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20♡白い部屋
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地に沈んだボスの巨体はダンジョンに浄化されてゆく。
「はっは、王冠をぶち壊す見事なクリティカルだタガヤくん。──ダンジョンクエスト達成だ」
「はぁ10Fって言ってたのに、はりきりすぎじゃない?」
「うむ、みんながんばったからな!」
「みんなのことにしようとしてない?」
「ふっふ、まぁまぁ木浪キミもMVPとはいかずとも、縁の下でなかなかがんばったところだ。キミもこの至上の勝利の余韻をしばししみじみっっと! 味わいたまえ」
「別にがんばってないけど、てかあのときその黒いので助けてくれたらよかったじゃん」
「ふっふ、それも今回の課外授業の一環、キミたちがあの全体攻撃をどのように対処するかを見たかったのさ、ふっふふ。なぁに多少くらっても死にはしなかっただろう? レア防具だし、ふふふ」
「はぁ……」
校長は何を言っても笑っている。木浪の吐いたちょっと不満げな軽口も、不黒文校長というミステリアスで明朗な人物の深みと笑い声にのまれてゆく。
「おーいっ」
「あっはい……!」
「最後のすごいな、あぁー、あれってクリティカル?」
ピネスはタキシードの背に駆け寄るやいなや、彼女にいつものゆるい感じでそう聞いた。
「クリティカル? いえ……少し無我夢中で……感触もあまりおぼえてなく……そのようなものではないかと……。なんとか絞り出した師範から教わった道場の技です」
「道場? あぁー、そういや脚ばっかなのってその道場ってので習ったのか? (なんかやってる人の動きだったな明らか、俺とちがって)」
「はい、といってもそれは私だけで。その方がいいと、拳剣流ではコンセプト外として長らく使われていなかった脚技を特別に習わせてもらいました」
「へぇー、それはすごいな?(アレなんだっけサンチュが習ってたとかいう……そうそうテコンドーっ、それみたいなものかな?)」
「いえ、私など師範にはまだまだきっと今も足元にも……それに」
「のわっ!?」
「えっ!? どうなさいました!?」
「なんか急にくつっっ靴紐がっ!?」
タガヤとの話の最中に急に前へと激しくこけたピネスは、みっともない格好で倒れながら後ろを見た。
「ふむ易々と破壊されてしまったか。ならば今度は二重に【ストーンウォール】をいっきに練り上げる必要があるということだなっふっふ木浪」
「1枚でげんかいなんだけど、校長がバケモノなだけじゃない? そんなこと同時にしたら魔力っての絶対もたないし」
「ハッハッハ、わたしがバケモノか!? ふむふむあながち──そうだなハッハッハ!!! いやいや木浪、己の限界値それがわかっているのならばキミもスペシャ──」
木浪が普通に校長と話しあっているだけであった。いくらオレンジ髪の彼女を見つめて疑えど、その横顔はピネスに目が合うこともない程、校長から先ほどの戦闘のアドバイスを熱心に聞き入っている。
「あっアレェ……??」
勝利の余韻に浸る間にも、ダンジョンにガス状になり還っていく魔物のケイオスエネルギーは、その一部を祝福幸運をお裾分けするコスモスエネルギーへと凝固し変換される。
カタチを成してゆく金色、銀色、純白。階層ボスとの激闘を制した、そんな体力魔力とカロリーの消費量に見合う宝の出現にこの場の誰もが目を向け見惚れてしまう。
冒険者たちの期待に応えたように、宝箱武具の数々は絢爛とそのかがやきを放ちあらわれた。
▼
▽
「きのこさんが大量、びっくりしいたけしめしめしめじッッ、きのこさんの宝庫ユートピア!」
緒方の異能冷蔵庫が全室満腹になる程の量のきのこが、榎田椎名の手により採取され仕舞われた。
みどりのダンジョンは不黒ダンジョンよりも、自然みどりの景色豊か。きのこたちもこの新たなダンジョンの土壌と空気が気に入っているのか、きのこにうるさい榎田椎名も大満足する程のたくさんの数を採取することに成功していた。
既にどこからか出されたいつもの七輪は用意された。やはり現地で焼いて食べるきのこは格別。榎田椎名として譲れないルーティンは、ノリのいい校長に許可され、七輪の網下の炭が赤熱されその期待感を灯してゆく。
気分るんるん涎じゅるじゅる。榎田椎名は再度冷蔵庫にしまったお宝の方を確認する。
開かれてゆく、新種、色とりどり、香り豊かな白き宝物庫は────
「────……ん?」
ニコニコされた糸目を思わず開眼した榎田椎名は、我にかえったような真顔で冷蔵庫の冷気を顔にあびている。
そこには食いかけのきのこ。と、──白いもふもふ。
レアなきのこたちの面影を白い嘴で啄みながら、〝ちっちっちっ〟と陽気にさえずっている。
目をこすってみる。榎田椎名は冷静だ。きっと新種のきのこの香りをいっぺんにかぎ、ナニか一時的な幻覚症状にかかったのだと判断した。
鼻を摘み、目元をゆっくり、お手手で拭うように往復する。
「────……んんん?」
しかし、こすれどこすれど……啄まれ、眼前にあったきのこが失せただけであった。
白いもふもふのモヤは彼女の視界のそこに消えない。冷蔵庫からもれでる冷気が顔にあたり、彼女を夢想からよからぬ現実のレールへと引き戻してゆく。
「のこっ!??? きっ、きの、きのこっここここ!?」
「ここここ? どした、え、なんだこいつ?」
「なにこの白いもふもふ、はーぬけの弟?」
「俺の弟が冷蔵庫にいるかっ」
「これは……え?」
「緒方さんなんか知ってるかんじか?」
「いや……わたし……草陰に落ちていたすこしおおきめの卵を、卵入れのそこにコツンと置いて……それももう一度見た時には消えていて幻かとおもっていたんだけど……たぶん……」
「へぇー、じゃぁそれじゃんむっすー」
「え、でも、こんなことって……反射的にみんなにだまって回収しちゃって……卵がかえるそんなことって?」
「あんじゃね? ダンジョンだし」
「あるよね。ダンジョンだし」
「おーーハッハッハ、これはこれはダンジョンだしな? あるだろーーーー!!! ハッハッハふっふーーーー!!!(モンスター育成要素かぁ!!!)」
「あるの……かな……(卵焼き……いや、たまごかけ……ごはん!)」
「こっこれは……カロっっっ(ちきん!!)」
次々と顔を出し、冷蔵庫の中にいる白いもふもふの鳥類の姿を覗き見るブク高パーティーたち。
そんな中一人、力なく押し出され。その密集する集団の輪から外れ、両手をつき倒れている茶色のシスター服がいる。お気に入りのしいたけ帽が無造作にみどりの地に落ちたまま拾おうともしない。なんともいえない哀愁を放っている。
新たな食材の未来と可能性を妄想し、喜んでしまっていた緒方は、そんな榎田椎名の異変に気づき慌ててフォローにはいった。
「ダッ、大丈夫こっちもつめたから! きのこ──をっ!?」
〝ちっちっちっ、ぴよぴよ……〟
野菜室を開けたらそこにはもう一体、いやもう一匹。冗談にも思える、囀る白いもふもふのデジャブ。
だがめげずに、緒方が慌て冷凍庫を開ける。よく冷えたチェーン、ソード、盾……すっかり腹一杯の武器庫と化していた。
「ふむ、ドロップモンスターが2体か。これは夢が広がるな!!! いやいやほぉー、ぴーちくぱーちくよく食べてかわいらしいモノだな。ふっふ、まるでピネスくんのようだ」
「あのぉー、俺の認識とぶんるい、どうなってんの」
「ほんとだ、こっちもはーぬけっぽい」
「もう、お好きにしてくれ」
ブク高メンツがまた戯れだした間にも、飛び蹴りをくらったかのように輪の外へ、盛大にダメージをもらい倒れるきのこのシスター。
まだ冷蔵庫にむらがり戯れている連中と、心やさしき見かねた連中は分かれる。必死にコレクトして最後の楽しみにしていたきのこを失ってしまった、そんな悲嘆に暮れる彼女を励まそうとした。
「元気出して、一曲」
ハープの音色が、微笑む金髪ショートの冒険者に奏でられる。流れてくるのは元気の出る楽しげなメロディーだ。誰もが知っている明るい歌、しかしそののどかで明るいみどりのメロディーから想起すると、どこかチャらけているようにも聴こえる。
「あぁー、ひよこというより」
「アヒルじゃん」
「鶏だと思います!(カロリー!)」
「うん……!」
「あ、なんかよくみたら尻尾くっついてるけど」
「馬か?」
「馬鹿なの?」
「鶏!」
「うん!」
「いんや、【コカトリス】! ふっふぅー!!」
新たに挑んだ《みどりのダンジョン30F》。激闘の果てのご褒美で、なによりも皆のテンションの上がったお宝は白いもふもふのいきもの、二匹。ハープの奏でる明るいみどりのメロディーとともに、笑い声は絶えない。
一方、三度地に伏した榎田椎名は、救済失敗した啄まれるきのこたちの様を見て【コカトリス】のことがすこし苦手になってしまったようだ。
主である緒方と連動する異能冷蔵庫、その室内に充填された内在魔力に冷やされ、冷蔵庫内で早くも孵化した白いもふもふの小型モンスター。
その冷えた揺籠の中に収納されていた香る栄養の宝庫を残さず啄みつくし──、愛らしくたくましく、二匹の【コカトリス】はみるみると異常速度の成長を果たした。
【鶏ちゃん1号】、【鶏ちゃん2号】と不黒文校長に命名された二匹のコカトリス。簡易に設けた木柵の鶏舎を、ばさばさと羽を泳がせるジャンプで飛び出し、運動場のグラウンドを元気にその鳥足で走り出した。
不黒高等学校に新しく仲間になった、ダンジョン産、冷蔵庫生まれの鶏ちゃんず。その二匹のモンスターの元気な様を、グラウンドの片隅から眺めていた三人の女子は突然──表情を豹変させた。
場違いのビーチフラッグ競争のごとく始まってしまった。今、グラウンドにぽとっと落ちた白い物体を一斉に指を差し、女子三人は慌てた様子でそれを追いかけた。
「おっ、おにぎりいいい!(醤油漬け!)」
「育成ビルドおおお!(さいきょーのふぅーちゃん魔獣軍団の足がかりいいい!)」
「カロリーーー!(たまごカツサンド!)」
ナニかを熱心に、されど慎重に取り合っている三人の女子がいる。完全に我を忘れている女子たちは本能と欲望だけでその白を追いかけ、手にし、何かを同時にのたまっていた。
やがてみっともなく取り合うその手を止める。少し冷静になった三人が、今何事かと近づいてきた男子の方を、一斉にひとつの群れのどうぶつのように振り返り見た。
「あぁー…………俺も、食べるかな? ……ひとつは?」
そう苦笑いをしながらためて言い、ピネスはそっと指を指した。
彼に指をさされたのは女子たちの背のさらに向こう側。女子たちはまた同時に振り返る。
今、争奪戦になっていた同じような白い卵が────交差しながら遊び走る鶏ちゃん1号2号の後にぽとりと、もうひとつドロップしていた。
▼▼▼
▽▽▽
校舎本館1F、スペシャル仮眠室にて。
この部屋は現在貸切である。ベッドに寝ながらにリモートで授業を受けられる、壁面投影高性能プロジェクターも備えてあり、体調が悪いが学校へいく意欲のある生徒への配慮も、スペシャルな校長率いるこの学校には完全完備されている。
今日はそんな特別な部屋のベッドで休みがちである、水色髪の華奢な生徒の元へと、いつもの執事に加えて二人。ベッドに座る生徒もよく知っているスペシャルなお方と、一度だけ顔を合わせたことのある男子生徒がやって来ていた。
そのみどりの眼帯を解放し、魔力に満ちた灰色の眼で再度、問題の女子生徒の細身全身を見つめた。そして────不黒文校長は紫紫檀生徒の水色の頭に、用意していた白いティアラをしっかりと装備した。
「ふむ。これでおそらくマシになったことだろう? ふっふよく似合ってるぞシタンちゃん生徒」
⬜︎タコイカ学習帳
【白蛇の純白翼のコカトリスティアラ】★★★★★★★★★★★★★★★
魔力ダメージを受ける度に魔力量回復 小
ドレイン耐性 大
ドレイン耐性 中
毒麻痺耐性 中
闇耐性 中
感覚+8
雷+4
鳥の眼+2
蛇の眼+2
浮遊+1
⬜︎
「お嬢様……いかがですか??」
「うん、だいじょーぶタガヤ。いいかんじ、いつもより腹の虫はおとなしいよ」
「そっそうなのですか! お嬢様!」
「うん、そうだとおもうよ。ありがとうタガヤ、校長先生、それと?」
美しいティアラを冠した紫檀生徒は、掛けたベッドから執事、校長、男子生徒へと順々に顔を合わせてわらっている。
「あぁー俺は浦木幸だけど……あのー、なんか盛り上がっててうらやましいかぎりだけど……ほんのいまいちぃ……ぅーー、その話ってやつが読めないんだけど、俺?」
▼
▽
すやすやと眠る艶やかな水色髪のお嬢様に布団はかけられ──
ほぼ何も知らないピネス生徒へと、お付きの執事による《お嬢様の特殊体質に関しての説明》はできるだけ分かりやすく話された。
「あぁー……? そういや茶室で倒れてたっけ。たしか正座してお互い挨拶の途中で、それっきり?」
「はい、お嬢様は人より活動にともなうカロリー消費量が何10倍もはげしく。少々おおめの食事と、こうして安静にしていることが必要なおからだでして……」
『たまご、醤油漬けおにぎり……んにゅー……タガヤの……かつさんど……』
ティアラを装備したまま、お嬢様はいい笑顔でベッドの上で眠っている。さっき食べた緒方のにぎった栄養満点のたまご醤油漬けおにぎりが美味しかったようだ。執事のタガヤはそっと取り出したハンケチで、彼女のよだれを拭った。
