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風に揺らめく穴あきの焦げたスカートで、呆然と目を見開き立ち尽くすのは、黒き女神。
後ろに大きく弾き出され、地に滑り倒れたのは浦木幸。
大きな威力を誇る魔法の刃を二度臆せず相手へと叩き込んだものの、もはや彼は剣の柄も手が痺れて持てない程であった。
一瞬と一瞬の攻防の最中、硬い何かの感触に繰り出した刃は阻まれ、その身は床へと背を強打しながら吹き飛ばされていた。
まだ健在である聳え立つ黒き存在に、もはやため息も出せないほどにピネスは疲れていた。
全てを出し尽くす勢いで、魔力を、利用できるであろうもの環境の全てを利用し、まさしくピネスは疲れ果てた。
そして今の体勢が物語っている。どちらが上であるのかを。
骨まで痺れる手の痛み、からからに乾いた喉、灼けるほどに熱い肌、無茶をしたとはこのことだ。
これ以上の全力はない。これで満足し足りないのならば、煮るなり焼くなり拳を突き刺すなり、好きにしてくれていい。
ピネスはもう何も望まない。勝利も、再戦も、拍手も、称賛も。
地に張り付いた視界にぼんやり見えるのは、敗北の黒。これでもう決着かに思えた。しかし────
「馬鹿な……何をしてくれたの……」
様子がおかしい。一体誰が何をしたというのであろうか。呟く彼女に、声も出せず。ピネスは見当がつかない。
その女は今およそ勝者の顔をしていない。勝ち負けなど立つそちらと、情けないこちらでもう既にはっきりとしている。
それなのに、治らないこの鳥肌から汗が床へと滴り続けるのは何故なのか。みるみると冷たく曇りゆくその女の表情、押し寄せる謎のプレッシャーがピネスの存在全てを覆うように刺激する。
項垂れた面で、ゆっくりと近づく女がいる。
一歩、一歩、静寂の中、まるでこの場の全てを支配しながら、そのどこか暗い足音が彼へと迫る。
その時──。床を撃つ火の弾が、一歩先を踏もうとした黒き存在の足元へと飛びかった。
「エッチアイ、浦木幸から離れるのですっ!!!」
小角灯が持ち込んでいたイニシエランタンから、火の弾が威嚇するように連射された。ピネスと黒き存在、その間の地を線引くように焼き焦がし刻んだ。
「馬鹿っ! それはさすがになにやってんのよっ! ルール内のプロレスってのがわかんないのっ!」
「本気でしたのですっ!! イヤな不良の気でした!!」
ピンクのアンテナ髪を天へといきり立たせる。小角灯は冗談ではない真剣顔で、今怒鳴った池原へと同じく怒鳴るように言葉を返した。
「あちゃー……今はちょっと本気っぽいよっ!!」
「と・に・か・くっ、風紀を乱す人は誰であろうと許しませんっっ!!!」
小角の放つ追撃の言葉に、呆れを通り越して用務員の池原は頭を抱えてしまう。
「私がなにを乱している?? カムリ村のこのヌイがっ? 不良??」
「やばいよっ! そりゃ余計地雷だっ! さがって黙ってなピンクのクソお馬鹿ちゃん!! ────あっ……魔力・な・い・ん・だったぁ……」
少しでも黒き存在の怒りの矛先を堰き止めようと、小角の前で壁になり、池原は銀の刺股を構えた。
が……彼女に残された今日の魔力はすでにない。しかし時既に遅し。
ネガティブでイヤな気を発しながら、黒き存在が今標的を変えたようにゆらゆらと近づく。
もはや楽しめる範囲をとうに過ぎているのかもしれない。小角が言っていた妄言も、今となっては池原の目にも疑いようがない。天に伸びるほどに高まり迫る魔力の柱と広がり続けるプレッシャーに、魔力ゼロの池原の体が息も対抗もできないほどに押しつぶされていく。
これではサイコロを投じて祈ることもできない。思いつかない言い訳の言葉を発することも許されない。プロレスを過ぎたブック破りの最悪のシチュエーションに────
