31 / 50
彼の嫉妬⑤
しおりを挟む
「遅かれ早かれ、向こうの親は美桜のことを調べてくるぞ。バレる前に先に喋っちゃえよ」
デリカシーの欠片もなく、むやみにそう言わないでもらいたい。簡単にいかないから悩んでいるのに。
「川井さん、志田ケミカルのこと調べるの、もう辞めてもらえませんか?」
「はは。そりゃ無理な相談だな」
川井さんは誰かクライアントがいて、志田ケミカルを調べているのだろうか?
それか、独自で調べた情報をどこかに売るのかもしれない。
どちらにしても、桔平さんの家のことや私との恋愛を、面白おかしくネタにされるのは嫌なので、そっとしておいてほしいと思って頼んだのだ。
もちろんのこと、鼻で笑われて却下を食らった。
川井さんがどう仕事に活かそうとしているのか、まったく分からないのが怖い。
「やっぱ飲みに行くぞ!」
「行きませんって。私のことはいいですから、蘭とデートを楽しんでくださいよ」
「おい、待てって。美桜!!」
再び歩き出そうとしたところ、名前を呼ばれて思わず振り向いた。
声が大きいです、と注意しようと思ったのに……
振り向いた数メートル先、川井さん越しに見えたのは、桔平さんだった。
もうこの時、私には桔平さん以外目に入らない。
驚いた表情を見せた桔平さんの眉間に、瞬時にシワが入って怒りの色が乗るのがわかった。
そして、眉をひそめたまま一直線にこちらに歩み寄ってくるその姿は、いつもの桔平さんではなかった。長身のせいもあって迫力満点だ。
私が後方を気にしているのを不思議に思い、川井さんも何事かと首だけで後ろを振り返った。
近づいてくるのが桔平さんだとわかると、「やばっ」と小さくつぶやいて即座に私のほうへ顔の向きを戻す。どう対処しようかと、この短い時間に考えるつもりだろうか。
「俺以外に美桜と呼び捨てにする男がいるとはな」
あっという間に桔平さんが私たちの元までやってきて、いつもより低い声で川井さんに言い放った。
後頭部でその言葉を受けた川井さんは、振り向いた瞬間、まるで銃でも突きつけられたかのように両手を頭の横まで上げて、桔平さんに愛想笑いをする。
ハナから降参ですよ、とでも言いたげなジェスチャーに、桔平さんは少し面食らっていた。
「ついうっかり、さん付けするのを忘れただけなんです」
川井さんがなにか挑発的なことを言って、桔平さんを不愉快にさせたらどうしよう、と一瞬不安に思ったけれど、彼もここは穏便に収めたいのか、おかしなことは口走らなかった。
桔平さんを怒らせたところで川井さんになにもメリットがないから当前だ。
そんなことをぼんやりと考えていると桔平さんが私の左手をぎゅっと握り、引っ張るように早足で歩き出した。
デリカシーの欠片もなく、むやみにそう言わないでもらいたい。簡単にいかないから悩んでいるのに。
「川井さん、志田ケミカルのこと調べるの、もう辞めてもらえませんか?」
「はは。そりゃ無理な相談だな」
川井さんは誰かクライアントがいて、志田ケミカルを調べているのだろうか?
