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陛下の戯れがいけなかったので。
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「確かに、こちらはいただきますね」
「えぇ、それは当然のものです。サーラー様には、お怪我までさせてしまい、申し訳ございませんでした」
「護衛騎士として私を守っただけにすぎません。このように補償をしていただけることは、大変嬉しく思います。陛下にも、お伝えください」
「かしこまりました。ところで、サーラー様の具合はどうですか?」
この場にいないウィルのことを気にしていたようで、宰相は尋ねたのだろう。私は微笑み、「今日は休暇を取らせています」と伝えた。敵地の真ん中で休暇なんて普通は取らないだろうが、ずっと、張りつめた気持ちでいれば、緊張の糸が切れてしまう。数人ずつの交代で、護衛たちにもささやかながらの休息の時間を与えている。
「そうでしたか。銃で撃たれたのです。応急処置は昨夜させていただきましたが、昼頃に、侍医をこちらに派遣しますので、診てもらってください」
「ありがとうございます。こちらにも救護班はいるのですが、幾分、銃の傷をみるのは、初めての者ばかりだったので、助かります」
「それはよかった。差し出がましいかと思っていましたので。それとは別に、こちらを」
後ろに控えていた従者が、宰相に促されて紙袋を机の上に置いた。何だろう?と首を傾げてみると、眉尻を下げて少し困った表情を作った宰相は、「傷薬ですよ」と教えてくれる。
「銃創によくきく傷薬を用意しましたので、こちらを使ってください。軍の方で使われているものなので、効果は実証済みです」
「何から何までありがとうございます」
「……いえ、陛下の戯れがいけなかったので。アンナリーゼ様にはお怪我はなかったで、よろしかったですか?」
「もちろんです。ウィルが私を守ってくれましたので」
「それもそうでしたね。あの姿をみると、護衛騎士の鑑のような対応でした。陛下の近衛も、有名な『ウイル・サーラー』の名を知っていますが、ここまでの騎士だとは思っていなかったようで、とても心打たれたようです」
「ふふっ、ウィルの株が上がりましたわね。常勝将軍ノクト様を退けただけでなく、私の護衛に身を挺して庇った。本当に素晴らしい近衛だと、私どもも自負しております。実際は、ここにいるセバスが、ノクト様を戦場から離脱させる一芸を披露したのですけどね」
私はセバスの方をチラッと見るが、貴族らしい無表情で宰相を見つめていた。表情には、現れていないが、雰囲気でセバスが喜んでいることがわかった。
「ローズディア……いえ、アンナリーゼ様の側には、若くて優秀な方々が多いのですね」
「そうでもありませんわ。私たちは、まだまだ、若輩ものですから、それぞれがそれぞれの場にて、研鑽しているだけのこと。私も、領主としては、まだまだですから。宰相様は、領地のことだけでなく、この国のかじ取りもなされているのです。本当に素晴らしいですわ」
「そんなことはないですよ。ただの老害にすぎませんからね」
「何をおっしゃいます。しっかりした宰相がいるからこそ、その方を上回る才能が磨かれるというものです。我が国も、見習いたいですわ」
ふふっと微笑みながら、ウィルにともらった傷薬をナタリーに渡すと、頷いている。このまま、ウィルのところに持って行ってくれるようだった。
「それにしても、アンナリーゼ様は、見事な剣捌きでございますね。昨夜、拝見して、正直驚きました」
「……お恥ずかしいことです。私の取柄は、剣を握ることくらいですから」
「何をおっしゃいますか。兵のような動きやすい制服ではなく、そのドレスを身にまとい、身軽な暗殺者を次から次へと……あの場面は、一生に一度見られるかどうかの瞬間でした。素晴らしいです」
昨夜の武闘を見て、宰相は褒めたたえてくれたが、私としては不出来なものであった。ウィルを怪我させてしまったのだ。近衛として私を守ってくれたウィルの評価は高い。ただ、ウィルを友人としてみたとき、やはり、傷つけてしまったことに、私は後悔をしていた。幸い、怪我の方は、後遺症になるようなこともないということだ。ウィルが剣を握れなくなる日が来るのは、まだまだ先のこととはいえ、心の中は穏やかではなかった。
「剣の道も、私にとってはまだまだです。今回の件で、自分がいかにうぬぼれていたか、自覚をしましたから……」
「不意打ちだったのです。仕方がなかったと思いますが、それでもご自身を責められるのですか?」
「そんなふうには思いません。ただ、私の不注意が招いたことではありますので……子がいる母として、領主として、守るべきものが多いので、精進しなくていけないと、改めて考えさせられたのですわ」
