崩壊した物語~アークリアの聖なる乙女~

叶 望

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奴隷達の事情

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 部屋に入ったリーフィアと奴隷であるリックとザクロ。
 まずは挨拶から軽く入ろうと席を促した。

「え?」

 二人の声が重なる。何を言われているのか分からないといった顔だ。

「お話がしたいから席についてと言ったつもりだけど、伝わらなかったかしら?」

「な、奴隷に席を勧めるなど何を考えているんだ?懐柔するつもりか!」

 リックが怒りをあらわにして怒鳴った。
 ザクロは面白そうなものを見つけたような顔をして素直に席に座る。

「ねぇ、座らないの?突っ立っているのが好きなら止めないけど…。」

「くっ、座ればいいんだろ!」

 がたんと音を立ててリックが着席した。

「さて、まず自己紹介から。私はリーフィア・レインフォード。レインフォード辺境伯爵の次女で第三王子であるエドワード殿下の婚約者です。あなた方を買い取ったのは私の護衛兼従者を欲してのこと。今まで付けて来なかったので即席ではありますが出来れば主従というだけでなく仲間のように接する事が出来ればと考えています。さて、お二人の事も聞かせてもらえるとうれしいのだけど。」

「ふざけるな!何が仲間だ。父さんを殺し、母さんや妹を奪ったような貴族の同類とおままごとなんてするか。俺はお前のような奴等を信用しないからな。」

 リックの回答にやっぱりと思う。金貨3枚や1枚で帰る奴隷なんて絶対訳有りだと思ったんだよね。リックはなにやら貴族に思うところがあるらしい。

「なるほど、それは運が悪かったですね。」

「なんだと!」

「随分愚かな貴族にしてやられたようですので。」

「なっ!!!」

「まぁ、良くある事ですね。それで、あなたは私に怒りをぶつけるだけかしら。」

「う、うるさい!いつかお前達を皆纏めて殺してやる。」

「ほう。それは物騒ですね。奴隷の身でそれを実行なんて出来ないと思いますけど。」

「ぐっ。」

 リックの顔が悔しさに歪む。
 しかし奴隷として身を落としたのに随分と躾がなっていないようだが…あの奴隷商駄目だな。
 リックはこれ以上言っても多分今は通じないだろうとザクロに視線を向ける。
 だが、ザクロの周囲の変化を感じた私は一つ命令を下した。

「ザクロ、許可なき魔法の使用を禁じます。」

「えっ?」

 急速に魔力が拡散する。ザクロは驚きの表情で私を見た。

「どうして……?」

「どうしてでしょうね。さて、ザクロ。聞きたいことがあります。あなたは何者ですか?」

 問いかけた瞬間、ニヤリとザクロの口元がつり上がる。

「な~んだ、バレちゃったのね。」

 くすくすと笑いだすザクロ。すると押さえ込まれていた魔力が急激に膨れ上がる。
 魔力の変化と共にその姿も本来の姿へと戻っていく。白銀の髪に赤い瞳は変わらないが、肌の色は白から褐色へと変わり、人族特有の丸い耳は尖った耳へと変化する。

「な、う、うわぁあああ!!ま、まぞくだ……。」

 がたんとイスから転げ落ちたリックが恐怖に震え上がる。

「そう。あたしは魔族のザクロ。ふふ。人間、見破った事は褒めてあげるよ!」

 ポカンと呆けた私が恐れをなしたのかと勘違いしたザクロは声高々に名乗りを上げる。

「……あぁ。魔族ね。」

「は?」

 なるほどと納得したリーフィアの反応の薄さにザクロが間抜けな声を上げる。

「ねぇ、あたしは魔族なの。ほら、彼みたいに怯えなさいよ。」

 ザクロにとって私の反応は思っていたものと違ったらしい。

「えっと、魔族なんでしょ。だからどうしたの?」

「え?ちょっと貴方、魔族のこと何だと思っているのよ。普通恐怖に震えるでしょう?」

「うん?魔族のこと……そうね、銀の髪はさらさらで赤い瞳はピジョンブラッドみたいで綺麗ね。それに褐色の肌は健康そうで何より。尖ったお耳もとっても可愛いわ。」

「それ、本気で言っているの?」

「ええ。ねぇ、触っていい?」

 ニヤリとした笑みを浮かべザクロに近寄る私。
 たじたじになったザクロはイスから転げ落ちる。先程の強気な態度は一気に萎んでいく。

「え、な、何を?あ、ちょ……や、まだ触っていいって言ってない!!」

「そういえば、今は私のものでした。許可なんて要らないよね。ふふ。」

 床に転がっているザクロを押し倒し、その尖った耳を触りまくった挙句に耳元で囁く。

「ひゃ、や、あっ…耳は、耳は……駄目~!!」

 一体先程までの威勢はどこへやらといった風にへとへとになったザクロ。
 尖った耳が人とどう違うのか興味津々だったリーフィアはもみくちゃになりながらも目的を達成できてホクホク顔だ。
 その様子を唖然とした表情でリックが見ていた。