それか、独自で調べた情報をどこかに売るのかもしれない。
どちらにしても、桔平さんの家のことや私との恋愛を、面白おかしくネタにされるのは嫌なので、そっとしておいてほしいと思って頼んだのだ。
もちろんのこと、鼻で笑われて却下を食らった。
川井さんがどう仕事に活かそうとしているのか、まったく分からないのが怖い。
「やっぱ飲みに行くぞ!」
「行きませんって。私のことはいいですから、蘭とデートを楽しんでくださいよ」
「おい、待てって。美桜!!」
再び歩き出そうとしたところ、名前を呼ばれて思わず振り向いた。
声が大きいです、と注意しようと思ったのに……
振り向いた数メートル先、川井さん越しに見えたのは、桔平さんだった。
もうこの時、私には桔平さん以外目に入らない。
驚いた表情を見せた桔平さんの眉間に、瞬時にシワが入って怒りの色が乗るのがわかった。
そして、眉をひそめたまま一直線にこちらに歩み寄ってくるその姿は、いつもの桔平さんではなかった。長身のせいもあって迫力満点だ。
私が後方を気にしているのを不思議に思い、川井さんも何事かと首だけで後ろを振り返った。
近づいてくるのが桔平さんだとわかると、「やばっ」と小さくつぶやいて即座に私のほうへ顔の向きを戻す。どう対処しようかと、この短い時間に考えるつもりだろうか。
「俺以外に美桜と呼び捨てにする男がいるとはな」
あっという間に桔平さんが私たちの元までやってきて、いつもより低い声で川井さんに言い放った。
後頭部でその言葉を受けた川井さんは、振り向いた瞬間、まるで銃でも突きつけられたかのように両手を頭の横まで上げて、桔平さんに愛想笑いをする。
ハナから降参ですよ、とでも言いたげなジェスチャーに、桔平さんは少し面食らっていた。
「ついうっかり、さん付けするのを忘れただけなんです」
川井さんがなにか挑発的なことを言って、桔平さんを不愉快にさせたらどうしよう、と一瞬不安に思ったけれど、彼もここは穏便に収めたいのか、おかしなことは口走らなかった。
桔平さんを怒らせたところで川井さんになにもメリットがないから当前だ。
そんなことをぼんやりと考えていると桔平さんが私の左手をぎゅっと握り、引っ張るように早足で歩き出した。
0
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~
葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。
「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。
小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。
若くしてプロジェクトチームを任される彼は、
かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、
遠く、眩しい存在になっていた。
優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。
もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。
それでも——
8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。
これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。
【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!
まりぃべる
恋愛
エーファ=バルヒェットは、父から十七歳になったからお見合い話を持ってこようかと提案された。
人に決められた人とより、自分が見定めた人と結婚したい!
そう思ったエーファは考え抜いた結果、引き籠もっていた侯爵領から人の行き交いが多い王都へと出向く事とした。
そして、思わぬ形で友人が出来、様々な人と出会い結婚相手も無事に見つかって新しい生活をしていくエーファのお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ているもの、違うものもあります。
☆現実世界で似たもしくは同じ人名、地名があるかもしれませんが、全く関係ありません。
☆現実世界とは似ているようで違う世界です。常識も現実世界と似ているようで違います。それをご理解いただいた上で、楽しんでいただけると幸いです。
☆この世界でも季節はありますが、現実世界と似ているところと少し違うところもあります。まりぃべるの世界だと思って楽しんでいただけると幸いです。
☆書き上げています。
その途中間違えて投稿してしまいました…すぐ取り下げたのですがお気に入り入れてくれた方、ありがとうございます。ずいぶんとお待たせいたしました。
偽装結婚を偽装してみた
小海音かなた
恋愛
「家借りるときさぁ、保証人が必要だと困るとき来そうで不安なんだよね」
酒の席で元後輩にそんなことをグチったら、旦那ができました――。
降って湧いたような結婚話を承諾したら、そこにはすれ違いの日々が待っていた?!
想いを寄せている相手の気持ちに確信が持てず、“偽装”を“偽装している”夫婦のモダモダ遠回り生活。
苦くてしょっぱくて甘酸っぱい、オトナ思春期ラブストーリー第2弾。
※毎日19時、20時、21時に一話ずつ公開していきます。
この裏切りは、君を守るため
島崎 紗都子
恋愛
幼なじみであるファンローゼとコンツェットは、隣国エスツェリアの侵略の手から逃れようと亡命を決意する。「二人で幸せになろう。僕が君を守るから」しかし逃亡中、敵軍に追いつめられ二人は無残にも引き裂かれてしまう。架空ヨーロッパを舞台にした恋と陰謀 ロマンティック冒険活劇!
婚約破棄、ありがとうございます
奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる