最近のよくある乙女ゲームの結末

叶 望

文字の大きさ
6 / 7

番外編 アレクサンデルの再起

しおりを挟む

 クリスティーナから受諾の返事を受けて、アレクサンデルは浮足の立つような気分で城へと戻った。だが、浮かれたままでは説得など出来るはずもない為、少しだけ気持ちを落ち着かせてから両親へ報告に向かう。

「今、何て言ったの?アレクサンデル……。」

「ですから、クリスティーナが結婚の申し出を承諾してくれたと申し上げました。」

 頭を抱える王妃にアレクサンデルはもう一度同じ言葉を繰り返した。あり得ないという表情をありありと浮かべて王妃はアレクサンデルを見た。

「私達はもう、後押しなどはできません。分かっていますね?」

 一度反故にしたものを再び元に戻したい。これをすぐに認めてしまう事は国を背負う者としてあり得ない。
 だからこそ、王妃は自分たちが認めざるを得ない程の状況を自分で作り出せと言っているのだ。

「分かっています。ただ、必要な準備が出来たなら、認めていただけますか?」

「お前にその覚悟があるのなら、見せてみなさい。」

 それ以上の言葉は貰えなかったが、認めるとは断言していないものの考慮する余地があることにほっと息をつく。王妃の言葉に国王も黙って頷いた。
 アレクサンデルは二人に報告が終わった後で向かった先はこの国の政治を司る宰相の元だ。すでに時間を取って貰えるようにお願いしてある。
 話を聞いた宰相は難しい顔をして考え込むとテーブルの上をとんとんと指で数回叩く。そして、やっと口を開いた。

「殿下、我が国が今、他国にどのように思われているのかご理解いただけていますか?」

「私の行動のせいで色々と迷惑をかけていることは理解している。」

「いいえ、分かっておいでではないようだ。本来、婚約とは契約です。契約は信用の元に成り立つもの。殿下はそれを大々的に反故になされた。他国から我が国は信用を失っている状態なのです。今はまだ陛下がいらっしゃるから大きな問題にはなっていませんが、次期国王である殿下が継いだ時、果たして我が国を信用しても良いのかどうか試されている事になります。そして、今、反故にしたものを再び元に戻そうとしている。これでは信用ならないとご自身で宣言するようなものですよ?普通に考えて認められるはずがない。国にも民にも示しがつきません。」

 宰相の言葉は最もで、アレクサンデルは反論の余地はない。

「それでも、私はクリスティーナを諦めたくはない……。」

 声が多少小さくなってしまっているのは無理もないだろう。国を思えばアレクサンデルが取ろうとしている行動はとても褒められたものではない。
 その苦悩している表情をアレクサンデルから読み取った宰相はごほんと一つ咳払いをした。

「これはあくまで国として考えての私の意見です。ですが、殿下をただの一人の男性として考えた場合、愛する人を諦めたくない気持ちは私も同じ男ですから良く分かります。勿論、子を持つ父としても同様です。きっと両陛下も同じ気持ちなのでしょう。それだけクリスティーナ様は認められていましたから。」

「宰相……。」

「私に言えるのは、殿下であればどうすれば周囲の貴族たちの気持ちを動かし認められるようになるのか…すでに分かっているのではないですか?それならば、それを信じて貫くしかありますまい。多くの貴族が賛同すれば、国も殿下とクリスティーナ様の婚約を認めざるを得なくなるでしょう。勿論、簡単なことではありませんが。」

「ありがとう。感謝する。」

「……殿下一つだけ、女性とは噂が大好きです。特に色恋沙汰は。」

「必ず認めて貰えるように努力する。皆が賛同してくれたら協力してほしい。」

「考慮しておきましょう。」

 宰相の言葉もまた、同じ形で締めくくられた。
 この先の努力はアレクサンデル一人ではできない。クリスティーナが体調を戻し落ち着いてきた頃を見計らって共に奔走することになる。

「殿下が決められたのであれば従うまでですわ。」

 そう告げたのは社交界の中でも特に発言力があり、おしゃべりが大好きな婦人として知られているマデリン伯爵夫人だ。

「違うのだ。命令ではなく、認めて貰いたいと考えている。」

 王太子からのお願いなど命令に他ならない。多くの貴族に声をかけるも返ってくるのはこういった素っ気ない返事ばかり。

 そこで、アレクサンデルは方向性を変えた。

 ただ、真摯に認めて貰うだけでは足りない。

 宰相のアドバイスに従ってマデリン伯爵夫人の元へクリスティーナを伴って会いに来ていた。

「まあ、殿下。認めて貰いたいなんて一言命じれば済む話ではありませんか。」

「……あれは彼女が倒れたという話を耳にした時の事だ。」

 突然アレクサンデルはクリスティーナが倒れた時の事を話しだした。突然話を始めたアレクサンデルにクリスティーナも目を丸くしている。
 だが、クリスティーナの表情はみるみる真っ赤に染まり顔から湯気が出そうなほどになる。