「そして恐らくは魔力の漏出。常時魔力を漏出するなんらかの不可解なデバフが、一般人よりもカロリーを異常に消費させていたというところだろうな。うむ、このスペシャルな私の目で診断したからには間違いはない。(以前から疑ってはいたが、私も異能とこの目が成長したことで確信をもてるほどだ。どこか隠蔽された魔力の流れをうっすらと見ることがかなった。そして今は──うむ)」
眼帯をしている右目を、みどりの布地の上から撫で上げてアピールする。不黒文校長が欠片もふざけてはいないことは、タガヤとピネスにはその仕草と真剣な言動から分かるところであった。
「校長が言うなら……そうなんすね? で、このコカトリスから手に入れた宝箱のティアラが、そのデバフによく効いたってこと? なので?」
「ふっふ、そうだ。だからこれはキミのおかげでもあるなピネスくん」
「はい、あっあなたにも此度は大変お世話になりっっ大変助かりました! ありがとうございます!」
執事は改まり校長の言葉につづき、彼に深々と頭をさげて礼の言葉をはなった。
「いや、俺はなにもだが……。まぁ俺の異能で出たドロップアイテムが巡り巡って、このおねむなお嬢様が良くなったんなら、ふっ、よかったぜ?」
「はっは、ならばこの調子でどんどんユニークで激レアな装備を集めることだピネスくん! タガヤくん!」
「はーいっ、え? どんどん?」
「何言ってる! まだまだ完全にシタンちゃんの呪われたしつこいデバフが治ったわけではない。いくらぱーぷるまーくぐるーぷのスペシャルなご令嬢シタンちゃん生徒とはいえ、ずっと鶏ちゃん0号のティアラを頭に付けたままというのも飽きてしまうだろう! 女子は毎日違ったオシャレをしたいというものだーー! まったくぅ、ピネスくん駄目だぞそんなことではーーーはっは」
「でっ! できればご協力を! 今回のことで、特にあのコカトリス戦、同じ前衛役をやらせてもらったうえで己の力不足を痛感しました! 以前の茶室でのご無礼は謝ります! 再度、いや何度でも機会があれば謝らせてください! やはりあなたは……師範級! いえゴールドグローブクラス! その実力をたのんで! どうか! お嬢様に、このわっわた」
「ごっゴールデングローバルクロス?? なっなんだそれ……あぁ、まいいけど。つってもこればっかりは運だからなぁー。俺にできることは目の前にやって来たモンスターを倒すぐらいだけど……それでいいなら──いいぜ? てかこっちも前でやってくれる人が増えると、余裕というか安心感が増えるというか? こっちからもよろしく頼むって感じで? はは」
「ふっふ、大丈夫だピネスくん。キミはド幸運のパッシブスキル持ちだからな。これからもダンジョンで彼女とともども、ほどほどに、がんばりたまえ~!」
「先生、そのほどほどってぇ……もはやどれくらいの加減だったか俺わかりませんよ? はは──じゃっ、えっとこうか?」
「ほっ、本当ですかッッ──ありがとうございます!!! えっと、はっハイっっ!」
同じ前衛役の浦木幸と紫紫刀、二人の生徒は校長の微笑みに促されて、しっかりと握手を組み交わす。
腹一杯に眠る紫紫檀お嬢様に関する新たな校内サブクエスト、ユニーク激レアアイテム集めが、不黒文校長により発令された。
手と手は硬く結ばれ、浦木幸はこれからも彼女ら二人に協力することを約束した。
「────と・に・か・く!!! そういうわけでエッチなのは禁止なのっ! 午後8時以降の校内の徘徊ほっつきも控えてなのッ! 校長先生からも張り紙とビラをすって協力してくださいなの! くぬぬぬ異世界でもダンジョンでも風紀は不滅! 心の乱れは風紀の乱れ! 不黒高校みんなの風紀の取り締まりを強化月間! なのですっ!」
机をたたきピンク髪から探偵帽がとぶ。勇ましく叩きつけた清く白いビラの束が、校長の前へと提出された。
「あー、わかったわかった。キミたち風紀委員部の練り上げたありがたい施策については、こちらでおおいに検討しよー」
「ぜったいなのですよっっ! あっそこ! 廊下を早歩きしてはいけないのっっ! 前髪が揺れな────」
風紀委員部部長、小角灯は校長室を後にした。
ドアはきちんとしまり、ちいさなピンクの背丈、甲高くかわいい声ももう聞こえない。
堅苦しさから解放されたプラチナ毛の猫のように、校長は椅子から伸びをし、──叫んだ。
「あーーーー、風紀などやってられるかァァ!!! ここはブク高だぞ、あのモテヤバ無双伝説、不黒のふぅーちゃんのさいきょーの城だぞおおおおはっはっはー!!!」
「お館様、お呼びでしょうか?」
青い茶人帽をのっけた金髪の者は、天を仰ぎ叫ぶ校長の元へとやってきた。悠然と突っ立ちながら茶人、水野サーガは校長のことを見つめて待機している。
高そうな椅子に深々と沈んでいたお館様(校長)は、咳払いをし取り繕いながら、彼女の異国色の顔立ちを微笑い見つめ返した。
「ごほんえほん……おっと来たか……! というわけで、えぼんっ……──『風紀など みだしてみせよう ホトトギス』。もはやトモリーのホトトギスあらため〝ひよこ〟に対する過保護っぷりは看過できん! なにやらこそこそ部室でひよこ(ピネスくん)を監禁して、鶏ちゃん1号2号ばりに飼育しているようだが……これ以上風紀委員部なるものが必要以上に幅を利かせ増長しては、私のスペシャルな威厳も傷物になるというものだ。サーガ、作戦開始だ。この学校に元来ふきぬける自由青春の風を穿ち取り戻せ!!!」
どこからか取り出した黒い軍配を、右に勇ましく切る。風紀委員部の好きにはさせない、そう告げさらにテンションを高めたお館様に、サーガ生徒はかしこまり頭をかるくさげた。
「至極、ラーゴム……! しかしいかにして? やはり【桜茶】の方をご用意しますか?」
「ふむ、それを頼むつもりであった。そして、この学校は私の城だぞ? そこにDPがあれば教室のひとつやふたつ増やすことが可能だ。この校舎自体が一つのダンジョンのようなものだ不可能はない! 先ずは────」
このところあの正義感溢れるピンクの探偵帽に目をつけられていた校長は一種のストレスを溜めていた。連絡アプリのPINEでいかがわしい自撮り画像を男子生徒へと送りつけたりするも、それでは全然満たされず。
そしてここに来て、無事フラストレーションは爆発。
校長は茶人の水野サーガ、その権力者に近き協力者を得て秘密の企みを共有する。
密かに練られた計画の先駆けは、皆が寝ついたころの暗がりにまみれ遂行されてゆく……。
▼▼▼
▽▽▽
午前5時55分。長年にわたり染み付けてきた執事の体内時計に狂いはなく。だが、彼女が目覚めたときには、そこはなぜか知らない白い箱の中であった。
状況を確認する──。
執事たるものだらしない黒のパジャマ姿のままではいられない。彼女は仕方なくハンガーラックにかけられていたメイド服へと着替えた。
紫まじりのアッシュカラーのショート髪をすっきりと整え、最後にホワイトブリムをその頭に装備するかを手鏡越しに己の顔を見つめ悩んだ。
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簡素な白い空間に置かれていたベッドに寝ていた彼が目覚めた。ぼんやりと鮮明になっていく目覚めの景色に、上から彼の目覚めを見守るメイド姿の誰かがいる。
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▽
目覚めたその寝ぼけ顔、その飛び跳ねた鳥の巣のような黒髪は、メイドの手腕で慣れたように直されていく。
ベッドに腰掛けながら、手際のいいメイドに身支度をされていく──。そして今、とてもキリっとした着慣れない黒いタキシードを纏わされた彼は、一言つぶやいた。
「あぁー、なんでメイド服?」
「やっやはり、似合わないでしょうか?」
「いや、そうじゃなくフツウに似合ってっけど。で、俺はなんでこの──……に? そんでここは……寝てる間に一体何があったんだ? ろう?」
「しっ、知りませんが……私も朝目覚めたときにはそのように指示され用意されていたので。あっ、こちらです(執事姿のタキシード、やはりますますこれは……)」
⬜︎PINE
謎のモテヤバ伝説X:メイド服に着替えよ
タガヤ:ここはどこで?あなたは誰なのですか??
謎のモテヤバ伝説X:こらっドアをつよく蹴るのをやめたまえ。わたしは、謎のモテヤバ伝説X。わたしの出すモテヤバクエストを全てこなさないかぎり、ここから出ることはできん。メイドらしからぬ振る舞いを取ったペナルティとして、そのドアはさっきの8倍ほど硬くしておいた。無駄だぞ? 蹴るなよ?
謎のモテヤバ伝説X:男はタキシード服に着替えよ
謎のモテヤバ伝説X:ミッションクリア。次のクエストを待て
⬜︎
タガヤの見せたスマホのアプリPINEのメッセージログには、謎の人物との穏やかではないやり取りが記載されていた。
「あぁー……これか……指示って。…………あっ、いっそドアを吹き飛ばすか? ってアイツ……今ないんだったわ?」
スマホ画面を訝しみ見たピネスは内容の5割ほどを理解し、腰のホルダーからさっそく剣を抜こうとしたが、ソレがないことに今気づいた。無意味になったモーションをやめて、両手をなす術なくひらいた。
「ハイっこのように──もう何度かソレは試みましたが、不思議と修復されてしまうようでして。それも蹴るたびにどんどんと硬く……私もいつもの靴がないと……本気でやれば、まだいけそうな気もしますが」
「たしかにドアにえらく攻撃したあとがあるな……いったいどうなってんだこれ……?」
▼
▽
指示される様々なモテヤバクエストをこなし、喉も乾いてきたところに、クエスト報酬として獲得したティータイムセット。
とりあえずポットから注ぐ茶を一杯。メイドは薄いピンク色のハーブティーをカップへとふたつ注ぎ、ベッドに腰掛けながら二人はそのありがたい茶で一服をした。
もうどこか慣れてきたようだ。この訳の分からぬ状況にも、二人はあまり焦らず順応し、そしてまた次のクエストを待つ間を有効活用し雑談にいそしんだ。
彼女の通っていた道場のことや、技のこと、ぱーぷるまーくぐるーぷのこと。気になっていた話題の方は尽きない。
「えバーミンも? ジョナジョナも? ベストも?」
「はい。庵-Dream-も、ステーキベストも、かつとんYYYも、すべて〝ぱーぷるまーくぐるーぷ〟の運営する傘下チェーン店です!」
「すっ、すげぇ……むかしに一度は行ったことあるとこばっかだ……」
「あっ、そうでした! これ、【パープル優待割引券】です。1年間ぱーぷるまーくぐるーぷに属するどの店舗も全商品が30%OFFになる特別なクーポンです。使用日から数えて1年間、何度でも利用可能なクーポン券です!」
メイドのスカートポッケから取り出した紫のクーポン券。和紙のような上質な肌触りのソレを、ピネスはなんとなし反射的に受け取ってしまった。
使用日から1年間全商品30%OFFしかも何度でも利用可能。そんな嘘か真か、彼女が言うからにはマコトにちがいないその夢のクーポン券を、ピネスは今手にしているのだという。
「え、いいの!?」
気のいい親戚に一万円札をぽっと手渡されるより、ピネスにとって衝撃的であった。
「はい、実はお嬢様からもあなたへぜひと! お渡ししようと思っていたところです! 過去にもお世話になった知人にお渡ししたことのある券なので、どうか構わずそのまま受け取っていただければ……」
「おおお! すげええッ、こんないいのはじめてもらった!!」
ピネスは紫の券を震える両手でしっかりと天にかかげて歓喜している。この男がここまで感情を爆発させるのは珍しい。それほどまでに、いい激レアアイテムをGETできたのだろう。
「ふふっはい。──あっでも……ここには…………肝心のお店がありませんでした……もっ申し訳ありません!」
「あぁー、そうだな」
「「……」」
冷静になって考えてみると、ここにはジョナジョナもバーミンもベストもない。自分たちが共に居るのは、知らないセカイの片隅だ。学校の外側にあるお出かけ先は、赤とみどりのダンジョンだけであった。
しんみりとした沈黙が流れるなか────やがてピネスは、自ずとその口をひらいた。
「でも、よかったのかもな」
「え」
「あぁー……なんつぅかそのお嬢様のそのぉー、アレが、良くなって? 行き先がファミレスより、ダンジョンで?」
「ファミレスよりダンジョン……で…………はい! それは……きっとそうですね!! 僥倖いえ本当に願ってもみない幸運に巡り会えたといえます!!! ──こうはしてはいれませんっ、お嬢様のお目覚めの時間にはまだ間に合いますっっ、私、もう一度アレに挑んできます!!! あっ、そこで休んでいてください! いくらお強いとはいえっ、得物がないとあぶないですのでーー!」
「おっおぅ……無茶すんなよおーー? はは、にしてもここのドア厚すぎだろ。おっ──? よしッ──!」
雑談をしていたメイドのタガヤは、自分を鼓舞するようテンションを高めドアの方へと駆け出した。厳しいゴーレムたちの警備をかいくぐりつつ破砕する、軽妙な打撃音が聞こえてくる。
そんな格闘メイドの楽しげな戦闘シーンを感心しながら眺めていたピネスは、今彼女の繰り出したハイキックに舞い、やがて床へと突き刺さった一本の石の剣に、その目を輝かせた。
⬜︎PINE
謎のモテヤバ伝説X:だからボコスカ蹴るなと言ったろおおお!!!