「あ、そういえばザクロはどうして奴隷になったの?」

「はぁ。もう何なのこの子。あたしが奴隷になった理由?知ってどうするのよ。」

「うん?どうもしないけど。聞いたら不味かった?」

「別にいいわ。たいした理由じゃないし。」

「そうなの?」

 キョトンと首を傾げてザクロの言葉を聴く。

「えぇ。魔族と人族は対立している。これはいい?」

「うん。よく分からないけどそうらしいね。」

「対立しているからこそ相手の事を知りたくなったの。人の住むところに降りていって、気のいい奴等と知り合って楽しんでいたつもりだったけど、気がついたら騙されて奴隷にされていたの。」

「それは、悲しかったね。」

「えぇ。でも復讐は果たしたからもういいの。」

「そう。なら良かったねというべきかな?」

「あんたって本当に子供?嫌な子。分かっていて言っているでしょう。」

「あんまり嬉しそうじゃないって事くらいは分かるよ。」

「はぁ、変な子。あんた人族にしては面白いわね。」

「それは、どうもありがとう。」

「スカーレットよ。」

「ん?」

「あたしの真名、スカーレット・デュ・デザイアス。スカーレと呼んでいいわ。」

「私のことはフィアと呼んでね。スカーレ。」

 二人で笑いあう。その様子を驚愕の表情でリックが見ていた。

「な、何で魔族なんかと馴れ合っているんだよ!」

 耐え切れない様子でリックが叫んだ。キョトンとした様子でスカーレットと首を傾げる。

「分かち合うのに種族なんて関係ないでしょう?」

 その言葉に信じられないといった表情のリック。

「魔族は人を大勢殺しているんだぞ!」

「うん。人も同じように殺しているね。それに君は私達貴族を纏めて殺すなんて言っていたのに自分は良くて魔族は駄目なの?」

「な、それは……。」

「虫だって怒らせたら噛み付いてくる。憎み憎まれ、殺したら殺される…それを続けていたらどうなると思う?」

「………。」

「憎しみの連鎖。永遠に続く業。そんな事をしていたら全ての生き物が絶滅するまで終わらないでしょ。種族の違いなんて無意味だと思わない?」

「それは、暗に俺に復讐を諦めろといっているのか?」

「いや、やりたければ好きにすればいいわ。」

「なっ!!」

「あれ、どうしたの?復讐、したいんでしょう?勝手にすればいいと思うけど。」

「なんで、普通止めるだろ!」

「止めて欲しかったの?私も復讐はするつもりだし、別に否定するつもりは無いよ。綺麗事では済まない事なんてざらだからね。ただ、私が君と違うのはやり方だね。」

「やり方?」

「そう。私は命を獲るという行動をとるつもりは無い。」

「そんなの復讐にならないじゃないか!」

 怒りに震えるリック。それを見て私は小さく溜息をつく。

「獣と知性ある生き物の違いって何だと思う?」

 訳が分からないとリックの瞳が訴える。

「それは、法が有るか無いか。小さな群れでもルールはある。正しい裁きを与える事こそ私の復讐。その為に必要な事は何でもする。法に裁かれるならわざわざ私が直接手を下すまでも無いでしょう?」

「………。」

 沈黙したリックに構わずニッコリ微笑んで言葉を紡ぐ。

「ねぇ、リック。あなた、騎士を目指すといいわ。スカーレはともかく、リックは私の傍に居たほうが騎士になる近道だと思う。」

「騎士?」

「そう。騎士であれば、罪を犯した貴族を取り締まる事もあるかもしれないわね。」

「でも奴隷のままではなれない。」

「そうだね。奴隷から解放される為には買われた金額以上の値で自分を買い戻さないといけない。」

 にんまりと笑う私にスカーレとリックが慄いた。

「ねぇ、二人とも奴隷から解放されるなら何をしたい?」

「あたしは小さい時に捕まって随分と里帰りしてないからね、家族の下に帰りたいかな。」

「お、俺は……騎士になった方がいいんだろ?」

 二人の返答を聞いて満足そうに頷く。

「じゃ、まずは二人とも冒険者に登録して稼がないといけないわね。」

「ちょっと待て、お前俺達を護衛と従者として買ったんじゃなかったのか?冒険者ってどういう意味だよ。それに冒険者やったって自分を買い戻すのなんて一体どれだけの時間かかると思っているんだ?小銭稼いだくらいじゃそんなの夢のまた夢じゃないか!」

