさし、指名する。ニヤリ微笑みながらそれが当然のように。アップデートした新たな使命を彼に言い伝えて。
ここまでの状況を5割ほど理解できたピネス生徒は、校長の顔──みどりに渦巻くゲート──校長の顔をもう一度見た。横に傾げそうになっていた首を縦にし、その威厳ある彼女の声に頷いた。
「あぁー……っと、校長は?」
「ん? なんだ寂しいのか? キミはこのところ女子生徒たちの引率リーダーの役目で、せわしかったからなぁーー、このふぅー」
「いや、ぜんぜん。そうではないすけど」
「ちゃ、んなにぃ!?」
ダンジョンを攻略していたとおもえば、現れた新たなダンジョン。
正門先の赤いゲートは既に《不黒ダンジョン》と名付けられている。名付け親のスペシャルな校長も、森羅万象スベテは読めてはなかったのか。しかし、色違いである緑色のゲートはまた心機一転改めて、差別化するようごくシンプルに、《みどりのダンジョン》と名付けられた。
設けられた数日の休日は、ダンジョン冒険者たちの元気英気を存分に養い、また渦巻く新たな冒険のニオイと期待感へと誘う。
こうしてブク高の彼らは東門にある《みどりのダンジョン》を、しばらく人材とリソースを集中して、冒険することになった。
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【ヤンチャゴブリン】:
日焼けしたような土色の肌は、いつも見慣れたグリーン肌ではなく新鮮である。
棍棒や木のパチンコ、木斧、目につくモノはなんでも使い襲ってくるのは、やはりダンジョンに適応するゴブリンの遺伝子。
《みどりのダンジョン6階★モンスターハウス》
⬜︎
草地のステージを駆け──緋色の刃は暴れ回る。
新ダンジョンに現れたご当地のゴブリンたちを、縦、横、縦、斜めに、躍動しながら叩き切っていく。
何故かスマホをもう片手に持ちながら、剣でゴブリンを器用に斬る。そして、フラッシュをたき写真を撮る。世にも奇妙な珍行動をしている剣士がいる。
「あぁーしまった、全部斬ってから撮っちまってる」
「馬鹿じゃないのハーぬけ」
「あの木浪さん……俺ってぇゴブリンじゃないから……図鑑にはいらないかと?」
オレンジ髪の木浪生徒は、振り返った男子ピネスの姿を淡々と自身のスマホのカメラに収めていく。
「は? そうなの? うしろ」
「いやわかるだ、ろっっ!!! と!」
さり気なく彼女が注意をうながす後ろを振り返り、緋色の剣は飛びかかってきた土色肌の輩を、ナナメに力強くぶった斬った。
「撮ってあげるからちゃんと戦ったら? 全部真っ二つにしたところ」
「はは、それもそうだな! 遊んでないで初心にかえるか……ゴブリンは油断しちゃいけねぇってなソエジマ!」
また、ツギハギブレザーのナイトが、緋色の剣を両手にしっかりと握り直し駆けて行く。
木浪は悠然とスマホのカメラを止めずに回してゆく──元気な彼に群がる土色の小鬼は真っ二つに散る、爆散する、はじけとぶバケモノの奇声断末魔はもはや日常、心地よくも思えるもの。
強くなった幼馴染のあらたな勇姿が、動画メモリーの中へとリアルタイムで記録されてゆく。
みどり豊かで広々なステージ、踏み入れ閉じ込められたその罠、モンスターハウスの中での戦いは続いている。
掌握した敵影の内に召喚した黒いゴブリン。忽然と現れたその黒いゴブリンは土色の敵の背から居合斬りを放った。レアな刀を装備させたシャドーゴブリン出席番号❹は、攻撃暗殺特化ビルド。
ボロい杖に祈祷しながら魔力を練り上げていた敵、ヤンチャゴブリンシャーマンは、後ろからいきなり【斬!】──どさりと音を立て息絶えた。
「私の影召喚魔法ビルドは最強なりいいいいい!!! よくやった出席番号❹ふっふーーー!!!」
シャドーゴブリン出席番号❷は、スマホに向かいカメラ目線で元気にピースする主人であり校長先生を、写真に撮った。
「なんでみんなスマホで写真撮ってるの……あ、これ、どうぞ」
シャドーゴブリン出席番号❺❻❼は緒方の異能冷蔵庫の元へと集い、冷えた剣を、冷えたナイフを、冷えた弓を頭巾の少女から次々に受け取り装備した。
召喚された❺❻❼はすぐさま草地を走り、主人である校長の指示で戦線へと向かってゆく。
「ありました、きのこ! ハイハイ写真を──。頭巾さん、きのこセラー、のこのこしてないで救済のじかんです! ここにもっ! 見たこともないきのこさんですよー」
シスター服の生徒は壁際にしゃがみ、しめじ色のスマホで見つけたダンジョンのきのこを撮影する。携帯会社のマスコットキャラクター【どつき茸】、そのキャラのキーホルダーをぶら下げたスマホは、現役女子高生3-C榎田椎名の特別カスタム。彼女のきのこ愛を、スマホの外観にまでふんだんに取り入れているよつだ。
そして壁際にたくさん自生していた新ダンジョンのきのこに興味津々。異能【きのこレーダー】はびんびんと良好に反応しっぱなしである。
一刻も早く新顔のきのこさんたちを救済するために、いつもの頭巾姿の緒方と、白い冷蔵庫のコンビをテンション高い声で手招いている。
「ふふふ、珍しい青春。忘れるまもなくはじまっちゃった────【ツバサ】」
弦にかかったたおやかな指遣いは、小型のハープで【ツバサ】の音を奏でる。奏でられた青いソラの期待感に、魔力と音を帯びた白羽が矢のように真っ直ぐに飛んだ。
深くかぶった純白の羽帽子、はみ出した金色のショートカットの髪、のぞく不思議な飴色の目。
今日もまた自分とは違う何かの役を演じ、楽器を演奏する女子生徒は、モンスターと戯れる彼らの姿を瞳のカメラにおさめ、わずかに口角をあげた。
「フッフッフいいぞいいぞ、スベテ殲滅しろブク高おおおおおおはっはっはーーー!!!」
「ナニあほっぽく叫んでんのハーぬけ」
「たぶん俺じゃねぇ! うおおおお!!!」
伝令雑用役のシャドーゴブリン出席番号❷は装備したスマホのアプリを起動し、その光る画面に打ち込まれた戦況を確認する。
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戦闘の熱にのめり込むピネスはクリティカルを乱発し、ヤンチャゴブリンを次々と二つに刻んでいく。
校長は召喚した7体の影の部隊を操り戦場を支配。高笑いを上げながら、魔法の刺股【ふぅーちゃん棒スペシャル改++】から色鮮やかなガトリング弾を垂れ流していく。
お食事班の緒方は、榎田椎名のきのこ採取に協力した。異能冷蔵庫の中へと旬のダンジョン食材を詰め込んでゆく。
木浪は動画撮影を継続、戦況を見極めてサボる。スマホに持ちやすい付属パーツを取り付け、手ブレを極小に抑え、ガチる。今をときめく女子高生、スマホやカメラの扱いには慣れたものだ。
ハープから空気マナを震わせる広がる【ツバサ】の音が、ダンジョンへとみんなの耳へと届けられる。
★ブク高パーティー
浦木幸 2-D
不黒文 校長
緒方結美 2-A
榎田椎名 3-C
木浪智火瑠 2-B
紫紫刀 3-E
ツバサ
現在モンスターハウス殲滅度67%
新ダンジョン、初冒険、士気高々、意気揚々
テンションを上げ続けるブク高の7人パーティーは、新たなモンスターたちを斬り裂き、立ち塞がる障害をものともしない。
【ダンジョンクエスト】目指すは10F。みどりのダンジョンの攻略は始まっている。
⬜︎
《みどりのダンジョン30F コカトリスの大部屋》にて。
今日も今日とて午前10時からのダンジョン日和。ダンジョンの様相が緑に生い茂り変わったとて、いつものようにパーティーの前衛の前衛役を務める浦木幸は、階層ボスの白い巨大怪鳥を、剣一本で相手取っている。
つつくグレーの嘴は槍のように鋭い。見た目の遺伝子情報そのままに、鳥のように首を前後するモーションで、ピネスを啄むように襲った。
ゴブリンやコボルトやウリボーを数多葬った経験はあれど、大きな鳥型のモンスターと対峙したことは、今回がピネスにとってもパーティーの皆にとっても初めて。襲いくる鋭利なグレーの軌道を、本能と持ち前のセンスで避けるが、つつくジャブの全ては避け切れず────
「鳥ってよりぃ恐竜なんだろ!」
小爆発の目眩し。しつこくつつく鳥頭に対して、受けに回ったピネスは、防御行動と同時に赤熱する魔力を剣柄から握り込める──そして啄まれた緋色の刃を待っていたとばかりに魔力爆発させた。
つついて出てきたびっくりの火に、ピネスを襲っていた巨大怪鳥は首をもたげ、悶え、慌てる。
カウンターでダメージを与えたものの、しかし。飛んできた嘴の威力は剣の刃を砕かんばかりの強烈。みどりの草地をピネスの背はすべり、遠くへと弾き飛ばされてしまった。
そんな前で体を張った剣士の代わりに──
タキシードを纏う者が、指抜きグローブを気合いを込めるよう両手に嵌めなおした。機をうかがい待っていた彼女は、今みどりの地を飛び立った。
宙を高く舞い、上から現れたのはシックな執事姿。新戦力の彼女が、剣士ピネスの攻撃の後につづきアシストをする。
飛び込み移動した巨大ターゲットの頭部近く、空中の一点で静止したかのように綺麗に直り、その美しき体勢からすぐさま技を繰り出した。姿勢正しき鋭い連続蹴りが、狙いを絞った鳥頭にクリーンヒットした。
8回──まるで鞘から剣を居合抜くように、溜めた足、溜めた力を一気に解放した。黒くてスリムなドレスシューズを用いた蹴りを放った。