「だから、私はもう彼女を手放すことなど出来ないと思い、彼女に結婚の申し出をしたのだ。」

 アレクサンデルが話を終える頃にはクリスティーナは恥ずかしさのあまり穴があったら入りたい気分になっていただろう。俯いてぷるぷると震えているが耳まで赤く染まっているのを見れば、誰もが気が付く。
 そんなクリスティーナを見てマデリン伯爵夫人は喜色をにじませてクリスティーナの両手をそっと握った。

「まぁ、ではクリスティーナ様は殿下の求婚を受け入れたのですね。」

 小さく頷いたクリスティーナにマデリン伯爵夫人はにっこりと微笑んだ。

 その後、社交界ではアレクサンデルとクリスティーナの話で大いに盛り上がることになった。アレクサンデルの葛藤とクリスティーナの献身的な愛、そしてかつての学院での話も交えていつしか壮大な愛の物語へと誇張され広がっていく。
 その話を耳にするたびにクリスティーナは頬を染め、アレクサンデルはそんな愛おしい彼女を支え続けた。二人は社交界でも公認の仲となり、少しずつではあるがアレクサンデルに向けられる厳しい視線は軟化していっているように思われた。

 そんなある時、アレクサンデルはファーメル王国のエルン王子が留学から帰ってくるという話を聞いたのだ。その時に感じた心の騒めきはじわじわとアレクサンデルを蝕むことになる。

 エルン王子はアレクサンデルがクリスティーナと以前婚約しているときに出会っている。
 姉のジュリア殿下はクリスティーナを一目見て気に入り、常々自分が男であったなら嫁にしたのにとアレクサンデルに文句を言っていたものだ。
 幼いエルン王子もクリスティーナには懐いており、よく一緒に遊んでいたのを思い出す。小さなお茶会と称したおままごとでは必ずエルン王子がクリスティーナに妻の役をやらせたものだ。
 幼い王子がクリスティーナと共に遊ぶ様子は見ていて微笑ましいものがあったはずなのに、今の自分は一体何を焦っているのだろう。
 あの時は何も思わなかったアレクサンデルだが、じわじわと込み上げてくる何かに焦りを感じる。クリスティーナとの婚約は未だ認められていない。

 落ち着かないのはそのせいだろうか。

 多くの貴族から信望を集めているクリスティーナはいつでも社交界の話題の的だ。一時期離れていたが、彼女が社交の場に戻ってしまえばすぐにそんな事は無かったかのように注目を浴びる。

 美しさ、気品、どれをとっても彼女以上の女性は居ない。

 この気持ちは一体何なのだろう。

 アレクサンデルはしばらくその感情に気が付かないままだった。だが、焦りは募るばかり。クリスティーナを見れば一瞬落ち着くものの、すぐに不安な気持ちが込み上げてくる。
 そしてとうとうアレクサンデルはもう一度両親に婚約の話をすることにした。

 婚約さえすればこの気持ちも収まるような気がしたからだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する

青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。 両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。 母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。 リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。 マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。 すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。 修道院で聖女様に覚醒して…… 大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない 完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく 今回も短編です 誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡

傾国の美女と呼ばれたのは前世の話です

ぴぴみ
恋愛
あらゆる者を魅了し、国を滅ぼした前世を持つ令嬢ラフレシア。 今生では地味にひっそり生きています。 悪役令嬢の味方はするけれど。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

【完結】モブ魔女令嬢は絶対死んじゃう呪われた令息の婚約者!

かのん
恋愛
私はこの乙女ゲーム【夕闇のキミ】のモブだ。 ゲームの中でも全く出てこない、ただのモブだ。 だけど、呪われた彼を救いたい。 そう思って魔法を極めたが故に魔女令嬢と呼ばれるマデリーンが何故か婚約者となっている彼に恋をする物語。

わたくしが悪役令嬢だった理由

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、マリアンナ=ラ・トゥール公爵令嬢。悪役令嬢に転生しました。 どうやら前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したようだけど、知識を使っても死亡フラグは折れたり、折れなかったり……。 だから令嬢として真面目に真摯に生きていきますわ。 シリアスです。コメディーではありません。

執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~

犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…

処理中です...