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013 夢を追う少女
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現国王であるリチャード・フォレスタ・アレインが愛した妻との馴れ初めは貴族社会だけでなく平民にまで広がっている。
身分違いの恋物語は多くの人々を惹きつけてやまない。
そして物語は常にハッピーエンドというのが心の片隅にある。
そこに真実など関係ないのだ。
例え国王の愛した彼女がすでに国王でさえ手の届かない遠くへ旅立ってしまっていたとしても最愛の人と結ばれた時点で物語はエンディングを迎えるのだ。
ベイリー男爵家に先日引き取られた少女は平民で農家の娘だった。
父親はおらず母親一人子一人で育ったが、流行り病で母親を亡くし孤児院に引き取られたばかりだった。
そこに男爵が現れて自分の娘として引き取ってくれたのだ。なぜ引き取られたのかは知らされていない。
男爵と血の繋がりがあるのかさえ分からない。
それを知るはずの母はすでに他界しており聞くことが出来ないからだ。
だが少女は男爵家に連れて来られて使用人にちやほやされることでそんな事はどうでも良くなっていた。
母から聞かされていた国王の恋物語に出てくる少女と自分を重ねていたからかもしれない。
平民から男爵家に引き取られたというだけでも夢物語のようなものだ。
物語の主人公になったかのように少女は気持ちが浮き立っていたのだ。
自分は王子様とハッピーエンドを迎えるのだ。
綺麗に整えられたダークブラウンの髪を弄びながら少女はうっとりと自分の世界に陶酔していた。
使用人からの報告を受けてベイリー男爵はでっぷりとした腹を撫でながら満足そうに食後のコーヒーを飲んでいた。
「王子と結ばれるだと?ふん、まぁいい。好きにさせておけ。」
以前レスター辺境伯爵家でリズレットに恥をかかされたクライブ・ベイリーは未だ辺境伯爵になることを諦めていなかった。
そうだというのに、狙っていた婚約者の座を第二王子であるレオナード・フォレスタ・トーレンスによって奪われてしまった。
しかも二人は王都の学院卒業後に結婚することが決まってしまっていた。
王族に不服を持つなど許されない事ではあるが、すでに婚約式を済ませてしまった二人を引き離す術はすぐには見つからない。
あの愚かな娘さえ丸め込むことさえできれば婚約者の座に収まり、辺境伯爵家を継ぐことは難しい事ではない。
ベイリー男爵はそう考えていた。
その点でいえば王子を欲する孤児院から引き取った娘は男爵の意に沿っている。
平民である彼女を切り捨てるのは容易く、その気持ちを利用するのも簡単だ。
孤児院で寄付をするというのは貴族の慈善事業の一つだ。
そこへは普段であれば使用人を向かわせるだけで済ませるベイリー男爵はほんの気まぐれで自ら赴いた。
そこであの少女を見た時にベイリー男爵の中で何かピンとくるものがあったのだ。
少女と男爵には血縁関係などはない。
だが、片親が誰かも分からない少女は男爵にとって都合が良かった。
そして引き取ってみれば案の定、頭は弱く思い込みの激しい少女だと分かった。
それだけ物語にのめり込んでいる少女であれば、わざわざそういう方向に仕向ける必要もなく簡単である。
王子とリズレットを引き離し、自分が辺境伯爵になる。
ベイリー男爵もまた自分がそうなると信じて疑っていないところは少女と何ら変わりがない事に自分では気が付いていなかった。
リズレットとレオナードの婚約に周囲から猛反対の嵐が雨のように降り注いでいた。
あのわがままでどうしようもないリズレット嬢となぜ第二王子が婚約することになるのかと妻の座を狙っていた令嬢たちとその親から国王に抗議文が数多く届けられる程の事態だった。
抗議してきたのは第二王子派の者ばかりではあったが、リズレットの特異性を知った国王はこの婚約を覆すことなど考えられない。
「飽きもせず毎日のように届きますな。」
宰相であるグレドリック・カスタンバールもこの抗議の嵐に疲れ切った顔を浮かべている。
尤も届けられている国王はそれよりも酷い顔色ではあるが、あまりの反応に書類を見るのが嫌になりそうだった。
「彼女の本当の価値を知らない者たちだから仕方がないか。」
大きくため息をつきそうになりながら国王は第二王子が城から飛び出した後の事を思い出していた。
宰相と二人の時だったから問題は無かったものの、突然光り輝くものが目の前に飛び出してどれ程驚いたことか。
しかもそれをよくよく見ればレオナードの筆跡に似た光の文字であった。
その不思議な光が届いてから数週間後に伝令が城に駆け込んでくることになり、あの光の手紙に書かれていたことが事実であったと証明されたのだ。
その後なぜかいくつかの貴族家が城に駆け込んできたがレオナードは無事だ。
彼らは肩透かしを受けたかのようにすごすご引き返していった。
それからしばらくして城に帰還したレオナードはいきなりリズレット嬢との婚約をしたいと願い出てきた。
