【R-18】異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re:

山下敬雄

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49 不黒文の罪

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 グラウンド中央には、風に憩う一本の大きな木。

 その傘のように立派に茂る新緑の影の下、ベストポジションに設営された移動式の簡易茶室は、ぽつんと存在する。

 とても穏やかに学び舎のグラウンドと木の緑を遮らず、その場に侘びるように溶け合っている。

 その茶室から広がるほんのちょっとの和の異世界。見上げれば心地よい緑、木漏れ日、振り向けば広大なグラウンド、厳かに構え見守る学校景色。何にも遮られない調和する憩いの空間で、甘くて渋いFikaの時間がやってきた。



 【セムラ】というお菓子はスウェーデンの伝統菓子だ。シュークリームのような見た目であり、パン生地に生クリームとアーモンドクリームをこんもりと挟んだものである。粉糖を上からかければ見た目にも楽しく茶の席で出すにも適している。カルダモンの風味のするパン生地は少し独特であるが、加減を間違えなければ良いアクセントになる。つまり、シュークリームのような見た目のシャレたクリームパンである。

 茶人の出すそんな甘い伝統菓子と、淹れたての熱いお茶の組み合わせを、食欲旺盛にも4度おかわりし楽しむ。

 いつも通りの威厳ある黒スーツとタイトなスカートを身に纏い、本日は藍染の眼帯で渋い茶に合うスペシャルなおしゃれをする。プラチナ髪のお偉い人物はこの茶室の畳の上で、客人をただ座して待つのみ──。


 一本木の下、畳の上に、プラチナの長髪佇む目印と特別な気配が既にある。

 遠方よりお越しのその方は慌てず走らず、少しほころんでいた身なりを魔法で整えた。そして歩き辿り着いたこの和の異世界への入口である小さな木枠をくぐろうとするが、通れない……。

 近場にいたこの茶室の亭主である金髪の茶人は、くろまねき商店で購入させられたという大量の手荷物を、今やってきた尊き客人から預かった。








 やっと、ほっと一息────

 パッツン頭の黒髪の女が、座布団の上で正座をつくる。彼女の礼儀作法の美しさは、茶人サーガの目からみても完璧で見事なものに見えていた。パッツン頭の女は、出された茶と珍しい菓子のセットを落ち着いた様子でいただいていく。

 静かな葉音と、また茶を点てる音だけが聞こえる。そんななごむ和の空間で、勝手に室内へと上がり紛れ込んだ一匹のコカトリスが、その美しき黒髪の女神の膝上に、恐れなくすやすやと羽を休めて眠っている。

「やーやー、随分とお帰りが遅かったようでフフフ」

 独特のタイミングで切り出したのは、隣の座布団席に悠然と座るプラチナさん、不黒文校長。校長は一息つき茶を楽しんでいた今し方やって来た客人に、眼帯をしていても分かる含み笑いを浮かべた。

「さぁ────約束は果たしました。今度はあなたが果たす番です、不黒文」

 そのような戯言には付き合わない。黒髪の女神は、ずっと用意していた台詞を突き返すように口にした。ちらりとだけ隣の人物を見た女神は、柄つきのお椀を丁寧な所作で回し、新しく提供された茶をすすった。

「と、言われてしまっても。こちらも生徒たちと苦労して漸く手に入れた〝アレ〟を手放すのは惜しいよなぁー。こっこっこっそーかそーか、けいちゃん6号もそうかー。この美味しい謎シュークリームもどきが食べたいのかー?」

 コカトリス鶏ちゃん6号、膝元に寄って来たふぅーちゃん魔獣軍団に属する鶏サイズのそのモンスターに、不黒文校長は茶菓子で餌付けをしながら愛でる。

「──不黒文」

「フフフ、ふぅーちゃんジョーク!!」

 飛んできたお隣からの鋭い目線に、ジョークだと不黒文は朗らかに腕を広げアピールした。

 何故そのようないらない事をするのか。茶であたたまった女神の喉から、溜息が漏れ出てしまう。

「はぁ……あなたは一番手のかかる……」

 膝の上に眠るこのモンスターですら羽と嘴をとじて大人しいというのに、大人しくない変わった人間が今、女神の目の前でおかしな笑みを浮かべ存在している。

「ふぅーー……。ごほんっ────それはすまない。いや仮にもここのトップであるブク高の校長先生が、舐められる訳にはいかないと思ってな! ある種のパフォーマンス、本気ではないぞー。フッフッフ!」

「はぁ……そのような見栄など評価に値しません。本題に移ってください」

 黒髪の女神は冷静にも不黒文のペースには流されない。女神は、粉糖のかかったパンを手に取り間に飾られてあった白いクリームを掬いとった。見栄を張るなどもってのほか、中身のない話はいらないのだ。

「本題本題、そうだなぁ本題?? おっと──これかな。これから色々調べものをするつもりだったのだが、女神様に求められれば仕方がない」

 校長に命令された鶏ちゃん6号は、取り出された【本題】を咥えて、客人である女神の膝元へと鳥足で駆けて運んでいった。


「これは、たしかに────」

「よちよちよちよちこっこっこ、鶏ちゃん6号は賢いなー」

「不黒文……チッ」

 女神が舌打ちをすることなどあるのだろうか。

 ──ある。

 戻ってきた鶏ちゃん6号を撫でてまたシュークリームもどきで餌付けをする。そんなふざけた行為にかまける存在を咎めるように、女神はその綺麗なパッツン黒髪に似合う鋭い眼光で、不黒文のことを睨みつけた。