謎のモテヤバ伝説X:ドア前に、ガードのゴーレムを召喚した。いいか、分からず屋には必ずこの先これよりもドぎついペナルティが待っていると知りたまえ!
謎のモテヤバ伝説X:ドアを3重にした。無駄だぞ。既にこちらは大量のDPを使っている。これ以上そのドアを蹴ることに意味などない。わたしの愛用する足ツボマッサージ機をそちらへ置いた、どーぞ使いたまえ。
謎のモテヤバ伝説X:ホワイトゴーレムを3体増やした。今度は後ろからも攻撃する、気をつけろ、蹴るな、いいなっっ!!! 次のクエストを大人しく待てっっ!!!
謎のモテヤバ伝説X:わたしのことをナメているのか??? わたしは裏のセカイではキミたちの想像にも及ばない悪魔じみたチカラを持つ相当な権力者だぞ。キミたちのことなどその気になればいつでも──PON! っできるのだぞ?
謎のモテヤバ伝説X:こらっゴーレムの武器を奪うなっっ!!! 勝手にひとのもの盗んだら犯罪いいい!!! ゴーレムアーチャーを7体、ゴーレムレクイエムを1体新たに召喚した。クエストを無視した抵抗は無駄と思いたまえ!!! さいきょー無敵の権力者による、さいごのさいごの忠告だっっ!!!
⬜︎
白い空間で繰り広げられた攻防の結果は────
荒々しい傷が残る半壊の四重ドアが、自動修復されていく。部屋のあちこちに破砕し飛び散ったゴーレムの欠片は、復活した一部のゴーレムたちが扱う掃除機で吸われ、お片付けされる。
ドア前の攻防はヒートアップするも、二人の武器装備不足もあってかその堅牢さをあと一歩のところで削りきれず。逆にどんどんと厳重になっていった警備役のゴーレムたちに囲まれ、ついに二人、遠くへと弾き飛ばされ終わりを迎えた。
これ以上の連続チャレンジは息と体力がもたない。そう判断した二人はだらっと、ひとつあるベッドへと腰掛けたままゴーレムたちとの戦いで疲れた身を休めていく。
「はぁはぁ……もう少しでしたね……」
「はぁはぁ……あぁー……」
「でもこれは、思わぬいい修行になっているような気がします!」
「あぁー……」
「どうしましたか?? 少しぼーっとなされ、ぇ!??」
どこかいつも以上に力のない返事をくりかえすピネスに、タガヤは不思議に思い、隣の彼の方を見ようとした。その時──
タキシード姿の男は、急にメイド姿のその女を腰掛けていたベッドへと押し倒した。
突然のことに驚いたメイド服のタガヤは、状況を考える間もなく──不意に彼女の顔に影がおおった。
タキシード姿の彼がなぜか上になり、今、自分のことを顔間近でじっと見つめている。
先ほどの戦闘で汗ばんだ身体、汗のながれる顔が近くにある。彼の肌が流す玉のような汗が、彼女の肌へと滴っていく。そして彼女の身を押し倒したまま、彼のその顔面が近づいてくる。
(この顔やっぱりバトラーバトラーの……シャイ──!?)
やはり似ている、彼女の知る架空のキャラクターと彼が何故だか同じように見える。彼が執事らしいタキシード服を着ていると、彼女には余計、彼とそのキャラのことが重なって見えたのだった。
しかし事態はそんな妄想と現実を重ね合わせているどころではない。彼女の身に、彼女のその顔に、その誰にも触れられたことのない彼女の唇の元へと、近づいて来ている。
過去最高のゼロ距離間近に、近づき切迫していく。唇を湿らせあたる彼の息遣いは、もう……
「だっだめ……です……あっ……せめてシャワーをっ────!?」
あわて呟くそんな意味のないありふれたセリフも、唇を重ねる間の時間潰しにすぎなかった。タガヤは無言で息荒く迫る彼に、その唇を何もできず──あっさりと奪われた。
そしてただソフトに唇の肉が重なっただけではその体験は終わらず。滑り込んでくる彼の肉舌を……なすすべなく中へと受け入れてしまう。
彼女の目がとろんと目尻が溶けてしまうほどに────深い深いキスがつづいた。
初めてのキスは、とても、とても長い。
やがてしっかりとお互いの味を味わった……唇と唇がはなれる。乾いていた舌と舌が、豊かなぬめりを帯びて透明な糸をひきはなれた。
きっととんでもない表情をしている……。タガヤは己のはしたなさをぼんやりと自覚するが。
まだこの先がある────もう目の前の彼はきっと止まらなく、自分はきっと彼を止められない。
タガヤは自分の運命を悟ったかのように、混ざり合ったその唾を飲み込んだ。
▼
▽
黒いワンピースの前ボタンは外され、あられもなく……。
黒布から露わになったタガヤの生乳に、ピネスはむしゃぶりついた。ピンと既に勃った乳首に吸い付きながら、右手はそのやわらかな白肌の山なりを揉みしだいていく。
「あっ♡あっやっ♡あっ♡♡」
露出したばかりの胸部をむちゃくちゃにされている。いつもはお嬢様の執事を立派に務めているクールな彼女が、今は形無し──ただの雌のような声を上げている。
乳首を吸われ甘く噛まれる、そんなあまい刺激が電流のように押し寄せる。おっぱいを揉まれ彼の手が荒く触れる度に、彼の舌が唇が肌に吸い付く度に、感度よく喘いでしまう。
既にずっと挿入をされながら、一心不乱に膣の中を、奥を、突かれる。メイドはスベテを彼の為すままに掻き乱されていく。
白いエプロン部と肩の天使の羽のようなフリフリも、今はただ雄を扇情するだけの飾りと化している。
もはや執事としても、メイドとしても彼女に威厳はない。ベッドの上でタキシード姿の彼に抑え込まれ、ただただ雌穴を硬く熱い肉棒で何度も突かれ、突かれる度に喘ぐばかりであった。
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▽
いつの間にか体位は変わってバックから────
はしたなく捲り上げられたメイドのスカート、即その雌穴をハメるためにずらされた紫レースのぐちょくちょに濡れたパンツ。
パンパンと激しくリズムよく水音を立てる。だくだくの愛液で滑りのよくなった雌穴に、ピネスの硬い肉棒がスムーズに侵入を繰り返していく。
生意気にもよく馴染む雌穴が、きゅんきゅんと収縮し中にとらえた硬い肉棒を締め付けてくる。
アッシュカラーの彼女の髪はその尻肉を打つ振動に乱れ、冠していたメイドの象徴たるホワイトブリムも床下へと落ちた。
タガヤは尻をつきあげたまま彼にその穴を差し出し、気持ちよくなるためだけに使われている。
白い枕にしがみつきながら唇で枕を噛む。打ち付けられつづける快感に、涎で枕を濡らし堪えている。
お嬢様の執事であるそんな自覚とプライドからか、喘ぎ声をできるだけ殺すも────それでももう、タガヤは堪えることはできなかった。
段々とスパートをかけるように、高く差し出された雌尻に打ち付ける腰が速まっていく。膣内を、奥を、熱く擦れる膣壁を、ただただ何度も掻き乱された。そして、堪えきれないタガヤ自身も聞いたことも発したこともない雌声が、心とカラダの奥底から漏れていく。
そしてついに、一線をおおきく超えてしまい──白く吐き出されてゆく。
獣が獣に覆い被さるように腰を掴みながら、──射精。
奥の奥へと張り膨らんだ亀頭の肉が突き刺さり、どっぷりと鈴口から精が放たれた。
もう何度も絶頂していたタガヤは最後の最後まで、そのカラダを余すことなく使われつづけた。ただただ、その慣れぬ身に、彼の擦り付け吐き出す許容量オーバーの快感と多幸感を共有し受け入れつづける。
やがて、愛液にまみれ、てかてかと光る雌尻から飽きた彼の棒が引き抜かれてゆく。
白濁のミルクが粘っこく、ひくひく痙攣する肉穴から名残惜しそうに垂れ下がっている。
上げたままだったタガヤの痙攣する尻は、チカラなくベッドの上に下がりながらその体ごと倒れた。枕にしがみついたまま息を荒げるタガヤは何も言えず。頭はピンクの快楽、雌として突かれ使われつづけた多幸感に染まり、思考も体もショートしている。
「ここで合ってる? あのぉー、おにぎりモーニング【竹】セットお持ちしまっ────へ??」
あの硬いドアとは別の方向に取り付けられていた小さな隠しドアが、おそるおそる開いた。出前を届けるよう注文を預かった者が、その未知の白い部屋へとやって来た。
おぼんに乗せたおにぎりセットを注文どおりに持ってきた緑頭巾の緒方は、────今、その目にはいった光景に驚き唖然とフリーズした。
白くだだっ広い何もない部屋、その部屋にぽつんと一つだけあるベッドの上で、女体が力なく転がっていた。さらに黒いタキシード服を着たどこか見慣れた男子の顔が、ゆっくりとこちらに近づいて来ている。
いつもと雰囲気が違う黙りこくった黒髪のその男は、思考を停止した緒方へと、ユラユラとした足取りで近づき──そのかわいらしい戸惑う彼女の顎先に手をふれる。
「うっ、浦木く……ンッ!?? ひゅぇ!??」
おぼんに乗せられたアルミホイルの三角が、ひとつ、ふたつ、オチていく────
フリーズする。唖然とした頭巾姿の彼女、その黒い目の上目遣い──見開いて彼を見上げる。瞬きも出来ない。
間近に迫り、添えられた彼の手が彼女の顎をくいと持ち上げる。彼の吐息が唇にぬるく触れている。
そんな平然とキスまで至りそうになった雰囲気を、止まる唇と近づく唇の距離がなんとかゼロになる直前で緒方は恥じらい拒んだ。断ち切るように目を横に逸らす、ドキドキと跳ねる心臓で後ろへとたじろぎながら、さがっていく。
それでもめげずに超積極的に寄ってくるタキシード姿の男子に、追い詰められてゆく頭巾娘は、いつの間にか、その華奢な背がベッドへとお尻からよろけ倒れてしまい────。
倒れてすぐ、前掛けのエプロンを外されひん剥かれてしまった胸部。前ホックを開かれた白いブラジャー。そしてボタンの乱れ外された制服の白シャツから、たゆんと露わになる彼女の大きな肉付きはとても魅惑的なカタチと感触で……。雄のみだらな欲望をじゅうぶんに硬く、掻き立ててしまった。
ゆっくり、ゆっくり、挿入されてゆく。みちみちと掻き分けてゆく、乳肉の双丘のナカを……。
緒方は下半身を露わにしたピネスに、馬乗りになられながらパイズリしてしまっている。
「ひゃふ!? ふぇっ……むきゅぅ……!??」
熱帯びた棒がドキドキと高鳴る自分の鼓動の上にある、眼前の肉突起が先端の鈴口をひくつかせている。硬い硬いものが何度も行き来する、擦り付けるように、自分のおっぱいの間を──。
もはや反応し出てしまっていた彼女の声にならない声も黙るほどに、自分のモノを両手で掴まれて、寄せられて、使われ続けられている。
(これ……って……あっ、あのときのようにゃっ……!?)
