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ずっとふたりで④
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それから十日ほど経ったころ、志田ケミカルの常務が結婚するらしい、という噂がこのビルの中に瞬く間に広まった。
どうやらビジネス誌の取材を受けた中で、実はもうじき結婚するのだと桔平さんがインタビュアーに話したらしい。
情報源が本人だから信憑性が高いと、うちの会社でも女子は大騒ぎだ。
「あの志田ケミカルの常務と結婚する人って、どんな女性なのかな? モデルとか、もしかして超有名な女優だったりして?」
休憩時間に森内さんがそんな会話をしているのを聞くと、複雑な気分だ。相手が私だとはまだみんなに知られていない。
桔平さんと結婚できるなんて幸せ者は、どれだけ美人なのかと噂されればされるほど、私には耳が痛かった。
それを桔平さんに話すと、美桜は十分美人だ、と慰めの言葉を返されてしまったけれど。
私の名前を含め、婚約者の情報を言わないのは私を守るためだとわかっている。
だから私も、桔平さんにもらったさくらダイヤモンドの婚約指輪は、お休みの日に付けたり眺めたりしているだけだ。それでも十分うれしいから。
***
六月初旬、大安吉日の今日、私と桔平さんの結婚式が行われる。
場所は広々としたチャペルのある有名ホテルで、大人数での式や披露宴が可能だ。
控室はもちろんのことエステやネイル、着物の着付けなど女性にうれしい美容関係も充実しているので、ここでなんでも完璧に準備できてしまう。セレブにも人気だそうだ。
「美桜、おめでとう! めちゃくちゃ綺麗!」
新婦の控室でメイクの手直しをしてもらっていると、蘭がやって来て目を潤ませる。
私ももらい泣きしそうになったけれど、またメイクが崩れるから!と、蘭から注意された。
「浅木さん、結婚おめでとう。羨ましいわ!」
四月末で私は寿退社したのだけれど、今日はオッティモの人たちも大勢来てくれている。
森内さんの嫌味も今日だけは封印で、うれしいお祝いの言葉をいただいた。
しばらくして、入れ替わりに控室に入ってきたのは、本日のもうひとりの主役である桔平さんだ。
「今日の美桜は、世界一綺麗だな」
私のウエディングドレス姿を見て満面の笑みを浮かべているが、世界一というのはちょっと大げさだ。
「お世辞でもうれしい」
「神様に永遠の愛を誓う日に、ウソはつけないよ」
桔平さんのほうこそシルバーグレーのタキシード姿が凛々しくて、お世辞抜きに素敵だ。
本当に絵にかいたような“王子様”がこの世に存在したと思うほどに。
「晴れて良かった」
桔平さんが窓の外を見ながらうれしそうに言う。今日は雲一つない晴天で、空が青くて美しく、日差しが眩しい。
「これからふたりで生きていくんだな」
「私、桔平さんを幸せにします」
「はは。それは俺が言うことだろ?」
声に出して笑ったあと、桔平さんが私の左手を取り、綺麗に施されたネイルを見たあとに自身の手で柔らかく包んだ。
「俺が絶対、美桜を幸せにするから」
それはもう、今でも十分なくらい。
これからの人生、ずっと桔平さんが隣にいてくれるのだと思うだけで、胸がいっぱいになってくる。
メイクを直したばかりで、式の本番まで涙は禁物だから堪えるのに必死だ。
陽の光が窓から燦燦と降り注ぐチャペルに、パイプオルガンの曲が流れる。
おごそかに凛と、バージンロードを歩いて桔平さんの元へ向かった。
神様に永遠の愛を誓い、指輪を交換し、最後に誓いのキスをすると、自然と涙がこぼれ落ちる。
その瞬間、参列してくれた人たちからおめでとうと拍手が沸き起こった。
たくさんの人が式に来てくれて、たくさん祝福してもらえた。
なによりも、心から愛する桔平さんと結婚できて、ここにいる全員に感謝したい。
幸せをかみしめながら……
この先何があってもふたりで乗り越えていこう、と心に誓った。
きっと大丈夫。
私たちは運命の赤い糸で結ばれているのだから ―――
Fin.