「お嬢様にカロリーを届けるため、私は何者にもなりましょう!! 巨大な鶏もカロっ……ッ、拳を抜くのは今こそ!!」
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紫紫刀:
紫家に仕える思いやりの精神にあふれる執事。
傘下外食チェーン店運営企業である〝ぱーぷるまーくぐるーぷ〟その会社の経営者、紫黒社長。その社長令嬢である紫紫檀の身の回りの世話役として、本人10歳の時に、紫家の養子に迎えられた。
現在はお嬢様とおなじく不黒高等学校に通う3年生女子であり、学校生活においてもやはりお嬢様ファースト。
なにかとハラヘリなお嬢様へと、今日もカロリー物資を届けるために。
思いやる執事はいざダンジョンで、その拳剣道場で鍛えた腕を足技を活かし、ブク高の一員として戦うことになった。
髪色 アッシュカラー基調、紫のメッシュ
瞳色 淡いエメラルドグリーン
バトルスタイル 拳剣流道場で鍛えた太刀筋のような鋭い蹴りが主体
異能 依然不明だが、体にわずかに軋んだようなズレを感じると、本人は校長とピネスに報告している。体術が主体なため、身体的な能力UPに関する異能であると校長は考えている。
そうび
執事の黒タキシード★★★
フォーマル+1
執事の黒ネクタイ★★★
フォーマル+1
突撃のクールなコボルトベスト★★★★★★★★
物理威力 中
物理威力 小
物理威力 小
クール+2
フォーマル-1
拳剣道場の指抜きグローブ★★★★
レア+1
オリジナル+1
酒羊のトリュフカラーのハンケチ★★★★★★★★★
毒魅了耐性+5
地属性+8
攻撃hit時回復 小
シールド値 小
青きサファイア盤のゴーレム懐中時計★★★★★★★★★★★★
連打威力 小→中→特大
戦闘時間が伸びるほどシールド硬度UP
執事のドレスシューズ★★★
フォーマル+1
蹴り+42
紫檀の数珠
愛+3
⬜︎
戦闘能力の高い生徒である格闘執事の蹴りが、鮮やかに決まる。それを見てニヤリと微笑う校長により、次の行動は決行された。
巨大な鳥が良い蹴りをもらい隙を見せた。モンスターが隙を見せた今ならば──
(よし注意が霧散した。これで敵のもつ影を私のスペシャルな魔力で掌握しやすくなるはずだ、ふっふ)
校長は蹴りと爆破の連続攻撃にうろたえる白い巨鳥の影を、既に戦闘中に切り離し忍ばせた己の影で、50%ほど掌握した。
校長は順調にまた掌握した敵の影内から、闇光属性2種の魔力を練り上げ、影召喚魔法を実行する。シャドーゴブリン出席番号❹を、暴れるコカトリスの尾っぽの後ろへと召喚することに成功。
シャドーゴブリン❹は校長の命令に従い、激レア刀を鞘から抜いた。そして、白い巨鳥の背後から、無音の斬撃を仕掛けた。
主人である校長のその潤沢な魔力を共有するシャドーゴブリン❹から、刀を振り放たれた。墨のように黒い魔力性質を帯びたエネルギー斬は──
その鋭い形をとどめる事ができず、まるでこぼれたコーヒーのように、地へと落ちていく。
突然白くしなるナニかに、頭からがっぷりと噛まれてしまった出席番号❹は倒れた。❹が放った黒い魔力斬も、ターゲットに到達することなく──失せた。
「チッ、後ろにも目を飼っていたか。さすがコカトリスといったところ……ふむふむ、やはりこいつは私の知るコカトリス」
鳥の尾の内に引っ込み溶け込んでいたのは、一匹の白蛇。その姿をにゅるりと伸ばし現した。
寝起きから目覚めた白蛇の尾が今、天へと目一杯、身を伸ばし聳り立つ。
一心同体、完全体となったモンスターコンビが冒険者たちを睨んだ。
⬜︎敵情報
【コカトリス】:
蛇の尾をもつ伝説の巨鳥。
一方が起きている時、もう一方は眠っていることがおおい。
尾っぽに飼っている蛇の数で、つよさが変わるというが……。
蛇が目覚め乾いた舌をなめずり、鳥がテンションをあげ翼を広げる。そこに死角はなし。巨鳥のタフな肉体と、蛇の狡猾さが加わり完全体となった。
立派なしろい翼はあるが、飛翔能力を有するかは定かではない。
⬜︎
宙を徘徊していた赤いタコイカ学習帳は校長の手に取られた。
「ふむ、やはり電子より紙のほうがいいな。ピネスくん、キミがランタンやロープの浪漫にこだわるのも分かった気がするものだ、はっは」
「いててて……クチバシが厄介だな……え、ランタン? ロープぅ? ってんなことより、次どうすんすかこれぇ? なんか作戦がさ、モンスターにもバレてねぇ?」
「なっなにぃ……この校長せんせーが、コカトリスの鳥頭以下と言いたげかぁ? ハッハッハ! ──上手い皮肉をいうな? ピネスくんにしては」
「そんなこと言おうとしたつもりもっ──おっ、さんきゅ?」
「すみません……仕留めきれませんでした! せっかくチャンスをお届けしていただけたのですが……」
執事はみどりの苔の上に倒れていたピネスの手を取り、起き上がる手助けをした。さっき取った作戦と攻撃が、残念ながらあの巨鳥を倒すまでには至らず。身を挺して巨鳥に立ち向かった剣士の彼に、彼女は申し訳なさそうな顔をしている。
起き上がったピネスは思いがけずもご丁寧に謝られてしまった。しかしいちいち気にして戦闘中に謝られる筋合いもない。黒髪をかきながら──思いついたピネス節を言葉にし練り上げてゆく。
「え? あぁー……んなの俺もしょっちゅうあるぞ? まぁこれってさ厄介なボス戦だし、おまけに敵も思ったより賢いし、蛇は羽毛から出てくるしで! まぁー、つまりは、なんだ……あぁーじっくり! じっくりいこうぜ?(これが言いたかった)」
「そっ、そうですね!(熱くなったり? 冷静になったり? なのに不思議と余裕すらかんじて……あ、道場の師範級……強い人がみんなもっているような……?)」
「ふっふそうだピネスくん、さすが私が不在のときの引率リーダー。気遣いも板についてきたな? そーそー、あの時、我々の連続攻勢に眠っていた蛇が姿を出さざるをえなかった! つまりはまだ、旗色が悪いというわけではない。じっくりいこうではないかぁー。こちらの手札っ…生徒たちの方がッ、圧倒的に多いというものだ!」
「今、手札って言ったよね?」
「のこのこと言いましたね♪」
「言った……かも……」
演説するそのプラチナ髪のお方の、詰まったお言葉を聞き逃さなかった。
木浪はジト目でかるくツッコみ、榎田椎名はニコリと同調、緒方は冷蔵庫に採取したきのこを詰めながらゆっくりと頷いた。
「手札ぁー、では……あるよな?」
「私は特段悪い響きとは思いませんが?」
執事とピネスは、きょとんとした顔とマイペースな顔を見合わせた。冗談か真剣か、校長の失言らしきそれに、生徒たちの思う反応はそれぞれのようだ。
「はっはわるいわるい、ではいくぞブクっ──!? 気をつけろおおおおおスペシャルな全体攻撃の予兆だああああ!!!」
七人、悠長にしていた話を校長が纏めようと微笑った、その時──。校長は眼帯の裏にあるスペシャルな眼に、危険な変化を察知した。
前のめりに長くしていた鳥首は縮み、尾から生えた白蛇が連動するようにぐぐんと天に首をもたげた。
蛇が鎌首をもたげ、鳥が首を縮める──それはどこか不吉な予兆。人よりスペシャルなセンスを持つ校長は、感じ取ったがままに叫び、生徒の皆に注意を促す。
「風、ひらくね、【ツバサ】」
よく通る声が皆にきこえた次の瞬間から、ハープの音は奏でられた。魔力をのせたソライロの音が、ダンジョンに鳴り響く。そして巨鳥コカトリスが、ためた翼を今、おおげさに広げた。
耳をつんざく鳥の鳴き声に、柔らかなハープの演奏、群がる影の壁と、雷電とともに抜かれた翠の剣。
命を賭け、命を奪い、命を守る、それぞれのコマンドを選択するように。
数多の白く巨大な羽々が、ダンジョンに迷い込んだ冒険者パーティーへと向けられ射られた────────
鎌首をもたげた蛇は、高みからターゲットを狙いすました。コカトリスは蛇との共有感覚で、狙いに狂いなく、魔力を込めた己の羽を発射した。
大翼をひろげ一度にすべてを射る──全体攻撃。
風をするどく切るあぶない音が、みどり草地のダンジョンを一斉に支配する。
壁際に自生するきのこに夢中であった榎田椎名は、新種のきのこを詰め込む作業を一時中断──。そして、年季の入ったお気に入りのしいたけベレー帽を頭から脱ぎ、ソレに魔力を込めた。
急ぎ詰め込まれ、戸からはみ出すきのこ食材を中へと飲み込んだ白い冷蔵庫は、緒方の盾になろうと急ぐも距離が少し遠く……腹一杯で足取りも重く……。
コカトリスの乱射する白い羽があちこちに突き刺さってゆく。
一瞬で押し寄せてきたその危機よりも判断は早く──木浪は発動した引き寄せの異能で、とまどい迷う緒方を無理矢理自分の元へと釣り上げるように引き寄せた。
逃げ場を見失い浮いていた頭巾被りの駒が、防御を固めていたオレンジの駒の元へと、すごいチカラで吸い寄せられた。さらに木浪は用意周到にも既に、地属性のレア杖で石壁の防壁を築き上げていた。築いたソレを頼れる盾とすることで、白羽の矢の雨を賢くも緒方と一緒にやりすごしていく。
「あっ、ありがと……!!?」
「どういたまー。って……」
礼を言う頭巾娘の背からひょっこり、収納役兼壁役の白い置物が、ジト目で見つめる木浪に15度ほど傾きながらお辞儀した。冷蔵庫くんまで手招き引き寄せたつもりはなかった木浪は、若干の苦笑いを浮かべた。
「はっ」
「えっ?」