昨夜のことを考えると、胸が痛むところもある。反省点もある。でも、それは、敵国の宰相がいる今するべきことではないので、にこりと微笑み、私は次の話題へと話を移ろわせた。
「えぇ、それは当然のものです。サーラー様には、お怪我までさせてしまい、申し訳ございませんでした」
「護衛騎士として私を守っただけにすぎません。このように補償をしていただけることは、大変嬉しく思います。陛下にも、お伝えください」
「かしこまりました。ところで、サーラー様の具合はどうですか?」
この場にいないウィルのことを気にしていたようで、宰相は尋ねたのだろう。私は微笑み、「今日は休暇を取らせています」と伝えた。敵地の真ん中で休暇なんて普通は取らないだろうが、ずっと、張りつめた気持ちでいれば、緊張の糸が切れてしまう。数人ずつの交代で、護衛たちにもささやかながらの休息の時間を与えている。
「そうでしたか。銃で撃たれたのです。応急処置は昨夜させていただきましたが、昼頃に、侍医をこちらに派遣しますので、診てもらってください」
「ありがとうございます。こちらにも救護班はいるのですが、幾分、銃の傷をみるのは、初めての者ばかりだったので、助かります」
「それはよかった。差し出がましいかと思っていましたので。それとは別に、こちらを」
後ろに控えていた従者が、宰相に促されて紙袋を机の上に置いた。何だろう?と首を傾げてみると、眉尻を下げて少し困った表情を作った宰相は、「傷薬ですよ」と教えてくれる。
「銃創によくきく傷薬を用意しましたので、こちらを使ってください。軍の方で使われているものなので、効果は実証済みです」
「何から何までありがとうございます」
「……いえ、陛下の戯れがいけなかったので。アンナリーゼ様にはお怪我はなかったで、よろしかったですか?」
「もちろんです。ウィルが私を守ってくれましたので」
「それもそうでしたね。あの姿をみると、護衛騎士の鑑のような対応でした。陛下の近衛も、有名な『ウイル・サーラー』の名を知っていますが、ここまでの騎士だとは思っていなかったようで、とても心打たれたようです」
「ふふっ、ウィルの株が上がりましたわね。常勝将軍ノクト様を退けただけでなく、私の護衛に身を挺して庇った。本当に素晴らしい近衛だと、私どもも自負しております。実際は、ここにいるセバスが、ノクト様を戦場から離脱させる一芸を披露したのですけどね」
私はセバスの方をチラッと見るが、貴族らしい無表情で宰相を見つめていた。表情には、現れていないが、雰囲気でセバスが喜んでいることがわかった。
「ローズディア……いえ、アンナリーゼ様の側には、若くて優秀な方々が多いのですね」
「そうでもありませんわ。私たちは、まだまだ、若輩ものですから、それぞれがそれぞれの場にて、研鑽しているだけのこと。私も、領主としては、まだまだですから。宰相様は、領地のことだけでなく、この国のかじ取りもなされているのです。本当に素晴らしいですわ」
「そんなことはないですよ。ただの老害にすぎませんからね」
「何をおっしゃいます。しっかりした宰相がいるからこそ、その方を上回る才能が磨かれるというものです。我が国も、見習いたいですわ」
ふふっと微笑みながら、ウィルにともらった傷薬をナタリーに渡すと、頷いている。このまま、ウィルのところに持って行ってくれるようだった。
「それにしても、アンナリーゼ様は、見事な剣捌きでございますね。昨夜、拝見して、正直驚きました」
「……お恥ずかしいことです。私の取柄は、剣を握ることくらいですから」
「何をおっしゃいますか。兵のような動きやすい制服ではなく、そのドレスを身にまとい、身軽な暗殺者を次から次へと……あの場面は、一生に一度見られるかどうかの瞬間でした。素晴らしいです」
昨夜の武闘を見て、宰相は褒めたたえてくれたが、私としては不出来なものであった。ウィルを怪我させてしまったのだ。近衛として私を守ってくれたウィルの評価は高い。ただ、ウィルを友人としてみたとき、やはり、傷つけてしまったことに、私は後悔をしていた。幸い、怪我の方は、後遺症になるようなこともないということだ。ウィルが剣を握れなくなる日が来るのは、まだまだ先のこととはいえ、心の中は穏やかではなかった。
「剣の道も、私にとってはまだまだです。今回の件で、自分がいかにうぬぼれていたか、自覚をしましたから……」
「不意打ちだったのです。仕方がなかったと思いますが、それでもご自身を責められるのですか?」
「そんなふうには思いません。ただ、私の不注意が招いたことではありますので……子がいる母として、領主として、守るべきものが多いので、精進しなくていけないと、改めて考えさせられたのですわ」
昨夜のことを考えると、胸が痛むところもある。反省点もある。でも、それは、敵国の宰相がいる今するべきことではないので、にこりと微笑み、私は次の話題へと話を移ろわせた。
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