緒方は息荒げるピネスになおも必死に馬乗りに乳肉を突かれながら、思い出した。忘れていたというよりは、自分の中で記憶に何重も海苔を巻き封をしていた……忘れられないあのダンジョンでの一件、恥じらいを。
突かれる度に緒方の頬は赤く染まってゆく。柔い肉のはざまを突く度に、カウパー汁が胸肌を透明に汚した。期せずしてナカの具合が良くなっていく。
近くに打ち付けながら響くその卑猥にもぬちゃつく水音が、あらぬ妄想を掻き立ていっそう緒方の恥じらいを増し、ピネスの肉棒の快感をただただスムーズに増していく。
そしてどんどんと、彼の腰使い、ピストンするスピードは速くなり──
(こっ、これってぇ…………)
うとい緒方にも分かった。ここから先、何が起きるのかを。
ぬちぬちぱんぱん────響くエッチな音と彼の鼻息が荒くなり、ついに────
ぎゅっとおっぱいを掴まれて使われながら、寄せた乳肉の間へと、奥深く挿し込み止まった腰は、震え──射精。
水鉄砲を射るような勢いで飛んだ。乳の山を越えた先にある緒方の驚いたその顔を目掛けて、白く熱い線が、無遠慮にも引かれていった。
瞬間、目を瞑り顔面で彼の昂り出たザーメンを受け止める。反射的に右に沿った顔は、唇は、熱い白濁によごれた。重く動けなくなるほどのザーメンを浴びてしまった緒方は、盛大にひっかけられながらも、なんとかその目をこじ開け、状況を確認する────。
開かれた、べとべとの乳の間から見える景色。
さっきまで逃げれないほど跨られていた重さはなくなり、真横にタキシードを着たままの浦木幸がぐったりとうつ伏せに寝転がっていた。精を放ち体力が尽きたからなのか、電池が切れたように止まりぐったりとしている。
「お、終わった……の…………ほっ……」
依然ドキドキしっぱなしの心臓も少し落ち着き、ようやく終わった行為に、彼女は少し安堵の息を吐いた。
それから緒方は冷静に思考し直し、いやらしく白く汚れた身体のことや、ずっと鼻腔を刺激し打つ特別なこのニオイのことも赤面しながら気にしたが……。とりあえず彼が使い終え自由を得た自分の体を、ベッドから起こそうとした、そのとき────
「え──」
視界の横から不意に突き出てきた肉棒がビンビンと元気に、彼女の目の前をちょうど目隠しするように遮った。そのたくましい長さで、彼女の視界をいっぱいに覆った。
起こそうとしていた緒方の背は、またベッドの上へと押し倒され逆戻りする。そして今度彼が興味を示したのは──緒方結美はもう、分からなくても悟る。
ドキドキと熱く高鳴る彼女の胸はきっと警告する。胸肉を突かれつづけ勘違いし分泌する液に、履いていたパンツは湿り、今を恐れながらもその先がどうなるのか期待してしまう。
緒方結美は覚悟する──積極的に自分のことを襲う彼に、流されるがままに。ついに弱々しい抵抗もせずに、様子のおかしい彼へとすべて、この身すらも放棄して。
結ばれていたトレードマークの三角頭巾はほどけ、おにぎり娘の束ね纏めていたポニーテールは、ふぁさりと、シーツの上に広がる。
そして大事に何かを隠す素振りをしていた、その彼女のブク高制服のスカート生地は、彼の迫る手に捲り上げられた────。
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▽▽
丁寧に折り畳まれた緑の頭巾の上に、緑の髪留めは置かれた。緒方結美はベッドですやすやと、穏やかな顔で眠っている。
正気を取り戻したピネスとタガヤの二人はお互いに、陥っていた状況をすり合わせ理解し、過ぎたことをお互いに謝るしかなかった。
────部屋に仮設されたシャワールームで順番に身を清めさっぱりと──洗い流していく。
そして、お互いを許し合い、すっかりとまた元のように話せるようになった。やがて、タガヤは彼に対してずっと隠していたことを、その彼の顔面を紅潮し見入りながらも明かした。
「バトラーバトラー……主に執事と執事が守るべきものの為にたたかうッ、バトルソーシャルゲームです!」
「あぁー、──え?? なっなに? ハドラーハドラー??」
どこかまだぎこちない雑談の最中の突然のことであった。スマホの画面を見せながら少し興奮したように、メイド姿の彼女は執事のような格好をした彼に向かい言っている。
初めて聞く情報と単語にピネスは理解が追いつかず、トーンを上げたタガヤに戸惑い問い直した。
「それに出てくる【溜息のバトラー:シャイニー】が、あっ……あなたがすごく似ていて!!! バトラーバトラーです。バトラーは日本語で執事のことですね」
「バトラーばとらー……ぅーー、つまり? 執事の出てくるゲームってことか?(しゃいにー?知らない単語が次々と)」
『はぁー、他人様のスケジュール管理とか、くそしんど。ほんじつの執事のしごとはおわりぃ。んだ? そんなに見たって人はタヌキには変わらねーぜ?』
「このキャラですっ!」
タガヤはスマホ画面を慣れたようにタッチ操作し、そのスピーカーからテンション低めなダウナー気味の声が流れた。ゲームのホーム画面には長い脚をおおきくはみだし、高級ソファーに寝っ転がりながら〝どーなつ〟を貪るタキシード姿のだらしない男がいた。
もしかして、だらけたオーラを放つそれがシャイニーだと彼女は言うのだろうか。
「このキャラと俺が? ……? ……それはまぁいいんだが? ……あのぉー……こいつほんとに執事? さっきからドーナツばっか食ってるけど、どうも態度がなってねぇんじゃないか。──俺が言うのもなんだが」
タガヤは、ピネスとシャイニーの容姿が似ていると、ずっと隠し思っていたことを明かし話したが。
ピネス本人はいまいち納得いかないようだ。そのスマホに横たわるドーナツ食いの男と似ていると言われても、あまりピンと来ず、それほど嬉しくもあらず。苦笑いともいえないよく分からない顔をするしかなかった。
「じっ、実はいい一面もありまして! 待ってください────戦闘になるとほらっ!」
アクションゲームらしきそのゲームは始まった。彼女の操作する巧みなスマホタップ捌きを隣で覗き込みながら……すごく良い匂いがする。風呂上がりのアッシュカラーの髪の匂いを密かに嗅いでしまいつつも。ピネスは彼女のプレイ画面、自分のそっくりさんだと彼女が言うシャイニーの意外にも防御をしっかりと固めた戦いっぷりを見学する。
『はぁはぁ……わざわざ必死に赤ゲージまで削ってくれてさんきゅっ──腹減ったろっおまちかねぇ【シャイニードライブ】!!!』
『2秒前の俺のことを動かない亀だと嗤ったか? それでもチーターほどじゃない? いんやそこらの兎さんより速いかもだぜ? ハッ、あんたが執事界のユニコーンだって?お上品っ!その白いコートっその高く尖ったプライドまでは蹴られ慣れてはいねぇだろ? こことかっこことかっ!スーパー横のクリーニング代はそっちもちでいいよなぁ!はぁー!兎に角俺は助手席!あんたはこっちだ!ヒカリのドライブといこーか? これがっっおれのっぅもいっちょっっ無限【シャイニードライブ】!!! ──無免だがな』
『怪我はないかお嬢様? はぁはぁ……はぁー、ま、やってるのはゼンブこっちなんだけど、これ医療費はゼンブそっちもちでいい? ──待った!のまえにマスド、よってこーぜ? もちろん、はぁー、運転はわかってるよな?』
血まみれの執事がカメラ目線で微笑い、戦闘が終了した────。守りの戦いが一変、蹴り当てた超必殺技らしきその豪華演出から、怒涛の蹴りのラッシュで白コートの相手執事の体力ゲージを粉砕し、片がついたようだ。
「はいっ。このように──こうみえてガチガチの体を張る防御タイプで、それが彼のアイデンティティーなのです! 赤ゲージからの【シャイニードライブ】背水の状況からの威力を高めた一発逆転劇が、一部のファンの間で人気がすこぶる高いのです! ですが……私も最初は、はっきり言って彼の執事としての資質を疑っていました。とても良い印象ではなかったのですが、むしろこのだらけたキャラとふざけたゲームにたいして執事のはしくれとして怒りすら湧いていました!(同じ執事協会の知人に勧められて始めたのですが) しかしお嬢様のために、執事として未熟ながらも倒れても立ち上がりいかなる危機にも最後まで体を張る。なんだかんだその芯の部分は、悪態と溜息をつくシャイニーにもあったというのが衝撃でして、決して逃げない姿が、あな……あっというのもこのシャイニーは本当に彼専用のレアカードを重ねた4凸からしか働かない、少し硬めのデクのぼうで使えないと昔は呼ばれていまして、私もなんとかしてやっとここまで凸を重ねて、シャイニストとしてシャイニーを使いこなせるように────」
小さく片手でガッツポーズをする、ゲームプレイの方がお上手にできたようだ。タガヤはピネスに向けて楽しげな念仏を唱えている。ピネスの耳には彼女の声がハキハキとよく通ったが、言っていることの半分のはんぶんも掴めず、だが大変熱心で楽しそうなことだけは十二分に伝わっていた。
「なんかわかんねぇが……今のがすげぇえげつなく強いのは分かった……な。でも俺とは、なんつぅか、あぁー、やっぱ、戦闘スタイルとか声の張り方が若干ちがうっていうか……ナ?」
「そっ、そう……ですか? 勝手ながら……すこしシャイニーと似ているかと思ったのですが?」
「そっそうなのか?(俺って戦闘中こんな額から血まみれで、あおるっけ……)俺ってぇ?」
テンションを上げ語っていた彼女は今、見るからに少し残念そうな表情を浮かべている。しかしピネスもどうしても、シャイニーの戦闘力を認めつつも、似ていると認めるのは首を傾げずにいられないようだ。
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『招待コードがありますのでぜひ!』そう言われてピネスは自分のスマホを取り出し、彼女と同じゲーム【バトラーバトラー】を招待されて始めてしまった。招待コードからゲームを始めることでお互いにレアアイテムを貰えるということらしい。直接関係はないが、紫のクーポンを先程もらったことを思い出したピネスは、彼女が趣味として好む、その執事が派手にバトルするゲームに快く付き合うことにした。
「あぁー、これって女キャラとかもいる? 別に男でもいいんだけど」
「いますよっ! 男装風のかっこいい女性執事や、すごくフェミニンで派手な方や、レイピアを携えた眼帯の銀髪執事も」
「へぇーーそーかって、んげ? 眼帯ぃ……ってまじで出やがったんだけど……まさにソレ」
『ふっふ、およびかい?』
「さほどよんでねぇ……なんか複雑だな……俺のスマホに校長みたいなのが……」
「【銀風のバトラー:バラム】ですね。非常に攻撃的な能力持ちで、人気もトップ10に入り、ガチャや性能やエピソードの数など色々と優遇されているキャラです。しかし確かに強いのですが、こちらも性格に少々難がありますね……(シャイニーよりも……)ちなみにこの方は元傭兵で、殺された傭兵仲間のカタキのためにお嬢様のところに潜り込んで──。あっ、引き直しますか?」
「あぁー……そうしたいのは、やまやまなんだけど」
『なにを黙っているのかい? ふっふ、このオ腰のオレイピアがそんなに気になるのかい?』
「どうも俺……眼帯キャラと銀髪キャラに弱いみたいで。あぁー……代わりにキャンセル押してくれねぇか、これ(さっきからコイツが堂々とこっち見て押させてくれない)」
「相当なのですね……(本当に手、震えてる……)ふふっハイ、承りました!」
スペシャルな容姿をしたお方は、この世にたった1人で十分。遊びのゲームぐらいは、眼帯キャラのもつとても強烈な魔力の支配から解放されたいと思う2-D浦木幸であった。
数刻後──この後おくれて目覚めた2-A緒方結美も、男女二人の間でひそかに流行り出したゲーム【バトラーバトラー】を、3-E紫紫刀に同じく招待され、明るい雰囲気に流されて始めてしまったようだ。
⬜︎PINE
謎のモテヤバ伝説X:ゴーレムとあっち向いてホイをし10回連続で勝て
謎のモテヤバ伝説X:クエストクリア38連続とはやるじゃないか男子。
次のモテヤバクエストだ。おにぎりを、あーん♡、と互いの口に食べさせろ
謎のモテヤバ伝説X:追加のモテヤバクエストだ。まずコップの水をこぼしドジっ子メイドを演じる。タキシードを着たご主人様は不出来なメイドを叱る。不出来なメイドは『許してにゃはーーん♡』と猫撫で声で言いご主人様に許しをこえ。
謎のモテヤバ伝説X:おいっ、溜まったモテヤバクエストをそろそろ消化しないとここから出れないぞ? ……あのその? わたしヤバめの権力者でぇ、そろそろ他の部下から提出された仕事の方もお昼がくる前にぃ、やってぇおきたいぃのだが? とぅるとぅるもしもーし?