お辞儀するコミカルで紳士な冷蔵庫のことを気にしていると突然──ぴしり……イヤな音とともにひび割れていく、目の前の石色の壁。
『はっ』『えっ?』オレンジ髪のギャル、みどり頭巾のポニーテール女子が、それぞれ間の抜けた声のリアクションをした時には既にもう、崩壊していく。
地属性魔法の杖で作った木浪の石壁の盾は、激しい白矢に穿たれつづけ、食い止めきれない矢数の暴力にやがて、亀裂が広がり砕けた。
予期せぬ非常事態。安心し身を委ねていた防壁がこうも早く壊れては、もはや次の魔法も間に合わない。木浪は咄嗟にその身を構えて防御しようと試みる。ダンジョンではシールド値と良い防具があれば、たとえ手痛い攻撃を受けてもなんとか助かっているかもしれない。苦肉の策だがこれ以上の良さげな選択肢はない。
しかし、目の前に殺到到達せんとしていた白羽はその身を痛めることはなかった。
もう一度あのソライロの音が二人の耳に流れた。すると石壁を砕き目の前に吹いてきていた白い流れは、不思議と二又に分かれていったのであった。
木浪の前方に握り構えた木の杖が不思議に振動している。それは差し迫る緊張から引き起こした己の身の震えではなく、今握る物体と周りの空気を伝う音だった。
例の新顔の生徒のハープから奏でられた音が、もう一度繰り返すように木浪の杖から振動し流れている。
まるで木浪の杖自体を、そのまま魔法のスピーカーに変えてしまったかのように、あの演奏が近くに聴こえる。
そしてなおも流れているその誰もが一度は耳にし知っているソライロの音の演奏は、不思議にもコカトリスの矢羽の流れを、女子二人と冷蔵庫一台の居場所を避けるように二又に裂くように変えてしまったのであった。
「あっあせったー!? マジやば……ありがとありがと! んーと、なんだっけ?」
「たしかつーつー……ツバサさん……! だと?」
「あーそーそーツバサだ、むっすーソレ。ばっさー、マジナイスありがとー! なんかそのハープの音で今助けてくれたっ? そういうことだよね?」
「わたしもその音聞こえたしっ、そうだとおもうっ! ──ん? むっすー?? え、それ、わた」
「ふふふ。そうだね、礼は──わすれないで」
離れた場所でハープを奏でている羽帽子のツバサは、手を振り礼を言う木浪とむっすーに、ハープをじゃらんと鳴らし返事をした。
シャドーゴブリン出席番号❷❺❻❼はスクラムを組み、不黒文校長の前でくろい肉壁となった。そして矢を射られながらその役目を果たし倒れた。
「ん──? 私のふーちゃん棒スペシャル改に、別の魔力の色が満ちたか? ──はっはなるほど……矢を避ける風属性のシールドっ……いや、矢を曲げる一曲! そういう使い方もできるようになったかァ、期待以上に愉快ロマンスなものだなッ、ダンジョンの音楽家は」
異能の可能性はひろがる。
生徒の成長は己が栄養。
不黒文校長はにんまりと笑い、今、銀の刺股に満ちストックされたツバサ生徒の魔力と刻まれた音符をしめしめとその目で確かめた。
「さすがにそれは、よっと!」
ピネスは切先を銃口に見立てて雷撃のマジックを前方へと放った。垂れ流すように拡散するコントロールの荒い青雷であるが、飛んできた矢羽を焼き落とすにはこれで十分。正確なコントロールよりも瞬時の対応と、荒くとも広い面で魔力を放ち迎え撃つ拡散力を選んだ。
そして無事、吹いてきた矢羽は焼け落ち迎撃に成功。
ちょうどツギハギブレザーの背にいた執事のタガヤは驚きつつも、今彼に的確に助けられた事に礼を言った。
「あっありがとうございます……!」
「あぁー、どもっ、はは」
礼を耳に受け取った浦木幸は振り返り、後ろの彼女のその顔を見て微笑った。
(やっ、やはりこの顔が……っ。戦闘中ならばダイジョーブかとおもっ……くっ……)
冷静平静。執事としていかなる時も正しく正す。
たとえお嬢様がこの場にいなくても、タガヤは紫家の執事として、みっともない振る舞いは見せられない。
ただし……その黒髪黒目のどこか飄々とした男子生徒と見つめ合うのは、何故か少し目をそむけてしまいたくなる。彼の顔、形作るその笑顔は、彼女にとっては不意打ちにも等しいものだったようだ。
少しおかしい女執事の様子に、ピネスは分からず口を真一文字に閉じた。そして、かるく疑問の吐息を口の隙間からながした。
「ん?」
「ナッなんでもにゃいですっ! ンンッ、──どう攻めましょうか?」
「あぁーー、そうだな。ん? ──さっきと同じでよさそうじゃね」
「同じとは?」
「前でわちゃわちゃ! ってこと!」
「──……はいっ! 承りましたっ!」
作戦のサインを出しているのは野球の監督ではない。ニヤリと生徒に指を立てる校長だ。
ピネスの頭と学校の成績では、複雑なサインは混乱してしまうと思いはからい。ダンジョンでの戦闘における単純なサイン伝達のやり取りが、校長と生徒の両者間で事前に取り決められていた。
サインは2つ──
①人差し指を立てたら、【前でわちゃわちゃ!】
②人差し指と中指を同時に立てたら、【前でぜんりょく!】
この2つであった。
「それは……何か明確な違いがあることなのでしょうか?」
「あぁー……なんだろなぁ? とにかく前でなんとなくヤルしかないっ……てんだろうなァァ!」
生徒にとって、上司でトップにあたる校長に出された指示は絶対。サイン無視はできない。
ただひとりの校長先生の出す指示は、なんとなく道をゆく彼にとって、あやふやだが絶対的な意味合いを持たせる。ある意味この世でなによりも強烈な魔法であった。
遠目に佇んでいても分かる、眼帯をしたプラチナ髪。そのスペシャルな校長の出したサインを確認したピネスは、翠の剣を腰のホルダーに休ませて、右のホルダーに携えていた緋色の剣を手に取った。
ピネスは冷静さを取り戻した執事のタガヤと顔を見合わせ頷き合った。
そして翼を広げ姿おおきく威嚇する巨大怪鳥コカトリスに向かい、前衛役の二人は飲み込んだ作戦通りに勇ましく駆け出した。
下された人差し指のサインは──【前でわちゃわちゃ!】
前衛の前衛役であるピネスは階層ボスのコカトリスと再び肉薄し対峙する。しかし今度は見つけた草の種を啄むように鋭く打ち付ける鳥の嘴攻撃に加えて、にゅるりと体を伸ばしつつ突飛もない方向から牙を向く攻撃で、鳥頭をアシストする仲良し狡猾な蛇がいる。
彼が強いられるのは鳥と蛇のコンビとの闘い、しかし彼は一人ではない。
〝しゃー〟と威嚇しながら、ピネスへと噛みつかんとする伸縮自在の白蛇の頭は──顎下から鋭く蹴り上げられた。
「【森迷弓】!」
地上から飛びゆく。懐の死角から天へとナナメに射られた右足の矢は、剣士のピネスに気を取られ左上からアタックを仕掛けた白蛇を強襲する。
「【蛇撃弓】!!」
さらに飛び上がった状態から繰り出す、地を襲う追撃。それは華麗に流れるようにではなく、多少ぎこちなくも強引に捩じ込んだ。
ダンジョンで上がった身体能力を活かし、拳剣道場での修業では今までできなかった技の繋ぎを彼女は見せた。
成長するのは異能だけではない。ダンジョンという特異環境に合わせた闘い方を、仲間から敵から倣い、習い、ひとりの冒険者は見出す。
斜め上方に突き上げた右足を回転軸に変え、左足をぐわりとダイナミックに捻り一回転させた。進行方向を力技で変えた左のドレスシューズが、一気にそのまま地へと襲い向かう。荒削りな姿勢制御をしながら再び、白蛇を襲う天から放たれた連続の矢となる。
地技から天技──素早くも繋がったかのように見えた強烈な足技のコンビネーション。
しかし、白蛇に向かったその黒い靴底はぶつかることはなく、足を出したタガヤのほうが逆に左足を絡め取られてしまった。
仰々しく蹴られて効いていたフリをしていたのか。白蛇はまんまと気持ちよく誘ったタガヤの左足にトグロ巻き、蛇舌をちろり舐めずり嘲った。
だが、そんな嗤う蛇とは関係なく一心同体故の悲劇が襲った。他のターゲットをつっついていたグレーの嘴が今、緋色に爆破された。
かちあった嘴と剣。テンションを上げ魔力爆発する緋色の魔法が、何度もつっつき鬱陶しい鳥の頭を仰け反りはじきとばした。
当然でかい的のおまけである蛇にもとばっちり。トグロの拘束は緋色の衝撃に驚き緩み、逆に緩んだ一瞬を見計らい、スタイリッシュなタキシードの黒脚が蟹挟みにした。
細身を締め上げられた蛇は、ひとりでに水を垂れ流すホースのように暴れ、その足癖の悪い人間の足を強引にひっぺがした。
さらにこれに怒り帯電した蛇は突然、雷撃のマジックを放った。剣を振り切った男と着地した女の2人に向けて放射拡散した【蛇雷撃】が命中するも──姿、健在。
痺れる攻撃を浴びるもダンジョンではその程度のダメージは日常茶飯事。パーティーの前衛を務める冒険者2人のシールド値はまだまだ耐え闘うに余りある。
一心同体の異種蛇鶏コンビに対するは、はじめましての同校男女コンビ。
巨大なボス級モンスター相手にも、真っ黒なタキシード姿とツギハギブレザーの背は小さくは見えない。
たったひとつの人差し指の指示から、再度ゴングを鳴らしはじまった闘いの模様はわちゃわちゃと、勇ましき剣風、脚旋風を巻き起こし、白羽を散らしながらヒートアップしていく。
加熱していく前衛たちの働きの間に、後ろから巨鳥を突っつく役に任命されたのは──
成長する不思議な武具、榎田椎名はそのお気に入りの椎茸ベレー帽に魔力を十分練り込んだ。後ろから突っ込んできた茶色いシスター服の新手の熱源に、後ろで見張っていた蛇目はギロリと振り向き反応した。
