待て、妊活より婚活が先だ!

檸なっつ

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「なに、これ、どうなってるの?」
「とにかく、体を屈めて小さくなっていてください。この矢に魔力が込められているならシールドが持つ時間もしれています」
 レミレル様に答えながら俺は城までの距離を計算していた。
 襲撃に会う前にさっさと城に入っていれば安全だったのに。
「なんでもいいからどうにかなさいよ!」
「黙って……。死にたくないならね」
 俺は三人が入れるくらいの小さなシールドを張った。小さい方がより強固なシールドが張れるからだ。
 きっと城に入る前の隙間に狙う計画だったのだろう。
 こんな見通しのいい場所で狙われてはシールドの中にいるしか何もできない。
 一、二、三……矢が降ってくる間隔を数える。規則的だから魔法によるトラップだと確信する。

「へ、平民の分際で……ひいいっ」
 シールドを叩く矢の量が増えてくるとレミレル様も黙った。
 狙われているのはアンリ。
 こんな小さな子にここまでするなんて、本当に恐ろしいのは魔獣なんかじゃない、人間だ。
「レミレル様、俺が守りますから、アンリを抱えて城まで走れますか?」
 レミレル様にアンリを渡すために立ち止まったために、中途半端な場所にいる。この場所に居続けてもハチの巣にされるだけだ。
「その子どもを抱えるですって⁉ 嫌よ、私は子爵令嬢よ⁉ まずは私の安全を確保するべきよ」
 この期におよんでレミレル様がそんなことを言った。
 俺、こんな自分のことしか考えない人にアンリを託そうとしたのか?
 魔物で作ったにせよ、大切なシオンの子なんだぞ?
 いや、誰の子とかそう言うの抜きにしても、こんな小さな子を助けようとも考えないのか……がっかりだよ。

「あなたの安全を考えるなら、シールドから出ていけばいいだけです。狙われているのはこの子なんですから」
「こんな矢が飛んできているところへ出られるもんですか!」
「じゃあ、穴にでも落ちててください」

「へっ……きゃあああああっ!」
 ぎゃあぎゃあ騒ぐレミレル様を地面をえぐってそこに置いた。ちょうど落とし穴に落ちたような感じになったが、そこで大人しくしておけば殺されはしないだろう。

 しかしその間も絶え間なく矢が飛んでくる。シールドの左につぷりと穴が開く。もう数分しかシールドはもたないだろう。
 シールドを出て、矢を躱しながら城までアンリを抱えて走るには無理がある。
 敵側からはこちらは丸見え状態だ。せめてトラップを発動している魔法使いがみつけられたら。

 くそっ。
 俺に戦闘系魔法があったら……。せめてバフをかけれる戦闘要員がもう一人いたら……。
「どうすれば……」
 このまま、アンリを死なすわけにはいかない。
 なによりシオンの両親が亡くなった土地で、同じように家族が亡くなるなんてことあってはならないのだ。
 絶対にもうシオンに家族を失う恐怖を与えちゃいけない。
 こうなったら俺の体を硬化して、矢を受けるしかない……。
 アンリをどのくらい守れる時間が稼げるだろう。

 シオン……。
 俺、アンリだけは守るから……。
 絶対、絶対守るから……。

 激しい矢の応酬で、とうとうパキリとシールドが崩れ始めた。
 俺はアンリを胸に抱えて体を丸め、自分の体に硬化魔法をかける。きっとシオンが助けに来る。硬化が進めば心臓も止まる。けれど、どんな魔法も金属も俺の体を貫くことはできないだろう。
 絶対にシオンの家族は……アンリは守ってみせる。

「ぶ……」
 なんにもわかっていないアンリが俺のことを見上げる。怖がらせないように俺は精一杯微笑んでみせた。
「アンリ……大丈夫だよ」
 もう名を呼ぶつもりはなかった。でも、最後にごめんな。
 きっと記憶にも残らないだろうけれど。
 それでも怖い思いをしないように……。
「きっと、パパが助けにきてくれるからな」
 シールドがいよいよ粉々になって散った……。
 パリン。
 そして飛んでくる矢から守るようにアンリを抱えて体を硬化し始めようとした。

 その時……。
「うおおおおおおおおおっ!」
 聞きなれた声が頭上から聞こえた。

 アンリを抱えた俺を守るように飛び出てきた影は……。
 目の前に飛んできた矢を一太刀で凪ぎ払った。

「シオン!」
 思わず声を上げて、硬化を止める。
 そして代わりに俺はシオンにバフ魔法をかけた。
 心得たシオンは振り返りもせずに、目も追えなくなった速度で敵を討つ。

「ぎゃあああっ」
「ああああっ」
 有利な場所でトラップを仕掛けていた魔法使い連中がシオンにばっさばっさと倒されていく。
 はは……。
 やっぱり、シオンは強いよ。

 全ての敵を倒したシオンは俺とアンリの元に走って戻ってきた。
「タオッ!」
 おいおい、アンリの無事の確認の方が先だろうに。

「間に合ってよかったよ……さすがに分が悪かった」
 城のすぐそばってことで逆に見通しが良すぎて狙われ放題の場所だった。
 足で無数の矢を蹴散らしながらシオンが駆け寄ってくる。
「城の者から連絡がきて、すぐに駆け付けたんだ」
「そうか……お礼を言わないとな」
 すぐ止めたが硬化魔法をかけ始めていた俺の体は固まってしまってしばらく動けない。
 それに気づいたシオンが泣きそうな顔で俺を見た。
「タオ……お前」
「これしかアンリを守る方法が思い浮かばなかっただけだ。シオンが必ず助けに来るって信じてたぜ」
「硬化が進んで心臓が止まったら……死ぬんだぞ」
「そうだけど、アンリは絶対に守りたかったんだ」

 俺がそう言うとシオンがいよいよ泣いてしまった。
 まさか、あのシオンが泣くなんて思わなくて俺はびっくりしてしまった。
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