謎のモテヤバ伝説X:ロックは解除した。もう勝手に出てよし! そーそーこの部屋の試作のゴーレムは、これからは蹴るなり焼くなり腕試しをしてもいいが、あまり壊すなよ?(DPは無限じゃないからな)
⬜︎
「はっは、王冠をぶち壊す見事なクリティカルだタガヤくん。──ダンジョンクエスト達成だ」
「はぁ10Fって言ってたのに、はりきりすぎじゃない?」
「うむ、みんながんばったからな!」
「みんなのことにしようとしてない?」
「ふっふ、まぁまぁ木浪キミもMVPとはいかずとも、縁の下でなかなかがんばったところだ。キミもこの至上の勝利の余韻をしばししみじみっっと! 味わいたまえ」
「別にがんばってないけど、てかあのときその黒いので助けてくれたらよかったじゃん」
「ふっふ、それも今回の課外授業の一環、キミたちがあの全体攻撃をどのように対処するかを見たかったのさ、ふっふふ。なぁに多少くらっても死にはしなかっただろう? レア防具だし、ふふふ」
「はぁ……」
校長は何を言っても笑っている。木浪の吐いたちょっと不満げな軽口も、不黒文校長というミステリアスで明朗な人物の深みと笑い声にのまれてゆく。
「おーいっ」
「あっはい……!」
「最後のすごいな、あぁー、あれってクリティカル?」
ピネスはタキシードの背に駆け寄るやいなや、彼女にいつものゆるい感じでそう聞いた。
「クリティカル? いえ……少し無我夢中で……感触もあまりおぼえてなく……そのようなものではないかと……。なんとか絞り出した師範から教わった道場の技です」
「道場? あぁー、そういや脚ばっかなのってその道場ってので習ったのか? (なんかやってる人の動きだったな明らか、俺とちがって)」
「はい、といってもそれは私だけで。その方がいいと、拳剣流ではコンセプト外として長らく使われていなかった脚技を特別に習わせてもらいました」
「へぇー、それはすごいな?(アレなんだっけサンチュが習ってたとかいう……そうそうテコンドーっ、それみたいなものかな?)」
「いえ、私など師範にはまだまだきっと今も足元にも……それに」
「のわっ!?」
「えっ!? どうなさいました!?」
「なんか急にくつっっ靴紐がっ!?」
タガヤとの話の最中に急に前へと激しくこけたピネスは、みっともない格好で倒れながら後ろを見た。
「ふむ易々と破壊されてしまったか。ならば今度は二重に【ストーンウォール】をいっきに練り上げる必要があるということだなっふっふ木浪」
「1枚でげんかいなんだけど、校長がバケモノなだけじゃない? そんなこと同時にしたら魔力っての絶対もたないし」
「ハッハッハ、わたしがバケモノか!? ふむふむあながち──そうだなハッハッハ!!! いやいや木浪、己の限界値それがわかっているのならばキミもスペシャ──」
木浪が普通に校長と話しあっているだけであった。いくらオレンジ髪の彼女を見つめて疑えど、その横顔はピネスに目が合うこともない程、校長から先ほどの戦闘のアドバイスを熱心に聞き入っている。
「あっアレェ……??」
勝利の余韻に浸る間にも、ダンジョンにガス状になり還っていく魔物のケイオスエネルギーは、その一部を祝福幸運をお裾分けするコスモスエネルギーへと凝固し変換される。
カタチを成してゆく金色、銀色、純白。階層ボスとの激闘を制した、そんな体力魔力とカロリーの消費量に見合う宝の出現にこの場の誰もが目を向け見惚れてしまう。
冒険者たちの期待に応えたように、宝箱武具の数々は絢爛とそのかがやきを放ちあらわれた。
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「きのこさんが大量、びっくりしいたけしめしめしめじッッ、きのこさんの宝庫ユートピア!」
緒方の異能冷蔵庫が全室満腹になる程の量のきのこが、榎田椎名の手により採取され仕舞われた。
みどりのダンジョンは不黒ダンジョンよりも、自然みどりの景色豊か。きのこたちもこの新たなダンジョンの土壌と空気が気に入っているのか、きのこにうるさい榎田椎名も大満足する程のたくさんの数を採取することに成功していた。
既にどこからか出されたいつもの七輪は用意された。やはり現地で焼いて食べるきのこは格別。榎田椎名として譲れないルーティンは、ノリのいい校長に許可され、七輪の網下の炭が赤熱されその期待感を灯してゆく。
気分るんるん涎じゅるじゅる。榎田椎名は再度冷蔵庫にしまったお宝の方を確認する。
開かれてゆく、新種、色とりどり、香り豊かな白き宝物庫は────
「────……ん?」
ニコニコされた糸目を思わず開眼した榎田椎名は、我にかえったような真顔で冷蔵庫の冷気を顔にあびている。
そこには食いかけのきのこ。と、──白いもふもふ。
レアなきのこたちの面影を白い嘴で啄みながら、〝ちっちっちっ〟と陽気にさえずっている。
目をこすってみる。榎田椎名は冷静だ。きっと新種のきのこの香りをいっぺんにかぎ、ナニか一時的な幻覚症状にかかったのだと判断した。
鼻を摘み、目元をゆっくり、お手手で拭うように往復する。
「────……んんん?」
しかし、こすれどこすれど……啄まれ、眼前にあったきのこが失せただけであった。
白いもふもふのモヤは彼女の視界のそこに消えない。冷蔵庫からもれでる冷気が顔にあたり、彼女を夢想からよからぬ現実のレールへと引き戻してゆく。
「のこっ!??? きっ、きの、きのこっここここ!?」
「ここここ? どした、え、なんだこいつ?」
「なにこの白いもふもふ、はーぬけの弟?」
「俺の弟が冷蔵庫にいるかっ」
「これは……え?」
「緒方さんなんか知ってるかんじか?」
「いや……わたし……草陰に落ちていたすこしおおきめの卵を、卵入れのそこにコツンと置いて……それももう一度見た時には消えていて幻かとおもっていたんだけど……たぶん……」
「へぇー、じゃぁそれじゃんむっすー」
「え、でも、こんなことって……反射的にみんなにだまって回収しちゃって……卵がかえるそんなことって?」
「あんじゃね? ダンジョンだし」
「あるよね。ダンジョンだし」
「おーーハッハッハ、これはこれはダンジョンだしな? あるだろーーーー!!! ハッハッハふっふーーーー!!!(モンスター育成要素かぁ!!!)」
「あるの……かな……(卵焼き……いや、たまごかけ……ごはん!)」
「こっこれは……カロっっっ(ちきん!!)」
次々と顔を出し、冷蔵庫の中にいる白いもふもふの鳥類の姿を覗き見るブク高パーティーたち。
そんな中一人、力なく押し出され。その密集する集団の輪から外れ、両手をつき倒れている茶色のシスター服がいる。お気に入りのしいたけ帽が無造作にみどりの地に落ちたまま拾おうともしない。なんともいえない哀愁を放っている。
新たな食材の未来と可能性を妄想し、喜んでしまっていた緒方は、そんな榎田椎名の異変に気づき慌ててフォローにはいった。
「ダッ、大丈夫こっちもつめたから! きのこ──をっ!?」
〝ちっちっちっ、ぴよぴよ……〟
野菜室を開けたらそこにはもう一体、いやもう一匹。冗談にも思える、囀る白いもふもふのデジャブ。
だがめげずに、緒方が慌て冷凍庫を開ける。よく冷えたチェーン、ソード、盾……すっかり腹一杯の武器庫と化していた。
「ふむ、ドロップモンスターが2体か。これは夢が広がるな!!! いやいやほぉー、ぴーちくぱーちくよく食べてかわいらしいモノだな。ふっふ、まるでピネスくんのようだ」
「あのぉー、俺の認識とぶんるい、どうなってんの」
「ほんとだ、こっちもはーぬけっぽい」
「もう、お好きにしてくれ」
ブク高メンツがまた戯れだした間にも、飛び蹴りをくらったかのように輪の外へ、盛大にダメージをもらい倒れるきのこのシスター。
まだ冷蔵庫にむらがり戯れている連中と、心やさしき見かねた連中は分かれる。必死にコレクトして最後の楽しみにしていたきのこを失ってしまった、そんな悲嘆に暮れる彼女を励まそうとした。
「元気出して、一曲」
ハープの音色が、微笑む金髪ショートの冒険者に奏でられる。流れてくるのは元気の出る楽しげなメロディーだ。誰もが知っている明るい歌、しかしそののどかで明るいみどりのメロディーから想起すると、どこかチャらけているようにも聴こえる。
「あぁー、ひよこというより」
「アヒルじゃん」
「鶏だと思います!(カロリー!)」
「うん……!」
「あ、なんかよくみたら尻尾くっついてるけど」
「馬か?」
「馬鹿なの?」
「鶏!」
「うん!」
「いんや、【コカトリス】! ふっふぅー!!」
新たに挑んだ《みどりのダンジョン30F》。激闘の果てのご褒美で、なによりも皆のテンションの上がったお宝は白いもふもふのいきもの、二匹。ハープの奏でる明るいみどりのメロディーとともに、笑い声は絶えない。
一方、三度地に伏した榎田椎名は、救済失敗した啄まれるきのこたちの様を見て【コカトリス】のことがすこし苦手になってしまったようだ。
主である緒方と連動する異能冷蔵庫、その室内に充填された内在魔力に冷やされ、冷蔵庫内で早くも孵化した白いもふもふの小型モンスター。
その冷えた揺籠の中に収納されていた香る栄養の宝庫を残さず啄みつくし──、愛らしくたくましく、二匹の【コカトリス】はみるみると異常速度の成長を果たした。
【鶏ちゃん1号】、【鶏ちゃん2号】と不黒文校長に命名された二匹のコカトリス。簡易に設けた木柵の鶏舎を、ばさばさと羽を泳がせるジャンプで飛び出し、運動場のグラウンドを元気にその鳥足で走り出した。
不黒高等学校に新しく仲間になった、ダンジョン産、冷蔵庫生まれの鶏ちゃんず。その二匹のモンスターの元気な様を、グラウンドの片隅から眺めていた三人の女子は突然──表情を豹変させた。
場違いのビーチフラッグ競争のごとく始まってしまった。今、グラウンドにぽとっと落ちた白い物体を一斉に指を差し、女子三人は慌てた様子でそれを追いかけた。
「おっ、おにぎりいいい!(醤油漬け!)」
「育成ビルドおおお!(さいきょーのふぅーちゃん魔獣軍団の足がかりいいい!)」
「カロリーーー!(たまごカツサンド!)」
ナニかを熱心に、されど慎重に取り合っている三人の女子がいる。完全に我を忘れている女子たちは本能と欲望だけでその白を追いかけ、手にし、何かを同時にのたまっていた。
やがてみっともなく取り合うその手を止める。少し冷静になった三人が、今何事かと近づいてきた男子の方を、一斉にひとつの群れのどうぶつのように振り返り見た。
「あぁー…………俺も、食べるかな? ……ひとつは?」
そう苦笑いをしながらためて言い、ピネスはそっと指を指した。
彼に指をさされたのは女子たちの背のさらに向こう側。女子たちはまた同時に振り返る。
今、争奪戦になっていた同じような白い卵が────交差しながら遊び走る鶏ちゃん1号2号の後にぽとりと、もうひとつドロップしていた。
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校舎本館1F、スペシャル仮眠室にて。
この部屋は現在貸切である。ベッドに寝ながらにリモートで授業を受けられる、壁面投影高性能プロジェクターも備えてあり、体調が悪いが学校へいく意欲のある生徒への配慮も、スペシャルな校長率いるこの学校には完全完備されている。
今日はそんな特別な部屋のベッドで休みがちである、水色髪の華奢な生徒の元へと、いつもの執事に加えて二人。ベッドに座る生徒もよく知っているスペシャルなお方と、一度だけ顔を合わせたことのある男子生徒がやって来ていた。
そのみどりの眼帯を解放し、魔力に満ちた灰色の眼で再度、問題の女子生徒の細身全身を見つめた。そして────不黒文校長は紫紫檀生徒の水色の頭に、用意していた白いティアラをしっかりと装備した。
「ふむ。これでおそらくマシになったことだろう? ふっふよく似合ってるぞシタンちゃん生徒」
⬜︎タコイカ学習帳
【白蛇の純白翼のコカトリスティアラ】★★★★★★★★★★★★★★★
魔力ダメージを受ける度に魔力量回復 小
ドレイン耐性 大
ドレイン耐性 中
毒麻痺耐性 中
闇耐性 中
感覚+8
雷+4
鳥の眼+2
蛇の眼+2
浮遊+1
⬜︎
「お嬢様……いかがですか??」
「うん、だいじょーぶタガヤ。いいかんじ、いつもより腹の虫はおとなしいよ」
「そっそうなのですか! お嬢様!」
「うん、そうだとおもうよ。ありがとうタガヤ、校長先生、それと?」
美しいティアラを冠した紫檀生徒は、掛けたベッドから執事、校長、男子生徒へと順々に顔を合わせてわらっている。
「あぁー俺は浦木幸だけど……あのー、なんか盛り上がっててうらやましいかぎりだけど……ほんのいまいちぃ……ぅーー、その話ってやつが読めないんだけど、俺?」
▼
▽
すやすやと眠る艶やかな水色髪のお嬢様に布団はかけられ──
ほぼ何も知らないピネス生徒へと、お付きの執事による《お嬢様の特殊体質に関しての説明》はできるだけ分かりやすく話された。
「あぁー……? そういや茶室で倒れてたっけ。たしか正座してお互い挨拶の途中で、それっきり?」
「はい、お嬢様は人より活動にともなうカロリー消費量が何10倍もはげしく。少々おおめの食事と、こうして安静にしていることが必要なおからだでして……」
『たまご、醤油漬けおにぎり……んにゅー……タガヤの……かつさんど……』
ティアラを装備したまま、お嬢様はいい笑顔でベッドの上で眠っている。さっき食べた緒方のにぎった栄養満点のたまご醤油漬けおにぎりが美味しかったようだ。執事のタガヤはそっと取り出したハンケチで、彼女のよだれを拭った。