そしてゆったりもたげた首の仕草から、真っ直ぐ高速に、今迫る獲物へと喰らい付いた。
蛇は鳥よりも狡猾、ならばその狡猾さを活かしてあげよう。手札の生徒を活かし、相手取るモンスターすらも活かす。3-C上級生の榎田椎名に大役を任命した校長は、今餌のきのこに喰らい付いた想定どおりの景色にニヤリとわらった。
構えたちいさな彼女の頭ほどのベレー帽は──ぶわりと一気に膨らんだ。水にもどした干しいたけのように、榎田椎名の魔力を吸い上げ、膨張し成長する立派な笠盾となる。
「のこのこッ!! のこりやがりましたね♪はぁーぁい!」
ただのしいたけの盾ではない。それに蛇が美味しそうと思って噛みついたわけでもない。
親から彼女に受け継がれたその少し大きかったベレー帽は、体が成長しちいさくなってきたと思ったら、まだまだ大きくその笠を広げた。帽自体が成長できるギミックを隠したものであった。
そしてさらに、きのこのアイテムをいくつかストックしつつ効果を吐き出すように発射できる──そんなダンジョンの環境にて、特異な能力を発揮する盾となり彼女のことを守った。
湿りぬめっていたその特殊帽子盾は、【粘着茸】の成分を、しいたけ帽子に入った切れ目の飾りから抽出し吐出する。そして盾全体を纏うようにコーティングした。
今纏った粘着質なシールドコーティングは、蛇が噛みつきぬめりに触れた瞬間に、衝撃を受け一気に固まった。
白蛇の顎先が口をあんぐりと開け広げたまま、榎田椎名の構えた盾に引っ付いてしまった。
狡猾な蛇は奇策にぴたりとハマった従順な蛇へと、従順な蛇はのたうち暴れまわる白い綱へと変貌していく。
どうにかその巨大なしいたけをひっぺがそうと、パワーを上げ頑張るコカトリスの尾の蛇であるが、既に次々と役者はシスターの後ろから動員され揃っていく。
ロープをくくりつけた冷蔵庫が現れる、異能の主である緒方はその冷蔵庫のロープを己の胴にも巻きつけて重い一体となった。さらにその状態で緒方は榎田椎名の胴に抱きつき、白い綱引きの協力を開始する。
またさらに、木浪は続々と加勢し揃った彼女らの後ろで木の杖を構えた。待機していた間に既に杖へと存分に魔力を練り上げ、後ろで強力引力の異能を用いていく。
しーな先輩と同学年のむっすーと冷蔵庫くんを、ミエナイ異能でひっぱり支援。蛇のパワーで崩れそうだった皆の浮き足を地へと粘らせ、この白い綱の引っ張り合いに釣り合いをもたせてゆく。
しかしこれ程の協力がんばりをもってしても相手は巨蛇鳥コカトリス、圧倒的に図体はあちらが上であり持ち堪えられるのも一時凌ぎのもの。
だが、それですら競り勝つにはパワーは不足しているが、稼いだ時間の方は十分であった。
一面に広がった白羽の全体攻撃の派手な光景に紛れ……【浮遊】させ、仕込まれていた天の斧は今落とされた。
人間たちと引っ張り合い、ピンとはっていた白い綱の中途は、鋭く下った巨斧に真っ二つに両断された。
「はっはっはーーーー、スペシャルな生徒たちを率いる私もまたっっスペシャルというのだよ!!! ふっふ、ふぅーーーー!!!」
⬜︎タコイカ学習帳
【綿毛の黄金なGGC斧】★★★★★★★★
物理威力 中
魔法威力 大減
魔力量 大減
通常時 重量小
魔力消費時 重量大
DP消費時 重量大
⬜︎
ブク高パーティーの各々の異能と機転をもって繋げた連携はついに成功し、最後は校長の仕込んだ手によりコカトリスの狡猾な尾をぶった斬った。
嘴をおおきくひらき、大翼をばたりばたり、羽音騒がしくコカトリスは暴れ悶える。宙にじたばた鶏足を浮かせ鳴を上げ、コカトリスが激痛に怒る。そしてすぐさま怒りまかせに発狂し、暴走しようとしたその瞬間。
──彼はなんとなく、勝負所を知っているのかもしれない。
ピネスは今もがき飛び上がった大リアクションの巨鳥に、すばやく仕掛けた。
ここぞの勝負を仕掛ける剣と、尾を切られたことに未だ怒り発狂する巨鳥──緋色の剣が鋭く舞い降りた鳥の脚爪とかち合い、再び、魔力爆発を引き起こす。
緋色のショートソードは、巨体と重量を活かしたするどいコカトリスの蹴りで後ろへと弾かれていく。しかしこの男には二刀、そしてコカトリスにももう一つの得意とする武器がある。
二体の間に起こった爆炎の景色の中を──先に貫き伸びたのは怪鳥のグレーの嘴。その嘴が、今地から勢いよく飛翔した剣士が逆手から繰り出した翠の刃を咥え受けた。
「わちゃわちゃの意味知ってっか? あぁー……辞書でひいたら、こうだっっ!!!」
発動、雷魔法【ピネスサンダー】。翠剣はバチバチと唸り昂り青雷のマジックを盛大に喰らわせた。じゃれてきた巨大な白鳥その啄む嘴に、とても痺れる餌をやる。
手羽先にまで電撃が伝い届くような痺れる餌をやり終え、地へと弾き飛ばされたピネス。そんなすっ転んだターゲットへと、いっそう怒り狂ったコカトリスから白羽の矢の豪雨が集中し降り注ぐ。
しかし、その白き暴力は不思議とそこだけ斥力を伴ったかのように通り避けていく。はげしい豪雨の最中、彼の背から流れたソライロの音。ずっとツギハギブレザーの背を温めながら発動待機し、そして今発動、かろやか爽やかにあのハープの音が演奏されピネスのことを守った。
剣士ピネスが勝負所に二刀を失い、仕留める機を失した。だが、依然ツーアウト。チャンスは実はまだつづいている。
はるか後方──次のバッターボックスには、ジンガの構えで待機するタキシード姿がいた。
カポエイラの基本ステップであるジンガ、ゆらゆらと踊り続けるのが基本であるそのポーズが静止することは珍しい。
そして静止するということは地にしっかりと脚をつけていることの裏返し、地にしっかりと脚を溜める時間があれば、その大技を繰り出すことは可能であると彼女は知っていた。
(道場では成功率3%、それもいずれも不完全──でもダンジョンならっ、今の私、紫紫刀自身ならッ)
右足を前に、両腕を防御を固めるように左に、ジンガのポーズで溜めに溜めた彼女の右足はそのまま──強く地を蹴り上げ飛び立った。
前方へと高く、ダイナミックに斜め軸に宙返りする。
「【拳剣流脚技────地極斬】!!!」
伝説の巨鳥を砕くは道場に受け継がれし伝説の大技。純白の王冠を打ち砕くのは、その天からくだった右足。
「これが今、私のお届けできる最大威力です」
頭部炸裂、【地極斬】。
嘴が地面に突き刺し埋まる。巨大なモンスターが、天に昇った踵から放たれたその絶大な威力にひれ伏し、土下座している。
縦に裂くように開脚した両足をそのまま、脚の力としなやかなバネだけでゆっくりと元へと戻し、彼女は地に立ち上がっていく。
最後は執事らしき右手の一礼にて終わる。
実用可能であると信じてやまなかったのは失敗を積み重ねたから。巨大なモンスターをも退治できる大技が今ここで披露された。ダンジョンという閉ざされたみどりの大舞台にて、またひとつ若き才能が大きく華をひらかせた。
伝説のモンスターコカトリスは紫紫刀の最大威力のイチゲキにて、地に豪快に伏して倒れた。
カロリーの高い戦闘をつづけたブク高パーティー七名に、漸く〝勝利〟という名の至上の悦びはお届けされた。
ひとりお呼ばれした校長室。おしゃれなのか、いつもと違う緑色の眼帯をしたスペシャルな校長先生が椅子に掛けている。長い黒ストッキングの脚を組みかえながら、妖しく含み微笑いをし、立たせた彼へとダンジョンの調査結果を漠然と告げている。
ひとり部屋の中央に立たされた男子生徒は、今告げられた情報をよく反芻しながら、あやふやな様子で答えた。
「あのーー? ぅーー……あれ? 調査?? たしか、絶対行かないようにって言っていたのに校長……行ったんすか? ダンジョン?」
「ふっふピネスくん、何を馬鹿なことを言っている。私はここのスペシャルな校長先生だぞ? 舐めてもらっては困る」
両肘を机上に置きながら両手を組む。組んだ三角のテッペンに美しい形の顎を置く。そしてニヤリ、渋い顔をしながら一層表情を深め微笑う校長がいる。
「おっおぅ……? あれ? ほんとに、校長なのかな?」
自慢げな渋いポーズをしていた校長のお顔が、コテっと────右肘の方から崩れ、机の上にコミカルな調子で転んだ。首を傾げ見つめるその男子生徒の予想になかった反応に、校長のかっこつけていたポーズは崩壊。
「きっ、キミは私をなんだと思っている……。えほんっっごほんっっ!! ──キミとワタシはいわばダブル主人公、光と影、太陽と月、部下と上司、ひよことコカトリス! キミが動けない間はワタシがキミのた・め・ニッ! 動くものだろう?」
かっこつかない崩れたポーズから立ち直り、またニヤリ。いわばと例示した言葉のマシンガンを列挙し放ち、校長はまた微笑っているのだ。よほどその手腕のピラミッドに顎を乗せるポーズが、気に入っているようだ。
挙げられた例えはしっくりくるのかこないのか、ピネスは多少混乱しながらも、珍しく献身的な校長の働きを認めた。
「おっ……おぅう!? え、なんかあのそのぉー……すごく素直に見直しました」
「どこのドイツの欧州のどこに見直す点があるというのだシュトーレン! なんて冗談はさておき……そんなにそのキミのお目目には、このスペシャルさんの姿が曇ってみえていたか? ふふまったくこのた・わ・け♡ふっふっふー、ふふ」
