最近のよくある乙女ゲームの結末

叶 望

文字の大きさ
2 / 7

断罪

しおりを挟む

 王城に入り王妃に呼ばれて部屋にはいればなぜか国王陛下もいらっしゃってクリスティーナは恐縮してしまった。いずれは父になるのだからと優しく接してくださる国王夫妻はクリスティーナにとってはもう一人の父と母だ。
 クリスティーナの言葉を聞いて王妃さまは難しい表情で考え込んでいた。国王さまも苦りきった表情だ。その理由は呪われているかもしれないから次期王妃に自分は相応しくないかもしれないと告げたせいだろうか。

「クリスティーナ、この一件私が預かっても良いかしら。」

「王妃さま、私どうしたら……。」

「少しだけ時間を頂戴。何が起こっているのか調べて見ますわ。ねぇ、あなた。」

「うむ。クリスティーナ大丈夫だ。私たちが付いているからな。」

「ありがとうございます。」

 その日学院に戻って見れば婚約者がアリアと街に出かけたという話を聞いてショックを受けたクリスティーナ。
 だが、それでもそれを表情に出さずに耐えたのは彼女が長年耐えてきた教育の賜物。
 そしてアリアのエスカレートしていく行為に頭を抱えつつも、その尻拭いと周りの者たちを宥めて必死に過ごす毎日となった。
 次第に強くなっていくアレクサンデルの冷たい視線に耐えながらもクリスティーナは彼の婚約者として立ち続けた。

 そして学院卒業を目前としてパーティが開催された。

 今日は保護者たちも参加するので会場はかなり賑やかだ。その日、本来であれば自分をパートナーとするはずのアレクサンデルからエスコートができなくなったという知らせを受けて仕方なしに一人で会場に赴く。

 その会場で見たのは婚約者にエスコートされて会場に入ってきたアリアの姿。

 当然のことながら周囲はざわめいた。こそこそと話し声が聞こえる。国王夫妻への挨拶が終わるとパーティが始まるがその日はそれどころではなくなってしまった。
 クリスティーナは突然騎士団長のご子息であるカイン様に押さえつけられ床に膝を付いた。

「な、なにをなさるのです!」

「もう我慢ならない。クリスティーナこれまでの仕打ち今ここでアリアに詫びるんだ。」

 冷たい婚約者の視線と決め付けた物言いにクリスティーナは何のことだか分からない。

「一体何のことですの?仕打ちとは一体……。」

「しらばっくれるつもりか!お前はアリアが平民だからと言って蔑み、物を隠し教科書や机に傷を付けたそうじゃないか。おまけにお茶会に誘っておきながら彼女に紅茶をわざとかけた。」

「待ってくださいアレク様、私そんな事はしていませんわ。」

「ひどい。どうしてそんな嘘を付くの。」

 アリアはアレクサンデルの腕にしがみついて涙目でクリスティーナを睨み付ける。
 そしてアレクサンデルはアリアをそっと抱き寄せて頭を撫でた。

「大丈夫だアリア。私が付いている。」

「はい。アレク様。」

 潤んだ瞳でアレクサンデルを見上げて頬を染めるアリアをアレクサンデルは優しく宥める。そんな二人の様子を見せ付けられるクリスティーナは堪らない。

「あ、アレク様どうして……。」

 お茶会のことも調べれば分かること。なぜ決め付けるのかクリスティーナには理解できない。

「お前に愛称で呼ばれる筋合いはない。お前がやった事は全て明らかになっている。街で暴漢に襲うように指示したことも、彼女に買ってあげた指輪を盗んだのも分かっている。それに階段から突き落としたのもお前だそうじゃないか。」

