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第百四十三話 うさうさ
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第百四十三話 うさうさ
「はぁ~‥‥‥」
夕食の後、片付けをしていると食堂から大きなため息が聞こえて来た。
「今のって、ジローだよね?」
手伝ってくれていたエストに聞いてみた。
「依頼がうまく行っていないと言っていたな」
「珍しいね」
一応Sランク冒険者だ。今まで依頼を失敗したとか、難しいとか聞いた事がない。
「ふむ‥‥話を聞いてくるか」
「優しいな」
「このままにしとくと、あの変にキノコが生えそうだから」
ジローの周りだけ、ドヨ~ンとした空気が漂っている。
片付けを終えてジローの前にお茶を持って座った。
「はいよ」
ジローの分を彼の前に置くと、やっと顔を上げた。
「あぁ、すまんな」
「難しい依頼だって?」
「あ~、依頼自体はそんなでもないんだが」
ジローの話を聞くと、依頼は「虹色ウサギ」を捕まえる事。その虹色ウサギはかなりレアらしく、十年に一匹捕まえられれば珍しい。
「今回はお貴族様からの依頼だ。孫娘が図鑑で見てどうしても欲しいと言ったらしい。殆どの冒険者は知らん振りだが、かなりの高額報酬に若い冒険者が集まっている。虹色ウサギはただのウサギだからな。だが、そのウサギがいる森には魔獣もいる。しかも、既に怪我人も出ててな」
それで、見るに見かねたジローが手を貸したらしいが‥‥見つからないと。なんだかんだで面倒見が良いんだよな、この人。
「レア‥‥手があるにはあるけど」
「本当か⁉」
「‥‥‥はいよ、猫の手」
ポーチから取り出したのは、猫の手。正確には、猫の腕の形をした棒状のふさふさした物。下にはレバーが付いている。因みに毛色は、オレンジ色メインの茶色縞だ。
「ここを握ると」
レバーをギュッと握ると、手の部分がキュッと四十五度曲がる。まるで招き猫の様に。
「これは、レア魔獣等を呼び寄せる道具。周辺にいる一番レアな生き物を引き寄せるんだ。問題としては」
ジローに手渡すと、何のためらいも無くレバーを握ったジロー。
次の瞬間、ゴン! 私の頭突きがジローの顔面にヒットした。
「引き寄せるものの指定ができないって事かな」
「‥‥なふふぉふぉ」
ってか、道具にレア判定された! まぁ、確かにレアではあるんだろうけどさ!
「生き物なら何でもお構いなしだから、動物、魔物、魔獣、危険かもしれないから、使う時は慎重にね」
「分かった。ありがとうな! それにしても、これちょっと可愛いな」
と言いつつ、またレバーを握るアホジロー。案の定、私の身体がまた引っ張られたので、ジローの顔を鷲掴んで自分の身体を支えた。
「慎重にって、言ったでしょうが」
「いやぁ、つい‥‥いたっ! もうやらないから、爪を立てるな」
まったく。なんか、心配になって来た。
私が手を離すと、ジローは嬉しそうに「猫の手」を見ていた。
「本当に気を付けてよ?」
「心配してくれるのか」
「色々な意味で、ね。魔獣を呼ぶ可能性もあるんだから」
「はいよぉ」
なんとも気の抜ける返事だが、大丈夫だろう‥‥多分。
そして次の日の朝、少し不安に思いながらもジローを送り出した。
「ま、何かあれば連絡してくるでしょ」
私は野菜の品種改良を進めるため、作業場へと向かった。
*
「ん~~~~~!」
気が付いたら結構な時間が経っていた。椅子の背にもたれて思い切り伸びをすると、ノックと共にジローの声が聞こえて来た。
「おかえりぃ」
「ただいま」
「どうだった?」
時間はもう直ぐお昼。予想以上に早いジローの帰りに、あの道具が役に立たなかったのかと心配になった。
「おう! 何とかなった。ありがとな」
ジローが道具を返してくれた。
「じゃあ、見つかったんだ」
「いいや」
「ん?」
ジローの話はこうだった。