もはや何を言っているのかは分からないが、校長がいつも以上にすこぶる元気であるということは、ピネスには存分に伝わり分かった。
「ごほんのえほん……──本題だ。しかし、ここだと周りに被害が出るかもしれん場所を変えるぞっついてこい!!!」
「え、はい?」
週間少年ジャイアントに載っている漫画の主人公のような台詞を言う。臙脂色のミノタウルスのマントを翻し、偉そうな椅子から立ち上がった校長は冒険者不黒文へと変身する。
分からぬことはいつものこと、ピネスは勇ましく立ち上がった校長の尻についていった。
▼▼
▽▽
校長室から辿り着いたのはいつもの正門前ではなく、今はもう役割をあまり果たしていない東門前へと。そこは学生たちの自転車置き場であり、この異境に学校ごとトばされたのは、夏休み中のアクシデントだったため自転車の数は少なく、もの寂しい。
箱型のサイクルポート、みずいろの屋根の下、ぽつりぽつりとある生徒たちのモノ……。
どこかしんみりとした雰囲気も味わいつつ、通り過ぎてゆく────。
東門前、【徐行】とかかれた注意看板もなつかしいもの。閉ざされていた門が、ガラガラと音を引き開く。そして、緑に渦巻くどこかデジャヴする色違いの光景が、その東門の向こうにはあった。
二人、ゆっくりと立ち並び、校長は腰に両手をあて声を張り上げた。
「名付けて【みどりのダンジョン】!!!」
「なっ……名付けてと言われて……も???」
「稼ぎ稼いだ今までのDPで、ここ東門に新たなゲートを解放したというわけっだぁーーーーい」
「え!? そうなんすか! この、すこしうるさく渦巻いてるのって……まさに、あっちにもあったダンジョンの入り口ってことっすよね……? でも、なんでわざわざ……敵を増やしてんの? え、どゆこと……」
「だから言ったろ早いのだと。まぁ簡単にいえばな、この世界にはあの正門先にあるようなダンジョンが複数存在すると分かった。分かった以上、その時その時で適したレベルのダンジョンを選ぶ。そうする方が良いと、私は考えたというわけだピネスくん。だから早い、のだと!」
「ぅーー……なっ、なるほど?」
「ふふふ、とにかくだ! 明日からはこの【みどりのダンジョン】で頑張ってもらうぞ? ピネスくん」
勇ましく指をさし、指名する。ニヤリ微笑みながらそれが当然のように。アップデートした新たな使命を彼に言い伝えて。
ここまでの状況を5割ほど理解できたピネス生徒は、校長の顔──みどりに渦巻くゲート──校長の顔をもう一度見た。横に傾げそうになっていた首を縦にし、その威厳ある彼女の声に頷いた。
「あぁー……っと、校長は?」
「ん? なんだ寂しいのか? キミはこのところ女子生徒たちの引率リーダーの役目で、せわしかったからなぁーー、このふぅー」
「いや、ぜんぜん。そうではないすけど」
「ちゃ、んなにぃ!?」
ダンジョンを攻略していたとおもえば、現れた新たなダンジョン。
正門先の赤いゲートは既に《不黒ダンジョン》と名付けられている。名付け親のスペシャルな校長も、森羅万象スベテは読めてはなかったのか。しかし、色違いである緑色のゲートはまた心機一転改めて、差別化するようごくシンプルに、《みどりのダンジョン》と名付けられた。
設けられた数日の休日は、ダンジョン冒険者たちの元気英気を存分に養い、また渦巻く新たな冒険のニオイと期待感へと誘う。
こうしてブク高の彼らは東門にある《みどりのダンジョン》を、しばらく人材とリソースを集中して、冒険することになった。
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【ヤンチャゴブリン】:
日焼けしたような土色の肌は、いつも見慣れたグリーン肌ではなく新鮮である。
棍棒や木のパチンコ、木斧、目につくモノはなんでも使い襲ってくるのは、やはりダンジョンに適応するゴブリンの遺伝子。
《みどりのダンジョン6階★モンスターハウス》
⬜︎
草地のステージを駆け──緋色の刃は暴れ回る。
新ダンジョンに現れたご当地のゴブリンたちを、縦、横、縦、斜めに、躍動しながら叩き切っていく。
何故かスマホをもう片手に持ちながら、剣でゴブリンを器用に斬る。そして、フラッシュをたき写真を撮る。世にも奇妙な珍行動をしている剣士がいる。
「あぁーしまった、全部斬ってから撮っちまってる」
「馬鹿じゃないのハーぬけ」
「あの木浪さん……俺ってぇゴブリンじゃないから……図鑑にはいらないかと?」
オレンジ髪の木浪生徒は、振り返った男子ピネスの姿を淡々と自身のスマホのカメラに収めていく。
「は? そうなの? うしろ」
「いやわかるだ、ろっっ!!! と!」
さり気なく彼女が注意をうながす後ろを振り返り、緋色の剣は飛びかかってきた土色肌の輩を、ナナメに力強くぶった斬った。
「撮ってあげるからちゃんと戦ったら? 全部真っ二つにしたところ」
「はは、それもそうだな! 遊んでないで初心にかえるか……ゴブリンは油断しちゃいけねぇってなソエジマ!」
また、ツギハギブレザーのナイトが、緋色の剣を両手にしっかりと握り直し駆けて行く。
木浪は悠然とスマホのカメラを止めずに回してゆく──元気な彼に群がる土色の小鬼は真っ二つに散る、爆散する、はじけとぶバケモノの奇声断末魔はもはや日常、心地よくも思えるもの。
強くなった幼馴染のあらたな勇姿が、動画メモリーの中へとリアルタイムで記録されてゆく。
みどり豊かで広々なステージ、踏み入れ閉じ込められたその罠、モンスターハウスの中での戦いは続いている。
掌握した敵影の内に召喚した黒いゴブリン。忽然と現れたその黒いゴブリンは土色の敵の背から居合斬りを放った。レアな刀を装備させたシャドーゴブリン出席番号❹は、攻撃暗殺特化ビルド。
ボロい杖に祈祷しながら魔力を練り上げていた敵、ヤンチャゴブリンシャーマンは、後ろからいきなり【斬!】──どさりと音を立て息絶えた。
「私の影召喚魔法ビルドは最強なりいいいいい!!! よくやった出席番号❹ふっふーーー!!!」
シャドーゴブリン出席番号❷は、スマホに向かいカメラ目線で元気にピースする主人であり校長先生を、写真に撮った。
「なんでみんなスマホで写真撮ってるの……あ、これ、どうぞ」
シャドーゴブリン出席番号❺❻❼は緒方の異能冷蔵庫の元へと集い、冷えた剣を、冷えたナイフを、冷えた弓を頭巾の少女から次々に受け取り装備した。
召喚された❺❻❼はすぐさま草地を走り、主人である校長の指示で戦線へと向かってゆく。
「ありました、きのこ! ハイハイ写真を──。頭巾さん、きのこセラー、のこのこしてないで救済のじかんです! ここにもっ! 見たこともないきのこさんですよー」
シスター服の生徒は壁際にしゃがみ、しめじ色のスマホで見つけたダンジョンのきのこを撮影する。携帯会社のマスコットキャラクター【どつき茸】、そのキャラのキーホルダーをぶら下げたスマホは、現役女子高生3-C榎田椎名の特別カスタム。彼女のきのこ愛を、スマホの外観にまでふんだんに取り入れているよつだ。
そして壁際にたくさん自生していた新ダンジョンのきのこに興味津々。異能【きのこレーダー】はびんびんと良好に反応しっぱなしである。
一刻も早く新顔のきのこさんたちを救済するために、いつもの頭巾姿の緒方と、白い冷蔵庫のコンビをテンション高い声で手招いている。
「ふふふ、珍しい青春。忘れるまもなくはじまっちゃった────【ツバサ】」
弦にかかったたおやかな指遣いは、小型のハープで【ツバサ】の音を奏でる。奏でられた青いソラの期待感に、魔力と音を帯びた白羽が矢のように真っ直ぐに飛んだ。
深くかぶった純白の羽帽子、はみ出した金色のショートカットの髪、のぞく不思議な飴色の目。
今日もまた自分とは違う何かの役を演じ、楽器を演奏する女子生徒は、モンスターと戯れる彼らの姿を瞳のカメラにおさめ、わずかに口角をあげた。
「フッフッフいいぞいいぞ、スベテ殲滅しろブク高おおおおおおはっはっはーーー!!!」
「ナニあほっぽく叫んでんのハーぬけ」
「たぶん俺じゃねぇ! うおおおお!!!」
伝令雑用役のシャドーゴブリン出席番号❷は装備したスマホのアプリを起動し、その光る画面に打ち込まれた戦況を確認する。
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戦闘の熱にのめり込むピネスはクリティカルを乱発し、ヤンチャゴブリンを次々と二つに刻んでいく。
校長は召喚した7体の影の部隊を操り戦場を支配。高笑いを上げながら、魔法の刺股【ふぅーちゃん棒スペシャル改++】から色鮮やかなガトリング弾を垂れ流していく。
お食事班の緒方は、榎田椎名のきのこ採取に協力した。異能冷蔵庫の中へと旬のダンジョン食材を詰め込んでゆく。
木浪は動画撮影を継続、戦況を見極めてサボる。スマホに持ちやすい付属パーツを取り付け、手ブレを極小に抑え、ガチる。今をときめく女子高生、スマホやカメラの扱いには慣れたものだ。
ハープから空気マナを震わせる広がる【ツバサ】の音が、ダンジョンへとみんなの耳へと届けられる。
★ブク高パーティー
浦木幸 2-D
不黒文 校長
緒方結美 2-A
榎田椎名 3-C
木浪智火瑠 2-B
紫紫刀 3-E
ツバサ
現在モンスターハウス殲滅度67%
新ダンジョン、初冒険、士気高々、意気揚々