 例えゴブリンの討伐を行ったとしても、5匹でやっと大銅貨1枚。リックが金貨3枚、スカーレットが金貨1枚。
 そこに到達するには、スカーレットでさえ5,000匹。リックはその3倍の15,000匹も討伐しなければならない事になる。
 通常、討伐任務を請け負ったとして対峙できる数は限られている。多くても精々30匹程度だ。理由は単純に探すのに時間がかかるという事。
 ゴブリンしか討伐しないなんて事は無いが、ランクの低い冒険者の1日の稼ぎは大銅貨7~8枚。この殆どが宿代やご飯代として消える。
 それに毎日討伐だけに出かけるのは不可能。そうなると二人が冒険者になったとしても自由になる時間が僅かであればそうそう小遣い稼ぎも出来るはずがない。
 つまり、事実上は奴隷からの開放など不可能に近い。

「確かに、ちまちまやっても時間がかかるよね?だからさ…。」

 リーフィアの提案は恐ろしい内容だった。二人は驚愕に固まってしまう。
 それでも主人の言う事は絶対だ。リーフィアの奴隷となった二人はこの後、有り得ない状況に追い込まれる事になる。

――――…

「こいつ、絶対俺達を殺す気だ……。」

「リック、情けない顔するんじゃないよ、あたしだって有り得ないとは思うけどさ……フィアにはきっと考えがあるんだよ。」

「魔族に慰められる日が来るなんて……。」

「あんた、フィアに感謝するんだね。同じ立場でフィアが大切に扱っていなかったら、とっくに始末してるよ。」

「わ、分かってるよ。だってさ。魔族は怖いモノだって教わってきたし。すぐに切り替えろ何て無理だ。」

「それは否定しないね。簡単に受け入れているフィアが特別なんだ。何せ、このあたしが認めた子だからね。」

 お互いに言い合って気持ちを収めようとしている。
 なぜなら、これから向かう先は下位竜種であるワイバーンの住処なのだから。
 魔族であっても単独で挑んでやすやすと勝てる相手ではない。それだけ竜の下位であっても力は巨大なのだ。

 山が燃えている。そう表現するのが一番分かりやすいだろうか。
 活火山で常に噴火を繰り返しているその場所はアーデンバーグ公爵家が治めている領地だ。ガラス製品が有名なグーラスの町では今、ある深刻な被害に悩まされていた。
 ガラスを作るのに必要な火山灰の採取をする際にワイバーンによって作業していた者が殺されると言った事故が多発しているのだ。
 どうやら採取場の近くに巣が出来たらしい。駆除のため冒険者ギルドに依頼を出しているが、SランクやAランクは町に定住する事が少ない。
 そしてこの町には上位ランクのパーティーは滞在していなかった。
 Bランクの冒険者も1パーティーしかおらず、下位竜種であるワイバーン討伐を受けるには最低でも3パーティーは必要と言われているくらい危険な任務を1パーティーで受けて欲しいとも言えない状況だった。
 火山灰の採取は領地の特産を作るのに欠かせない素材だ。
 冒険者ギルドは全地域のギルドに呼びかけを行っていた。だが、殆どのパーティーは依頼を受けている途中だったり、滞在している場所が遠かったりで中々集まらない状況が続いている。

 転移魔法を使ってグーラスの町近くにある活火山のボルディヤ山に到着した私達は、遠くからワイバーンの様子を確認していた。
 突然の転移にリックは腰を抜かし、スカーレットは本当に人族かと疑惑の瞳で見ていたが気にしない。
 防具すらも身に付けずにこの場に立っている私達は冒険者としては異質だ。
 動きやすい服に着替えをして出かけた先がいきなり火山になるとは二人とも思っていなかったらしい。

「なぁ、絶対死ぬ。防具も付けないで討伐なんて無理、絶対無理!」

 リックがなにやら叫んでいるが、ワイバーン相手にするのに町で売っているような安物の防具を付ける意味は殆ど無いだろう。
 特注品でさえも安全など保障できない。ガードできるとしたら精々爪の攻撃くらい。
 フルプレートの金属鎧でさえも噛み付いて変形させてしまうワイバーンだ。
 むしろ身軽な方が安全と言える。それに、ブレス攻撃を1度でも受ければ消し炭だ。
 防具なんて意味を成さないだろう。
 山の合間を3匹のワイバーンが旋回している。巨大な翼に鋭い爪、その姿は前世の恐竜に例えるとプテラノドンとアロサウルスを足して2で割った姿が一番近い表現かもしれない。
 ただ、そのサイズは恐竜とは比較にならないくらい大きい。
 尻尾には毒があり、毒で弱らせた獲物を鋭い爪で切り裂いて肉を食べるという。