「ごほんっ────……失敬失敬。ところでその【みどりの本題】の正体というものを、渡したついでに少し教えてくれてもいいと思うのだが? どうかな? ふっふ」

 僅かな殺気を感じ取った不黒文は、おちゃらけ困ったときの伝家の宝刀、校長の咳払いで仕切り直しを図った。そしていらぬ口は転じて上手い具合に、今提出した一冊のみどりの本に関する情報の提供を女神へと求めた。

「いいでしょう……隠す必要もないこと」

 蔦のからみ巻きついたみどりの本。提出した本題とは一冊の本であり、ブク高の先生、生徒からなる冒険者たちが、みどりのダンジョンへ挑みその78Fで手に入れた特別な一冊のことである。

 手に取っていたみどりの一冊を、その神の慧眼で識別していた女神は、これを本物であると認めた。

 そして『隠す必要もないこと』だと言い、本を渡した不黒文の要求に応じる姿勢をあっさりとみせた。

「おっ太っ腹、よっ神様ふっふぅーー」

「余計な嘴はしまっておきなさい」

「ごほん──了解した。──して? どこからでも話したまえ?」

「いいでしょう……。これは────ブックマスターのブックです」

「……なァるほどな。そのなんだ……すごいな、懐かしいゲームの説明書のようだ? 私はそれにどのような効力とメリットがあるのかを知りたいのだが」

「あなたが口を挟むからです。ブックマスターのブッ」

「ははーん、待て待てのスペシャル待てよー、つまり〝これ〟と同じと言いたいのかな?」

 指をパチンと鳴らし何かを閃いた。女神の言葉も幾度も途中で遮った不黒文は、例の赤い本を校舎の方から呼び寄せた。紙を広げてひとりでに飛んできた学習帳を、やがて自身の手元へと留めた。

「それは────頭の方は回るようですね……知っているのなら、話は早いです。では、普通のダンジョンには、そのダンジョンの象徴である【ブックマスター】つまり、他の雑兵とは一線を画すとりわけ特別なモンスターが存在することがほとんど。この緑のブックはおそらく、野良のダンジョンをクリアした証ですが、さっき言ったブックマスターを倒したその見返りに手に入れたのでしょう」

「ほぉー、言われてみれば確かに、搦手もあり存外力も知恵もあり他のモンスターより手強いキノコ型のモンスターだったな。中途半端な階層の道端で不意にイカした家の中から現れた時は驚きはしたが、まぁウチの生徒と用務員がそれも全部倒してしまったがなー」

「そうですか……たいていは、自ら階層を降り動いては来ません。そのようなブックマスターは珍しい方と言えます。しかし知性をもつほど厄介度が上がるのは常、次のダンジョンにおいて、このようなブックを手に入れる際は気をつけるようにしなさい」

「ほぉー、初めてがレアケースであったか。確かに言い得てアレは厄介。だが────、次のダンジョン次のブックとは聞かされてはいないぞ、私は。楽しい竹馬遊びとお祭りの次は、このような読書をご所望とはな? ふふふ。少しまたそちらの話を詳しく聞かせてもらう方がお互いスムーズに運びそうだ。私はブク高のトップでありスペシャルな校長、何からでもどこからでも教えてくれたまえ」

 次のダンジョンのブックマスターを倒しブックを手に入れる。不黒文は〝次のダンジョン〟その言い方に引っかかった振りをする。そしてまた新たな情報を貪欲にも、ブク高の校長らしいユーモアをまじえつつ隣に座る女神を相手に求めた。ただでその方に従うつもりはないらしい。

「なにからでもどこからでも、ですか。……いいでしょう……では、それは簡単なことです」

 またもあっさりと要望を受け入れた。隠し事は好まないのか。女神はあっさり目の三杯目のお茶をお椀を傾けゆるり味わう。そして、静かな貫禄と一息の間を入れて──

「ほぉ、聞かせてみたまえ。ふっふっ多少難しくてもこのスペシャルなこうちょ」
「不黒文、──あなたには罪がある。あなた自身隠してしまうほどの、拭いきれない罪が」

「ん?  ──罪? ……」


 上蓋のパンで掬い上げていた古き伝統菓子セムラの中のクリーム、その甘いクリームだけを舐めとっていた不黒文校長の手と舌は止まった。

 制服姿に扮した女神ガイアが真剣な面持ちで睨むのは、藍色の眼帯の裏。そこに未だ生きている特別な魔力。

 神の目には不穏な灰色は透けて視えている。いくら隠していても妖しげな魔力を放ち、特別な何かを惹き寄せつづけているその灰色の眼のことが。

 いくら忘却してもいくら時を積み重ね別の晴々しい色に染め上げても、その灰色の眼からは逃れられない。

 茶はすすみ、菓子は甘い、舌先を汚したその甘さが作り物じみた味に思えた。

 座布団を温めながら語り合った侘びた空間の雲行きは、茶を点てるように渋く濁りゆく。

 果たして、女神の打ち明ける不黒文の犯した罪とは────。
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