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第百四十九話 決着
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第百四十九話 決着
気合を入れた所で、元勇者の身体が一瞬で消えた。
転移か⁉ と焦ったが、遅れて強い風が穴の上の方へと舞い上がった事から、元勇者が上に飛んで行ったのだと分かった。
「やっぱ、自力で飛べるのは早いなぁ」
やれやれ。私も箒にまたがり、上へと急いだ。
ここから島までは少し距離があるし、島には不可視の魔法が掛かっているので見つけるのは困難‥‥の、はずだが、チートモリモリの彼には関係無さそう。
地上へと飛び出すと、元勇者が宙に留まり風に吹かれていた。
今にもバトル系異世界物が始まりそうだ。アニメだったら、オープニング曲が流れ始める場面だろう。
「‥‥遅かったな」
「あら、待っててくれたんだ」
元勇者と同じ高さにまで上がる。
「ふっ‥‥あの島‥‥クソ王子と一緒に住む為だとか言ってたな」
元勇者は、私の後ろの方‥島のある方角をじっと見つめている。
なんか、違和感。髭がピリッとした。
「爺に婆。へぇ、エルフの冒険者に獣人もいるのか」
やっぱり持ってたか、『千里眼』。
「へぇ~、子供もいるんだ‥‥俺、どっちかって言うと犬派なんだよね」
「そりゃ残念」
島の防御はセバスに任せてあるから、きっと大丈夫だろう。
「選ばせてやる。お前が先か、島が先か」
「は?」
「ボロボロになったお前を島の連中に見せて絶望を味わわせた後、島を破壊するか」
こいつ、本当に元勇者か?
「それとも、あいつらをころ」
元勇者がそこまで言ったところで、彼の頬に一筋の黒い線が走る。
「おっと、爪が滑った」
爪の斬撃を飛ばしてみた。
悪霊だからか、傷口から出たのは赤い血ではなく、黒いモヤ。しかも、直ぐに塞がった。
ゲーム時に、何度かアンデットと戦った事はある。
墓地エリアにしか生えていないキノコや草を採取しに‥‥今は絶対にやらないけど!
「へぇ‥‥少しは楽しめそうだな」
こいつ、中二病と言う不治の病な上に、戦闘狂の合併症か! なんて厄介な。
元勇者が右手を前に出すと、黒い魔力の塊が現れた。地面を消し去ったやつか⁉ と警戒したが、魔力の塊が動き出したと思った瞬間、既に目の前にあった。
「っ‼」
避けたら島に当たる!
どうしたら良いか考えるより先に、右手が動いていた。
バチッ! という音の次に、右手に痛みが走る。そして、少し離れた場所から爆発音が聞こえて来た。
私が弾いた塊が山頂に当たり、山の三分の一が吹き飛んだ!
自分の右手を見ると、肉球が少し焦げて煙が上がっている。
あっぶな! 下手したら、右手が吹き飛んでた!
「見た目より動けるんだな、おばさん」
「そりゃどうも」
右手にポーションを掛けて治す。
あんな物が島に当たったら‥‥コマ達が怖がるじゃないか!
さて、どうする? 相手は悪霊だ。ボコボコにして何とかなるってもんでもない。対レイス的な対応で良いんだろうか? まぁ、とりあえず試してみるか。
アイテムポーチから取り出したのは、水鉄砲。いや、水風船鉄砲?
本当に子供用か? と聞きたくなる本格仕様の、加圧ポンプ付き。
魔力を込めながらシャコシャコとポンプを動かすと、先端に水風船が膨らむ。
風船とは言ってもゴムではなく、薄い魔力の膜で出来ているので、ちょっと触っただけで割れる。
「そんな玩具で何を」
さて、充填完了。律儀に待っていてくれて、ありがとう!