「そして恐らくは魔力の漏出。常時魔力を漏出するなんらかの不可解なデバフが、一般人よりもカロリーを異常に消費させていたというところだろうな。うむ、このスペシャルな私の目で診断したからには間違いはない。(以前から疑ってはいたが、私も異能とこの目が成長したことで確信をもてるほどだ。どこか隠蔽された魔力の流れをうっすらと見ることがかなった。そして今は──うむ)」
眼帯をしている右目を、みどりの布地の上から撫で上げてアピールする。不黒文校長が欠片もふざけてはいないことは、タガヤとピネスにはその仕草と真剣な言動から分かるところであった。
「校長が言うなら……そうなんすね? で、このコカトリスから手に入れた宝箱のティアラが、そのデバフによく効いたってこと? なので?」
「ふっふ、そうだ。だからこれはキミのおかげでもあるなピネスくん」
「はい、あっあなたにも此度は大変お世話になりっっ大変助かりました! ありがとうございます!」
執事は改まり校長の言葉につづき、彼に深々と頭をさげて礼の言葉をはなった。
「いや、俺はなにもだが……。まぁ俺の異能で出たドロップアイテムが巡り巡って、このおねむなお嬢様が良くなったんなら、ふっ、よかったぜ?」
「はっは、ならばこの調子でどんどんユニークで激レアな装備を集めることだピネスくん! タガヤくん!」
「はーいっ、え? どんどん?」
「何言ってる! まだまだ完全にシタンちゃんの呪われたしつこいデバフが治ったわけではない。いくらぱーぷるまーくぐるーぷのスペシャルなご令嬢シタンちゃん生徒とはいえ、ずっと鶏ちゃん0号のティアラを頭に付けたままというのも飽きてしまうだろう! 女子は毎日違ったオシャレをしたいというものだーー! まったくぅ、ピネスくん駄目だぞそんなことではーーーはっは」
「でっ! できればご協力を! 今回のことで、特にあのコカトリス戦、同じ前衛役をやらせてもらったうえで己の力不足を痛感しました! 以前の茶室でのご無礼は謝ります! 再度、いや何度でも機会があれば謝らせてください! やはりあなたは……師範級! いえゴールドグローブクラス! その実力をたのんで! どうか! お嬢様に、このわっわた」
「ごっゴールデングローバルクロス?? なっなんだそれ……あぁ、まいいけど。つってもこればっかりは運だからなぁー。俺にできることは目の前にやって来たモンスターを倒すぐらいだけど……それでいいなら──いいぜ? てかこっちも前でやってくれる人が増えると、余裕というか安心感が増えるというか? こっちからもよろしく頼むって感じで? はは」
「ふっふ、大丈夫だピネスくん。キミはド幸運のパッシブスキル持ちだからな。これからもダンジョンで彼女とともども、ほどほどに、がんばりたまえ~!」
「先生、そのほどほどってぇ……もはやどれくらいの加減だったか俺わかりませんよ? はは──じゃっ、えっとこうか?」
「ほっ、本当ですかッッ──ありがとうございます!!! えっと、はっハイっっ!」
同じ前衛役の浦木幸と紫紫刀、二人の生徒は校長の微笑みに促されて、しっかりと握手を組み交わす。
腹一杯に眠る紫紫檀お嬢様に関する新たな校内サブクエスト、ユニーク激レアアイテム集めが、不黒文校長により発令された。
手と手は硬く結ばれ、浦木幸はこれからも彼女ら二人に協力することを約束した。
「────と・に・か・く!!! そういうわけでエッチなのは禁止なのっ! 午後8時以降の校内の徘徊ほっつきも控えてなのッ! 校長先生からも張り紙とビラをすって協力してくださいなの! くぬぬぬ異世界でもダンジョンでも風紀は不滅! 心の乱れは風紀の乱れ! 不黒高校みんなの風紀の取り締まりを強化月間! なのですっ!」
机をたたきピンク髪から探偵帽がとぶ。勇ましく叩きつけた清く白いビラの束が、校長の前へと提出された。
「あー、わかったわかった。キミたち風紀委員部の練り上げたありがたい施策については、こちらでおおいに検討しよー」
「ぜったいなのですよっっ! あっそこ! 廊下を早歩きしてはいけないのっっ! 前髪が揺れな────」
風紀委員部部長、小角灯は校長室を後にした。
ドアはきちんとしまり、ちいさなピンクの背丈、甲高くかわいい声ももう聞こえない。
堅苦しさから解放されたプラチナ毛の猫のように、校長は椅子から伸びをし、──叫んだ。
「あーーーー、風紀などやってられるかァァ!!! ここはブク高だぞ、あのモテヤバ無双伝説、不黒のふぅーちゃんのさいきょーの城だぞおおおおはっはっはー!!!」
「お館様、お呼びでしょうか?」
青い茶人帽をのっけた金髪の者は、天を仰ぎ叫ぶ校長の元へとやってきた。悠然と突っ立ちながら茶人、水野サーガは校長のことを見つめて待機している。
高そうな椅子に深々と沈んでいたお館様(校長)は、咳払いをし取り繕いながら、彼女の異国色の顔立ちを微笑い見つめ返した。
「ごほんえほん……おっと来たか……! というわけで、えぼんっ……──『風紀など みだしてみせよう ホトトギス』。もはやトモリーのホトトギスあらため〝ひよこ〟に対する過保護っぷりは看過できん! なにやらこそこそ部室でひよこ(ピネスくん)を監禁して、鶏ちゃん1号2号ばりに飼育しているようだが……これ以上風紀委員部なるものが必要以上に幅を利かせ増長しては、私のスペシャルな威厳も傷物になるというものだ。サーガ、作戦開始だ。この学校に元来ふきぬける自由青春の風を穿ち取り戻せ!!!」
どこからか取り出した黒い軍配を、右に勇ましく切る。風紀委員部の好きにはさせない、そう告げさらにテンションを高めたお館様に、サーガ生徒はかしこまり頭をかるくさげた。
「至極、ラーゴム……! しかしいかにして? やはり【桜茶】の方をご用意しますか?」
「ふむ、それを頼むつもりであった。そして、この学校は私の城だぞ? そこにDPがあれば教室のひとつやふたつ増やすことが可能だ。この校舎自体が一つのダンジョンのようなものだ不可能はない! 先ずは────」
このところあの正義感溢れるピンクの探偵帽に目をつけられていた校長は一種のストレスを溜めていた。連絡アプリのPINEでいかがわしい自撮り画像を男子生徒へと送りつけたりするも、それでは全然満たされず。
そしてここに来て、無事フラストレーションは爆発。
校長は茶人の水野サーガ、その権力者に近き協力者を得て秘密の企みを共有する。
密かに練られた計画の先駆けは、皆が寝ついたころの暗がりにまみれ遂行されてゆく……。
▼▼▼
▽▽▽
午前5時55分。長年にわたり染み付けてきた執事の体内時計に狂いはなく。だが、彼女が目覚めたときには、そこはなぜか知らない白い箱の中であった。
状況を確認する──。
執事たるものだらしない黒のパジャマ姿のままではいられない。彼女は仕方なくハンガーラックにかけられていたメイド服へと着替えた。
紫まじりのアッシュカラーのショート髪をすっきりと整え、最後にホワイトブリムをその頭に装備するかを手鏡越しに己の顔を見つめ悩んだ。
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▽
簡素な白い空間に置かれていたベッドに寝ていた彼が目覚めた。ぼんやりと鮮明になっていく目覚めの景色に、上から彼の目覚めを見守るメイド姿の誰かがいる。
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目覚めたその寝ぼけ顔、その飛び跳ねた鳥の巣のような黒髪は、メイドの手腕で慣れたように直されていく。
ベッドに腰掛けながら、手際のいいメイドに身支度をされていく──。そして今、とてもキリっとした着慣れない黒いタキシードを纏わされた彼は、一言つぶやいた。
「あぁー、なんでメイド服?」
「やっやはり、似合わないでしょうか?」
「いや、そうじゃなくフツウに似合ってっけど。で、俺はなんでこの──……に? そんでここは……寝てる間に一体何があったんだ? ろう?」
「しっ、知りませんが……私も朝目覚めたときにはそのように指示され用意されていたので。あっ、こちらです(執事姿のタキシード、やはりますますこれは……)」
⬜︎PINE
謎のモテヤバ伝説X:メイド服に着替えよ
タガヤ:ここはどこで?あなたは誰なのですか??
謎のモテヤバ伝説X:こらっドアをつよく蹴るのをやめたまえ。わたしは、謎のモテヤバ伝説X。わたしの出すモテヤバクエストを全てこなさないかぎり、ここから出ることはできん。メイドらしからぬ振る舞いを取ったペナルティとして、そのドアはさっきの8倍ほど硬くしておいた。無駄だぞ? 蹴るなよ?
謎のモテヤバ伝説X:男はタキシード服に着替えよ
謎のモテヤバ伝説X:ミッションクリア。次のクエストを待て
⬜︎
タガヤの見せたスマホのアプリPINEのメッセージログには、謎の人物との穏やかではないやり取りが記載されていた。
「あぁー……これか……指示って。…………あっ、いっそドアを吹き飛ばすか? ってアイツ……今ないんだったわ?」
スマホ画面を訝しみ見たピネスは内容の5割ほどを理解し、腰のホルダーからさっそく剣を抜こうとしたが、ソレがないことに今気づいた。無意味になったモーションをやめて、両手をなす術なくひらいた。
「ハイっこのように──もう何度かソレは試みましたが、不思議と修復されてしまうようでして。それも蹴るたびにどんどんと硬く……私もいつもの靴がないと……本気でやれば、まだいけそうな気もしますが」
「たしかにドアにえらく攻撃したあとがあるな……いったいどうなってんだこれ……?」
▼
▽
指示される様々なモテヤバクエストをこなし、喉も乾いてきたところに、クエスト報酬として獲得したティータイムセット。
とりあえずポットから注ぐ茶を一杯。メイドは薄いピンク色のハーブティーをカップへとふたつ注ぎ、ベッドに腰掛けながら二人はそのありがたい茶で一服をした。
もうどこか慣れてきたようだ。この訳の分からぬ状況にも、二人はあまり焦らず順応し、そしてまた次のクエストを待つ間を有効活用し雑談にいそしんだ。
彼女の通っていた道場のことや、技のこと、ぱーぷるまーくぐるーぷのこと。気になっていた話題の方は尽きない。
「えバーミンも? ジョナジョナも? ベストも?」
「はい。庵-Dream-も、ステーキベストも、かつとんYYYも、すべて〝ぱーぷるまーくぐるーぷ〟の運営する傘下チェーン店です!」
「すっ、すげぇ……むかしに一度は行ったことあるとこばっかだ……」
「あっ、そうでした! これ、【パープル優待割引券】です。1年間ぱーぷるまーくぐるーぷに属するどの店舗も全商品が30%OFFになる特別なクーポンです。使用日から数えて1年間、何度でも利用可能なクーポン券です!」
メイドのスカートポッケから取り出した紫のクーポン券。和紙のような上質な肌触りのソレを、ピネスはなんとなし反射的に受け取ってしまった。
使用日から1年間全商品30%OFFしかも何度でも利用可能。そんな嘘か真か、彼女が言うからにはマコトにちがいないその夢のクーポン券を、ピネスは今手にしているのだという。
「え、いいの!?」
気のいい親戚に一万円札をぽっと手渡されるより、ピネスにとって衝撃的であった。
「はい、実はお嬢様からもあなたへぜひと! お渡ししようと思っていたところです! 過去にもお世話になった知人にお渡ししたことのある券なので、どうか構わずそのまま受け取っていただければ……」
「おおお! すげええッ、こんないいのはじめてもらった!!」
ピネスは紫の券を震える両手でしっかりと天にかかげて歓喜している。この男がここまで感情を爆発させるのは珍しい。それほどまでに、いい激レアアイテムをGETできたのだろう。
「ふふっはい。──あっでも……ここには…………肝心のお店がありませんでした……もっ申し訳ありません!」
「あぁー、そうだな」
「「……」」
冷静になって考えてみると、ここにはジョナジョナもバーミンもベストもない。自分たちが共に居るのは、知らないセカイの片隅だ。学校の外側にあるお出かけ先は、赤とみどりのダンジョンだけであった。
しんみりとした沈黙が流れるなか────やがてピネスは、自ずとその口をひらいた。
「でも、よかったのかもな」
「え」
「あぁー……なんつぅかそのお嬢様のそのぉー、アレが、良くなって? 行き先がファミレスより、ダンジョンで?」
「ファミレスよりダンジョン……で…………はい! それは……きっとそうですね!! 僥倖いえ本当に願ってもみない幸運に巡り会えたといえます!!! ──こうはしてはいれませんっ、お嬢様のお目覚めの時間にはまだ間に合いますっっ、私、もう一度アレに挑んできます!!! あっ、そこで休んでいてください! いくらお強いとはいえっ、得物がないとあぶないですのでーー!」
「おっおぅ……無茶すんなよおーー? はは、にしてもここのドア厚すぎだろ。おっ──? よしッ──!」
雑談をしていたメイドのタガヤは、自分を鼓舞するようテンションを高めドアの方へと駆け出した。厳しいゴーレムたちの警備をかいくぐりつつ破砕する、軽妙な打撃音が聞こえてくる。
そんな格闘メイドの楽しげな戦闘シーンを感心しながら眺めていたピネスは、今彼女の繰り出したハイキックに舞い、やがて床へと突き刺さった一本の石の剣に、その目を輝かせた。
⬜︎PINE
謎のモテヤバ伝説X:だからボコスカ蹴るなと言ったろおおお!!!
