【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

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 さて、シャルロットには殿下と踊ってもらはねば。姿を探していると、ガラスが割れる音と小さな悲鳴が聞こえた。

 ざわめきが起こる。ルイーズは野次馬でそちらへ向かう。

 そこには、跪いて頭を下げる少年の給仕係と、大変憤慨した様子の一人のご令嬢がいた。たしか彼女は伯爵令嬢だ。

「どうしてくれるのよ!こんなに汚して!どう責任を取るつもりなの!」

 令嬢の胸元は真っ赤に染まっていた。ワインでもかかってしまったのだろう。
 給仕の少年は額を床につけてひたすら謝っている。ルイーズは周りを見回し、他の青年の給仕係を見つける。そこへ向かった。

「──このドレスはね!今日のために新たに誂えたのよ!殿下と踊ってもらう予定だったのに、あんたのせいで台無しよ!」

 怒りをぶちまけている令嬢の肩を叩く。

「もし、そこの貴女、可哀想でしょ。そんなに怒らないであげて」
「なによ!こっちは誂えたばかりのドレスを──」

 ──バシャッ!

 問答無用で彼女の胸元にワインをかける。余りに突然のことに伯爵令嬢も、周りも騒然となる。今のうちにと、ルイーズはもう一杯、ワインをかけた。

 ──バシャッ!

 我に返った令嬢が、見下ろして悲鳴を上げる。

「あ!あなた!何をするの!」
「汚れを落として差し上げましてよ」
「はぁ!?なに言ってるの!?」

 ワインはワインでも、ルイーズがかけたのは白ワインだ。赤ワインの色を落とすには白ワインが手っ取り早い。少しぐらい顔にかかったとしても誤差だろう。

「大事なドレスなのでしょう?怒り散らしているよりも早くお落としにならないと。シミになってしまいましてよ」
「何なのよあなた偉そうに!何様よあなた!」
「あのショーデ侯爵家のルイーズですが何か?」

 自分であの、と言うのも何だかむず痒い。でもそれだけ自家が格式ある家柄であると自負していた。こういう時にこそ使うべきだろう。

 案の定、それだけで伯爵令嬢は怯んでしまった。蛇に睨まれたカエル。給仕の少年の立場になった彼女は、一歩二歩よろけながら後退して倒れそうになる。幸い、周りの者が支えたおかげで、そこまで無様にはならなかった。まぁもう既に無様なのだが。

「…あの、…ショ、ショーデ侯爵家の…」
「ええ。さぁ、汚れを落としてらしてくださいな。こちらはお気になさらず」

 追い払うように扇でひらひらと扇いでやる。酷い屈辱だろうに、そう思う前に怯えてしまって言葉も出ないようだ。他の給仕に助け起こされ、両脇を抱えられて行くところまで見届けて、地に伏している少年を助け起こす。汚れを払って立たせる。
 ルイーズの胸辺りまでしかない。まだ小さな子供だった。

「もう大丈夫。怪我はない?」

 少年は目を赤くして泣いていた。素手でぬぐいだしたので、ルイーズはハンカチで涙を拭いてあげた。

 白ワインを持っていた青年の給仕を呼びつける。ルイーズは絹の手袋を外した。

「汚れたわ。あげるから、この子を助けてやって」

 この手の使用人は、心づけで動く。この青年も例に漏れず手袋を快く受け取ると、少年を促して去っていった。

 幸い騒ぎは小事で済んだ。見物人の貴族たちも、何事も無かったように雑談を始めている。
 注目の的は常に殿下に注がれる。小娘一人が給仕係を虐めていた所で、たいがいは無視される。貴族でない者は人では無い。ここはそういう場所なのだ。

 見れば遠くにいる殿下は、シャルロットを見つけて一緒に踊っている。この騒ぎが起こっていたことも知らないだろう。知っていたとしても、気にも留めなかったろう。 

 気分が悪くなってきた。この後にある晩餐会も欠席しよう。ルイーズは一人、夜の庭を歩くことにした。

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