若い冒険者達はこぞって森の中を探し回ったが、虹色ウサギは見つからない。ジローも暫く見守ったが、これ以上無駄に怪我人が出るのを避ける為、皆を集めて話をしたのだそうだ。
ジローが持つ道具(猫の手)を使えば、見つかるかもしれない。だが、それを使う代わりに、もし虹色ウサギを確保できた場合、そこにいるメンバー全員での依頼分配とする事。
単独で依頼を達成した場合、防具や武器を揃えて尚、暫く資金に困る事はない金額が手に入る。しかし、依頼の達成の分配となると、防具と武器でトントンと言ったところだ。
既に満身創痍の若い冒険者達。これ以上怪我をすれば、治療費だけでも結構な額が飛ぶ事になる。
ジローの提案を受けたのは、七組中の五組。残りの二組は、更に森の奥へと入っていったそうだ。
「大丈夫なの?」
「大丈夫じゃあ、ないだろうな」
とは言え、相手は冒険者だ。何が起きても自己責任。薄情だと言われるかもしれないが、それが冒険者と言う者らしい。
「‥‥危険察知も冒険者に必要な事だ。若い内に学べない奴、必要な助言を聞かない奴は、結局どこかで痛い目を見る事になる。例えそれが、己の命を代償としていてもな」
「なんともまぁ、厳しい世界ですこと」
元の世界にも、冒険者と呼ばれる人達はいた。だが、それはあくまで海外の、しかもテレビの中の話だ。へぇ、凄い人がいるもんだなぁ、くらいにしか思っていなかった。
「残った奴等で共闘、って事になったんだが‥‥」
「これ、使ったんだよね?」
「ああ。その‥‥出て来たのが、キラースネイクだった」
「ん?」
「キラースネイク。その森の主」
「おぉう」
主、呼んじゃったかぁ。
「キラースネイクは巨大な蛇で、ランクはAに近い。本来なら、なりたて冒険者には絶対無理なんだが、俺がいたからな! 馬鹿デカいだけの蛇なんて、余裕だったね」
「はいはい。それで?」
「うぅ‥‥戦い方を教えつつ、倒した」
「おぉ~!」
自分でサクッとやった方が楽だっただろうに、ちゃんと教えてあげたんだ。やっぱりジローは、ちゃんと面倒見が良いんだよね!
「お疲れ様」
頭を撫でてあげた。
「お、おう‥‥」
何故そこで頬を染める⁉
「それで?」
「結局、虹色ウサギは見つからなかったが、キラースネイクの報酬山分けで終わり。と言うか、そっちの方が報酬が高くなった。皮や牙の買い取りが結構良い値でな! 討伐依頼も出てたんだ」
「結果オーライって感じかぁ。良かったね」
「ヒナのおかげだな! と言う事で、感謝の抱擁を‥うわぁ⁉」
ジローが腕を広げてこっちに近付こうとした瞬間、ジローのポケットやシャツの中、あらゆる所から白い物が飛び出て私に向かって飛んで来た。
「うわぁ⁉」
何、何⁉ 思わず鑑定してみて、思わず笑いそうになった。
「ヒナ!」
瞬間的に剣に手を伸ばしたジローに、大丈夫と答えた。
「何と言うか‥‥よく気付かなかったね」
私の肩や頭の上で、モフモフと揺れる毛玉達。結構な数がいるみたいだな。その中の一匹が、私の手の上に降りて来た。
「う~ん、真っ白!」
モフモフの真っ白毛玉。その頭の上には、ウサギの耳が揺れている。くりくりの瞳は、真っ赤な宝石みたいだ。鑑定では虹色ウサギって出てたけど?
「そいつら‥‥虹色ウサギじゃねぇか。ほれ、ここ」
ジローが指したのは、ウサギの尻尾。丸くふわふわとした小さな尻尾が、まるで虹色の綿菓子みたいになっていた!
「なるほどねぇ。これは、小さな女の子は欲しがるね」
「しっかし、こんなにいたんだな。全然気付かなかった」
「まぁ、ジローだし。この子達、どうするの? 森に返した方が良いのかな?」
私がそう言うと、手の上に乗っている子の瞳がウルウルと見つめてきた‥‥気がする。
「随分とお前さんに懐いているみたいだし、この島で良いんじゃないか? それに、ここにいれば冒険者に狙われる事もないしな」
と言う事で、島にウサギが増えたのだった。
モフモフ度が増えたので、今晩はジローの好きな唐揚げを作ってあげよう!
