異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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第八十二話 ご立腹

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第八十二話 ご立腹


『こいつは、嬢ちゃんから渡してやってくれないか』

お爺さんにそう言われ、庭にやって来た。
相変わらず木陰にうずくまっている子供を見つけた。
四、五歳くらい?

「こんにちは」

少し離れた場所から声を掛けてみたが、反応が無い。
お爺さんの話だと、この子はウサギの獣人。このお寺の前に捨てられていたらしい。
発見された当時、両足骨折。体中には痣があり、左目欠損。片耳の欠損も・・・。
足の骨折は治ったものの後遺症が残り、走ったりするのは無理なのだそうだ。
その「親」という生き物を、同じ目にあわせてやりたい。
しゃがんでみたが、目が合わない。じっと地面を見つめている。
もう少し近付いてみると、ピクリと肩が揺れた気がする。
服の上から見ても分かる細い身体。
この子は、食事も殆ど取らないのだそうだ。
唯一口にするのは、小さなパンの欠片と、コップ半分の水。
それがこの子に「許された」食事なのだそうだ。

「あ、葉っぱ」

葉が一枚、子供の頭に落ちて来た。
取ってあげようと手を伸ばすと、子供は更に身体を小さくした。
この子の親は獣人、だよね。今の私の姿は恐怖の対象なのかもしれない。
それなら、元の姿に戻れば良いかも。猫の姿に戻ると、やっと子供と目が合った。

「こんにちは」
「・・・」

何も言わず、じっと私を見つめる子供。
白い髪に真っ赤な瞳。まさにウサギさんだ。
それにしても、この姿になっても驚かないのかぁ。

「私はヒナっていうの。君の名前は?」
「・・・クソごみ、です」

それは名前じゃない!
ぬぁぁぁぁ!親、出てこい!

「(落ち着け、自分!)・・・これを君に。君の怪我を直すお薬なんだけど、不味くはないから」

渡そうと思って目の前に出してみたけど、無反応。

「の、飲んでほしいなぁ」
「・・・はい」

子供は小瓶を受け取ると、何の躊躇も無く中身を飲み干した。
この子は、「薬」という言葉に反応せず、「飲んでほしい」という言葉に反応したのか。
子供の身体が一瞬淡く光り、一本だけだった耳も元通りになった。
良かった・・・って、あれ?
子供はまた、身体を縮めて地面を見つめる。
まさかの無反応!
耳が戻っているから、身体も楽になっているはず。

『どんなポーションでも、心は治せない』

お爺さんの言葉が頭を過った。
こんな小さな子供を、ここまで追い詰めるなんて・・・ぬぁぁぁ!

「よいしょぉ!軽っ!」

縮こまる子供を持ち上げた。
そのままお爺さんの部屋の前へ行き、窓をゴンゴンと叩いた。
窓が開いて、お爺さんが顔を出した。

「この子、うちの子にします」
「・・・そうか」

お爺さんは、寂しそうな、ホッとしたような顔をして、子供の頭をそっと撫でた。

「頼んだ」
「頼まれた」
「はっはっ!その姿にも驚いたが・・・あんた、本当に良い女だ」
「そりゃどうも」

この姿を見て、止められるかもと思ったけど・・・まぁ、ジローとクレスを育てた人だしね!

「はぁ~、まったく」
「まぁ、ヒナちゃんよねぇ」
「ジロー、クレス、私は島に戻るよ。二人はゆっくり」
「私達の目的の半分は終わったんだもの。一緒に帰るわ」
「そうそう。後の半分は、ヒナに町を案内する事。この馬鹿エルフと一緒に町に行ったって、面白くもへったくれもないからな」
「それはこっちの台詞よ、ムッツリ鼻血馬鹿!」
「「あぁ!?」」