テンションを上げ続けるブク高の7人パーティーは、新たなモンスターたちを斬り裂き、立ち塞がる障害をものともしない。
【ダンジョンクエスト】目指すは10F。みどりのダンジョンの攻略は始まっている。
⬜︎
《みどりのダンジョン30F コカトリスの大部屋》にて。
今日も今日とて午前10時からのダンジョン日和。ダンジョンの様相が緑に生い茂り変わったとて、いつものようにパーティーの前衛の前衛役を務める浦木幸は、階層ボスの白い巨大怪鳥を、剣一本で相手取っている。
つつくグレーの嘴は槍のように鋭い。見た目の遺伝子情報そのままに、鳥のように首を前後するモーションで、ピネスを啄むように襲った。
ゴブリンやコボルトやウリボーを数多葬った経験はあれど、大きな鳥型のモンスターと対峙したことは、今回がピネスにとってもパーティーの皆にとっても初めて。襲いくる鋭利なグレーの軌道を、本能と持ち前のセンスで避けるが、つつくジャブの全ては避け切れず────
「鳥ってよりぃ恐竜なんだろ!」
小爆発の目眩し。しつこくつつく鳥頭に対して、受けに回ったピネスは、防御行動と同時に赤熱する魔力を剣柄から握り込める──そして啄まれた緋色の刃を待っていたとばかりに魔力爆発させた。
つついて出てきたびっくりの火に、ピネスを襲っていた巨大怪鳥は首をもたげ、悶え、慌てる。
カウンターでダメージを与えたものの、しかし。飛んできた嘴の威力は剣の刃を砕かんばかりの強烈。みどりの草地をピネスの背はすべり、遠くへと弾き飛ばされてしまった。
そんな前で体を張った剣士の代わりに──
タキシードを纏う者が、指抜きグローブを気合いを込めるよう両手に嵌めなおした。機をうかがい待っていた彼女は、今みどりの地を飛び立った。
宙を高く舞い、上から現れたのはシックな執事姿。新戦力の彼女が、剣士ピネスの攻撃の後につづきアシストをする。
飛び込み移動した巨大ターゲットの頭部近く、空中の一点で静止したかのように綺麗に直り、その美しき体勢からすぐさま技を繰り出した。姿勢正しき鋭い連続蹴りが、狙いを絞った鳥頭にクリーンヒットした。
8回──まるで鞘から剣を居合抜くように、溜めた足、溜めた力を一気に解放した。黒くてスリムなドレスシューズを用いた蹴りを放った。
「お嬢様にカロリーを届けるため、私は何者にもなりましょう!! 巨大な鶏もカロっ……ッ、拳を抜くのは今こそ!!」
⬜︎スマートタコイカ学習帳アプリ
紫紫刀:
紫家に仕える思いやりの精神にあふれる執事。
傘下外食チェーン店運営企業である〝ぱーぷるまーくぐるーぷ〟その会社の経営者、紫黒社長。その社長令嬢である紫紫檀の身の回りの世話役として、本人10歳の時に、紫家の養子に迎えられた。
現在はお嬢様とおなじく不黒高等学校に通う3年生女子であり、学校生活においてもやはりお嬢様ファースト。
なにかとハラヘリなお嬢様へと、今日もカロリー物資を届けるために。
思いやる執事はいざダンジョンで、その拳剣道場で鍛えた腕を足技を活かし、ブク高の一員として戦うことになった。
髪色 アッシュカラー基調、紫のメッシュ
瞳色 淡いエメラルドグリーン
バトルスタイル 拳剣流道場で鍛えた太刀筋のような鋭い蹴りが主体
異能 依然不明だが、体にわずかに軋んだようなズレを感じると、本人は校長とピネスに報告している。体術が主体なため、身体的な能力UPに関する異能であると校長は考えている。
そうび
執事の黒タキシード★★★
フォーマル+1
執事の黒ネクタイ★★★
フォーマル+1
突撃のクールなコボルトベスト★★★★★★★★
物理威力 中
物理威力 小
物理威力 小
クール+2
フォーマル-1
拳剣道場の指抜きグローブ★★★★
レア+1
オリジナル+1
酒羊のトリュフカラーのハンケチ★★★★★★★★★
毒魅了耐性+5
地属性+8
攻撃hit時回復 小
シールド値 小
青きサファイア盤のゴーレム懐中時計★★★★★★★★★★★★
連打威力 小→中→特大
戦闘時間が伸びるほどシールド硬度UP
執事のドレスシューズ★★★
フォーマル+1
蹴り+42
紫檀の数珠
愛+3
⬜︎
戦闘能力の高い生徒である格闘執事の蹴りが、鮮やかに決まる。それを見てニヤリと微笑う校長により、次の行動は決行された。
巨大な鳥が良い蹴りをもらい隙を見せた。モンスターが隙を見せた今ならば──
(よし注意が霧散した。これで敵のもつ影を私のスペシャルな魔力で掌握しやすくなるはずだ、ふっふ)
校長は蹴りと爆破の連続攻撃にうろたえる白い巨鳥の影を、既に戦闘中に切り離し忍ばせた己の影で、50%ほど掌握した。
校長は順調にまた掌握した敵の影内から、闇光属性2種の魔力を練り上げ、影召喚魔法を実行する。シャドーゴブリン出席番号❹を、暴れるコカトリスの尾っぽの後ろへと召喚することに成功。
シャドーゴブリン❹は校長の命令に従い、激レア刀を鞘から抜いた。そして、白い巨鳥の背後から、無音の斬撃を仕掛けた。
主人である校長のその潤沢な魔力を共有するシャドーゴブリン❹から、刀を振り放たれた。墨のように黒い魔力性質を帯びたエネルギー斬は──
その鋭い形をとどめる事ができず、まるでこぼれたコーヒーのように、地へと落ちていく。
突然白くしなるナニかに、頭からがっぷりと噛まれてしまった出席番号❹は倒れた。❹が放った黒い魔力斬も、ターゲットに到達することなく──失せた。
「チッ、後ろにも目を飼っていたか。さすがコカトリスといったところ……ふむふむ、やはりこいつは私の知るコカトリス」
鳥の尾の内に引っ込み溶け込んでいたのは、一匹の白蛇。その姿をにゅるりと伸ばし現した。
寝起きから目覚めた白蛇の尾が今、天へと目一杯、身を伸ばし聳り立つ。
一心同体、完全体となったモンスターコンビが冒険者たちを睨んだ。
⬜︎敵情報
【コカトリス】:
蛇の尾をもつ伝説の巨鳥。
一方が起きている時、もう一方は眠っていることがおおい。
尾っぽに飼っている蛇の数で、つよさが変わるというが……。
蛇が目覚め乾いた舌をなめずり、鳥がテンションをあげ翼を広げる。そこに死角はなし。巨鳥のタフな肉体と、蛇の狡猾さが加わり完全体となった。
立派なしろい翼はあるが、飛翔能力を有するかは定かではない。
⬜︎
宙を徘徊していた赤いタコイカ学習帳は校長の手に取られた。
「ふむ、やはり電子より紙のほうがいいな。ピネスくん、キミがランタンやロープの浪漫にこだわるのも分かった気がするものだ、はっは」
「いててて……クチバシが厄介だな……え、ランタン? ロープぅ? ってんなことより、次どうすんすかこれぇ? なんか作戦がさ、モンスターにもバレてねぇ?」
「なっなにぃ……この校長せんせーが、コカトリスの鳥頭以下と言いたげかぁ? ハッハッハ! ──上手い皮肉をいうな? ピネスくんにしては」
「そんなこと言おうとしたつもりもっ──おっ、さんきゅ?」
「すみません……仕留めきれませんでした! せっかくチャンスをお届けしていただけたのですが……」
執事はみどりの苔の上に倒れていたピネスの手を取り、起き上がる手助けをした。さっき取った作戦と攻撃が、残念ながらあの巨鳥を倒すまでには至らず。身を挺して巨鳥に立ち向かった剣士の彼に、彼女は申し訳なさそうな顔をしている。
起き上がったピネスは思いがけずもご丁寧に謝られてしまった。しかしいちいち気にして戦闘中に謝られる筋合いもない。黒髪をかきながら──思いついたピネス節を言葉にし練り上げてゆく。
「え? あぁー……んなの俺もしょっちゅうあるぞ? まぁこれってさ厄介なボス戦だし、おまけに敵も思ったより賢いし、蛇は羽毛から出てくるしで! まぁー、つまりは、なんだ……あぁーじっくり! じっくりいこうぜ?(これが言いたかった)」
「そっ、そうですね!(熱くなったり? 冷静になったり? なのに不思議と余裕すらかんじて……あ、道場の師範級……強い人がみんなもっているような……?)」
「ふっふそうだピネスくん、さすが私が不在のときの引率リーダー。気遣いも板についてきたな? そーそー、あの時、我々の連続攻勢に眠っていた蛇が姿を出さざるをえなかった! つまりはまだ、旗色が悪いというわけではない。じっくりいこうではないかぁー。こちらの手札っ…生徒たちの方がッ、圧倒的に多いというものだ!」
「今、手札って言ったよね?」
「のこのこと言いましたね♪」
「言った……かも……」
演説するそのプラチナ髪のお方の、詰まったお言葉を聞き逃さなかった。
木浪はジト目でかるくツッコみ、榎田椎名はニコリと同調、緒方は冷蔵庫に採取したきのこを詰めながらゆっくりと頷いた。
「手札ぁー、では……あるよな?」
「私は特段悪い響きとは思いませんが?」
執事とピネスは、きょとんとした顔とマイペースな顔を見合わせた。冗談か真剣か、校長の失言らしきそれに、生徒たちの思う反応はそれぞれのようだ。
「はっはわるいわるい、ではいくぞブクっ──!? 気をつけろおおおおおスペシャルな全体攻撃の予兆だああああ!!!」
七人、悠長にしていた話を校長が纏めようと微笑った、その時──。校長は眼帯の裏にあるスペシャルな眼に、危険な変化を察知した。
前のめりに長くしていた鳥首は縮み、尾から生えた白蛇が連動するようにぐぐんと天に首をもたげた。
蛇が鎌首をもたげ、鳥が首を縮める──それはどこか不吉な予兆。人よりスペシャルなセンスを持つ校長は、感じ取ったがままに叫び、生徒の皆に注意を促す。