「とりあえず、2匹は私が退治するから、二人は1匹やっつけてね。」

 ちょっとそこのゴブリン倒しておいてという位の軽いノリでそう告げると、私は2匹のワイバーンを風の魔法で閉じ込めた。
 遠くからの攻撃に何が何だか分からない様子のワイバーン達。暫くすると狂ったように暴れだした。

「何が起こっているんだ?」

「風の魔法で閉じ込めたから息が出来なくなってきたんじゃないかな。」

「え?」

 正確には真空状態を作り出して空気を抜き出しているのでという説明が抜けている。そして、指で銃を引くような動作をして、光属性のレーザーで首を狙う。
 光が走ったと思ったときにはワイバーンの首から鮮血が溢れ出し、先程よりも激しく暴れだす。動き回る分血が勢い良く飛び出して凄惨な状況を作り出している。
 暫く暴れたワイバーン2匹は、ぐったりと力を失くし息絶えた。
 ポカンとそれを見つめるスカーレットとリック。何が起こったのか分からない様子だ。
 そして風の結界を解除しつつ亜空間にワイバーンを回収する。
 遠隔操作が可能になったのはスパイ・テントウ君のお陰もある。すばらしい性能だ。

「フィア、あんた変を通り越して狂ってるわ。なにあの魔法?魔族でも使えないって…。」

 呆然と呟くスカーレットに心外だといわんばかりに肩を竦めるリーフィア。

「それで、残りの1匹はどうやって仕留めるの?」

「そうだね、リックあんたちょっと囮になってよ。」

「は?無理。絶対死ぬ!」

「大丈夫、私が風の結界で守ってあげるから。」

「え、本気で言ってるの?う、嘘だろ?」

「ほら。仕方がないから連れて行ってあげるよ。あ、そうそうワイバーン討伐に魔法の使用許可を与えます。」

 魔法を使えるように許可を出し、なかなか動こうとしないリックと一緒に転移でワイバーンの目の前に飛ぶ。到着と同時に風の結界で守る。
 突然現れた獲物にワイバーンが嬉々として迫る。
 鋭い爪の攻撃が私達に届こうと言うときに、ワイバーンの背後を取ったスカーレットが魔力で生み出した赤い剣でワイバーンの首を跳ね飛ばした。
 勢いのまま風の結界にぶつかるワイバーン。そして、ずしんと音をたてて倒れた。
 横を見るとリックは立ったまま失神しており、固まっていた。何て器用な…。

「スカーレは流石に強いね。赤い剣も格好良かったわ。」

「まあ、獲物を仕留めようとしている所を狙ったから上手くいったけど、普通はこういう形で対峙しようなんて思わないからね。二度とごめんだわ。」

 くすくすと笑う二人。先程収納したワイバーンと合わせて3匹の獲物を持ち帰る事に成功したのだった。
 失禁する間もなく気絶したリックが意識を取り戻してすぐにリーベルの町へ戻ってくる。そのまま冒険者ギルドへ足を伸ばした。

「で、今回はどんな厄介ごとを持ってきたんだ?」

 腕を組んで難しそうな顔をしているのはリーベルの町の冒険者ギルドの長、ガンツさんだ。後ろに控える二人の奴隷を見て何があったのかと問う。
 ちなみに、今はアシュレイの姿で来ている。
 変装の魔道具を使ったときにも、いつものごとく頭を抱えたリックともはや何が出ても驚かないといった風の呆れ果てた様子のスカーレットだったが、二人して溜息をついて規格外すぎるとぼやいていたのは聞いていないことにする。

