【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

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「すまないリア。お前の要求は両陛下に却下された」

「……そ、そうですか……」

 アーリアは、前世の記憶が戻ってすぐに行動に移した。意図せずとはいえ、攻略対象の1人であるジルベルトを味方につけられたのは、運が良かったと言うべきだろうか。

 アーリアは宰相である父親のテンバーン公爵にすぐに面会の手紙をジルベルトに持っていってもらった。手紙の内容で大体の要件は伝えられたので、その日のうちには返事が帰ってきたのだった。

 ジルベルトに語ったような荒唐無稽な話ではなく、切実に自分には王子妃にも、将来の王妃にも向いてないと言うことと、現在、アーリアが受け持っている仕事の量もジルベルト伝いに伝えて貰った。

 クリケン・ホールディン・テンバーン公爵は愛妻家であり、娘と息子にも、深い愛情で接している。甘やかしすぎる所が玉に瑕ではあるが、そこは厳しい公爵夫人のお陰で、アーリアは我が儘に育つことはなかった。

 そして、アーリアが両親のような両想いの夫婦に憧れている事もクリケンは理解していた。

「だが、お前の精神状態的に、将来のためにも少しくらい仕事の量やお茶会の回数を減らす事は許可してくれた。そもそも、私は殿下の仕事までお前が受け持っているなど、知らなかった」

「……王妃様に言われたのです……王子妃たるもの、夫の仕事くらい快く受け持つべきだと」

「それは、王妃陛下が国王陛下を愛しているから出来ることであって、お前は別にバルトラ殿下の事を好いてすら居ないだろう」

「愛があれば何でもできる」はアーリアとバルトラには適応しないとテンバーン公爵は首を降った。アーリア自身も身体や精神を壊してまで、バルトラの尻拭いの仕事を何故やっていたのだろうと不思議に思っていた。

(強制力というものかしら?)

 だが、ジルベルトへの気持ちを確りと自覚した今、アーリアは今更バルトラの仕事までも行おうという気概は消え失せていた。

「それに、バルトラ殿下には側近候補が居るはずだ。彼等に仕事を回せば良いだろう? なぜそれをしていない? 彼等の働きを見て、本格的に王宮にて仕事をさせる手筈だろう?」

 頭を抱える父親の姿に、アーリアは遠い目を窓に向けた。

(その側近候補の彼等と殿下は男爵令嬢ヒロインに夢中ですわ)

 乙女ゲームの舞台はもちろん学園内であり、3年間ある学園生活の中で3年目の春にヒロインが編入してくる所から始まる。卒業までの1年間に高位の貴族男性に見初められるというシンデレラストーリーである。

 ヒロインは男爵と平民との間に産まれた庶子で、貴族的なマナーに疎く、天真爛漫で正義感ある女子という設定だった。

 しかし実際は社交界の貴族からしたら、マナーと常識知らずの婚約者のいる令息を誑かす恥知らずの娼婦の様な女だと言われていた。

「……とりあえずは、許可を下さったというのなら、わたくしは療養の為に公爵領へと帰りたく思います。卒業式には参加致します」

「分かった。学園にはテンバーン公爵家から半年間の卒業式前日まで休学届けを出しておく。リアは明日にでも侍女と執事を連れて公爵領へ帰りなさい。あちらにはお祖父様が居られるから、良くしてくれるよ」

「ええ! お父様ありがとうございます!!」





 この後アーリアは1週間ほどかけて、2名の侍女と執事のジルベルトと共にテンバーン公爵領へと帰った。

 アーリアは今までバルトラ王子の為の仕事はキリの良い物は片付けて、長期療養の為に公爵領に帰る旨の手紙と共に学園にある王族専用の執務室へと届けた。

 アーリアの寮の部屋も退室届けと共に荷物は公爵家から送られた侍女に全て箱詰めにして公爵領のアーリアの部屋へ後で送って貰う手筈になった。と言っても、アーリアは寮の部屋を執務室の変わりにしか使ってなかったので、ほとんどの書類は王家と公爵家に届けられ、残っていたのはベッド等の家具と、入学式とその翌日に2度しか着た事がない学園の制服のみだった。





 アーリアが公爵領へと帰って来てすぐ、アーリアはお祖父様に挨拶した後、何もする事が無い日に何をしていいのか解らず、混乱した。

「どうしましょう?」

「何かしたいことはありますか? 読書などは……?」

「読書……」

 侍女の提案でアーリアが向けた視線の先の書棚には、天文学書に領地経営指南、王国貴族のマナー書、ダンスレッスン指南書、ノブレス・オブリージュ貴族の義務の本と、娯楽用に読む本は収められていなかった。

「とりあえずお休みになられた方が良いかと思います」

「そ、そうよね。わたくしは休むために戻ってきたのよね」

 助け船というか、さすがジルベルトはアーリアの顔色の悪さを遠回しに伝えた。その言葉で、アーリアが幼少の時期から仕えてくれていた侍女2人は、の準備のために動き出した。

 ここテンバーン公爵領は、温泉の湧き出る観光地としても有名な領地である。それも、源泉が湧き出るスポットは全て公爵家が経営している。公爵家の経営するリゾート地には、他国からも多くの観光客が訪れる程の領地であった。