謎のモテヤバ伝説X:ドア前に、ガードのゴーレムを召喚した。いいか、分からず屋には必ずこの先これよりもドぎついペナルティが待っていると知りたまえ!
謎のモテヤバ伝説X:ドアを3重にした。無駄だぞ。既にこちらは大量のDPを使っている。これ以上そのドアを蹴ることに意味などない。わたしの愛用する足ツボマッサージ機をそちらへ置いた、どーぞ使いたまえ。
謎のモテヤバ伝説X:ホワイトゴーレムを3体増やした。今度は後ろからも攻撃する、気をつけろ、蹴るな、いいなっっ!!! 次のクエストを大人しく待てっっ!!!
謎のモテヤバ伝説X:わたしのことをナメているのか??? わたしは裏のセカイではキミたちの想像にも及ばない悪魔じみたチカラを持つ相当な権力者だぞ。キミたちのことなどその気になればいつでも──PON! っできるのだぞ?
謎のモテヤバ伝説X:こらっゴーレムの武器を奪うなっっ!!! 勝手にひとのもの盗んだら犯罪いいい!!! ゴーレムアーチャーを7体、ゴーレムレクイエムを1体新たに召喚した。クエストを無視した抵抗は無駄と思いたまえ!!! さいきょー無敵の権力者による、さいごのさいごの忠告だっっ!!!
⬜︎
白い空間で繰り広げられた攻防の結果は────
荒々しい傷が残る半壊の四重ドアが、自動修復されていく。部屋のあちこちに破砕し飛び散ったゴーレムの欠片は、復活した一部のゴーレムたちが扱う掃除機で吸われ、お片付けされる。
ドア前の攻防はヒートアップするも、二人の武器装備不足もあってかその堅牢さをあと一歩のところで削りきれず。逆にどんどんと厳重になっていった警備役のゴーレムたちに囲まれ、ついに二人、遠くへと弾き飛ばされ終わりを迎えた。
これ以上の連続チャレンジは息と体力がもたない。そう判断した二人はだらっと、ひとつあるベッドへと腰掛けたままゴーレムたちとの戦いで疲れた身を休めていく。
「はぁはぁ……もう少しでしたね……」
「はぁはぁ……あぁー……」
「でもこれは、思わぬいい修行になっているような気がします!」
「あぁー……」
「どうしましたか?? 少しぼーっとなされ、ぇ!??」
どこかいつも以上に力のない返事をくりかえすピネスに、タガヤは不思議に思い、隣の彼の方を見ようとした。その時──
タキシード姿の男は、急にメイド姿のその女を腰掛けていたベッドへと押し倒した。
突然のことに驚いたメイド服のタガヤは、状況を考える間もなく──不意に彼女の顔に影がおおった。
タキシード姿の彼がなぜか上になり、今、自分のことを顔間近でじっと見つめている。
先ほどの戦闘で汗ばんだ身体、汗のながれる顔が近くにある。彼の肌が流す玉のような汗が、彼女の肌へと滴っていく。そして彼女の身を押し倒したまま、彼のその顔面が近づいてくる。
(この顔やっぱりバトラーバトラーの……シャイ──!?)
やはり似ている、彼女の知る架空のキャラクターと彼が何故だか同じように見える。彼が執事らしいタキシード服を着ていると、彼女には余計、彼とそのキャラのことが重なって見えたのだった。
しかし事態はそんな妄想と現実を重ね合わせているどころではない。彼女の身に、彼女のその顔に、その誰にも触れられたことのない彼女の唇の元へと、近づいて来ている。
過去最高のゼロ距離間近に、近づき切迫していく。唇を湿らせあたる彼の息遣いは、もう……
「だっだめ……です……あっ……せめてシャワーをっ────!?」
あわて呟くそんな意味のないありふれたセリフも、唇を重ねる間の時間潰しにすぎなかった。タガヤは無言で息荒く迫る彼に、その唇を何もできず──あっさりと奪われた。
そしてただソフトに唇の肉が重なっただけではその体験は終わらず。滑り込んでくる彼の肉舌を……なすすべなく中へと受け入れてしまう。
彼女の目がとろんと目尻が溶けてしまうほどに────深い深いキスがつづいた。
初めてのキスは、とても、とても長い。
やがてしっかりとお互いの味を味わった……唇と唇がはなれる。乾いていた舌と舌が、豊かなぬめりを帯びて透明な糸をひきはなれた。
きっととんでもない表情をしている……。タガヤは己のはしたなさをぼんやりと自覚するが。
まだこの先がある────もう目の前の彼はきっと止まらなく、自分はきっと彼を止められない。
タガヤは自分の運命を悟ったかのように、混ざり合ったその唾を飲み込んだ。
▼
▽
黒いワンピースの前ボタンは外され、あられもなく……。
黒布から露わになったタガヤの生乳に、ピネスはむしゃぶりついた。ピンと既に勃った乳首に吸い付きながら、右手はそのやわらかな白肌の山なりを揉みしだいていく。
「あっ♡あっやっ♡あっ♡♡」
露出したばかりの胸部をむちゃくちゃにされている。いつもはお嬢様の執事を立派に務めているクールな彼女が、今は形無し──ただの雌のような声を上げている。
乳首を吸われ甘く噛まれる、そんなあまい刺激が電流のように押し寄せる。おっぱいを揉まれ彼の手が荒く触れる度に、彼の舌が唇が肌に吸い付く度に、感度よく喘いでしまう。
既にずっと挿入をされながら、一心不乱に膣の中を、奥を、突かれる。メイドはスベテを彼の為すままに掻き乱されていく。
白いエプロン部と肩の天使の羽のようなフリフリも、今はただ雄を扇情するだけの飾りと化している。
もはや執事としても、メイドとしても彼女に威厳はない。ベッドの上でタキシード姿の彼に抑え込まれ、ただただ雌穴を硬く熱い肉棒で何度も突かれ、突かれる度に喘ぐばかりであった。
▼
▽
いつの間にか体位は変わってバックから────
はしたなく捲り上げられたメイドのスカート、即その雌穴をハメるためにずらされた紫レースのぐちょくちょに濡れたパンツ。
パンパンと激しくリズムよく水音を立てる。だくだくの愛液で滑りのよくなった雌穴に、ピネスの硬い肉棒がスムーズに侵入を繰り返していく。
生意気にもよく馴染む雌穴が、きゅんきゅんと収縮し中にとらえた硬い肉棒を締め付けてくる。
アッシュカラーの彼女の髪はその尻肉を打つ振動に乱れ、冠していたメイドの象徴たるホワイトブリムも床下へと落ちた。
タガヤは尻をつきあげたまま彼にその穴を差し出し、気持ちよくなるためだけに使われている。
白い枕にしがみつきながら唇で枕を噛む。打ち付けられつづける快感に、涎で枕を濡らし堪えている。
お嬢様の執事であるそんな自覚とプライドからか、喘ぎ声をできるだけ殺すも────それでももう、タガヤは堪えることはできなかった。
段々とスパートをかけるように、高く差し出された雌尻に打ち付ける腰が速まっていく。膣内を、奥を、熱く擦れる膣壁を、ただただ何度も掻き乱された。そして、堪えきれないタガヤ自身も聞いたことも発したこともない雌声が、心とカラダの奥底から漏れていく。
そしてついに、一線をおおきく超えてしまい──白く吐き出されてゆく。
獣が獣に覆い被さるように腰を掴みながら、──射精。
奥の奥へと張り膨らんだ亀頭の肉が突き刺さり、どっぷりと鈴口から精が放たれた。
もう何度も絶頂していたタガヤは最後の最後まで、そのカラダを余すことなく使われつづけた。ただただ、その慣れぬ身に、彼の擦り付け吐き出す許容量オーバーの快感と多幸感を共有し受け入れつづける。
やがて、愛液にまみれ、てかてかと光る雌尻から飽きた彼の棒が引き抜かれてゆく。
白濁のミルクが粘っこく、ひくひく痙攣する肉穴から名残惜しそうに垂れ下がっている。
上げたままだったタガヤの痙攣する尻は、チカラなくベッドの上に下がりながらその体ごと倒れた。枕にしがみついたまま息を荒げるタガヤは何も言えず。頭はピンクの快楽、雌として突かれ使われつづけた多幸感に染まり、思考も体もショートしている。
「ここで合ってる? あのぉー、おにぎりモーニング【竹】セットお持ちしまっ────へ??」
あの硬いドアとは別の方向に取り付けられていた小さな隠しドアが、おそるおそる開いた。出前を届けるよう注文を預かった者が、その未知の白い部屋へとやって来た。
おぼんに乗せたおにぎりセットを注文どおりに持ってきた緑頭巾の緒方は、────今、その目にはいった光景に驚き唖然とフリーズした。
白くだだっ広い何もない部屋、その部屋にぽつんと一つだけあるベッドの上で、女体が力なく転がっていた。さらに黒いタキシード服を着たどこか見慣れた男子の顔が、ゆっくりとこちらに近づいて来ている。
いつもと雰囲気が違う黙りこくった黒髪のその男は、思考を停止した緒方へと、ユラユラとした足取りで近づき──そのかわいらしい戸惑う彼女の顎先に手をふれる。
「うっ、浦木く……ンッ!?? ひゅぇ!??」
おぼんに乗せられたアルミホイルの三角が、ひとつ、ふたつ、オチていく────
フリーズする。唖然とした頭巾姿の彼女、その黒い目の上目遣い──見開いて彼を見上げる。瞬きも出来ない。
間近に迫り、添えられた彼の手が彼女の顎をくいと持ち上げる。彼の吐息が唇にぬるく触れている。
そんな平然とキスまで至りそうになった雰囲気を、止まる唇と近づく唇の距離がなんとかゼロになる直前で緒方は恥じらい拒んだ。断ち切るように目を横に逸らす、ドキドキと跳ねる心臓で後ろへとたじろぎながら、さがっていく。
それでもめげずに超積極的に寄ってくるタキシード姿の男子に、追い詰められてゆく頭巾娘は、いつの間にか、その華奢な背がベッドへとお尻からよろけ倒れてしまい────。
倒れてすぐ、前掛けのエプロンを外されひん剥かれてしまった胸部。前ホックを開かれた白いブラジャー。そしてボタンの乱れ外された制服の白シャツから、たゆんと露わになる彼女の大きな肉付きはとても魅惑的なカタチと感触で……。雄のみだらな欲望をじゅうぶんに硬く、掻き立ててしまった。
ゆっくり、ゆっくり、挿入されてゆく。みちみちと掻き分けてゆく、乳肉の双丘のナカを……。
緒方は下半身を露わにしたピネスに、馬乗りになられながらパイズリしてしまっている。
「ひゃふ!? ふぇっ……むきゅぅ……!??」
熱帯びた棒がドキドキと高鳴る自分の鼓動の上にある、眼前の肉突起が先端の鈴口をひくつかせている。硬い硬いものが何度も行き来する、擦り付けるように、自分のおっぱいの間を──。
もはや反応し出てしまっていた彼女の声にならない声も黙るほどに、自分のモノを両手で掴まれて、寄せられて、使われ続けられている。
(これ……って……あっ、あのときのようにゃっ……!?)