そして話を聞いて納得した国王はすぐに二人の婚約式を執り行った。リズレット嬢を確実に確保するためだ。
隣国との国境でもあるレスター辺境伯爵領は王都とかなり距離がある。
早速あの光の手紙を使って領主であるアルフォンスに連絡を取った国王は式の準備を進めるとともにリズレットを呼び寄せたのだ。
婚約式を済ませたレオナードとリズレットはその後、学院に通うことになった。
リズレットは相変わらず何も出来ない愚か者を演じている。
本人は演じているつもりはないのだろうが。
おかげでレオナードはわがままなリズレットに無理やり婚約を迫られた可哀想な王子様というレッテルが貼られてしまっている。
求めたのは王家であるのに多くの者たちが勘違いしているのだ。
そう感じるほどリズレットの行いが彼らにとって相当なものなのだろう。
そうはいっても彼女自身は特に何かをしている訳ではない。
授業を聞き流していたり、試験で何も書かずに提出したりしているだけだ。
ただそれだけで、多くの者は反感を覚える。
王子の婚約者にふさわしくないと声が上がるのも無理はない。
リズレットにとって学校での勉強よりも外で知った事の方が有益で面白いのだから仕方がない。
テストで何も書かずに提出して席を立つのも時間が惜しい為だ。
学院での成績は特に問われることは無い。本来は貴族としての必要な知識を深め、社交を行うための練習場所のようなところだ。
成績が優秀であれば勿論誉めたてられるだろうが、それはあくまで学院内でのこと。
実務と勉強は別物なのだ。
「納得いきません!なぜあのような者を婚約者にしておくのですか。」
レオナードの傍で先ほどから騒いでいるのはカシウス・ランドリックの息子であるナイアスだ。
ナイアスの言葉にピクリと反応して僅かに不機嫌な表情を浮かべているレオナードだがリズレットの事を敢えて伝えていないナイアスに怒りをぶつけた所で意味はない。
これはカシウスの願いだった。
息子がリズレットの本当の姿に気が付くかどうか試しているのだ。
噂に翻弄されず、リズレットの本質を見抜く力があるかどうか。
二人に付き添っていれば自然と見えてくるものがあるはずだとカシウスは考えたようだが、逆効果だったかもしれない。
ナイアスは真面目な性格だ。馬鹿正直だと言い換えてもいい。
一点集中型で周りが見えていないのだ。
素直だと言い換えても良いが、リズレットを見抜くどころか周りに翻弄されているところを見れば、正直不安しかない。
「どうかお考え直し下さい殿下。貴方にはもっと相応しい方がいるはずです。」
「ナイアス、その件については話したはずだ。再考などあり得ないと。」
「ですが…。」
「くどいぞ!もうこの話は終わりだ。」
レオナードは強引に話を打ち切ったが、今回はそれだけでは終わらなかった。
身分違いの恋物語は多くの人々を惹きつけてやまない。
そして物語は常にハッピーエンドというのが心の片隅にある。
そこに真実など関係ないのだ。
例え国王の愛した彼女がすでに国王でさえ手の届かない遠くへ旅立ってしまっていたとしても最愛の人と結ばれた時点で物語はエンディングを迎えるのだ。
ベイリー男爵家に先日引き取られた少女は平民で農家の娘だった。
父親はおらず母親一人子一人で育ったが、流行り病で母親を亡くし孤児院に引き取られたばかりだった。
そこに男爵が現れて自分の娘として引き取ってくれたのだ。なぜ引き取られたのかは知らされていない。
男爵と血の繋がりがあるのかさえ分からない。
それを知るはずの母はすでに他界しており聞くことが出来ないからだ。
だが少女は男爵家に連れて来られて使用人にちやほやされることでそんな事はどうでも良くなっていた。
母から聞かされていた国王の恋物語に出てくる少女と自分を重ねていたからかもしれない。
平民から男爵家に引き取られたというだけでも夢物語のようなものだ。
物語の主人公になったかのように少女は気持ちが浮き立っていたのだ。
自分は王子様とハッピーエンドを迎えるのだ。
綺麗に整えられたダークブラウンの髪を弄びながら少女はうっとりと自分の世界に陶酔していた。
使用人からの報告を受けてベイリー男爵はでっぷりとした腹を撫でながら満足そうに食後のコーヒーを飲んでいた。
「王子と結ばれるだと?ふん、まぁいい。好きにさせておけ。」
以前レスター辺境伯爵家でリズレットに恥をかかされたクライブ・ベイリーは未だ辺境伯爵になることを諦めていなかった。
そうだというのに、狙っていた婚約者の座を第二王子であるレオナード・フォレスタ・トーレンスによって奪われてしまった。
しかも二人は王都の学院卒業後に結婚することが決まってしまっていた。
王族に不服を持つなど許されない事ではあるが、すでに婚約式を済ませてしまった二人を引き離す術はすぐには見つからない。
あの愚かな娘さえ丸め込むことさえできれば婚約者の座に収まり、辺境伯爵家を継ぐことは難しい事ではない。
ベイリー男爵はそう考えていた。
その点でいえば王子を欲する孤児院から引き取った娘は男爵の意に沿っている。
平民である彼女を切り捨てるのは容易く、その気持ちを利用するのも簡単だ。
