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初めての一目惚れ⑤
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今日は我が社㈱オッティモの創立30周年記念パーティーが行われる日である。
「浅木さん、お渡しする記念品の数量チェック、大丈夫よね?」
「はい、リスト通りありました。大丈夫です」
普段は受付業務だけの私たちも、今日はイレギュラーな仕事な上、主催者側なので招待客に失礼がないようにと空気がピリついていた。
パーティーはこのビルの最上階で行われる。
最上階のフロアはかなり広いので、各種イベントや企業の説明会などに使われることが多いが、こうしてパーティーを開くことも可能だ。
今日はお天気も良いので、窓からは最高に綺麗な景色を堪能できる。
「うちの会社って、お金あるんだねぇ」
会場の様子を伺い見た蘭が、仕事の手を休めずにつぶやいた。
たしかに、このビルにオフィスを構えるくらいだから余裕はあるのだろう。
上層階の大企業との交流を狙う意図もあるらしいけれど、この規模のパーティーは背伸びをしすぎな気がする。
「私たちはどうせ、アレ食べられないよね?」
「どれ?」
「あのキラキラ光ってるイクラのお寿司とか」
テナントで入っている高級寿司店の板前さんたちが、今日は目の前で握ってくれるそうだ。
蘭が小さく指をさして言ったのはそのお寿司だったけれど、もちろん受付の私たちが頂けるものではない。
「あっちのやつなら、余ったらもらえるかもよ?」
「え! どれ?」
今度は私が反対方向を指すと、蘭の顔がパッと明るい笑顔になった。
「蜜山堂の和菓子だ!……綺麗だね」
「うん。宝石みたい」
「お菓子もだけど、若旦那も!」
色とりどりの和菓子の前で挨拶をしている和装の若い男性がいる。
長身で黒髪の爽やかな人が、どうやら老舗高級和菓子店である蜜山堂の若旦那らしい。
もしかして……あれから話は出ていないけれど、蘭が以前に話していた好きな人というのは、この若旦那だろうか。
思わず会場内にいる若旦那をじっと見てしまう。たしかに素敵な人だし、蘭ともお似合いだ。
蘭が招待客の応対をしていると、マナーモードにしていた私のスマホが受付テーブルのところで着信を告げ、ドキッと心臓が跳ねた。
鳴るはずがないスマホを手に取り、こんなときに誰からだろうと画面を確認する。するとそれはオフィスで通常業務をしている先輩の森内さんからだった。
「もしもし、お疲れ様です」
蘭にごめんとジェスチャーをして、少し離れたところで電話に出た。
『浅木さん、忙しいとこ悪いわね』
森内さんが謝るなんて珍しい。忙しいというより、この業務が大変なのを彼女もわかっているからだろう。
『営業一部の大野部長って、会場内にいるよね?』
「はい、たしかいらっしゃっていたはずですが……」
『営業の永島さんが部長の携帯に電話してるらしいんだけど、電源が入ってないんだって』
営業一部の大野部長はごますりで有名で、ある意味それだけで部長にまでなったと言われている人物だ。
パーティーでのコネクション作りに邪魔になるから、事前に携帯の電源を切ったのだと思う。
今日は我が社㈱オッティモの創立30周年記念パーティーが行われる日である。
「浅木さん、お渡しする記念品の数量チェック、大丈夫よね?」
「はい、リスト通りありました。大丈夫です」
普段は受付業務だけの私たちも、今日はイレギュラーな仕事な上、主催者側なので招待客に失礼がないようにと空気がピリついていた。
パーティーはこのビルの最上階で行われる。
最上階のフロアはかなり広いので、各種イベントや企業の説明会などに使われることが多いが、こうしてパーティーを開くことも可能だ。
今日はお天気も良いので、窓からは最高に綺麗な景色を堪能できる。
「うちの会社って、お金あるんだねぇ」
会場の様子を伺い見た蘭が、仕事の手を休めずにつぶやいた。
たしかに、このビルにオフィスを構えるくらいだから余裕はあるのだろう。
上層階の大企業との交流を狙う意図もあるらしいけれど、この規模のパーティーは背伸びをしすぎな気がする。
「私たちはどうせ、アレ食べられないよね?」
「どれ?」
「あのキラキラ光ってるイクラのお寿司とか」
テナントで入っている高級寿司店の板前さんたちが、今日は目の前で握ってくれるそうだ。
蘭が小さく指をさして言ったのはそのお寿司だったけれど、もちろん受付の私たちが頂けるものではない。
「あっちのやつなら、余ったらもらえるかもよ?」
「え! どれ?」
今度は私が反対方向を指すと、蘭の顔がパッと明るい笑顔になった。
「蜜山堂の和菓子だ!……綺麗だね」
「うん。宝石みたい」
「お菓子もだけど、若旦那も!」
色とりどりの和菓子の前で挨拶をしている和装の若い男性がいる。
長身で黒髪の爽やかな人が、どうやら老舗高級和菓子店である蜜山堂の若旦那らしい。
もしかして……あれから話は出ていないけれど、蘭が以前に話していた好きな人というのは、この若旦那だろうか。
思わず会場内にいる若旦那をじっと見てしまう。たしかに素敵な人だし、蘭ともお似合いだ。
蘭が招待客の応対をしていると、マナーモードにしていた私のスマホが受付テーブルのところで着信を告げ、ドキッと心臓が跳ねた。
鳴るはずがないスマホを手に取り、こんなときに誰からだろうと画面を確認する。するとそれはオフィスで通常業務をしている先輩の森内さんからだった。
「もしもし、お疲れ様です」
蘭にごめんとジェスチャーをして、少し離れたところで電話に出た。
『浅木さん、忙しいとこ悪いわね』
森内さんが謝るなんて珍しい。忙しいというより、この業務が大変なのを彼女もわかっているからだろう。
『営業一部の大野部長って、会場内にいるよね?』
「はい、たしかいらっしゃっていたはずですが……」
『営業の永島さんが部長の携帯に電話してるらしいんだけど、電源が入ってないんだって』
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パーティーでのコネクション作りに邪魔になるから、事前に携帯の電源を切ったのだと思う。
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