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61 忘却宣言
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本校舎屋上ハーブ園にて。
いつもよりソファーに座り待つその男の姿はお疲れのようだ。様々なレアな生地を手触りを確かめながらツギハギにし────男子生徒のブレザー背は、まるでそこだけステンドグラスのようにおしゃれに縫い上げられた。
いつものように出来立てのブレザーを袖に通し、彼はその背にかける。初めて出会った時より、少し逞しくなってきた。そんな彼の背はなんだかおかしい──。
ぼーっと赤空の果てを眺めていた彼は、いつものように屋上の彼女に礼を言う。
「あっさんきゅー、えっと……そだ、コスモスさん!」
「そうだね、礼は忘れずに。ふふ」
それからは彼女はいつものように彼に適当につけたその日限りの名で自分のことを偽ったり、ふと本音を織り交ぜ唐突に告げてみたりすると、その度に彼は同じようなリアクションを見せる。
「絶対忘れてしまうか……ぅーー……あ。ならこのスマホでさぁ、『あーあー、俺浦木幸、屋上でえーと……コスモスさん、金髪ショートの学年不明女子にぼろぼろのブレザーをまたいい感じに直してもらったぜ! ────雑談①終わり!』────あぁー、こんな風にさ録音するのってどうかな? あとは……そーだな、あ。歌にするとか! それならずっと覚えてるかもしれないし、忘れた頃にまた廊下や風呂場とかで口ずさみながら思い出すかもしんねぇ、はは! 俺ってなんか最近どうやら……〝馬鹿〟ってことで通ってるらしいんだけどさ、歌の歌詞を覚えるのって、たぶんそれ数学よりできるぜ! だってさ、どんなに古い流行の歌だって学校の成績なんて関係なく、そうそう皆忘れないだろ? どう? 正解っ??」
無邪気に彼は笑う、いつもと変わらぬ彼なりの答えを見つけ出して。
なにを録音しても明日にはまた不思議とまっしろに消えているのかもしれない。
「ふふ────じゃ、歌って?」
驚かされた顔をした彼女の方は、彼にその答えを聞かされるのはもう何度も慣れっこだ。でも、たとえ答えを知っていても何度も繰り返してしまう。それは悪いことなのだろうか。
彼女はいつものハープを抱えてきて、また同じように言う。
彼女もおぼえている。彼が好きだと言う〝めぐるトキの歌〟をいっしょに──
この世には悪魔がいる。色んな悪魔がひそんでいる。悪魔たちの考えることなど分からない。忘却の悪魔が何故、屋上の彼女に干渉し目をつけたのか、そんなことは誰にも知る由もない。記憶の輪の外にある誰も知り得ないことだ。
だがしかし、たった2人の人間たちの考えることもまた輪の外にいるその悪魔には分からない。ただ、愉快な歌声と疾走感のあるメロディーが2人の間で渦巻くように繰り返し流れつづけている。
「やっぱこの曲さ。ずっとサビみたいで、なんかいいよな?」
「ふふ、それ、もう何度もきいたよ」
「ええ!? あぁー、おれもそれ……何度かきいた! ……気がする? はは」
いつもよりソファーに座り待つその男の姿はお疲れのようだ。様々なレアな生地を手触りを確かめながらツギハギにし────男子生徒のブレザー背は、まるでそこだけステンドグラスのようにおしゃれに縫い上げられた。
いつものように出来立てのブレザーを袖に通し、彼はその背にかける。初めて出会った時より、少し逞しくなってきた。そんな彼の背はなんだかおかしい──。
ぼーっと赤空の果てを眺めていた彼は、いつものように屋上の彼女に礼を言う。
「あっさんきゅー、えっと……そだ、コスモスさん!」
「そうだね、礼は忘れずに。ふふ」
それからは彼女はいつものように彼に適当につけたその日限りの名で自分のことを偽ったり、ふと本音を織り交ぜ唐突に告げてみたりすると、その度に彼は同じようなリアクションを見せる。
「絶対忘れてしまうか……ぅーー……あ。ならこのスマホでさぁ、『あーあー、俺浦木幸、屋上でえーと……コスモスさん、金髪ショートの学年不明女子にぼろぼろのブレザーをまたいい感じに直してもらったぜ! ────雑談①終わり!』────あぁー、こんな風にさ録音するのってどうかな? あとは……そーだな、あ。歌にするとか! それならずっと覚えてるかもしれないし、忘れた頃にまた廊下や風呂場とかで口ずさみながら思い出すかもしんねぇ、はは! 俺ってなんか最近どうやら……〝馬鹿〟ってことで通ってるらしいんだけどさ、歌の歌詞を覚えるのって、たぶんそれ数学よりできるぜ! だってさ、どんなに古い流行の歌だって学校の成績なんて関係なく、そうそう皆忘れないだろ? どう? 正解っ??」
無邪気に彼は笑う、いつもと変わらぬ彼なりの答えを見つけ出して。
なにを録音しても明日にはまた不思議とまっしろに消えているのかもしれない。
「ふふ────じゃ、歌って?」
驚かされた顔をした彼女の方は、彼にその答えを聞かされるのはもう何度も慣れっこだ。でも、たとえ答えを知っていても何度も繰り返してしまう。それは悪いことなのだろうか。
彼女はいつものハープを抱えてきて、また同じように言う。
彼女もおぼえている。彼が好きだと言う〝めぐるトキの歌〟をいっしょに──
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だがしかし、たった2人の人間たちの考えることもまた輪の外にいるその悪魔には分からない。ただ、愉快な歌声と疾走感のあるメロディーが2人の間で渦巻くように繰り返し流れつづけている。
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「ふふ、それ、もう何度もきいたよ」
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