崩壊した物語~アークリアの聖なる乙女~

叶 望

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帝国の野望

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 野営地に戻るとアーデル様が騎士に詰め寄っていた。何かしら進展がないか気になっていたのだろう。
 他の令嬢方を静める為だったのかもしれないが、戻ってきた私達を見たアーデル様は私が持っているものを見て思わず呟いた。

「うそ、銃?」

 その言葉に反応した捕縛されている青年を確認した私は、アーデル様に思わず扇子でぺしりと頭を叩いた。
 ぎょっとしたのは周囲の者だ。

「あ、あなた……アッシュ君?」

「お久しぶりですねアーデルお姉さま?騎士に詰め寄っても現状が変わる事はありませんよ。帰るのは明日になります。窮屈で大変な思いをした事は理解できますがこんな場所に居るよりもお友達をきちんと見ていてあげるべきでは?」

「わ、分かっているのだけれど……アッシュ君。何か私、貴方を怒らせる事を言ったかしら?」

「はぁ、とりあえず元いた場所にお戻りください。」

「少し、話せるかしら?」

 ちらりとクラウス様を見る。頷いたのを確認した私は少しだけだと念を押して与えられた天幕の近くに移動した。
 周囲に人が居ないのを確認して音を遮断する風の魔法を使ってアーデル様と私を囲む。

「アーデル様、なぜうかつな事を口にするのです?」

「え?何の事かしら……。」

 全く理解していないアーデル様。こちらも知識を持っていることを明かしていないので分からなくて当然なのだが。

「はぁ。銃の事ですよ、アーデル様。貴方、帝国の騎士に目を付けられましたよ?」

「え?銃って……アッシュ君、貴方はまさか。」

「貴方と違って前世の記憶なんてありませんが、知識なら有しています。」

「どうして、言ってくれなかったの?」

「無意味でしょう?貴方と僕では違うのですから。」

「でも……。」

「とにかく、貴方が口にした事で下手をすると今後帝国に狙われる事になるかもしれませんよ?」

「どうして?」

「帝国の第三王子についてはご存知で?」

「えぇ。攻略対象ですから。」

「シリウス・グラスウォード・パークス。その彼の名がローマ字で銃に彫られていました。恐らく銃を作ったのも彼でしょう。そして、彼は自分が前世の記憶を持つ事を国に明かしている。」

「え?」

「これを見て反応する人物が居るとすれば、それは転生者だ。彼はきっと転生者が居れば連れてくるように言っているのではないかな。」

「どうしたらいいのかしら。私、ごめんなさい。安易に口走ってしまって。」

「言ってしまったものは仕方がないです。ですが、第三王子が転生者だとすると乙女ゲームの中身は大分変わってしまうかもしれませんね。」

「えぇ。だって今でも随分変わっているもの。」

「そうなのですか?」

「私がこうして誘拐されるなんて設定集にも書いてなかったし、エドワード殿下も婚約している上に襲われたのに半身不随になっていないし…。」

「え?エドワード殿下が半身不随ってどういう意味ですか?」

 思わぬ名前と言葉にアーデル様に聞き返してしまう。

「エドワード殿下は私が婚約破棄になった時に出てくる人物で、誰にも選ばれなかった私はエドワード殿下に嫁ぐ事になるの。殿下は10歳の時に襲われた毒で命は助かるんだけど神経が麻痺して半身不随になってしまうの。そして、動かない体と第二王子に嫉妬して心を病んでしまっているの。執着の激しさと人を信じる事のできない彼は歪んでいて、彼にめちゃくちゃに壊されてしまうというのが私の迎える結末の一つ。」

 黙り込んだ私を見てアーデル様は自分の失言を悟った。
 リーフィアに扮するほどアシュレイがリーフィアと親しいであろう事は判断できる。
 そのリーフィアはエドワード殿下の婚約者なのだから。
 だが、彼女は勘違いをしている。そして、それに気付く事はまだない。

