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バッチリと動画に収まっていた。帽子のツバの裏に仕込んでいたアイテム、くろまねき商店が開発した高性能小型カメラは、戦いの模様を彼女視点で映し出していた。その映像を見ながら昨日のダンジョンのことを振り返る。
水色の作業着は小部屋で集中するには暑い。半脱ぎにし、黒のノースリーブと肩の肌が露わになる。
茶髪の彼女は有害な光をカットするおしゃれなメガネをかけた。お菓子を片手にむさぼりながら、片手はマウスへと、パソコンモニターに流す映像を巻き戻し繰り返す。
「しかし、この子はなんなんだろうねー」
「夢幻流的に、魔力をさらにわけると陰気と陽気だ」
「おもうにこの子はその陽気がずば抜けてんのよ」
「だからクリティカル、つまり内側の気を利用した破壊のイチゲキを陽に偏りがあるぶん、あまり整理整頓しなくても簡単に必要条件を満たし出せちゃうわけだ。そんな陽気に対抗できる存在がなかなかいねぇーんだからね。その特別な陽気に釣られて不思議な現象がポンポン起こっちまうのよ、きっとね。ま、あたしは慣れてるから相手するときは簡単にはクリティカル出させないし喰らわないんだけど、今度ヤるときは絶対!何もさせずに完封する自信もあるし、にゃはは。あのー、そーだそーだメタル化したキノコ星人とかよっぽど特殊でよっぽど強くない限りは、クリティカルは敵の硬さを理解すれば出ちゃうだろうね。相手の状態を把握する──素人ゆえにまだそこが甘いね、あたしの勝ってる部分はそこかな?」
「でも普通の人間、チカラのバランスを取ろうとするから陽気だけ異様に高いとかそんなことってまずありえねーんだよねー。例えばこのもぐもぐ……カントリーパームは16個入りで、バニラとココアが同数ずつあんのが伝統なの。袋も開けてない状態のそん中でもし、バニラだけが15個入ってたらはにゅはにゅ……ずずーーっ……ほっ……ブチ切れるよね?(あたしはどっち派でもないけど)」
「ま、ここダンジョンだから、むしろありえねーのが普通であって、普通のヤツが異常なんだよね。校長にしろ生徒にしろ、みんなよさげな一芸もってるわ。不思議とそういう子が集まってる」
「なるほどねー……陽気が多いから異能【幸運】、──本当にそれだけかな? なーんかずるくさい気がすんのよねぇー、あたしの感覚的には運の神様にでも祈ってるかんじだわ」
「ま、動きとか強さ的には観たところ、持ってるものはそれだけじゃないんだけど。アレはダンジョンって新作ゲームの中で育った、そんなダンジョンっこってわけだ」
「チカラを持っていてもできない子はできない。できるって思い込める方が上手くいく場合もありってさ。これはあたしにも経験はあることだ、できないって思ってることって実は練習が圧倒的に足りてないだけなんだよ。で、この子は少なくともダンジョンで自分なりにモンスターと戦って色々どう斬るかどう倒すかどうクリティカルを出すか、なんてことを自分の体と向き合い遊びながら試行錯誤してきたわけだー。校長があたしに預ける前に余計な手を加えていなけりゃそうだよね。──ん、それでクリティカルって出せるものなの? 敵と自分の陰気と陽気のながれの見極めと調整ができるもんなの? ただの男子生徒の素人に? 山ん中こもって岩運び100回岩砕き100回、滝修行朝晩、小やりの上でコサックダンス踊って熊と仙人とのタイマン勝負やらなくてもって?」
「……もし、あたしが同じラッキーな異能をもっていて、同じ肉体をもっていて、同じように馬鹿でまっすぐな性格で、そしてなんだかんだ腐らず師範や先生の言うことをきけるなら────できるんじゃない? ははは」
「はぁ……時代は変わったのさ池原叉鬼。これからはモダンなやり方でいきましょーよ。あー今日のダンジョン、あたしもまだまだ進化の余地、なんだかありそうな気がしてきたわ。いい練習環境にいい練習相手そしていい上司……いい上司? ──ははは、強くなれるって最高じゃん?」
午後11時22分、女は尽きぬ独り言を唱え続ける。
池原叉鬼、27歳。彼女は不黒高校の用務員兼、戦闘術デザインアドバイザー。
時に映像を振り返り武を研究し、時にパソコンを操りタメになる資料をつくり、時に一日の内に現れた新たな成長の兆しにささやかな喜びを見出す。
カタカタとキーボードを小気味よく打ち鳴らす音が聞こえる。