「はぁ~‥‥‥」
夕食の後、片付けをしていると食堂から大きなため息が聞こえて来た。
「今のって、ジローだよね?」
手伝ってくれていたエストに聞いてみた。
「依頼がうまく行っていないと言っていたな」
「珍しいね」
一応Sランク冒険者だ。今まで依頼を失敗したとか、難しいとか聞いた事がない。
「ふむ‥‥話を聞いてくるか」
「優しいな」
「このままにしとくと、あの変にキノコが生えそうだから」
ジローの周りだけ、ドヨ~ンとした空気が漂っている。
片付けを終えてジローの前にお茶を持って座った。
「はいよ」
ジローの分を彼の前に置くと、やっと顔を上げた。
「あぁ、すまんな」
「難しい依頼だって?」
「あ~、依頼自体はそんなでもないんだが」
ジローの話を聞くと、依頼は「虹色ウサギ」を捕まえる事。その虹色ウサギはかなりレアらしく、十年に一匹捕まえられれば珍しい。
「今回はお貴族様からの依頼だ。孫娘が図鑑で見てどうしても欲しいと言ったらしい。殆どの冒険者は知らん振りだが、かなりの高額報酬に若い冒険者が集まっている。虹色ウサギはただのウサギだからな。だが、そのウサギがいる森には魔獣もいる。しかも、既に怪我人も出ててな」
それで、見るに見かねたジローが手を貸したらしいが‥‥見つからないと。なんだかんだで面倒見が良いんだよな、この人。
「レア‥‥手があるにはあるけど」
「本当か⁉」
「‥‥‥はいよ、猫の手」
ポーチから取り出したのは、猫の手。正確には、猫の腕の形をした棒状のふさふさした物。下にはレバーが付いている。因みに毛色は、オレンジ色メインの茶色縞だ。
「ここを握ると」
レバーをギュッと握ると、手の部分がキュッと四十五度曲がる。まるで招き猫の様に。
「これは、レア魔獣等を呼び寄せる道具。周辺にいる一番レアな生き物を引き寄せるんだ。問題としては」
ジローに手渡すと、何のためらいも無くレバーを握ったジロー。
次の瞬間、ゴン! 私の頭突きがジローの顔面にヒットした。
「引き寄せるものの指定ができないって事かな」
「‥‥なふふぉふぉ」
ってか、道具にレア判定された! まぁ、確かにレアではあるんだろうけどさ!
「生き物なら何でもお構いなしだから、動物、魔物、魔獣、危険かもしれないから、使う時は慎重にね」
「分かった。ありがとうな! それにしても、これちょっと可愛いな」
と言いつつ、またレバーを握るアホジロー。案の定、私の身体がまた引っ張られたので、ジローの顔を鷲掴んで自分の身体を支えた。
「慎重にって、言ったでしょうが」
「いやぁ、つい‥‥いたっ! もうやらないから、爪を立てるな」
まったく。なんか、心配になって来た。
私が手を離すと、ジローは嬉しそうに「猫の手」を見ていた。
「本当に気を付けてよ?」
「心配してくれるのか」
「色々な意味で、ね。魔獣を呼ぶ可能性もあるんだから」
「はいよぉ」
なんとも気の抜ける返事だが、大丈夫だろう‥‥多分。
そして次の日の朝、少し不安に思いながらもジローを送り出した。
「ま、何かあれば連絡してくるでしょ」
私は野菜の品種改良を進めるため、作業場へと向かった。
*
「ん~~~~~!」
気が付いたら結構な時間が経っていた。椅子の背にもたれて思い切り伸びをすると、ノックと共にジローの声が聞こえて来た。
「おかえりぃ」
「ただいま」
「どうだった?」
時間はもう直ぐお昼。予想以上に早いジローの帰りに、あの道具が役に立たなかったのかと心配になった。
「おう! 何とかなった。ありがとな」
ジローが道具を返してくれた。
「じゃあ、見つかったんだ」
「いいや」
「ん?」
ジローの話はこうだった。
若い冒険者達はこぞって森の中を探し回ったが、虹色ウサギは見つからない。ジローも暫く見守ったが、これ以上無駄に怪我人が出るのを避ける為、皆を集めて話をしたのだそうだ。