「風、ひらくね、【ツバサ】」
よく通る声が皆にきこえた次の瞬間から、ハープの音は奏でられた。魔力をのせたソライロの音が、ダンジョンに鳴り響く。そして巨鳥コカトリスが、ためた翼を今、おおげさに広げた。
耳をつんざく鳥の鳴き声に、柔らかなハープの演奏、群がる影の壁と、雷電とともに抜かれた翠の剣。
命を賭け、命を奪い、命を守る、それぞれのコマンドを選択するように。
数多の白く巨大な羽々が、ダンジョンに迷い込んだ冒険者パーティーへと向けられ射られた────────
鎌首をもたげた蛇は、高みからターゲットを狙いすました。コカトリスは蛇との共有感覚で、狙いに狂いなく、魔力を込めた己の羽を発射した。
大翼をひろげ一度にすべてを射る──全体攻撃。
風をするどく切るあぶない音が、みどり草地のダンジョンを一斉に支配する。
壁際に自生するきのこに夢中であった榎田椎名は、新種のきのこを詰め込む作業を一時中断──。そして、年季の入ったお気に入りのしいたけベレー帽を頭から脱ぎ、ソレに魔力を込めた。
急ぎ詰め込まれ、戸からはみ出すきのこ食材を中へと飲み込んだ白い冷蔵庫は、緒方の盾になろうと急ぐも距離が少し遠く……腹一杯で足取りも重く……。
コカトリスの乱射する白い羽があちこちに突き刺さってゆく。
一瞬で押し寄せてきたその危機よりも判断は早く──木浪は発動した引き寄せの異能で、とまどい迷う緒方を無理矢理自分の元へと釣り上げるように引き寄せた。
逃げ場を見失い浮いていた頭巾被りの駒が、防御を固めていたオレンジの駒の元へと、すごいチカラで吸い寄せられた。さらに木浪は用意周到にも既に、地属性のレア杖で石壁の防壁を築き上げていた。築いたソレを頼れる盾とすることで、白羽の矢の雨を賢くも緒方と一緒にやりすごしていく。
「あっ、ありがと……!!?」
「どういたまー。って……」
礼を言う頭巾娘の背からひょっこり、収納役兼壁役の白い置物が、ジト目で見つめる木浪に15度ほど傾きながらお辞儀した。冷蔵庫くんまで手招き引き寄せたつもりはなかった木浪は、若干の苦笑いを浮かべた。
「はっ」
「えっ?」
お辞儀するコミカルで紳士な冷蔵庫のことを気にしていると突然──ぴしり……イヤな音とともにひび割れていく、目の前の石色の壁。
『はっ』『えっ?』オレンジ髪のギャル、みどり頭巾のポニーテール女子が、それぞれ間の抜けた声のリアクションをした時には既にもう、崩壊していく。
地属性魔法の杖で作った木浪の石壁の盾は、激しい白矢に穿たれつづけ、食い止めきれない矢数の暴力にやがて、亀裂が広がり砕けた。
予期せぬ非常事態。安心し身を委ねていた防壁がこうも早く壊れては、もはや次の魔法も間に合わない。木浪は咄嗟にその身を構えて防御しようと試みる。ダンジョンではシールド値と良い防具があれば、たとえ手痛い攻撃を受けてもなんとか助かっているかもしれない。苦肉の策だがこれ以上の良さげな選択肢はない。
しかし、目の前に殺到到達せんとしていた白羽はその身を痛めることはなかった。
もう一度あのソライロの音が二人の耳に流れた。すると石壁を砕き目の前に吹いてきていた白い流れは、不思議と二又に分かれていったのであった。
木浪の前方に握り構えた木の杖が不思議に振動している。それは差し迫る緊張から引き起こした己の身の震えではなく、今握る物体と周りの空気を伝う音だった。
例の新顔の生徒のハープから奏でられた音が、もう一度繰り返すように木浪の杖から振動し流れている。
まるで木浪の杖自体を、そのまま魔法のスピーカーに変えてしまったかのように、あの演奏が近くに聴こえる。
そしてなおも流れているその誰もが一度は耳にし知っているソライロの音の演奏は、不思議にもコカトリスの矢羽の流れを、女子二人と冷蔵庫一台の居場所を避けるように二又に裂くように変えてしまったのであった。
「あっあせったー!? マジやば……ありがとありがと! んーと、なんだっけ?」
「たしかつーつー……ツバサさん……! だと?」
「あーそーそーツバサだ、むっすーソレ。ばっさー、マジナイスありがとー! なんかそのハープの音で今助けてくれたっ? そういうことだよね?」
「わたしもその音聞こえたしっ、そうだとおもうっ! ──ん? むっすー?? え、それ、わた」
「ふふふ。そうだね、礼は──わすれないで」
離れた場所でハープを奏でている羽帽子のツバサは、手を振り礼を言う木浪とむっすーに、ハープをじゃらんと鳴らし返事をした。
シャドーゴブリン出席番号❷❺❻❼はスクラムを組み、不黒文校長の前でくろい肉壁となった。そして矢を射られながらその役目を果たし倒れた。
「ん──? 私のふーちゃん棒スペシャル改に、別の魔力の色が満ちたか? ──はっはなるほど……矢を避ける風属性のシールドっ……いや、矢を曲げる一曲! そういう使い方もできるようになったかァ、期待以上に愉快ロマンスなものだなッ、ダンジョンの音楽家は」
異能の可能性はひろがる。
生徒の成長は己が栄養。
不黒文校長はにんまりと笑い、今、銀の刺股に満ちストックされたツバサ生徒の魔力と刻まれた音符をしめしめとその目で確かめた。
「さすがにそれは、よっと!」
ピネスは切先を銃口に見立てて雷撃のマジックを前方へと放った。垂れ流すように拡散するコントロールの荒い青雷であるが、飛んできた矢羽を焼き落とすにはこれで十分。正確なコントロールよりも瞬時の対応と、荒くとも広い面で魔力を放ち迎え撃つ拡散力を選んだ。
そして無事、吹いてきた矢羽は焼け落ち迎撃に成功。
ちょうどツギハギブレザーの背にいた執事のタガヤは驚きつつも、今彼に的確に助けられた事に礼を言った。
「あっありがとうございます……!」
「あぁー、どもっ、はは」
礼を耳に受け取った浦木幸は振り返り、後ろの彼女のその顔を見て微笑った。
(やっ、やはりこの顔が……っ。戦闘中ならばダイジョーブかとおもっ……くっ……)
冷静平静。執事としていかなる時も正しく正す。
たとえお嬢様がこの場にいなくても、タガヤは紫家の執事として、みっともない振る舞いは見せられない。
ただし……その黒髪黒目のどこか飄々とした男子生徒と見つめ合うのは、何故か少し目をそむけてしまいたくなる。彼の顔、形作るその笑顔は、彼女にとっては不意打ちにも等しいものだったようだ。
少しおかしい女執事の様子に、ピネスは分からず口を真一文字に閉じた。そして、かるく疑問の吐息を口の隙間からながした。
「ん?」
「ナッなんでもにゃいですっ! ンンッ、──どう攻めましょうか?」
「あぁーー、そうだな。ん? ──さっきと同じでよさそうじゃね」
「同じとは?」
「前でわちゃわちゃ! ってこと!」
「──……はいっ! 承りましたっ!」
作戦のサインを出しているのは野球の監督ではない。ニヤリと生徒に指を立てる校長だ。
ピネスの頭と学校の成績では、複雑なサインは混乱してしまうと思いはからい。ダンジョンでの戦闘における単純なサイン伝達のやり取りが、校長と生徒の両者間で事前に取り決められていた。
サインは2つ──
①人差し指を立てたら、【前でわちゃわちゃ!】
②人差し指と中指を同時に立てたら、【前でぜんりょく!】
この2つであった。
「それは……何か明確な違いがあることなのでしょうか?」
「あぁー……なんだろなぁ? とにかく前でなんとなくヤルしかないっ……てんだろうなァァ!」
生徒にとって、上司でトップにあたる校長に出された指示は絶対。サイン無視はできない。
ただひとりの校長先生の出す指示は、なんとなく道をゆく彼にとって、あやふやだが絶対的な意味合いを持たせる。ある意味この世でなによりも強烈な魔法であった。
遠目に佇んでいても分かる、眼帯をしたプラチナ髪。そのスペシャルな校長の出したサインを確認したピネスは、翠の剣を腰のホルダーに休ませて、右のホルダーに携えていた緋色の剣を手に取った。
ピネスは冷静さを取り戻した執事のタガヤと顔を見合わせ頷き合った。
そして翼を広げ姿おおきく威嚇する巨大怪鳥コカトリスに向かい、前衛役の二人は飲み込んだ作戦通りに勇ましく駆け出した。
下された人差し指のサインは──【前でわちゃわちゃ!】
前衛の前衛役であるピネスは階層ボスのコカトリスと再び肉薄し対峙する。しかし今度は見つけた草の種を啄むように鋭く打ち付ける鳥の嘴攻撃に加えて、にゅるりと体を伸ばしつつ突飛もない方向から牙を向く攻撃で、鳥頭をアシストする仲良し狡猾な蛇がいる。
彼が強いられるのは鳥と蛇のコンビとの闘い、しかし彼は一人ではない。
〝しゃー〟と威嚇しながら、ピネスへと噛みつかんとする伸縮自在の白蛇の頭は──顎下から鋭く蹴り上げられた。
「【森迷弓】!」
地上から飛びゆく。懐の死角から天へとナナメに射られた右足の矢は、剣士のピネスに気を取られ左上からアタックを仕掛けた白蛇を強襲する。
「【蛇撃弓】!!」
さらに飛び上がった状態から繰り出す、地を襲う追撃。それは華麗に流れるようにではなく、多少ぎこちなくも強引に捩じ込んだ。
ダンジョンで上がった身体能力を活かし、拳剣道場での修業では今までできなかった技の繋ぎを彼女は見せた。
成長するのは異能だけではない。ダンジョンという特異環境に合わせた闘い方を、仲間から敵から倣い、習い、ひとりの冒険者は見出す。