「貴方は、殿下が襲われる事を知っていたにも関わらず何もしなかったのですね。」

 ポツリと呟いた言葉はアーデル様にきちんと届いている。

「それは……。」

「私は殿下の護衛でもあります。あなたがやった事は罪にはならないかもしれない。ですが、僕の信頼を失うには十分な事だ。」

「あっ。その、私……。」

「貴方を責める事はできない。だが、今後同じ事を繰り返すようであれば、僕は貴方を助けたいとは思いません。では、大人しく天幕で休んでいてください。失礼します。」

「あ、アッシュ君。ご、ごめんなさい。私。」

「謝られても困ります。貴方は悪くない。ただ、何もしなかっただけなのだから。」

 アーデル様が縋ろうとした手を振り切って私は捕らえた青年の元へ足を運んだ。
 クラウス様とガードナー騎士団長が尋問をしている最中だったようだ。
 許可を取って中へと入る。

「進展はありましたか?」

「いや、この男の身元くらいだ。他については全くと言っていいほど口を割らなくてな。」

「貴族だから手荒な事はできない?」

「そういうことだ。」

「なるほど。だったら、自分から話しやすいようにしてあげてはいかがでしょう。」

「お前、何を考えている?」

「酷いな、クラウス様。僕はいつもちゃんと結果は出しているでしょ?」

「…………。」

 じと目で見てくるクラウス様と私の態度に唖然としているガードナー騎士団長。
 そして、成り行きを見守るしか出来ない青年。

「で、彼の名は?」

「レオンハルト・ナイアーク。帝国の公爵家次男だ。今の国王は彼の家から出ている。」

「わぁ、それはすごい。大物じゃないですか。」

 おどける様な仕草をする私を白々しく見るクラウス様。
 にんまり笑う私を見て室内に居た護衛を全て外に出した。
 私は置いてあった所持品の中から銃を取り出す。そして、銃をレオンハルトに向ける。
 だが、彼は微動だにしない。そしてそれを見た私は銃の安全装置を外した。
 引き金が固定されていた銃が自由になる。それを見たレオンハルトは目を見開いた。

「ねぇ、シリウス王子って馬鹿なの?」

「は?」

 間抜けな声が室内に響く。レオンハルトは自国の王族を馬鹿にされて眉を顰めた。

「自分が暗殺されるような武器を作ってさ、しかもそれを国に利用されている。お馬鹿な転生者。」

「君は……。」

 ずっと沈黙していたレオンハルトが思わずしゃべった。

「あ、僕は転生者である彼とは違うから。知識はあっても前世の記憶なんて持っていないよ?」

「………。」

「ねぇ、このちゃっちいおもちゃ作ってさ、王子は何しようと考えたんだろうね?」

「………。」

「あ、クラウス様?帝国にわが国の工作員はちゃんと居る?」

 くるりと振り向いた私に呆れた表情のクラウス様が答える。

「あのな、それを俺が言うとでも?」

「居るなら、クルエト村に出来た大掛かりな建物に火炎瓶でも投げ込んでよ。」

「は?」

「きっと、大爆発で全員死ぬから。」

「な、貴様なぜそれを!」

 思わずレオンハルトが吼えた。その言葉だけでも十分だった。
 火薬工場があるクルエト村。銃を作る際に第三王子の指示で作った火薬生産の場だ。秘密裏に作り、それとはわからないように偽装まで施してある。
 そこを知られているというのだ。有り得ないという気持ちの反面、転生者が相手であればその知識で気がつく何かがあるのかもしれないと焦った結果だ。
 取り澄ました表情を崩されたレオンハルトは自分自身がどれほど動揺しているのか自分でも気がついていないようだった。

「んで、火薬作って銃作って、王子様が次に目指すのは何でしょう。レオンハルトお兄さんは知っているでしょ?ていうか、火薬の力で弱らせて竜をテイムしようとか帝国も馬鹿なの?しかもその竜でわが国を攻めようなんてね。」

 全てを知られていると悟ったレオンハルトは口を開きかけては閉じるを繰り返している。
 私はするりとスカートの裾からある物を取り出す。

「なんだそれは?」

 思わずクラウス様が問いかけるのも無理はない。透明の大きな鱗。一体何をするつもりなのかと見ていると、安全装置を外した銃で床に置いた鱗に向けて引き金を引く。
 乾いた音が室内に響き渡るが外から誰かが入ってくる事はなかった。防音魔法をかけているからだ。
 そして、無傷のそれをレオンハルトに見せ付ける。近距離で撃ったにも拘らず鱗には傷一つ付いていない。
 眉を顰めたレオンハルトに私は畳み掛けた。