トツゼンに投じられたのは、緋色の爆炎。
睨む黒い烏に横から水でも浴びせるように────。
浴びせられたそのイチゲキは、彼女から怒り漏れ出ていた魔力をも燃やした。迸り立つ火柱に、黒い烏は飛び退いた。
「このっ!!? こっ……!!」
「ハァハァ…………なんとなくさ……それはちがくね。はぁはぁ……あぁー……ぶん殴るなら俺じゃね? ハァ……その、さっきは悪かった。チカラの加減とかまだよく分からなくてさ? DP払いで、弁償させてもらう訳にはいかねぇか? その制服と……タオル?」
気まぐれか、遊びにきた朱文金が浦木幸の元へと現れた。示現した炎生物の力と魔力を借り投じられた緋色の剣のイチゲキは、畏れ多くも強引に、ギャラリーに向いていたその黒髪の女子高生なるものの気を彼へとひいた。
これは、安っぽいタオルなどではない。ボロついた制服姿の上に浮かぶ黒いひらひらの羽衣は、僅かにほつれた部分がありその美しさは完璧ではない。そして横から突き刺さった先程の剣でまた、羽衣のほつれが増えてしまった。
天に迸った火柱が魔力を使い果たし、やがて失せていく。黒き存在の睨んだ熱気の向こう側には──
抉れた穴ボコに突き刺さる緋色の剣、燃え盛り浮かぶ赤黒白の斑模様の金魚、べたつく黒髪をかきながら刃を投げ捨て反省の言を述べる謎の男。
綺麗に揃っていた前髪が乱れた今、黒き存在の彼女には向こう側に備わりある質のいい魔力の流れがよく見える。彼から放たれた炎と雷撃の剣に、彼女のプライドの全てを編み込んだ絶品の黒糸がほつれたのは間違いではないのだと、──分かる。
今一度冷静に漏れ出していた魔力と精神をコントロールし、冷めていく熱気の向こう側を凝らし見る。
黒き羽衣の神器をその身に従える天戴武天ガイア、圧倒的なチカラをもつその神の目には何が映る────────。
後ろに大きく弾き出され、地に滑り倒れたのは浦木幸。
大きな威力を誇る魔法の刃を二度臆せず相手へと叩き込んだものの、もはや彼は剣の柄も手が痺れて持てない程であった。
一瞬と一瞬の攻防の最中、硬い何かの感触に繰り出した刃は阻まれ、その身は床へと背を強打しながら吹き飛ばされていた。
まだ健在である聳え立つ黒き存在に、もはやため息も出せないほどにピネスは疲れていた。
全てを出し尽くす勢いで、魔力を、利用できるであろうもの環境の全てを利用し、まさしくピネスは疲れ果てた。
そして今の体勢が物語っている。どちらが上であるのかを。
骨まで痺れる手の痛み、からからに乾いた喉、灼けるほどに熱い肌、無茶をしたとはこのことだ。
これ以上の全力はない。これで満足し足りないのならば、煮るなり焼くなり拳を突き刺すなり、好きにしてくれていい。
ピネスはもう何も望まない。勝利も、再戦も、拍手も、称賛も。
地に張り付いた視界にぼんやり見えるのは、敗北の黒。これでもう決着かに思えた。しかし────
「馬鹿な……何をしてくれたの……」
様子がおかしい。一体誰が何をしたというのであろうか。呟く彼女に、声も出せず。ピネスは見当がつかない。
その女は今およそ勝者の顔をしていない。勝ち負けなど立つそちらと、情けないこちらでもう既にはっきりとしている。
それなのに、治らないこの鳥肌から汗が床へと滴り続けるのは何故なのか。みるみると冷たく曇りゆくその女の表情、押し寄せる謎のプレッシャーがピネスの存在全てを覆うように刺激する。
項垂れた面で、ゆっくりと近づく女がいる。
一歩、一歩、静寂の中、まるでこの場の全てを支配しながら、そのどこか暗い足音が彼へと迫る。
その時──。床を撃つ火の弾が、一歩先を踏もうとした黒き存在の足元へと飛びかった。