「さっきのお返し」
狙いを定めてトリガーを引くと、テニスボール大の水風船が元勇者目掛けて発射された。
玩具の様な見た目からは想像できない速さで飛ぶ水風船が、あっという間に元勇者の目の前に迫る。
「ふざけて‥‥っ⁉ ガァァァァ⁉」
手で払いのけようとしたのか、水風船が元勇者の手に当たった瞬間、水風船が割れて中身が飛散した。そして次の瞬間、中身を浴びた元勇者が苦しみだした。
お、効いた。
水風船の中身は、聖水ですもの。中身が残っていて良かった! ゲーム時の物だったから、効くかどうか心配だったんだよねぇ。
「ほい、ほい」
続けて二発撃つと、元勇者は人型を保てなくなったのか、バレーボール程の大きさの真っ黒なモヤモヤとした人魂になった。
「グゥ‥‥コノ‥‥ク‥ネコ‥‥」
あと一発ってとこかな。
「あんたが向こうの世界でどんな人生を送っていたかなんて、聞いてあげない」
口ぶりからして、あまり良くはなさそうだけどね。
「どんな理由があったって、あんたがやらかした事は帳消しにはならない」
水風船の大きさは、バスケットボール程にまで大きくなっている。
「もういっぺん、あの世で道明寺さんに殴られてきな」
最後のトリガーを引いた。
水風船が元勇者に直撃。
「ガァァァァァ‥‥」
聖水が飛び散り、日の光を反射してキラキラと飛散した。
元勇者だった黒いモヤは、浄化されて光る粒子となって消えていった。
「ふぅ‥‥やれやれ」
こうして、世界の危機(?)は去った。いやぁ、も~、勘弁して!
どちらかと言うと、元勇者の後の方が忙しかった。
元勇者のお墓を作ったり、世界樹を島に移植したり。完全に枯れたと思っていたけど、なんと小さな新しい芽が出ていたのだ。ノナ婆さん達は大騒ぎ!
ジロー達には「一人で無茶して!」と怒られた。いや、でも、相手、飛んでたしぃ。
結局その晩、リシュナや魔王まで参加しての上映会になった‥‥セバスめ、あんなに真剣な顔してたくせに、しっかり映像残してあるんだから!
そして島には、平穏な日々が戻った。
秋には稲刈りをして、冬には雪ダルマやカマクラを作って大騒ぎ。
大人組はまぁ‥‥宴会だよね。
あ、そうそう! 砂漠で出会ったコールさんは、新たな下宿人として島に定住した。
島の景色を描いた絵と絵本が、世界中で大人気! とある国では、神殿にまで祀られたとか‥‥。ワタシハナニモミテイナイ。キットアレハマボロシ‥‥。
そして新しい年が明け、また春がやって来る。
気合を入れた所で、元勇者の身体が一瞬で消えた。
転移か⁉ と焦ったが、遅れて強い風が穴の上の方へと舞い上がった事から、元勇者が上に飛んで行ったのだと分かった。
「やっぱ、自力で飛べるのは早いなぁ」
やれやれ。私も箒にまたがり、上へと急いだ。
ここから島までは少し距離があるし、島には不可視の魔法が掛かっているので見つけるのは困難‥‥の、はずだが、チートモリモリの彼には関係無さそう。
地上へと飛び出すと、元勇者が宙に留まり風に吹かれていた。
今にもバトル系異世界物が始まりそうだ。アニメだったら、オープニング曲が流れ始める場面だろう。
「‥‥遅かったな」
「あら、待っててくれたんだ」
元勇者と同じ高さにまで上がる。
「ふっ‥‥あの島‥‥クソ王子と一緒に住む為だとか言ってたな」
元勇者は、私の後ろの方‥島のある方角をじっと見つめている。
なんか、違和感。髭がピリッとした。
「爺に婆。へぇ、エルフの冒険者に獣人もいるのか」
やっぱり持ってたか、『千里眼』。
「へぇ~、子供もいるんだ‥‥俺、どっちかって言うと犬派なんだよね」
「そりゃ残念」
島の防御はセバスに任せてあるから、きっと大丈夫だろう。
「選ばせてやる。お前が先か、島が先か」
「は?」
「ボロボロになったお前を島の連中に見せて絶望を味わわせた後、島を破壊するか」
こいつ、本当に元勇者か?
「それとも、あいつらをころ」
元勇者がそこまで言ったところで、彼の頬に一筋の黒い線が走る。
「おっと、爪が滑った」
爪の斬撃を飛ばしてみた。
悪霊だからか、傷口から出たのは赤い血ではなく、黒いモヤ。しかも、直ぐに塞がった。
ゲーム時に、何度かアンデットと戦った事はある。
墓地エリアにしか生えていないキノコや草を採取しに‥‥今は絶対にやらないけど!
