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呼吸を荒げ汗水垂らすピンチに、おもしろくなってきた観戦の価値のあるピンチに、ピンクの主のピンチに、悠久の暇をつぶせそうな機会に、
様々に様々がうごき駆けつけたこのシチュエーション、火柱立ち昇り止むこの白い一室で。
煙りより濃くなってきた火の匂いに、睨む黒髪の化身は理解した。
同時に反芻する。その身とその火を鍛え成り上がってきた己、過去の長きにわたる闘いの記憶までを深く広く。
あのように火柱が天へと至るまで、ただ純粋に強く追い求めつづけた。そして戦いとは無縁であった己のちっぽけな灯火に、滾る闘志を焚べたのは誰であるのかを思い出した。
(……知らぬ神族の示現……いや、神を引き寄せるそれほどまでの輝きを放つ炎……そのような炎を統べるのはただ一人、──初代天戴武天……このような気まぐれ……)
手に取りじっと眺める、しかしそのひび割れた緋色の剣の名を彼女は知らない。神器にまでなった自分の黒い羽衣にくらべて、それほど特別なモノにも見えない。そっと宙へと浮かせた赤い剣は、目の先に立つ男子の手元へと返された。
「一発です。あと一発ソレを受けてあげます。このカムリをほつれさせた納得のいくものならば、この勝負、あなたの勝ちにします」
「なっ……?」
返されたまだ熱帯びたその剣と、添えられた静かな言葉に、まだ闘いはつづいているのだとピネスはわかった。
先に立つ女子生徒は最初のように微笑んではいない。放ったその言葉が本気であるということは、聞かずとも分かる。
『このような相手くっくっく、童め、よほど命知らずよのぅ!! 餓鬼どもの偽王の次はいきなりコレに喧嘩を売ったか、物足りぬとは言ったがくっくっくハハハハハ』
赤い魚が高笑いを浮かべる。バチバチとその身をフラッシュさせながら、魚の口が裂けるほどに大口を開き嗤っている。
いつの間にか帰ってきた小角灯の朱文金、そしてその燃えるお魚の身を乗っ取り現れた喋る未知の存在。ピネスが示現したその魚の声を聞くのは黒騎士とヤンチャゴブリンキング、これで三度目だ。
命知らずでもなく、喧嘩を売ったつもりもない。しかし、そんな言い訳は今はどうでもよく、ピネスは鬱陶しい高笑いを遮り口を開いた。
「いっ、いいからなんか前の黒騎士の時みたいにアドバイスってのくれよ! あんた結構すごいんだろ! 登別さんが、雷の神様ってやつってさぁ!!」
請うたのはまさかのアドバイス。恐ろしげな喋る魚も、魚の身ならば恐れるに足りない。もっともっと恐ろしいモノがすぐ側で自分のことを見つめている。例えその魚の本性が良い神様であれ悪い神様であれ、なり振り構ってはいられない。
ピネスは自分の力ではどうにも避けられない理不尽、イベントというものがこの世にはあることを重々に理解していた。そしてまたここで不平不満を垂らすばかりより、ただ求められているのは、きっとクリティカルなイチゲキであると──。
『くっくっくいい心掛けよの。──構うなそのまま奴を斬り裂け、一切の情けなど捨てろすべて貴様が神と敬うこの黄泉の雷神、我によこせ。貴様のその矮小なイノチなど天の前にはなきに等しいと思え童! 全てを寄越せ、先ずはそれからだ。さすれば神による神をも屠るイカヅチをとくと見せてやろう……!! くっくっくはははははは』
いちいちの大袈裟な物言いとその止まらない高笑いも、あながち嘘ではない。
ユラユラと漂いはじめた空間さえ支配する膨大な魔力量と、黒の制服姿と浮かぶ羽衣に練り上げ纏うその炎の気と闘気に、魚の神が宣った事も説得力が増すばかり。
「そーそー鬼になれ、喜びも、怒りも愛も、魔力も運もぜーんぶ叩き込め、本物の強者相手にちょっと強くて若いだけのイモムシの情けはいらない、よっ! 手加減は学校みんなの後悔、全力全身ノ前進! じゃないとありゃ泣かせるには硬いよっ! クリティカルシンデレラボーイ! 死ぬ気と根気で、ブク高の運命をしょってけぇーーはははっ!!」