また始まった。

「はいはい、二人とも、それくらいに」
「だいたいお前は昔っから」
「そういうお前だって」

仲が良いのは、良い事だ。けども!私は早くこの子を連れて島に戻りたいのよ。

「いい加減にしないと、晩御飯減らすよ?」
「「・・・・・」」

ふぅ、やっとかい。

「ぷっ・・・あはははは!お前ら、見事に尻に敷かれてやんの!ぶふぅ!」
「「うるせぇ、クソジジイ!」」
「こらっ!」
「「・・・・・」」

「それじゃあ、また来ます」
「おう」

ジローとクレス、そして子供を連れて、転移石を使った。





「さて、今日からここが、君のお家です」
「・・・・・」

う~ん、ザ・無反応。

「先ずは・・・お風呂に入ろうか」

抱き上げた時から思っていたけど、この子ちょっと・・・臭い。
洋服が綺麗なのは、あのお爺さんがちゃんと面倒を見ていたって事なんだろうけどなぁ。

「じゃあ私は、超特急でお洋服の用意するわね」
「よろしく!」

下宿の方のお風呂へ向かい、子供の服を脱がせた。
女の子?いや、分からんな。アレは付いてないっぽいけど・・・いやいや、どこを見ているんだか!
洋服を全部脱がせても、無反応。
ずっと俯いて、どこを見ているんだか分からない。
放っておくとまた縮こまってしまうので、子供を小脇に抱えて洗い場へと向かう。
木製の椅子に座らせ、頭からつま先まで、徹底的に洗っていく。
最初の泡が灰色になった時に、また怒りが再熱しそうになったがなんとか抑えた。

『ヒナちゃ~ん、お洋服ここに置いておくわねぇ』

クレスの声が脱衣所から聞こえて来た。
一応すりガラスになっているので、中は見えない。
まぁ、私は脱いでないけど。
ちゃんと、猫の時用の服を着ております!

「ありがとぉ!さぁ、お湯に浸かって・・・ん?」

湯船に入れようと抱き上げると、子供が僅かに震え出した。
子供の視線は、お湯に向けられている。

「あ~、うん。暖かい洋服もあるし、今日は止めておこうね」

湯船から遠ざかると、震えが止まった。
ほんっと、マジ、ムカつく!
脱衣所に向かい、フカフカのタオルで子供を包む。
魔法で一気に乾かし、クレスが用意してくれた洋服を着せた。

「さすがクレス。よく似合ってる」

次は、食事だ。もちろん、パンと水だけとか言語道断!
とは言っても、急に食べても胃がビックリするだろうな。
食堂に向かうと、クロと猫達がいた。

「皆、今日から一緒に住むことになった・・・名前が必要だね」

あんなのは、名前ではない!
白・・・ふわふわ・・・そこまで行って、某喫茶チェーンのシロ〇ワールが出てきた。

「ノワ・・・ノル・・・ノア!君の名前は、ノア。どう?」

無反応。うん、慣れた。

「ノアか、良いんじゃないか?」
「ノアしゃん!」
「よろしくね」
「キュ」

ノアの身長は、丁度猫達と同じくらいだ。

「ノアしゃん、こっち」
「こたつ、ほかほかよ」

猫達にはノアの細かい事は説明していないが、何かを察したのだろう。
うちの子達は、可愛いだけじゃなく、心も優しい!
少しの間、任せておこう。

「さて、と。お粥も無理そうだしなぁ。栄養があって、身体が温まる・・・甘酒かな」

飲む点滴と言われるくらいに栄養満点!もちろん、ノンアルコールです!
土鍋でご飯を炊き、水を少し加えて混ぜながら温度を下げる。
ぬるいかな?くらいになったら米麴を入れて混ぜる。
酒麹を入れてしまうと、アルコールが出ちゃいます。
いい感じに混ざったら風呂敷で包み、こたつの中で半日保存(蹴り飛ばす心配がある場合は、ビニール袋を使うと安心)したら出来上がり。

「出来上がったものが、ここに!」

アイテムバッグから取り出し、スープカップに入れれば完成。
木匙で掬い、フーフーと息を吹きかけて冷ます。

「はい、あーん」

無反応。

「お口を開けてくださぁい」

そう言うと、ノアは素直に口を開ける。

「えい」

その口へ、木匙を入れる。
小さいティースプーンを使ったので、喉が詰まる心配は無い。

「どう?」

また無反応かなぁと思ったら、ノアの真っ赤な目から、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。
泣く程不味い!?
ちょっと一口食べてみると、ほんのり甘い甘酒の味だ。

「もう一口食べる?」

そう聞くと、ノアがためらいがちに口を開けた!
表情は相変わらず無いし、何かを喋ったりはしていない。でも、確かな意思を感じる。

「はい、どうぞ」

今度はちゃんと、自分で「食べた」。
一口食べては、ポロポロと涙を流すノア。

「大丈夫、ゆっくりで良いよ」

ゆっくり、一歩ずつ。
いつか、笑顔が見れると良いな。
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