【完結】これはきっと運命の赤い糸

夏目若葉

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彼の嫉妬②

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「たしか志田ケミカルの常務だよね?」
「え?  蘭、桔平さんのこと知ってるの?」
「この前ビジネス雑誌にめちゃくちゃ大きく写真が出てたもん。ていうか、美桜すごい!!」

 すごいのは私ではなく桔平さんなのだけれど。親友の蘭がテンション高くはしゃぐように喜んでくれた。
 それにしても、桔平さんがそんな雑誌に出ているとは知らなかった。私が思ってる以上に桔平さんは業界では有名人なのだろう。

「これ、お昼に一緒に食べよ」

 貰ったペーパーバッグの中身を見ると、サンドイッチがたっぷりと入っていた。
 ひとりでは食べきれない量だから、蘭とふたりで食べるにはちょうどいい。

「蘭の好きな人の話も聞かなきゃね」
「私の好きな人はね……まだ全然どんな人なのかわかんないの」

 そうなの? とわざと蘭の顔を覗き込めば、頬が徐々に赤く染まった。
 蘭のすごく純情で女の子らしい部分で、それがとてもかわいらしい。

「もしかして、蜜山堂の若旦那?」

 パーティーのときに、老舗和菓子店の若旦那を見てカッコいいと言ってたから、思い人はその人なのかと思ったのに。
 蘭は一瞬ポカンとしてから、違う違うと顔の前で手を横にブンブンと振った。

「あそこの若旦那もカッコいいけどね」
「違うの?」
「うん、もっとカッコいいよ! 同じビルで働いてる人だけど、どこの会社なのか知らなかったの。でも偶然うちのパーティーに来ててね。勤務してる会社がわかっちゃった!」

 あのパーティーは、実はすごい。
 私も偶然に桔平さんと出会ったし、蘭も受付をしていたからこそ、好きな人がどこの会社なのかはっきりわかったのだから。
 創立記念パーティーなんて、喜ぶのはコネ作りしたい年配の役員だけだと思っていたけれど、こうして出会いがあるならなかなか捨てたものではない。

「なんと! 志田ケミカルの下の階にあるIT企業の人だった」
「あそこ、ビッグデータの処理とかしてる会社だよね?」
「そう。上司の人と一緒に来てて、あとで招待状に明記された会社名を見たの。名前は以前に、同僚の人がたまたま呼んでたのを聞いてたから知ってたんだけどね、川井さんっていうの」
「へ、へぇ……」

 まさかあの川井さんではなく、違う人なのだろう。
 そう願いたいのはやまやまだけれど、どうしても私の知っている川井さんの顔が浮かんでくる。というのも、いろいろと情報が一致するからだ。
 イケメンでカッコいいこと、あのビルに出入りしていること、うちのパーティーに来ていたこと。
 IT企業に勤務していること以外は、あの川井さんで間違いないと思えてしまう。

 きっと、蘭は知らないのだ。川井さんが探偵であり、このビルの中をウロウロしていることを。
 彼がいつもIT企業の社員風な服装なのは、蘭が言った会社の社員のフリをしているからではないだろうか。
 なにかその会社とコネがあって、うちのパーティーにも本物の社員と一緒にくっついてきたのでは? と想像がついた。
 まだそれは確信が持てないから、蘭に言うべきかどうか迷うところではある。

「ねぇ、写真はないの?」

 一か八かで蘭に聞いてみたけれど、蘭は首を横に振った。
 写真があれば、それを見せてもらえばすぐ真偽がわかると思ったのに。

「写真はないなぁ。連絡先交換もしてないの。あのあとすぐ、盲腸になっちゃったから」
「そっか」

 とりあえずまだなにも始まってはいないようだから、別人であることを祈ろう。
 いや、あの川井さんだったとしてもダメということはない。
 IT企業の社員ではないと蘭が知って、それでも良ければ、という条件付きだが。ふたりが両想いで付き合うのならそれは幸せなことだ。
『俺にしとけばいいんだよ』などと、あの人は私に言っていた気がするけれど、私を勇気づけるためだったのだと思って、あれは聞かなかったことにしよう。
 だけど、もし蘭をひどく傷つけるようなことがあれば、私は川井さんを許さない。
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