「俺、なんでブク高をしょって……!?」
「浦木幸! あまり怪我をしてはいけないのですよっ! け・ど・もっっ、勝てば風紀を正すチャンスなのですっ!!!」
ピネスはもっと苦笑いを浮かべてみせる。
バチバチと発光しやる気と魔力を昂らせる喋るお魚。その黄泉の雷神の実力に期待し頼らざるを得ない。
水色作業着は何故か今ピンクに染まりだした。【愛】と書かれた帽子を後ろに反転させ、いい笑顔で用務員は頷いた。
ピンクのアンテナ髪を立たせ、灯る瞳で彼を見つめる。手に持つイニシエランタンに宿す火を豪豪と盛らせながら、小角灯は彼の顔を勇ましく指差した。
こちらよりそちらの覚悟の方が随分とできていた。勝手な言動と行動仕草に苦笑いを超えて──浦木幸はもう、笑うしかない。
「もはやこの学校の風紀ってなんだぁ……はっ……みんな勝手だなぁ……よしっ! じゃぁ、俺も勝手させてもらうぞっ、こんなかんじのぉ……なんとなくでなァ!!!」
翠の剣を取り出して、今なんとなく構えた二刀。
餌を与えるように豪快に、翠の刃を宙に浮かぶ赤い熱源の横腹へと突き刺した。燃え盛る魚に注文通りに痺れる力を与え、その尻尾まで余さず魔力を敷き詰め青く充電した。
そして替わりの見返りに、右手に握る緋色の刃がメラメラと灯り燃え盛る。
灯るスベテの期待感はやがて火を超え、炎へと変わる。
今更臆するという言葉はない。この剣を強く握りしめた時には、そんなものは知らず失せた。
『納得させろ』というならば、その得体の知れない無茶な注文には全力でアンサーするしかない。
許されたのは一発イチゲキ──考えるよりも今は〝なんとなく〟ゆだねてみる。自分の体を覆い大いなる次へと進ませる、熱い魔力の満ちたこの漠然とした感覚を信じて。
期待も不安も入り混じり激しく燃えていく。ぶっつけ本番の炎剣は、黒い羽衣を従え誘う大きな炎の中へと勇み飛び込んだ────────
様々に様々がうごき駆けつけたこのシチュエーション、火柱立ち昇り止むこの白い一室で。
煙りより濃くなってきた火の匂いに、睨む黒髪の化身は理解した。
同時に反芻する。その身とその火を鍛え成り上がってきた己、過去の長きにわたる闘いの記憶までを深く広く。
あのように火柱が天へと至るまで、ただ純粋に強く追い求めつづけた。そして戦いとは無縁であった己のちっぽけな灯火に、滾る闘志を焚べたのは誰であるのかを思い出した。
(……知らぬ神族の示現……いや、神を引き寄せるそれほどまでの輝きを放つ炎……そのような炎を統べるのはただ一人、──初代天戴武天……このような気まぐれ……)
手に取りじっと眺める、しかしそのひび割れた緋色の剣の名を彼女は知らない。神器にまでなった自分の黒い羽衣にくらべて、それほど特別なモノにも見えない。そっと宙へと浮かせた赤い剣は、目の先に立つ男子の手元へと返された。
「一発です。あと一発ソレを受けてあげます。このカムリをほつれさせた納得のいくものならば、この勝負、あなたの勝ちにします」
「なっ……?」
返されたまだ熱帯びたその剣と、添えられた静かな言葉に、まだ闘いはつづいているのだとピネスはわかった。
先に立つ女子生徒は最初のように微笑んではいない。放ったその言葉が本気であるということは、聞かずとも分かる。
『このような相手くっくっく、童め、よほど命知らずよのぅ!! 餓鬼どもの偽王の次はいきなりコレに喧嘩を売ったか、物足りぬとは言ったがくっくっくハハハハハ』
赤い魚が高笑いを浮かべる。バチバチとその身をフラッシュさせながら、魚の口が裂けるほどに大口を開き嗤っている。
いつの間にか帰ってきた小角灯の朱文金、そしてその燃えるお魚の身を乗っ取り現れた喋る未知の存在。ピネスが示現したその魚の声を聞くのは黒騎士とヤンチャゴブリンキング、これで三度目だ。
命知らずでもなく、喧嘩を売ったつもりもない。しかし、そんな言い訳は今はどうでもよく、ピネスは鬱陶しい高笑いを遮り口を開いた。
「いっ、いいからなんか前の黒騎士の時みたいにアドバイスってのくれよ! あんた結構すごいんだろ! 登別さんが、雷の神様ってやつってさぁ!!」
請うたのはまさかのアドバイス。恐ろしげな喋る魚も、魚の身ならば恐れるに足りない。もっともっと恐ろしいモノがすぐ側で自分のことを見つめている。例えその魚の本性が良い神様であれ悪い神様であれ、なり振り構ってはいられない。
ピネスは自分の力ではどうにも避けられない理不尽、イベントというものがこの世にはあることを重々に理解していた。そしてまたここで不平不満を垂らすばかりより、ただ求められているのは、きっとクリティカルなイチゲキであると──。
『くっくっくいい心掛けよの。──構うなそのまま奴を斬り裂け、一切の情けなど捨てろすべて貴様が神と敬うこの黄泉の雷神、我によこせ。貴様のその矮小なイノチなど天の前にはなきに等しいと思え童! 全てを寄越せ、先ずはそれからだ。さすれば神による神をも屠るイカヅチをとくと見せてやろう……!! くっくっくはははははは』
いちいちの大袈裟な物言いとその止まらない高笑いも、あながち嘘ではない。
ユラユラと漂いはじめた空間さえ支配する膨大な魔力量と、黒の制服姿と浮かぶ羽衣に練り上げ纏うその炎の気と闘気に、魚の神が宣った事も説得力が増すばかり。
「そーそー鬼になれ、喜びも、怒りも愛も、魔力も運もぜーんぶ叩き込め、本物の強者相手にちょっと強くて若いだけのイモムシの情けはいらない、よっ! 手加減は学校みんなの後悔、全力全身ノ前進! じゃないとありゃ泣かせるには硬いよっ! クリティカルシンデレラボーイ! 死ぬ気と根気で、ブク高の運命をしょってけぇーーはははっ!!」
「俺、なんでブク高をしょって……!?」
「浦木幸! あまり怪我をしてはいけないのですよっ! け・ど・もっっ、勝てば風紀を正すチャンスなのですっ!!!」
ピネスはもっと苦笑いを浮かべてみせる。
バチバチと発光しやる気と魔力を昂らせる喋るお魚。その黄泉の雷神の実力に期待し頼らざるを得ない。
水色作業着は何故か今ピンクに染まりだした。【愛】と書かれた帽子を後ろに反転させ、いい笑顔で用務員は頷いた。
ピンクのアンテナ髪を立たせ、灯る瞳で彼を見つめる。手に持つイニシエランタンに宿す火を豪豪と盛らせながら、小角灯は彼の顔を勇ましく指差した。
こちらよりそちらの覚悟の方が随分とできていた。勝手な言動と行動仕草に苦笑いを超えて──浦木幸はもう、笑うしかない。
「もはやこの学校の風紀ってなんだぁ……はっ……みんな勝手だなぁ……よしっ! じゃぁ、俺も勝手させてもらうぞっ、こんなかんじのぉ……なんとなくでなァ!!!」
翠の剣を取り出して、今なんとなく構えた二刀。
餌を与えるように豪快に、翠の刃を宙に浮かぶ赤い熱源の横腹へと突き刺した。燃え盛る魚に注文通りに痺れる力を与え、その尻尾まで余さず魔力を敷き詰め青く充電した。
そして替わりの見返りに、右手に握る緋色の刃がメラメラと灯り燃え盛る。
灯るスベテの期待感はやがて火を超え、炎へと変わる。
今更臆するという言葉はない。この剣を強く握りしめた時には、そんなものは知らず失せた。
『納得させろ』というならば、その得体の知れない無茶な注文には全力でアンサーするしかない。
許されたのは一発イチゲキ──考えるよりも今は〝なんとなく〟ゆだねてみる。自分の体を覆い大いなる次へと進ませる、熱い魔力の満ちたこの漠然とした感覚を信じて。
期待も不安も入り混じり激しく燃えていく。ぶっつけ本番の炎剣は、黒い羽衣を従え誘う大きな炎の中へと勇み飛び込んだ────────
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