緒方は息荒げるピネスになおも必死に馬乗りに乳肉を突かれながら、思い出した。忘れていたというよりは、自分の中で記憶に何重も海苔を巻き封をしていた……忘れられないあのダンジョンでの一件、恥じらいを。
突かれる度に緒方の頬は赤く染まってゆく。柔い肉のはざまを突く度に、カウパー汁が胸肌を透明に汚した。期せずしてナカの具合が良くなっていく。
近くに打ち付けながら響くその卑猥にもぬちゃつく水音が、あらぬ妄想を掻き立ていっそう緒方の恥じらいを増し、ピネスの肉棒の快感をただただスムーズに増していく。
そしてどんどんと、彼の腰使い、ピストンするスピードは速くなり──
(こっ、これってぇ…………)
うとい緒方にも分かった。ここから先、何が起きるのかを。
ぬちぬちぱんぱん────響くエッチな音と彼の鼻息が荒くなり、ついに────
ぎゅっとおっぱいを掴まれて使われながら、寄せた乳肉の間へと、奥深く挿し込み止まった腰は、震え──射精。
水鉄砲を射るような勢いで飛んだ。乳の山を越えた先にある緒方の驚いたその顔を目掛けて、白く熱い線が、無遠慮にも引かれていった。
瞬間、目を瞑り顔面で彼の昂り出たザーメンを受け止める。反射的に右に沿った顔は、唇は、熱い白濁によごれた。重く動けなくなるほどのザーメンを浴びてしまった緒方は、盛大にひっかけられながらも、なんとかその目をこじ開け、状況を確認する────。
開かれた、べとべとの乳の間から見える景色。
さっきまで逃げれないほど跨られていた重さはなくなり、真横にタキシードを着たままの浦木幸がぐったりとうつ伏せに寝転がっていた。精を放ち体力が尽きたからなのか、電池が切れたように止まりぐったりとしている。
「お、終わった……の…………ほっ……」
依然ドキドキしっぱなしの心臓も少し落ち着き、ようやく終わった行為に、彼女は少し安堵の息を吐いた。
それから緒方は冷静に思考し直し、いやらしく白く汚れた身体のことや、ずっと鼻腔を刺激し打つ特別なこのニオイのことも赤面しながら気にしたが……。とりあえず彼が使い終え自由を得た自分の体を、ベッドから起こそうとした、そのとき────
「え──」
視界の横から不意に突き出てきた肉棒がビンビンと元気に、彼女の目の前をちょうど目隠しするように遮った。そのたくましい長さで、彼女の視界をいっぱいに覆った。
起こそうとしていた緒方の背は、またベッドの上へと押し倒され逆戻りする。そして今度彼が興味を示したのは──緒方結美はもう、分からなくても悟る。
ドキドキと熱く高鳴る彼女の胸はきっと警告する。胸肉を突かれつづけ勘違いし分泌する液に、履いていたパンツは湿り、今を恐れながらもその先がどうなるのか期待してしまう。
緒方結美は覚悟する──積極的に自分のことを襲う彼に、流されるがままに。ついに弱々しい抵抗もせずに、様子のおかしい彼へとすべて、この身すらも放棄して。
結ばれていたトレードマークの三角頭巾はほどけ、おにぎり娘の束ね纏めていたポニーテールは、ふぁさりと、シーツの上に広がる。
そして大事に何かを隠す素振りをしていた、その彼女のブク高制服のスカート生地は、彼の迫る手に捲り上げられた────。
▼▼
▽▽
丁寧に折り畳まれた緑の頭巾の上に、緑の髪留めは置かれた。緒方結美はベッドですやすやと、穏やかな顔で眠っている。
正気を取り戻したピネスとタガヤの二人はお互いに、陥っていた状況をすり合わせ理解し、過ぎたことをお互いに謝るしかなかった。
────部屋に仮設されたシャワールームで順番に身を清めさっぱりと──洗い流していく。
そして、お互いを許し合い、すっかりとまた元のように話せるようになった。やがて、タガヤは彼に対してずっと隠していたことを、その彼の顔面を紅潮し見入りながらも明かした。
「バトラーバトラー……主に執事と執事が守るべきものの為にたたかうッ、バトルソーシャルゲームです!」
「あぁー、──え?? なっなに? ハドラーハドラー??」
どこかまだぎこちない雑談の最中の突然のことであった。スマホの画面を見せながら少し興奮したように、メイド姿の彼女は執事のような格好をした彼に向かい言っている。
初めて聞く情報と単語にピネスは理解が追いつかず、トーンを上げたタガヤに戸惑い問い直した。
「それに出てくる【溜息のバトラー:シャイニー】が、あっ……あなたがすごく似ていて!!! バトラーバトラーです。バトラーは日本語で執事のことですね」
「バトラーばとらー……ぅーー、つまり? 執事の出てくるゲームってことか?(しゃいにー?知らない単語が次々と)」
『はぁー、他人様のスケジュール管理とか、くそしんど。ほんじつの執事のしごとはおわりぃ。んだ? そんなに見たって人はタヌキには変わらねーぜ?』
「このキャラですっ!」
タガヤはスマホ画面を慣れたようにタッチ操作し、そのスピーカーからテンション低めなダウナー気味の声が流れた。ゲームのホーム画面には長い脚をおおきくはみだし、高級ソファーに寝っ転がりながら〝どーなつ〟を貪るタキシード姿のだらしない男がいた。
もしかして、だらけたオーラを放つそれがシャイニーだと彼女は言うのだろうか。
「このキャラと俺が? ……? ……それはまぁいいんだが? ……あのぉー……こいつほんとに執事? さっきからドーナツばっか食ってるけど、どうも態度がなってねぇんじゃないか。──俺が言うのもなんだが」
タガヤは、ピネスとシャイニーの容姿が似ていると、ずっと隠し思っていたことを明かし話したが。
ピネス本人はいまいち納得いかないようだ。そのスマホに横たわるドーナツ食いの男と似ていると言われても、あまりピンと来ず、それほど嬉しくもあらず。苦笑いともいえないよく分からない顔をするしかなかった。
「じっ、実はいい一面もありまして! 待ってください────戦闘になるとほらっ!」
アクションゲームらしきそのゲームは始まった。彼女の操作する巧みなスマホタップ捌きを隣で覗き込みながら……すごく良い匂いがする。風呂上がりのアッシュカラーの髪の匂いを密かに嗅いでしまいつつも。ピネスは彼女のプレイ画面、自分のそっくりさんだと彼女が言うシャイニーの意外にも防御をしっかりと固めた戦いっぷりを見学する。
『はぁはぁ……わざわざ必死に赤ゲージまで削ってくれてさんきゅっ──腹減ったろっおまちかねぇ【シャイニードライブ】!!!』
『2秒前の俺のことを動かない亀だと嗤ったか? それでもチーターほどじゃない? いんやそこらの兎さんより速いかもだぜ? ハッ、あんたが執事界のユニコーンだって?お上品っ!その白いコートっその高く尖ったプライドまでは蹴られ慣れてはいねぇだろ? こことかっこことかっ!スーパー横のクリーニング代はそっちもちでいいよなぁ!はぁー!兎に角俺は助手席!あんたはこっちだ!ヒカリのドライブといこーか? これがっっおれのっぅもいっちょっっ無限【シャイニードライブ】!!! ──無免だがな』
『怪我はないかお嬢様? はぁはぁ……はぁー、ま、やってるのはゼンブこっちなんだけど、これ医療費はゼンブそっちもちでいい? ──待った!のまえにマスド、よってこーぜ? もちろん、はぁー、運転はわかってるよな?』
血まみれの執事がカメラ目線で微笑い、戦闘が終了した────。守りの戦いが一変、蹴り当てた超必殺技らしきその豪華演出から、怒涛の蹴りのラッシュで白コートの相手執事の体力ゲージを粉砕し、片がついたようだ。
「はいっ。このように──こうみえてガチガチの体を張る防御タイプで、それが彼のアイデンティティーなのです! 赤ゲージからの【シャイニードライブ】背水の状況からの威力を高めた一発逆転劇が、一部のファンの間で人気がすこぶる高いのです! ですが……私も最初は、はっきり言って彼の執事としての資質を疑っていました。とても良い印象ではなかったのですが、むしろこのだらけたキャラとふざけたゲームにたいして執事のはしくれとして怒りすら湧いていました!(同じ執事協会の知人に勧められて始めたのですが) しかしお嬢様のために、執事として未熟ながらも倒れても立ち上がりいかなる危機にも最後まで体を張る。なんだかんだその芯の部分は、悪態と溜息をつくシャイニーにもあったというのが衝撃でして、決して逃げない姿が、あな……あっというのもこのシャイニーは本当に彼専用のレアカードを重ねた4凸からしか働かない、少し硬めのデクのぼうで使えないと昔は呼ばれていまして、私もなんとかしてやっとここまで凸を重ねて、シャイニストとしてシャイニーを使いこなせるように────」
小さく片手でガッツポーズをする、ゲームプレイの方がお上手にできたようだ。タガヤはピネスに向けて楽しげな念仏を唱えている。ピネスの耳には彼女の声がハキハキとよく通ったが、言っていることの半分のはんぶんも掴めず、だが大変熱心で楽しそうなことだけは十二分に伝わっていた。
「なんかわかんねぇが……今のがすげぇえげつなく強いのは分かった……な。でも俺とは、なんつぅか、あぁー、やっぱ、戦闘スタイルとか声の張り方が若干ちがうっていうか……ナ?」
「そっ、そう……ですか? 勝手ながら……すこしシャイニーと似ているかと思ったのですが?」
「そっそうなのか?(俺って戦闘中こんな額から血まみれで、あおるっけ……)俺ってぇ?」
テンションを上げ語っていた彼女は今、見るからに少し残念そうな表情を浮かべている。しかしピネスもどうしても、シャイニーの戦闘力を認めつつも、似ていると認めるのは首を傾げずにいられないようだ。
▼
▽
『招待コードがありますのでぜひ!』そう言われてピネスは自分のスマホを取り出し、彼女と同じゲーム【バトラーバトラー】を招待されて始めてしまった。招待コードからゲームを始めることでお互いにレアアイテムを貰えるということらしい。直接関係はないが、紫のクーポンを先程もらったことを思い出したピネスは、彼女が趣味として好む、その執事が派手にバトルするゲームに快く付き合うことにした。
「あぁー、これって女キャラとかもいる? 別に男でもいいんだけど」
「いますよっ! 男装風のかっこいい女性執事や、すごくフェミニンで派手な方や、レイピアを携えた眼帯の銀髪執事も」
「へぇーーそーかって、んげ? 眼帯ぃ……ってまじで出やがったんだけど……まさにソレ」
『ふっふ、およびかい?』
「さほどよんでねぇ……なんか複雑だな……俺のスマホに校長みたいなのが……」
「【銀風のバトラー:バラム】ですね。非常に攻撃的な能力持ちで、人気もトップ10に入り、ガチャや性能やエピソードの数など色々と優遇されているキャラです。しかし確かに強いのですが、こちらも性格に少々難がありますね……(シャイニーよりも……)ちなみにこの方は元傭兵で、殺された傭兵仲間のカタキのためにお嬢様のところに潜り込んで──。あっ、引き直しますか?」
「あぁー……そうしたいのは、やまやまなんだけど」
『なにを黙っているのかい? ふっふ、このオ腰のオレイピアがそんなに気になるのかい?』
「どうも俺……眼帯キャラと銀髪キャラに弱いみたいで。あぁー……代わりにキャンセル押してくれねぇか、これ(さっきからコイツが堂々とこっち見て押させてくれない)」
「相当なのですね……(本当に手、震えてる……)ふふっハイ、承りました!」
スペシャルな容姿をしたお方は、この世にたった1人で十分。遊びのゲームぐらいは、眼帯キャラのもつとても強烈な魔力の支配から解放されたいと思う2-D浦木幸であった。
数刻後──この後おくれて目覚めた2-A緒方結美も、男女二人の間でひそかに流行り出したゲーム【バトラーバトラー】を、3-E紫紫刀に同じく招待され、明るい雰囲気に流されて始めてしまったようだ。
⬜︎PINE
謎のモテヤバ伝説X:ゴーレムとあっち向いてホイをし10回連続で勝て
謎のモテヤバ伝説X:クエストクリア38連続とはやるじゃないか男子。
次のモテヤバクエストだ。おにぎりを、あーん♡、と互いの口に食べさせろ
謎のモテヤバ伝説X:追加のモテヤバクエストだ。まずコップの水をこぼしドジっ子メイドを演じる。タキシードを着たご主人様は不出来なメイドを叱る。不出来なメイドは『許してにゃはーーん♡』と猫撫で声で言いご主人様に許しをこえ。
謎のモテヤバ伝説X:おいっ、溜まったモテヤバクエストをそろそろ消化しないとここから出れないぞ? ……あのその? わたしヤバめの権力者でぇ、そろそろ他の部下から提出された仕事の方もお昼がくる前にぃ、やってぇおきたいぃのだが? とぅるとぅるもしもーし?
謎のモテヤバ伝説X:ロックは解除した。もう勝手に出てよし! そーそーこの部屋の試作のゴーレムは、これからは蹴るなり焼くなり腕試しをしてもいいが、あまり壊すなよ?(DPは無限じゃないからな)
⬜︎
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