どうやらビジネス誌の取材を受けた中で、実はもうじき結婚するのだと桔平さんがインタビュアーに話したらしい。
情報源が本人だから信憑性が高いと、うちの会社でも女子は大騒ぎだ。
「あの志田ケミカルの常務と結婚する人って、どんな女性なのかな? モデルとか、もしかして超有名な女優だったりして?」
休憩時間に森内さんがそんな会話をしているのを聞くと、複雑な気分だ。相手が私だとはまだみんなに知られていない。
桔平さんと結婚できるなんて幸せ者は、どれだけ美人なのかと噂されればされるほど、私には耳が痛かった。
それを桔平さんに話すと、美桜は十分美人だ、と慰めの言葉を返されてしまったけれど。
私の名前を含め、婚約者の情報を言わないのは私を守るためだとわかっている。
だから私も、桔平さんにもらったさくらダイヤモンドの婚約指輪は、お休みの日に付けたり眺めたりしているだけだ。それでも十分うれしいから。
***
六月初旬、大安吉日の今日、私と桔平さんの結婚式が行われる。
場所は広々としたチャペルのある有名ホテルで、大人数での式や披露宴が可能だ。
控室はもちろんのことエステやネイル、着物の着付けなど女性にうれしい美容関係も充実しているので、ここでなんでも完璧に準備できてしまう。セレブにも人気だそうだ。
「美桜、おめでとう! めちゃくちゃ綺麗!」
新婦の控室でメイクの手直しをしてもらっていると、蘭がやって来て目を潤ませる。
私ももらい泣きしそうになったけれど、またメイクが崩れるから!と、蘭から注意された。
「浅木さん、結婚おめでとう。羨ましいわ!」
四月末で私は寿退社したのだけれど、今日はオッティモの人たちも大勢来てくれている。
森内さんの嫌味も今日だけは封印で、うれしいお祝いの言葉をいただいた。
しばらくして、入れ替わりに控室に入ってきたのは、本日のもうひとりの主役である桔平さんだ。
「今日の美桜は、世界一綺麗だな」
私のウエディングドレス姿を見て満面の笑みを浮かべているが、世界一というのはちょっと大げさだ。
「お世辞でもうれしい」
「神様に永遠の愛を誓う日に、ウソはつけないよ」
桔平さんのほうこそシルバーグレーのタキシード姿が凛々しくて、お世辞抜きに素敵だ。
本当に絵にかいたような“王子様”がこの世に存在したと思うほどに。
「晴れて良かった」
桔平さんが窓の外を見ながらうれしそうに言う。今日は雲一つない晴天で、空が青くて美しく、日差しが眩しい。
「これからふたりで生きていくんだな」
「私、桔平さんを幸せにします」
「はは。それは俺が言うことだろ?」
声に出して笑ったあと、桔平さんが私の左手を取り、綺麗に施されたネイルを見たあとに自身の手で柔らかく包んだ。
「俺が絶対、美桜を幸せにするから」
それはもう、今でも十分なくらい。
これからの人生、ずっと桔平さんが隣にいてくれるのだと思うだけで、胸がいっぱいになってくる。
メイクを直したばかりで、式の本番まで涙は禁物だから堪えるのに必死だ。
陽の光が窓から燦燦と降り注ぐチャペルに、パイプオルガンの曲が流れる。
おごそかに凛と、バージンロードを歩いて桔平さんの元へ向かった。
神様に永遠の愛を誓い、指輪を交換し、最後に誓いのキスをすると、自然と涙がこぼれ落ちる。
その瞬間、参列してくれた人たちからおめでとうと拍手が沸き起こった。
たくさんの人が式に来てくれて、たくさん祝福してもらえた。
なによりも、心から愛する桔平さんと結婚できて、ここにいる全員に感謝したい。
幸せをかみしめながら……
この先何があってもふたりで乗り越えていこう、と心に誓った。
きっと大丈夫。
私たちは運命の赤い糸で結ばれているのだから ―――
Fin.
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