「私はそんなことはしていませんわ。何かの間違いです。」

「私が憎いのも分かります。アレク様が良くしてくださっているのが気に食わなかったのでしょう。でも階段から落とすなんてひどい!下手したら怪我じゃすまないのに。」

 その言葉に押さえつけられる力が更に加わって苦しげに呻いた。

「もはやお前などという者が私の婚約者など…。」

「お待ちなさい!アレクサンデル。」

 アレクサンデルの言いかけた言葉を途中で止めたのはずっとその場を見ていた王妃さまだった。

「母上、なぜ止めるのです。」

「貴方、それだけ言うのだからきちんと調べたのでしょうね。」

「当然ではありませんか。きちんと証言した者がいます。」

「では連れてきなさい。」

 王妃さまに言われて連れて来られた者たちは皆一様に青ざめていた。
 その様子に気づかずにアレクサンデルは証言を求めた。

「お、お許しください。私はその女に金で雇われました。」

「わ、私はアリア様に脅迫されたのです。」

「な、なんだとお前たちどういうことだ!」

「ひどいです私のせいにするなんて。」

 アレクサンデルとアリアが叫ぶ。

 だが、周囲の視線が冷たく突き刺さっていることに気が付かないはずもなくどういうことかとアレクサンデルは王妃を見た。

「私はクリスティーナの相談を受けてずっと学院を監視させました。」

「う、嘘よ!」

 アリアが叫ぶが一瞥するだけで王妃はそのまま続ける。

「報告書をここに。」

「はっ!」

 近衛騎士が報告書の束を持ってくる。それを受け取ってアレクサンデルに王妃が渡した。その内容を見てみるみる青ざめていくアレクサンデル。

「いつまで私の可愛い未来の娘を床に押さえつけているつもりかしら。」

 王妃の言葉に騎士団長の息子であるカインは青ざめて手を離した。
 ゆっくりと立ち上がるクリスティーナ。その瞳は悲しげに揺れていた。

「どう、いうことだこれは。」

「ち、違うのこれは……あの女に命令されたの。逆らえなくてお願いアレク様信じて。」

 辛うじて絞り出した声は震えている。アレクサンデルはアリアを睨み付けた。

 その視線を受けてアリアは必死に弁解しようとアレクサンデルに駆け寄ってその腕に縋ろうとするがその手は振り払われた。

「すべて自作自演だったのだな。私とクリスを引き離すためにやったのか。」

「わ、私……。」

 アリアは言いかけた言葉を呑み込んでキッとクリスティーナを睨み付ける。

「何よ!悪役の癖に私をいじめないから全部自分でやる羽目になったのよ。あんたがきちんと役目を果たさないからこうなったんじゃない。ふざけないで!私はヒロインなのよ。ゲームの登場人物ってだけのあんたは大人しく私を引き立てて悪役らしく退場したらいいのよ!」

 叫んだ言葉はこの場の誰も理解できないことだった。

「お前なんて消えちゃえ!」

 近くにいた護衛から剣を抜いてクリスティーナに切りかかった。あまりの状況に身動きがとれなかったクリスティーナは目を瞑るが何時までも衝撃は来ない。
 そろりと目を開けるとずっと久しく見ていない愛しい婚約者の顔が見えた。

「く、りす…許してくれ。君を信じ切ることが出来なかった。」

「あ…あれく様?どうして……。」

 震える声でアレクサンデルの頬に手を添える。
 そして力が抜けたかのようにアレクサンデルがクリスティーナに倒れこんだ。真っ赤な血がクリスティーナの頬を濡らす。

「あ、あっ……いや、いやぁああああ!」

 クリスティーナの叫び声が会場に響き渡り騒然となった。取り押さえられたアリアは騎士たちに引きずられて会場を去った。
 ずっと私がヒロインなのになんでと口走っていたがその意味を解する人物は誰一人としていなかった。全員がアリアは気が触れたのだろうという見解だ。
 王子は無事に一命を取り止めたが傷は深く今も昏睡状態だ。
 そしてアリアに唆されてクリスティーナを糾弾した騎士団長の息子カイン様や魔道師長のご子息であるネーベル様、そして宰相閣下のご子息であるラース様は全員が謹慎処分を受けて教育を受けなおさせているらしい。
 言葉巧みに彼らの心を掴んだアリアとろくな教育も与えないまま学院に放り込んだ男爵家も同罪とみなされ一族郎党処刑されることとなった。
 王太子を殺しかけた上、公爵家の令嬢であるクリスティーナを陥れようとしたのだから当然の処置だった。
 アリアは死ぬ直前までぶつぶつとヒロインなのにと呟いていたそうだが毒によってあっけなく最後を向かえた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

傾国の美女と呼ばれたのは前世の話です

ぴぴみ
恋愛
あらゆる者を魅了し、国を滅ぼした前世を持つ令嬢ラフレシア。 今生では地味にひっそり生きています。 悪役令嬢の味方はするけれど。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する

青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。 両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。 母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。 リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。 マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。 すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。 修道院で聖女様に覚醒して…… 大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない 完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく 今回も短編です 誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡

【完結】モブ魔女令嬢は絶対死んじゃう呪われた令息の婚約者!

かのん
恋愛
私はこの乙女ゲーム【夕闇のキミ】のモブだ。 ゲームの中でも全く出てこない、ただのモブだ。 だけど、呪われた彼を救いたい。 そう思って魔法を極めたが故に魔女令嬢と呼ばれるマデリーンが何故か婚約者となっている彼に恋をする物語。

わたくしが悪役令嬢だった理由

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、マリアンナ=ラ・トゥール公爵令嬢。悪役令嬢に転生しました。 どうやら前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したようだけど、知識を使っても死亡フラグは折れたり、折れなかったり……。 だから令嬢として真面目に真摯に生きていきますわ。 シリアスです。コメディーではありません。

執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~

犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…

処理中です...