浦木幸とクリティカル、陰気と陽気と魔力に関する資料その①は、狭い用務員室で密かに体系立ててまとめあげられた。
水色の作業着は小部屋で集中するには暑い。半脱ぎにし、黒のノースリーブと肩の肌が露わになる。
茶髪の彼女は有害な光をカットするおしゃれなメガネをかけた。お菓子を片手にむさぼりながら、片手はマウスへと、パソコンモニターに流す映像を巻き戻し繰り返す。
「しかし、この子はなんなんだろうねー」
「夢幻流的に、魔力をさらにわけると陰気と陽気だ」
「おもうにこの子はその陽気がずば抜けてんのよ」
「だからクリティカル、つまり内側の気を利用した破壊のイチゲキを陽に偏りがあるぶん、あまり整理整頓しなくても簡単に必要条件を満たし出せちゃうわけだ。そんな陽気に対抗できる存在がなかなかいねぇーんだからね。その特別な陽気に釣られて不思議な現象がポンポン起こっちまうのよ、きっとね。ま、あたしは慣れてるから相手するときは簡単にはクリティカル出させないし喰らわないんだけど、今度ヤるときは絶対!何もさせずに完封する自信もあるし、にゃはは。あのー、そーだそーだメタル化したキノコ星人とかよっぽど特殊でよっぽど強くない限りは、クリティカルは敵の硬さを理解すれば出ちゃうだろうね。相手の状態を把握する──素人ゆえにまだそこが甘いね、あたしの勝ってる部分はそこかな?」
「でも普通の人間、チカラのバランスを取ろうとするから陽気だけ異様に高いとかそんなことってまずありえねーんだよねー。例えばこのもぐもぐ……カントリーパームは16個入りで、バニラとココアが同数ずつあんのが伝統なの。袋も開けてない状態のそん中でもし、バニラだけが15個入ってたらはにゅはにゅ……ずずーーっ……ほっ……ブチ切れるよね?(あたしはどっち派でもないけど)」
「ま、ここダンジョンだから、むしろありえねーのが普通であって、普通のヤツが異常なんだよね。校長にしろ生徒にしろ、みんなよさげな一芸もってるわ。不思議とそういう子が集まってる」
「なるほどねー……陽気が多いから異能【幸運】、──本当にそれだけかな? なーんかずるくさい気がすんのよねぇー、あたしの感覚的には運の神様にでも祈ってるかんじだわ」
「ま、動きとか強さ的には観たところ、持ってるものはそれだけじゃないんだけど。アレはダンジョンって新作ゲームの中で育った、そんなダンジョンっこってわけだ」
「チカラを持っていてもできない子はできない。できるって思い込める方が上手くいく場合もありってさ。これはあたしにも経験はあることだ、できないって思ってることって実は練習が圧倒的に足りてないだけなんだよ。で、この子は少なくともダンジョンで自分なりにモンスターと戦って色々どう斬るかどう倒すかどうクリティカルを出すか、なんてことを自分の体と向き合い遊びながら試行錯誤してきたわけだー。校長があたしに預ける前に余計な手を加えていなけりゃそうだよね。──ん、それでクリティカルって出せるものなの? 敵と自分の陰気と陽気のながれの見極めと調整ができるもんなの? ただの男子生徒の素人に? 山ん中こもって岩運び100回岩砕き100回、滝修行朝晩、小やりの上でコサックダンス踊って熊と仙人とのタイマン勝負やらなくてもって?」
「……もし、あたしが同じラッキーな異能をもっていて、同じ肉体をもっていて、同じように馬鹿でまっすぐな性格で、そしてなんだかんだ腐らず師範や先生の言うことをきけるなら────できるんじゃない? ははは」
「はぁ……時代は変わったのさ池原叉鬼。これからはモダンなやり方でいきましょーよ。あー今日のダンジョン、あたしもまだまだ進化の余地、なんだかありそうな気がしてきたわ。いい練習環境にいい練習相手そしていい上司……いい上司? ──ははは、強くなれるって最高じゃん?」
午後11時22分、女は尽きぬ独り言を唱え続ける。
池原叉鬼、27歳。彼女は不黒高校の用務員兼、戦闘術デザインアドバイザー。
時に映像を振り返り武を研究し、時にパソコンを操りタメになる資料をつくり、時に一日の内に現れた新たな成長の兆しにささやかな喜びを見出す。
カタカタとキーボードを小気味よく打ち鳴らす音が聞こえる。
浦木幸とクリティカル、陰気と陽気と魔力に関する資料その①は、狭い用務員室で密かに体系立ててまとめあげられた。
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