異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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第百十一話 もう少し

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第百十一話 もう少し


お花見の夜、ベルとヴァンは帰って行ったが、リシュナとジェフさんは泊まっていく事になった。
桜は見えないものの、時折風に運ばれてくる花弁がヒラヒラと舞い落ちてお湯に浮かぶ。

「ふぅ、やはり外で入る風呂も良いのぉ」

露天風呂でのんびり。バスぷにを試してもらう為でもある。

「これも、良い。量産できるのか?」
「大丈夫だよ。後で効能の一覧を渡すから、欲しいのを言ってくれればお酒と一緒に納品するね」
「金額は・・・一つ金貨二枚だ」

相変わらず多い!
うちの下宿代が一か月金貨一枚。これでもちょっともらい過ぎな気がしている。

「た」
「値段交渉は不可だ。ああ、もっと欲しいと言うなら、やぶさかではないがな」
「う・・・その値段で良いです」

これ以上上げられたら、丁寧に贈呈品扱いのラッピングしてやる!

「そう言えば、あのヴァンとか言った小僧」

小僧・・・まぁ、リシュナからしたらノナさんでも小娘扱いだからなぁ。

「あれには気を付けた方が良い」
「へ?」
「魔族は我等と同じ、実力主義じゃ。魔王と言えど、貴族や民から「否」と言われれば、その座を追われる」
「良いのか悪いのか」
「血のみで敬称される愚王よりはマシであろう」

まぁ、確かに。

「それ故に、魔王というのは絶対的存在。だが、あのヴァンと言う男・・・ベルに忠誠を誓っているとは思えぬ」
「そうなの?」

お花見の時の二人を思い返してみるが、変な所は無かった気がする。
ちゃんとベルの言う事を聞いていたし、従者って感じだった。

「態度は、な。だが、あの目だ」

あ、それは何となく分かるかも。
あの目を見ると、ソワソワというかムズムズすると言うか・・・。

「あれは腹に何か抱えた者だろう。魔王がどうなろうとどうでも良いがな。もし間違って、あれがヒナに手を出すと言うなら・・・」

ん?お湯の温度が上がった様な・・・。

「魔族領など、我が炎で燃やし尽くしてくれるがな」

熱い!

「ちょ、リシュナ!煮える!煮えちゃうから!」
「ん?おお、すまん」

魔法で水を出して温度調整する。やれやれ。

『あっつ!?』

隣の男風呂から声が聞こえて来た。

『ちょ、急に熱くなったわよ!?』

あ~、熱いのが向こうにまで行ったらしい。

「ごめん、ごめん!」

男風呂と女風呂を分ける竹を編んで作った壁に飛び乗り、ひょいと男風呂を覗いてみた。

「お、おい!」
「何やってるのよ!?」
「いや、お水を足そうかと思って」

ちゃんと見えないように、肩までしか出していませんよ?
上からお湯に向かって水を出した。

「ちょ、見えちゃうから!ヒナちゃん、下りなさい!」
「はいはい」

水も十分足したし、大丈夫だろう。
下に降りると、リシュナが肩を揺らして笑っていた。

「小僧どもの慌てる顔が目に浮かぶ」
「ちゃんと見えない様にしたよ?」
「男というのは、見えない部分を想像して楽しむ生き物だ」

真っ裸より下着姿に興奮するとかって事か?

『お、おい!アヌリが鼻血噴いて倒れたぞ!』
『ジロー、あんたも出てるわよ。それに比べて、ジェフは流石ねぇ。動揺もしないなんて・・・って、ちょっと!固まってるじゃない!のぼせるわよ!?』
『キュ~?』

阿鼻叫喚。

「青い、青い」
「気をつけます」
「良い。もっとやってやると良い」
「それはただの露出狂でしょうよ」
「それくらいでちょうど良い。お主、時折己が女である事を忘れていそうだからのぉ」
「ぐっ・・・」

返す言葉が見つからない。
人型になるのは町に降りる時か、リシュナとこうしてお風呂に入る時くらいだもんなぁ。

「最近は猫のままの時が多いから、人型になると違和感が凄くて」
「まぁ、分からぬでもないが。我とて、古龍の姿になるのは年に数える程度じゃからの。だが、猫の姿では出せぬ物が、人型にはある」

猫では出せない物?出しちゃいけない物なら思い当たるけど。

「色気じゃ。今のお主では、人型になったとて色気の欠片も出ぬぞ」
「いや、まぁ・・・それは今に始まった事じゃないと言うか・・・」

こっちの世界に来る前から、色気も素っ気もありませんが?
その時、リシュナが突然立ち上がった。

「行くぞ」
「へ?あ、はい!」

リシュナが脱衣所に向かって行ったので、慌てて後を追っていく。
身体の水気を拭い、猫の姿に戻ろうとすると、リシュナに止められた。

「お主もこれを着よ」

渡されたのは、浴衣だ。

「肌の手入れをし、髪はそのまま上げておけ」
「あ、はい」

圧が凄いので、言う事を聞いておく。

「これで良い?」
「ふむ・・・まぁ、良いだろう」

一応合格らしい。
人型で浴衣を着たの、かなり久しぶりだ!

「行くぞ」

リシュナの後について外へ出ると、男性達が既に外で待っていた。
皆が一瞬、ポカンとした顔で私を見た。うう、恥ずかしい。

「可愛い~!」

クレスに抱き着かれた。
いつもなら背が同じくらいだが、今の私ではクレスの胸元に顔が当たる。

「よく似合ってるわぁ」
「あ、ありがとう」

いつもなら「はいはい」と流せるのに!

「いやぁ~ん!恥ずかしがってるヒナちゃん、可愛い~!」
「ちょ、苦しい!」
「クレス、いい加減にヒナを離せ」

私からクレスを引きはがしたのは、エストだった。

「お前達、これをどう思う?」

リシュナが私の右手を取り、まるでダンスをする様にその場でクルリと回された。

「「「「「可愛い」」」」」
「キュ」

皆の反応を見たリシュナが、大きなため息を吐いた。

「まるで幼子に対する感想じゃのぉ。まぁ、先程の事の方が刺激的ではあるが・・・」
「脱がないからね?」
「安売りなぞ、せんで良い。まぁ、追々じゃな」

完全には諦めてはいないみたいだな。

「はいはい、もう良いでしょ!湯冷めしちゃうから、行こう!」

慣れない事はするもんじゃないね!





「魔王様、本日はお連れくださり、感謝いたします」
「あ、ああ。どうだ?ヒナの作る食事は美味かっただろう」
「ええ。魔王様からお聞きしていた通りでした」
「そうだろう、そうだろう」
「はい」

ヴァンは恭しく頭を下げると、ベルガシュナードに挨拶をすると謁見室を出た。
暫く歩き中庭に出ると、立ち止まる。
自分の右手で口を隠し、肩を震わせる。

「ふっ・・・ふふ、くっくっくっ・・・」

エメラルドグリーンの瞳が赤色に染まり、瞳孔が細く縦に伸びる。

「久しぶりの、この感覚・・・」

うっとりとしたように夜空を仰ぎ見るヴァンの顔に、ほんのりと悦が混じって行く。

「はぁ・・・実に、良い」

口から手が外れると、その唇の隙間から赤く細い舌がチロリと空を舐めた。
まるで、蛇が獲物を探す様に。

「楽しみですね」

そう呟くと、再び歩き始めたヴァンの姿が暗闇に消えて行った。
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