「これはね、迷宮で倒したベビードラゴンの鱗。地下280階くらいだったかな。」

「は?280階?」

「そう、その階層でやっと出てくるのがベビードラゴン。中位竜の一種なんだけど、その鱗は竜の中でも比較的柔らかい方なんだよねベビーなだけあって。」

「何が言いたいんだ?」

 クラウス様が思わず口を挟んできた。

「つまり、高位竜であるグランディール山に住む古竜種に火薬をどれだけ積んだとしても傷を付ける事なんて出来はしない。ま、煙で目潰しとかなら若干効果があるかもしれないけど、魔力で守られている竜種の防御を破る事なんて夢のまた夢だね。音で驚いて怒らせるだけだよ。そこにテイムのために他者の魔力が自分に侵入してきたらどうなるかなんて考えただけでもぞっとする。失敗したら部隊が全滅するだけじゃなくて帝国が破滅するんじゃない?」

 黙ったままのレオンハルト。どうやら言葉だけでは伝わらないらしい。

「ねぇ、第三王子のシリウス。今どこにいるのか当ててあげようか?」

 ピクリとレオンハルトが反応する。

「グランディール山の麓にあるバルクート村。あぁ、すでに今帝国の宮廷魔法師長殿が部隊を率いて自分達の作った火薬や銃の成果を見るために出発して山の中原くらいに到達しているね。」

「何を言っているのか分かりませんね。」

 分からない振りをしているレオンハルト。その振りは長くは続かない。
 目の前に展開されたホログラム。そこに移る人物には覚えがある。彼らは友人でもあるのだから。
 そして、一匹の竜を見つけた。まだ子供の竜だ。それでもワイバーンよりは小さいが人と比べると巨大な像と犬くらいの違いはある。
 火薬の詰まった樽を周囲から転がしてぶつかる直前に爆発させる。巨大な爆発と共に竜の咆哮が響く。次々と打ち出される銃と火薬を使った爆撃。
 そして、その猛襲の中展開される魔力の流れ。テイムの魔法が発動して暴れる小竜を染め出した。だが、竜をテイムするなど宮廷魔法使いが100人居たとしても足りはしない。
 それを帝国は理解していなかった。

 爆炎が収まり息を呑む帝国の騎士と帝国の魔法使い達。次第に顕になる現状に誰しもが絶望の表情を浮かべた。
 作戦は失敗した。それは、目の前に無傷のままの小竜がテイムの魔法も空しく失敗した事を物語っている。
 小竜は体内に紛れ込んだ他者の魔力と自身の魔力がせめぎ合い苦しんでいるようにも見えるが圧倒的な魔力を有する竜種にとって人の魔力など取るに足らない。
 だが、他人の魔力が混じった事で自我が暴走を起こしていた。
 赤く光る瞳が正気を失った魔物のそれ。緑で美しかった鱗は漏れ出す魔力に染まり黒く濁っていく。

 闇落ちだと誰かが呟いた。

 強力な咆哮と共に黒く染まった小竜が理性の欠片もないまま襲い掛かってきた帝国の人間を襲い始めた。遠くで咆哮が木霊してグランディール山全体に響き渡った。
 鳥がバサバサと逃げ出していく。
 住んでいる動物達も逃げ出したのか山は慌しい気配に包まれた。その映像をホログラムで見ていた私達は起こった事態に驚きを隠せないで居た。
 魔竜化した小竜は暴走を続けている。このままでは、全滅は愚かその後に帝国全てを飲み込むであろう事は簡単に予想できる。
 それは、翻弄されている騎士や魔法使い達を見れば明らかだ。
 精鋭であったはずの彼らは赤子のように吹き飛ばされ、魔法は全くといって良いほど効果がなかったのだから。