「エッチアイ、浦木幸から離れるのですっ!!!」
小角灯が持ち込んでいたイニシエランタンから、火の弾が威嚇するように連射された。ピネスと黒き存在、その間の地を線引くように焼き焦がし刻んだ。
「馬鹿っ! それはさすがになにやってんのよっ! ルール内のプロレスってのがわかんないのっ!」
「本気でしたのですっ!! イヤな不良の気でした!!」
ピンクのアンテナ髪を天へといきり立たせる。小角灯は冗談ではない真剣顔で、今怒鳴った池原へと同じく怒鳴るように言葉を返した。
「あちゃー……今はちょっと本気っぽいよっ!!」
「と・に・か・くっ、風紀を乱す人は誰であろうと許しませんっっ!!!」
小角の放つ追撃の言葉に、呆れを通り越して用務員の池原は頭を抱えてしまう。
「私がなにを乱している?? カムリ村のこのヌイがっ? 不良??」
「やばいよっ! そりゃ余計地雷だっ! さがって黙ってなピンクのクソお馬鹿ちゃん!! ────あっ……魔力・な・い・ん・だったぁ……」
少しでも黒き存在の怒りの矛先を堰き止めようと、小角の前で壁になり、池原は銀の刺股を構えた。
が……彼女に残された今日の魔力はすでにない。しかし時既に遅し。
ネガティブでイヤな気を発しながら、黒き存在が今標的を変えたようにゆらゆらと近づく。
もはや楽しめる範囲をとうに過ぎているのかもしれない。小角が言っていた妄言も、今となっては池原の目にも疑いようがない。天に伸びるほどに高まり迫る魔力の柱と広がり続けるプレッシャーに、魔力ゼロの池原の体が息も対抗もできないほどに押しつぶされていく。
これではサイコロを投じて祈ることもできない。思いつかない言い訳の言葉を発することも許されない。プロレスを過ぎたブック破りの最悪のシチュエーションに────
トツゼンに投じられたのは、緋色の爆炎。
睨む黒い烏に横から水でも浴びせるように────。
浴びせられたそのイチゲキは、彼女から怒り漏れ出ていた魔力をも燃やした。迸り立つ火柱に、黒い烏は飛び退いた。
「このっ!!? こっ……!!」
「ハァハァ…………なんとなくさ……それはちがくね。はぁはぁ……あぁー……ぶん殴るなら俺じゃね? ハァ……その、さっきは悪かった。チカラの加減とかまだよく分からなくてさ? DP払いで、弁償させてもらう訳にはいかねぇか? その制服と……タオル?」
気まぐれか、遊びにきた朱文金が浦木幸の元へと現れた。示現した炎生物の力と魔力を借り投じられた緋色の剣のイチゲキは、畏れ多くも強引に、ギャラリーに向いていたその黒髪の女子高生なるものの気を彼へとひいた。
これは、安っぽいタオルなどではない。ボロついた制服姿の上に浮かぶ黒いひらひらの羽衣は、僅かにほつれた部分がありその美しさは完璧ではない。そして横から突き刺さった先程の剣でまた、羽衣のほつれが増えてしまった。
天に迸った火柱が魔力を使い果たし、やがて失せていく。黒き存在の睨んだ熱気の向こう側には──
抉れた穴ボコに突き刺さる緋色の剣、燃え盛り浮かぶ赤黒白の斑模様の金魚、べたつく黒髪をかきながら刃を投げ捨て反省の言を述べる謎の男。
綺麗に揃っていた前髪が乱れた今、黒き存在の彼女には向こう側に備わりある質のいい魔力の流れがよく見える。彼から放たれた炎と雷撃の剣に、彼女のプライドの全てを編み込んだ絶品の黒糸がほつれたのは間違いではないのだと、──分かる。
今一度冷静に漏れ出していた魔力と精神をコントロールし、冷めていく熱気の向こう側を凝らし見る。
黒き羽衣の神器をその身に従える天戴武天ガイア、圧倒的なチカラをもつその神の目には何が映る────────。
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