ジローが持つ道具(猫の手)を使えば、見つかるかもしれない。だが、それを使う代わりに、もし虹色ウサギを確保できた場合、そこにいるメンバー全員での依頼分配とする事。
単独で依頼を達成した場合、防具や武器を揃えて尚、暫く資金に困る事はない金額が手に入る。しかし、依頼の達成の分配となると、防具と武器でトントンと言ったところだ。
既に満身創痍の若い冒険者達。これ以上怪我をすれば、治療費だけでも結構な額が飛ぶ事になる。
ジローの提案を受けたのは、七組中の五組。残りの二組は、更に森の奥へと入っていったそうだ。
「大丈夫なの?」
「大丈夫じゃあ、ないだろうな」
とは言え、相手は冒険者だ。何が起きても自己責任。薄情だと言われるかもしれないが、それが冒険者と言う者らしい。
「‥‥危険察知も冒険者に必要な事だ。若い内に学べない奴、必要な助言を聞かない奴は、結局どこかで痛い目を見る事になる。例えそれが、己の命を代償としていてもな」
「なんともまぁ、厳しい世界ですこと」
元の世界にも、冒険者と呼ばれる人達はいた。だが、それはあくまで海外の、しかもテレビの中の話だ。へぇ、凄い人がいるもんだなぁ、くらいにしか思っていなかった。
「残った奴等で共闘、って事になったんだが‥‥」
「これ、使ったんだよね?」
「ああ。その‥‥出て来たのが、キラースネイクだった」
「ん?」
「キラースネイク。その森の主」
「おぉう」
主、呼んじゃったかぁ。
「キラースネイクは巨大な蛇で、ランクはAに近い。本来なら、なりたて冒険者には絶対無理なんだが、俺がいたからな! 馬鹿デカいだけの蛇なんて、余裕だったね」
「はいはい。それで?」
「うぅ‥‥戦い方を教えつつ、倒した」
「おぉ~!」
自分でサクッとやった方が楽だっただろうに、ちゃんと教えてあげたんだ。やっぱりジローは、ちゃんと面倒見が良いんだよね!
「お疲れ様」
頭を撫でてあげた。
「お、おう‥‥」
何故そこで頬を染める⁉
「それで?」
「結局、虹色ウサギは見つからなかったが、キラースネイクの報酬山分けで終わり。と言うか、そっちの方が報酬が高くなった。皮や牙の買い取りが結構良い値でな! 討伐依頼も出てたんだ」
「結果オーライって感じかぁ。良かったね」
「ヒナのおかげだな! と言う事で、感謝の抱擁を‥うわぁ⁉」
ジローが腕を広げてこっちに近付こうとした瞬間、ジローのポケットやシャツの中、あらゆる所から白い物が飛び出て私に向かって飛んで来た。
「うわぁ⁉」
何、何⁉ 思わず鑑定してみて、思わず笑いそうになった。
「ヒナ!」
瞬間的に剣に手を伸ばしたジローに、大丈夫と答えた。
「何と言うか‥‥よく気付かなかったね」
私の肩や頭の上で、モフモフと揺れる毛玉達。結構な数がいるみたいだな。その中の一匹が、私の手の上に降りて来た。
「う~ん、真っ白!」
モフモフの真っ白毛玉。その頭の上には、ウサギの耳が揺れている。くりくりの瞳は、真っ赤な宝石みたいだ。鑑定では虹色ウサギって出てたけど?
「そいつら‥‥虹色ウサギじゃねぇか。ほれ、ここ」
ジローが指したのは、ウサギの尻尾。丸くふわふわとした小さな尻尾が、まるで虹色の綿菓子みたいになっていた!
「なるほどねぇ。これは、小さな女の子は欲しがるね」
「しっかし、こんなにいたんだな。全然気付かなかった」
「まぁ、ジローだし。この子達、どうするの? 森に返した方が良いのかな?」
私がそう言うと、手の上に乗っている子の瞳がウルウルと見つめてきた‥‥気がする。
「随分とお前さんに懐いているみたいだし、この島で良いんじゃないか? それに、ここにいれば冒険者に狙われる事もないしな」
と言う事で、島にウサギが増えたのだった。
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