斜め上方に突き上げた右足を回転軸に変え、左足をぐわりとダイナミックに捻り一回転させた。進行方向を力技で変えた左のドレスシューズが、一気にそのまま地へと襲い向かう。荒削りな姿勢制御をしながら再び、白蛇を襲う天から放たれた連続の矢となる。
地技から天技──素早くも繋がったかのように見えた強烈な足技のコンビネーション。
しかし、白蛇に向かったその黒い靴底はぶつかることはなく、足を出したタガヤのほうが逆に左足を絡め取られてしまった。
仰々しく蹴られて効いていたフリをしていたのか。白蛇はまんまと気持ちよく誘ったタガヤの左足にトグロ巻き、蛇舌をちろり舐めずり嘲った。
だが、そんな嗤う蛇とは関係なく一心同体故の悲劇が襲った。他のターゲットをつっついていたグレーの嘴が今、緋色に爆破された。
かちあった嘴と剣。テンションを上げ魔力爆発する緋色の魔法が、何度もつっつき鬱陶しい鳥の頭を仰け反りはじきとばした。
当然でかい的のおまけである蛇にもとばっちり。トグロの拘束は緋色の衝撃に驚き緩み、逆に緩んだ一瞬を見計らい、スタイリッシュなタキシードの黒脚が蟹挟みにした。
細身を締め上げられた蛇は、ひとりでに水を垂れ流すホースのように暴れ、その足癖の悪い人間の足を強引にひっぺがした。
さらにこれに怒り帯電した蛇は突然、雷撃のマジックを放った。剣を振り切った男と着地した女の2人に向けて放射拡散した【蛇雷撃】が命中するも──姿、健在。
痺れる攻撃を浴びるもダンジョンではその程度のダメージは日常茶飯事。パーティーの前衛を務める冒険者2人のシールド値はまだまだ耐え闘うに余りある。
一心同体の異種蛇鶏コンビに対するは、はじめましての同校男女コンビ。
巨大なボス級モンスター相手にも、真っ黒なタキシード姿とツギハギブレザーの背は小さくは見えない。
たったひとつの人差し指の指示から、再度ゴングを鳴らしはじまった闘いの模様はわちゃわちゃと、勇ましき剣風、脚旋風を巻き起こし、白羽を散らしながらヒートアップしていく。
加熱していく前衛たちの働きの間に、後ろから巨鳥を突っつく役に任命されたのは──
成長する不思議な武具、榎田椎名はそのお気に入りの椎茸ベレー帽に魔力を十分練り込んだ。後ろから突っ込んできた茶色いシスター服の新手の熱源に、後ろで見張っていた蛇目はギロリと振り向き反応した。
そしてゆったりもたげた首の仕草から、真っ直ぐ高速に、今迫る獲物へと喰らい付いた。
蛇は鳥よりも狡猾、ならばその狡猾さを活かしてあげよう。手札の生徒を活かし、相手取るモンスターすらも活かす。3-C上級生の榎田椎名に大役を任命した校長は、今餌のきのこに喰らい付いた想定どおりの景色にニヤリとわらった。
構えたちいさな彼女の頭ほどのベレー帽は──ぶわりと一気に膨らんだ。水にもどした干しいたけのように、榎田椎名の魔力を吸い上げ、膨張し成長する立派な笠盾となる。
「のこのこッ!! のこりやがりましたね♪はぁーぁい!」
ただのしいたけの盾ではない。それに蛇が美味しそうと思って噛みついたわけでもない。
親から彼女に受け継がれたその少し大きかったベレー帽は、体が成長しちいさくなってきたと思ったら、まだまだ大きくその笠を広げた。帽自体が成長できるギミックを隠したものであった。
そしてさらに、きのこのアイテムをいくつかストックしつつ効果を吐き出すように発射できる──そんなダンジョンの環境にて、特異な能力を発揮する盾となり彼女のことを守った。
湿りぬめっていたその特殊帽子盾は、【粘着茸】の成分を、しいたけ帽子に入った切れ目の飾りから抽出し吐出する。そして盾全体を纏うようにコーティングした。
今纏った粘着質なシールドコーティングは、蛇が噛みつきぬめりに触れた瞬間に、衝撃を受け一気に固まった。
白蛇の顎先が口をあんぐりと開け広げたまま、榎田椎名の構えた盾に引っ付いてしまった。
狡猾な蛇は奇策にぴたりとハマった従順な蛇へと、従順な蛇はのたうち暴れまわる白い綱へと変貌していく。
どうにかその巨大なしいたけをひっぺがそうと、パワーを上げ頑張るコカトリスの尾の蛇であるが、既に次々と役者はシスターの後ろから動員され揃っていく。
ロープをくくりつけた冷蔵庫が現れる、異能の主である緒方はその冷蔵庫のロープを己の胴にも巻きつけて重い一体となった。さらにその状態で緒方は榎田椎名の胴に抱きつき、白い綱引きの協力を開始する。
またさらに、木浪は続々と加勢し揃った彼女らの後ろで木の杖を構えた。待機していた間に既に杖へと存分に魔力を練り上げ、後ろで強力引力の異能を用いていく。
しーな先輩と同学年のむっすーと冷蔵庫くんを、ミエナイ異能でひっぱり支援。蛇のパワーで崩れそうだった皆の浮き足を地へと粘らせ、この白い綱の引っ張り合いに釣り合いをもたせてゆく。
しかしこれ程の協力がんばりをもってしても相手は巨蛇鳥コカトリス、圧倒的に図体はあちらが上であり持ち堪えられるのも一時凌ぎのもの。
だが、それですら競り勝つにはパワーは不足しているが、稼いだ時間の方は十分であった。
一面に広がった白羽の全体攻撃の派手な光景に紛れ……【浮遊】させ、仕込まれていた天の斧は今落とされた。
人間たちと引っ張り合い、ピンとはっていた白い綱の中途は、鋭く下った巨斧に真っ二つに両断された。
「はっはっはーーーー、スペシャルな生徒たちを率いる私もまたっっスペシャルというのだよ!!! ふっふ、ふぅーーーー!!!」
⬜︎タコイカ学習帳
【綿毛の黄金なGGC斧】★★★★★★★★
物理威力 中
魔法威力 大減
魔力量 大減
通常時 重量小
魔力消費時 重量大
DP消費時 重量大
⬜︎
ブク高パーティーの各々の異能と機転をもって繋げた連携はついに成功し、最後は校長の仕込んだ手によりコカトリスの狡猾な尾をぶった斬った。
嘴をおおきくひらき、大翼をばたりばたり、羽音騒がしくコカトリスは暴れ悶える。宙にじたばた鶏足を浮かせ鳴を上げ、コカトリスが激痛に怒る。そしてすぐさま怒りまかせに発狂し、暴走しようとしたその瞬間。
──彼はなんとなく、勝負所を知っているのかもしれない。
ピネスは今もがき飛び上がった大リアクションの巨鳥に、すばやく仕掛けた。
ここぞの勝負を仕掛ける剣と、尾を切られたことに未だ怒り発狂する巨鳥──緋色の剣が鋭く舞い降りた鳥の脚爪とかち合い、再び、魔力爆発を引き起こす。
緋色のショートソードは、巨体と重量を活かしたするどいコカトリスの蹴りで後ろへと弾かれていく。しかしこの男には二刀、そしてコカトリスにももう一つの得意とする武器がある。
二体の間に起こった爆炎の景色の中を──先に貫き伸びたのは怪鳥のグレーの嘴。その嘴が、今地から勢いよく飛翔した剣士が逆手から繰り出した翠の刃を咥え受けた。
「わちゃわちゃの意味知ってっか? あぁー……辞書でひいたら、こうだっっ!!!」
発動、雷魔法【ピネスサンダー】。翠剣はバチバチと唸り昂り青雷のマジックを盛大に喰らわせた。じゃれてきた巨大な白鳥その啄む嘴に、とても痺れる餌をやる。
手羽先にまで電撃が伝い届くような痺れる餌をやり終え、地へと弾き飛ばされたピネス。そんなすっ転んだターゲットへと、いっそう怒り狂ったコカトリスから白羽の矢の豪雨が集中し降り注ぐ。
しかし、その白き暴力は不思議とそこだけ斥力を伴ったかのように通り避けていく。はげしい豪雨の最中、彼の背から流れたソライロの音。ずっとツギハギブレザーの背を温めながら発動待機し、そして今発動、かろやか爽やかにあのハープの音が演奏されピネスのことを守った。
剣士ピネスが勝負所に二刀を失い、仕留める機を失した。だが、依然ツーアウト。チャンスは実はまだつづいている。
はるか後方──次のバッターボックスには、ジンガの構えで待機するタキシード姿がいた。
カポエイラの基本ステップであるジンガ、ゆらゆらと踊り続けるのが基本であるそのポーズが静止することは珍しい。
そして静止するということは地にしっかりと脚をつけていることの裏返し、地にしっかりと脚を溜める時間があれば、その大技を繰り出すことは可能であると彼女は知っていた。
(道場では成功率3%、それもいずれも不完全──でもダンジョンならっ、今の私、紫紫刀自身ならッ)
右足を前に、両腕を防御を固めるように左に、ジンガのポーズで溜めに溜めた彼女の右足はそのまま──強く地を蹴り上げ飛び立った。
前方へと高く、ダイナミックに斜め軸に宙返りする。
「【拳剣流脚技────地極斬】!!!」
伝説の巨鳥を砕くは道場に受け継がれし伝説の大技。純白の王冠を打ち砕くのは、その天からくだった右足。
「これが今、私のお届けできる最大威力です」
頭部炸裂、【地極斬】。
嘴が地面に突き刺し埋まる。巨大なモンスターが、天に昇った踵から放たれたその絶大な威力にひれ伏し、土下座している。
縦に裂くように開脚した両足をそのまま、脚の力としなやかなバネだけでゆっくりと元へと戻し、彼女は地に立ち上がっていく。
最後は執事らしき右手の一礼にて終わる。
実用可能であると信じてやまなかったのは失敗を積み重ねたから。巨大なモンスターをも退治できる大技が今ここで披露された。ダンジョンという閉ざされたみどりの大舞台にて、またひとつ若き才能が大きく華をひらかせた。
伝説のモンスターコカトリスは紫紫刀の最大威力のイチゲキにて、地に豪快に伏して倒れた。
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