孤児院で寄付をするというのは貴族の慈善事業の一つだ。
そこへは普段であれば使用人を向かわせるだけで済ませるベイリー男爵はほんの気まぐれで自ら赴いた。
そこであの少女を見た時にベイリー男爵の中で何かピンとくるものがあったのだ。
少女と男爵には血縁関係などはない。
だが、片親が誰かも分からない少女は男爵にとって都合が良かった。
そして引き取ってみれば案の定、頭は弱く思い込みの激しい少女だと分かった。
それだけ物語にのめり込んでいる少女であれば、わざわざそういう方向に仕向ける必要もなく簡単である。
王子とリズレットを引き離し、自分が辺境伯爵になる。
ベイリー男爵もまた自分がそうなると信じて疑っていないところは少女と何ら変わりがない事に自分では気が付いていなかった。
リズレットとレオナードの婚約に周囲から猛反対の嵐が雨のように降り注いでいた。
あのわがままでどうしようもないリズレット嬢となぜ第二王子が婚約することになるのかと妻の座を狙っていた令嬢たちとその親から国王に抗議文が数多く届けられる程の事態だった。
抗議してきたのは第二王子派の者ばかりではあったが、リズレットの特異性を知った国王はこの婚約を覆すことなど考えられない。
「飽きもせず毎日のように届きますな。」
宰相であるグレドリック・カスタンバールもこの抗議の嵐に疲れ切った顔を浮かべている。
尤も届けられている国王はそれよりも酷い顔色ではあるが、あまりの反応に書類を見るのが嫌になりそうだった。
「彼女の本当の価値を知らない者たちだから仕方がないか。」
大きくため息をつきそうになりながら国王は第二王子が城から飛び出した後の事を思い出していた。
宰相と二人の時だったから問題は無かったものの、突然光り輝くものが目の前に飛び出してどれ程驚いたことか。
しかもそれをよくよく見ればレオナードの筆跡に似た光の文字であった。
その不思議な光が届いてから数週間後に伝令が城に駆け込んでくることになり、あの光の手紙に書かれていたことが事実であったと証明されたのだ。
その後なぜかいくつかの貴族家が城に駆け込んできたがレオナードは無事だ。
彼らは肩透かしを受けたかのようにすごすご引き返していった。
それからしばらくして城に帰還したレオナードはいきなりリズレット嬢との婚約をしたいと願い出てきた。
そして話を聞いて納得した国王はすぐに二人の婚約式を執り行った。リズレット嬢を確実に確保するためだ。
隣国との国境でもあるレスター辺境伯爵領は王都とかなり距離がある。
早速あの光の手紙を使って領主であるアルフォンスに連絡を取った国王は式の準備を進めるとともにリズレットを呼び寄せたのだ。
婚約式を済ませたレオナードとリズレットはその後、学院に通うことになった。
リズレットは相変わらず何も出来ない愚か者を演じている。
本人は演じているつもりはないのだろうが。
おかげでレオナードはわがままなリズレットに無理やり婚約を迫られた可哀想な王子様というレッテルが貼られてしまっている。
求めたのは王家であるのに多くの者たちが勘違いしているのだ。
そう感じるほどリズレットの行いが彼らにとって相当なものなのだろう。
そうはいっても彼女自身は特に何かをしている訳ではない。
授業を聞き流していたり、試験で何も書かずに提出したりしているだけだ。
ただそれだけで、多くの者は反感を覚える。
王子の婚約者にふさわしくないと声が上がるのも無理はない。
リズレットにとって学校での勉強よりも外で知った事の方が有益で面白いのだから仕方がない。
テストで何も書かずに提出して席を立つのも時間が惜しい為だ。
学院での成績は特に問われることは無い。本来は貴族としての必要な知識を深め、社交を行うための練習場所のようなところだ。
成績が優秀であれば勿論誉めたてられるだろうが、それはあくまで学院内でのこと。
実務と勉強は別物なのだ。
「納得いきません!なぜあのような者を婚約者にしておくのですか。」
レオナードの傍で先ほどから騒いでいるのはカシウス・ランドリックの息子であるナイアスだ。
ナイアスの言葉にピクリと反応して僅かに不機嫌な表情を浮かべているレオナードだがリズレットの事を敢えて伝えていないナイアスに怒りをぶつけた所で意味はない。
これはカシウスの願いだった。
息子がリズレットの本当の姿に気が付くかどうか試しているのだ。
噂に翻弄されず、リズレットの本質を見抜く力があるかどうか。
二人に付き添っていれば自然と見えてくるものがあるはずだとカシウスは考えたようだが、逆効果だったかもしれない。
ナイアスは真面目な性格だ。馬鹿正直だと言い換えてもいい。
一点集中型で周りが見えていないのだ。
素直だと言い換えても良いが、リズレットを見抜くどころか周りに翻弄されているところを見れば、正直不安しかない。
「どうかお考え直し下さい殿下。貴方にはもっと相応しい方がいるはずです。」
「ナイアス、その件については話したはずだ。再考などあり得ないと。」
「ですが…。」
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