「実はさ、ワイバーンを狩ってきたんだけど……。」

「はぁ?ワイバーンってあのワイバーンか?」

「下位竜種のワイバーンのこと。ボルディヤ山に3匹居たから獲って来たんだ。だからうまい事処理して欲しい。」

「うまい事って……。」

「誰が獲ったのか分からないようにして欲しいってこと。」

「何て面倒な…だが、Dランクのお前がワイバーン相手なんて誰も信じないだろうな……。分かった、だが時間がかかるぞ。」

「もちろん分かっているよ。ワイバーンは倉庫に出しておくので後、よろしくお願いします。」

「まさか、解体もしてないのか?」

「まるっと持って来たよ。解体は面倒だし、売った金額から引いておいてよ。」

「はぁ、分かった。1月時間をくれ。」

「了解です。」

 ワイバーンは素材が丸々手に入った事もあり、オークションに出品されたらしい。
 1月後、冒険者ギルドを訪れるとガンツさんが早くランクを上げろと言ってきたけど今は無理なので諦めてもらった。
 ワイバーンの売り上げは傷も少なかった為1匹あたり大金貨2枚、金貨5枚に化けた。3匹で大金貨7枚、金貨5枚も手に入ってホクホクだ。金額は私が2匹分の大金貨5枚。残りをスカーレットが大金貨2枚、リックが金貨5枚で分けた。
 そのまま奴隷商へ向かい、二人は自分を買戻して奴隷から解放された。
 そして、以前に言っていた通り、スカーレットは帰郷することになったが、何かあればいつでも駆けつけると言って返事も聞かずに去っていった。
 リックは私の元で騎士を目指すらしい。あれからリックはかなり精神面が鍛えられたようで随分と態度が変化した。
 貴族は嫌いだけど私は信用できると判断したらしい。
 二人に通信用の魔道具を渡しておいた。呆れた様子の二人だったが、素直に受け取ってくれた。
 こうして、知らず知らずのうちにグーラスの町の脅威は取り除かれたのだった。

――――…

 王宮にある執務室の一角、クラウスはアーデンバーグ公爵家の領地であるグーラスの町で起きていたワイバーン被害の報告を部下から受けていた。

「さて、どうだった?」

「はっ!報告いたします。グーラスの町近郊にあるボルディヤ山に住み着いていたワイバーンによる被害者の数は8名。採掘作業員6名と2名が冒険者ギルドの派遣した調査員です。生き残った調査員の話では3匹のワイバーンが確認されております。その後の被害は山への立ち入りを禁止したため出ておりません。そして、先日再び調査員を派遣いたしました所、ワイバーンの姿が見えず夥しい血痕が残されておりました。何者かがワイバーンを始末したものと思われます。」

「オークションで3匹のワイバーンが出品されていた。あれは、同一だと思うか?」

「時期的におそらく同じものかと存じます。冒険者ギルドが無記名で出したものだと確認が取れております。ただ、誰が討伐したのかについては、黙秘しております。」

「そうか、分かった。もういいぞ。」

「はっ、失礼いたします。」

 パタンと音がして戸が閉じられた後、クラウスはそんな事が可能であろう人物を秘密裏に呼び出した。
 暫くすると銀の髪を靡かせて青い瞳を持つ男の子の姿が目の前に現れた。
 アシュレイ・ブレインフォードの姿をとった私だ。

「3匹もワイバーンを狩ったんだってな?」

 クラウスの薄い紫の瞳が私を捉える。口元は笑っているのに薄ら寒い。

「どこでそれを?」

 怜悧な笑顔に圧されて答えてしまった私は、執務室のイスから立ち上がったクラウス様を見て思わず一歩後ずさった。

「奴隷を買って2ヶ月で開放したってのも聞いたぞ。」

「えっと、それは……。」

「奴隷達はどうやって大金を稼いだのだろうな?」

 一歩ずつ歩みを進めるクラウス様とそれに合わせるように一歩ずつ後退する私。
 そして、とうとう壁に背が付いた。
 どんと手を壁に付けて私の逃げ道をふさぐクラウス様。

「あの、クラウスお兄様?お、怒っています?」

「怒られるような事をしたという自覚はあるのかな?」

 にっこりと責め立てられるのは恐怖以外の何者でもない。怒鳴られた方がマシだ…。

「だが、町の脅威を取り除いて貰った事に関しては感謝する。次からこういった事をやる時はきちんと連絡しろ。いいな?」

「は、はい。えっと、心配かけてごめんなさい?」

「なんで疑問系なんだ。」

 はぁ、溜息をついて私の肩を掴んだクラウス様は真剣な表情で私を見た。

「お前は仮にも第三王子の婚約者だぞ?自分の立場を少しは考えろ。」

「あぁ、そういえばそうでしたね。」

「全く、魔法が得意だからって絶対なんてないんだぞ?少しは自重しろ。」

「はい。ごめんなさい。」

 しゅんと項垂れた私の頭を撫でて諭してくれる。それからワイバーン討伐の状況を説明しろと言われて、報告する。
 使われた魔法の説明を聞いたクラウスは更に頭を抱える事になった。
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