「これは、やばいな。」

 クラウス様が呟く。そして、ガードナー騎士団長も険しい表情だ。
 捕らえられたレオンハルトもここに居る全員の表情から目の前の映像が真実である事に気がつき狼狽していた。

「おい、アシュレっ……お前…。」

 無意識にクラウス様の袖の裾を掴んで震えている私に気が付いたのか、クラウス様はそっと私を抱きしめた。

「すまない。いつも飄々としているから忘れがちだったが……もういい。お前は良くやった。」

 カチカチと歯が当たりクラウス様に抱きしめられて初めて自分自身が震えていることに気がつく。

「あっ…クラウスお兄様……。」

 魔法が切れて声が戻っている事にも気付かずにぎゅっとクラウス様にしがみついた。
 人の死は見慣れているはずだった。だが、目の前のこれは違う。
 戦場といっても差し支えのない事実。
 映像であるため臭いは届かないが、人の叫び声、断末魔、逃げ惑う騎士たちの映像はまるで地獄絵図のようだった。

「許せ、フィア。お前はもう見なくて良い。」

 耳元で子供をあやすように言葉を紡ぐクラウス様にぎゅっと目を瞑った。
 自分がこんなに弱かったなんて知らなかった。
 だって、ゴブリンの集落を殲滅したときもこんな気持ちにはならなかったのに。
 フィアと呼ばれた目の前の子供。ガードナー騎士団長は驚きの声を上げる。

「フィアだと?この子は、まさか……。」

「リーフィア・レインフォードか?」

 その声に被せるようにレオンハルトが口を挟んだ。

「ファイド・ラクリーが魔力を平民程度しか持たない小娘だと聞いていたが、なるほどその姿も、声もすべて偽りだったと。だが、そんな事は…今はどうでも良い。リーフィア嬢、君はベビードラゴンを倒したと言った。君ならあの魔竜を殺せるか?」

 先ほどまでの態度とは全く違う様相を見せるレオンハルト。
 真剣な眼差しにリーフィアは彼に視線を向ける。

「殺せるか、殺せないかでいうなら、殺せると思います。でも、私は殺さないし殺せない。」

「……っそれは帝国だからか?」

「違う。これを見れば分かるんじゃないかしら。」

 パチリと映像が切り替わる。そこには咆哮をあげる巨大な竜たちの姿。
 怒りに燃える一際大きな固体を他の竜が抑えている状態だった。
 暴れる長に体を張って止めようとしている竜たちの姿がそこには映し出されていた。

「これは……。」

「あなた方は、高位の竜を全く理解していない。彼らは知性が高い。恐らく、人族よりもずっと。そして、あの闇に落ちた小竜を殺せば他の竜はともかく、あの長を止められなくなるかもしれない。そうなれば、人と竜の全面戦争になる。」

「なっ!!」

 だが、魔竜を殺さなければどちらにしても滅びる事は変わらない。

「私には、あそこに居る大人の竜の魔力防御を破る術はありません。魔力量を見れば分かりきっている事ですが。恐らくかすり傷程度しか負わせる事は出来ないでしょう。それが複数ともなれば、負けは決まっています。」

「な、どうしたら……どうすればいいのだ。」

 頭を抱えるレオンハルト。そんな中、竜たちの中から2匹の竜がその場を離れる。
 青と赤の体色を持つ大人の竜が闇落ちした小竜の元へ向かって飛んでいく。
 その様子を追ってみる。遠くから旋回しながら小竜の様子を見ていた2匹は帝国の者たちに言葉を伝える。