「へぇ‥‥少しは楽しめそうだな」
こいつ、中二病と言う不治の病な上に、戦闘狂の合併症か! なんて厄介な。
元勇者が右手を前に出すと、黒い魔力の塊が現れた。地面を消し去ったやつか⁉ と警戒したが、魔力の塊が動き出したと思った瞬間、既に目の前にあった。
「っ‼」
避けたら島に当たる!
どうしたら良いか考えるより先に、右手が動いていた。
バチッ! という音の次に、右手に痛みが走る。そして、少し離れた場所から爆発音が聞こえて来た。
私が弾いた塊が山頂に当たり、山の三分の一が吹き飛んだ!
自分の右手を見ると、肉球が少し焦げて煙が上がっている。
あっぶな! 下手したら、右手が吹き飛んでた!
「見た目より動けるんだな、おばさん」
「そりゃどうも」
右手にポーションを掛けて治す。
あんな物が島に当たったら‥‥コマ達が怖がるじゃないか!
さて、どうする? 相手は悪霊だ。ボコボコにして何とかなるってもんでもない。対レイス的な対応で良いんだろうか? まぁ、とりあえず試してみるか。
アイテムポーチから取り出したのは、水鉄砲。いや、水風船鉄砲?
本当に子供用か? と聞きたくなる本格仕様の、加圧ポンプ付き。
魔力を込めながらシャコシャコとポンプを動かすと、先端に水風船が膨らむ。
風船とは言ってもゴムではなく、薄い魔力の膜で出来ているので、ちょっと触っただけで割れる。
「そんな玩具で何を」
さて、充填完了。律儀に待っていてくれて、ありがとう!
「さっきのお返し」
狙いを定めてトリガーを引くと、テニスボール大の水風船が元勇者目掛けて発射された。
玩具の様な見た目からは想像できない速さで飛ぶ水風船が、あっという間に元勇者の目の前に迫る。
「ふざけて‥‥っ⁉ ガァァァァ⁉」
手で払いのけようとしたのか、水風船が元勇者の手に当たった瞬間、水風船が割れて中身が飛散した。そして次の瞬間、中身を浴びた元勇者が苦しみだした。
お、効いた。
水風船の中身は、聖水ですもの。中身が残っていて良かった! ゲーム時の物だったから、効くかどうか心配だったんだよねぇ。
「ほい、ほい」
続けて二発撃つと、元勇者は人型を保てなくなったのか、バレーボール程の大きさの真っ黒なモヤモヤとした人魂になった。
「グゥ‥‥コノ‥‥ク‥ネコ‥‥」
あと一発ってとこかな。
「あんたが向こうの世界でどんな人生を送っていたかなんて、聞いてあげない」
口ぶりからして、あまり良くはなさそうだけどね。
「どんな理由があったって、あんたがやらかした事は帳消しにはならない」
水風船の大きさは、バスケットボール程にまで大きくなっている。
「もういっぺん、あの世で道明寺さんに殴られてきな」
最後のトリガーを引いた。
水風船が元勇者に直撃。
「ガァァァァァ‥‥」
聖水が飛び散り、日の光を反射してキラキラと飛散した。
元勇者だった黒いモヤは、浄化されて光る粒子となって消えていった。
「ふぅ‥‥やれやれ」
こうして、世界の危機(?)は去った。いやぁ、も~、勘弁して!
どちらかと言うと、元勇者の後の方が忙しかった。
元勇者のお墓を作ったり、世界樹を島に移植したり。完全に枯れたと思っていたけど、なんと小さな新しい芽が出ていたのだ。ノナ婆さん達は大騒ぎ!
ジロー達には「一人で無茶して!」と怒られた。いや、でも、相手、飛んでたしぃ。
結局その晩、リシュナや魔王まで参加しての上映会になった‥‥セバスめ、あんなに真剣な顔してたくせに、しっかり映像残してあるんだから!
そして島には、平穏な日々が戻った。
秋には稲刈りをして、冬には雪ダルマやカマクラを作って大騒ぎ。
大人組はまぁ‥‥宴会だよね。
あ、そうそう! 砂漠で出会ったコールさんは、新たな下宿人として島に定住した。
島の景色を描いた絵と絵本が、世界中で大人気! とある国では、神殿にまで祀られたとか‥‥。ワタシハナニモミテイナイ。キットアレハマボロシ‥‥。
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