 もちろんアーリアが暮らすこの公爵宮も地下の源泉から温泉を引いているので、好きな時に源泉掛け流しの温泉に入ることが出来ていた。

 立ち上がったアーリアは、早速へと向かった。2人の専属侍女とは違い、湯殿専属の5人の侍女達によって、身に付けていたドレスを脱がされ、温泉へと入る。化粧を落とされ、体と髪を洗い揉まれ、最後は1人でゆっくりと温泉に浸かる。侍女には出ている様に伝えたのはもちろん理由があった。

「はふぅ~~これよこれ! たまらん~!」

 まったりと落ち着いた状態で思い出した日本人としての心が、今のアーリアと混ざっていく。

「どうせ、わたくしは断罪からは逃れられないのよね? なら、卒業式までは押しとマッタリ過ごしてもいよねぇ~~ーーうへへ~ぐぅ……ブクブク……」

「アーリアお嬢様、そろそろマッサージの時間ですよ?」

「プハっ! ふぁい~」

 この後アーリアは、密かに温泉の様子を見守っていた湯殿専属の侍女達に寝落ちして溺れかけたのを助けられ、マッサージ中は爆睡していた。

 着替えさせられた記憶もなく、まる1日泥のように眠ったのだった。



 公宮にあるアーリアの部屋は、3階の陽当たりの良い場所にあり、横長のテラスには、丸い猫足テーブルと猫の四足の椅子が設置されている。ワゴンの横で佇むジルベルトを視界に入れてニヤつきつつも、アーリアはマッタリと過ごす。

 テラスからは、若草色の平原に囲まれた豊かなテンバーン公爵領が眺められ、公都には、リゾートホテルが建ち並び、白い煙をあげる様子が見えていた。

 
「……とっても……穏やかだわ……」

「気持ちの良い陽気ですね」

 アーリアが公爵領へと帰って来て3ヶ月が経った。アーリアは公都の街並みを穏やかに眺めていた。

「そうね。それにしても速かったわね」

 アーリアは自身の手元にある王家の印の押された手紙を確認した。

 宛先は王妃様からで、内容はそろそろ戻って来てお茶会に参加しろ。王妃教育はまだ終わってない。バルトラ王子の公務のしわ寄せが自分の所に来ている。これはアーリアの仕事だろうという内容だった。

「どうされるおつもりですか?」

「どうもしないわ。結局、わたくしの運命は変わらない。わたくしが学園に居ても居なくても、状況は変わらないの。そうでしょう?」

「…………そのようですね」

 ジルベルトが魔族の暗部だと知っているアーリアだからこそ、アーリアはジルベルトへとをしていた。

 ジルベルトが使えて命令できる暗部を1人貸してもらい、学園の様子を探って貰っていたのだ。学園の男爵家の娘に起こる様々な摩訶不思議現象の原因が学園にいないアーリアのせいにされ、それをアーリアが語った攻略対象達は信じて疑ってすらいない様子らしい。

「バルトラ王子も、堂々と男爵家の娘ミュトに愛を囁いて居るようですね」

「障害があるほうが愛は燃え上がるそうよ」

「お嬢様がその障害ですか……?」

「ええ。彼等にとってはわたくしは障害でしょうね。愛を刺激的なモノにするスパイスよ」

「そのような他人事のように……」

 怒った表情を隠そうともせずに、ジルベルトが苛ただしげに言った。

「わたくしは卒業式までは押しと幸せを享受すると決めているの」

 立ち上がったアーリアは、ジルベルトへと近づいた。頭1つ分の背丈差を埋めるように背伸びをし、ジルベルトの頬を手のひらで包んだ。

「諦めているんですか?」

「わたくしはやってもいない罪で断罪されて婚約破棄の挙げ句、殺されるのよ?」

「お嬢様はここにらっしゃいます!」

「ええ。でも学園では居もしないが出ているでしょう?」

「……っ……」

「ダメよジル。そんな顔しないで? わたくしは貴方の笑顔が好きなの」

「……お嬢様……」

「ジル。わたくしは結局、。いい加減分かったでしょう?のに、結果はこの通りじゃない」

「……俺の、俺の責任です」

「いいえ。あの時から解っていたの。この国からは出られないのよ」

 アーリアはジルベルトに連れられて何度も行方を眩ませようとした。国外にも、魔族の国にも。

 ある時は、隣国への旅行と偽り逃げ出そうとした。しかし途中でスリにあい、持ち金全額を奪われた。ジルベルトがいるのにジルベルトの持ち金含めて盗まれる始末だった。

 魔族の国に転移の魔方陣でも移動を試した。しかし、結果は転移失敗どころかジルベルトの魔力がギリギリまで吸われ、命の危険すらあった。

 馬で2人一緒にでどこでも良いからと進ませた結果、魔物の被害に合うし、海から逃げようとすれば、チケットを取っていた客船が港について乗客を下ろし終わった瞬間にクラーケンの被害に合った。

 何度も、何度も逃げ出そうとした。

「わたくしには、ジルしか居ない。バルトラ王子にはあの子がいる。ジルだけは学園には行ってはダメよ? 卒業式の日まで、わたくしの側にいて……」

「お嬢様……」

 テラスで寄り添うアーリアとジルベルト。
ーその姿を、1人の男が眺めていた。






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