「愚かな人間どもよ。我らが長の1000年ぶりのお子を恐ろしき魔に落とした罪は大きい。お子は我らが始末する。その後は、貴様ら全ての人間どもだ。覚悟せよ。」

 そして、巨大な咆哮を挙げて攻撃を開始した。

「……リーフィア嬢。頼む、私にできる事ならなんでもする。だから彼らを、帝国を助けて欲しい。」

「無茶です。レオンハルト様。私にはできないと先ほど申したではありませんか。」

「だが、どうすればいいというのだ。私は……。」

「………方法がないわけじゃないと思う。」

 がばりと顔を上げたレオンハルト。

「その代わり、上手くいったら私に全てを捧げ、わが国に尽くすと誓いなさい。」

「それは……。」

「もちろん、帝国の愚かな野望も止めてもらいます。わが国を襲わせるわけにはいかない。できますか?」

「……我が名に誓って守ると約束する。お願いだ。帝国を、助けてくれ。」

「フィア!!勝手は駄目だ。」

「クラウスお兄様。私は私のモノになると言うレオンハルトの願いを聞くだけです。これは国としてではなく個人としてのもの。必要なら切り捨ててくださいませ。」

「……本当に、大丈夫なのか?」

「やってみなければ分かりません。私は殺さずに小竜の意識を取り戻させて長を止めねばなりません。子供が助かれば恐らく話し合いの余地が生まれるかと。」

「……分かった。だが、お前一人では行かせない。」

「ありがとうクラウスお兄様。」

「私も行くぞ!リーフィア嬢。騎士団長として見届けねばなるまい。」

「私も連れて行ってください。リーフィア嬢。帝国の人間相手であれば私は顔が利く。」

「分かりました。では、手を繋いでくださいませ。」

 全員の手を繋いで転移した。
 暴れている場所から少し離れた位置に出た私はレオンハルト様に帝国の者たちの誘導をお願いする。
 その目付け役にガードナー騎士団長をつけて私と少し離れた位置にクラウス様が配備に付く。豪炎が空から降り注ぐ。
 周囲に居た帝国の騎士や魔法使いたちが私の姿を見て驚く。今は声の魔法を切っている。アーシェのままだ。
 制止の声を無視して空へ魔法を展開する。結界だ。
 私と小竜を包み外部からの攻撃を止める。

「何のつもりだ小娘!我らの邪魔をするな。」

 青い竜が結界の外で甲高く咆哮をあげた。魔法を使って声を届ける。

「どうか私に少しだけ時間を下さい。彼を治療します!」

「魔に落ちたものを救う術はない。」

 低い声を発したのは赤い竜だ。結界の上を旋回しながら私の様子を観察している。

「やってみなければ分からないでしょう。もし助ける事ができたらあなた方の長と話をさせて欲しい。」

「……いいだろう。だが、救えなければ人族に未来はない。」

「分かっています。」

 頷いて真っ黒に染まった小竜と向き直る。暴れる竜を2重の結界で縛っている。
 だが、みしみしと軋むのを見て結界が長く持たないであろう事は理解できた。目を瞑って魔力を集中させる。竜種の魔法防御を破らなければ攻撃は届かない。
 一点集中でやらなければ恐らく突破は出来ないだろう。
 私は相手が子供であった事が唯一の救いかもしれないと感じた。
 恐らくぎりぎりになるであろう事は魔力を見て理解できる。
 すっと目を開いて一気に転移する。小竜の首にありったけの魔力で電撃を放つ。
 眩しい光と共に、音を立てて崩れ落ちた意識を失った小竜。
 それを見た帝国の者たちが歓声を挙げる。
 それを冷たい視線で一瞥して普段から溜めていた魔力を固めた飴を口に含んで回復する。
 そして、魔力を小竜に流し込んで混じった魔力を追い出していく。
 うっと呻き声をあげてしまったのは無理もない。
 小竜の中に流れる魔力はすべて澱んでいて気持ちが悪い。
 こんな魔力に晒されたら誰しも正気なんて保てないだろう。吐き気を抑えて私の魔力で押し流していく。
 黒い魔力がじわじわと小竜から流れ出す。
 魔力循環を使って操作しながらどんどん流し込む。枯渇しそうになったら魔力回復の飴で回復するという事を繰り返して浄化していく。
 綺麗に中の魔力が整った事を確認すると小竜の体全体を魔力で覆って綺麗になれという思いを込めて浄化していく。
 すると、黒く澱んでいた体表は少しずつ洗い流されていく。
 ふわりと暖かな魔力が辺りを支配する。黒い魔力は霞んで次第に消えていった。
 終わったと同時に眩暈がしてくらりと体が傾げる。
 魔力を何度も使い切った私は、体が地面に触れる寸前でふわりと体が浮いたような気がしたが、そのまま意識を手放した。
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