【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

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 というわけでお茶会。ルイーズはお腹を空かせて参加した。会場は庭で、お茶会日和の良い天気だった。

 用意された席は、なんと殿下の隣だった。長方形のテーブルの一番奥には王妃様が座り、斜めの席に殿下、向かいにはシャルロット嬢が座る。席順ではシャルロットの方が上になっているが、物理的な距離ではルイーズの方が近かった。

 いよいよ婚約者を発表する時だ。シャルロットも分かるのだろう。緊張がこちらに伝わってくるほど固い顔をしていた。

 王妃さま自ら紅茶をカップに注いでくださり、恐縮しながら口につける。香り豊かなアールグレイ。ミルクも少し入って、さすが王族が使うものは一味違う。次にサンドイッチを頬張る。具のキュウリが新鮮で、ぱりっとした食感が病みつきになる。本当は残すのが礼儀だが、余りに美味しくて全て食べてしまった。

「おかわりいる?」

 優しい殿下の気遣いで、ルイーズは遠慮なく、おかわりをいただいた。朝食を抜いてきて本当に良かった。

 次にスコーン。割ってジャムとクリームをちょっとずつ乗せて口に入れる。酸味のある赤いジャム…これはもしかして──

「トマトかしら」

 思わず口に出すと、反応したのは主催の王妃さま。

「ええ、そうよ。うちの土壌は豊かだから、甘いトマトが育つの」

 四十を超えている王妃は、年齢を感じさせない若々しさを備えていらっしゃる。ウエーブがかった金髪をエメラルドの髪留めでゆったりとまとめ、白い肌は真珠のように艶めいている。二十代と言われても信じただろう。
 
 王妃とは殿下以上に言葉を交わしたことがない。挨拶にいかないのだからよっぽど不敬だと思われているに違いない。なのに全くそんな素振りを見せない。包容力のある微笑みは、ルイーズを安心させた。

「そちらの畑がどんなものなのか、拝見してみたいものです」
「あら、いつでも見られるようになるわよ。これからはね」

 畑など、他人に見せるものでは無いだろうに。話を合わせてくれたのだろうか。不思議に思いつつ、スコーンを食べ続ける。

 シャルロットは、ずっと思い詰めたような暗い顔をしている。もうシャルロットが王太子妃になるのは間違いないだろうに、何をそんなに暗い顔をしているのか。もしかしてマリッジブルーならぬ婚約ブルーなのかもしれない。対面で座るこの位置では、こっそり元気付けることもできない。今日この日で一番幸せなのは彼女なのだから、茶会が終わったら、うんとお祝いしてあげよう。

 そして最後にお菓子をいただく。イチゴのタルトにイチゴのケーキ。どちらもつまめるくらいの大きさで、可愛らしい。味も文句のつけようが無いほど完璧で、うちのコックにも見習わせたいくらいだ。

 隣にいるせいか、殿下は事あるごとに話しかけてきて実にうっとおしかった。話すよりも食べることに集中したいのに。かといって無視するわけにもいかない。相手は仮にも王太子なのだから。無下にしたいが、するわけにもいかない。てきとうに相づちを打つ。

「うちのお菓子、気に入った?」
「ええ。こんなに美味しいものを毎日食べられる殿下が羨ましい」
「それは良かった。口に合わないものを毎日食べるわけにはいかないからね」 

 毎日?何だか含みのある言い方のような。そうだとしてもルイーズには関係ない。なんて言ったって今日の主役はシャルロットだ。何かあるとしたら彼女の方だろう。
 
 もちろん他の最終候補者もいる。彼女らを加えても全員で六人しかいない。つまり最終候補は四人になる。シャルロットとルイーズ以外の二人は共に伯爵と子爵の娘で、どちらもパッとしない印象だ。おそらく自分と同じく、シャルロットの引き立て役だろう。彼女らは王妃からの声がけはあるが、殿下からはいないものとして一切無視されている。出来るものならルイーズも無視してほしかった。侯爵家の娘だから義理で話しかけているのだろう。そんな気遣いは要らないのだが。

 何はともあれ、無事にお茶会は終わりお開きとなった。ルイーズはてっきりこの場でシャルロットを婚約者だと発表するのだと思っていたが、どうやら違うらしい。

 終わったのなら帰ろうと、王妃と殿下に挨拶をしてその場を離れる。先を歩いていたシャルロットに声をかけるが、彼女は立ち止まってくれない。あれ、と思ってもう一度呼びかけるが、またも無視される。ルイーズは走り寄って肩に手を置いた。

「シャルロットさん、待って…」
「触らないで!」

 パン、と手を叩かれる。あの温厚なシャルロットが声を荒げるのも珍しいが、彼女が乱暴なことをするのは初めてだった。
 唐突な反応に戸惑う。見ればシャルロットは、目に涙を一杯に溜めて、こちらを睨んでいた。

「あ、あの…シャルロットさん?」
「なんて酷い人なの…初めからこのつもりで、私に近づいたのね…」
「え?どう…?どういうこと?私、何かしました?」
「よくもそんな態度を取れるわね。貴女って人にとことん騙されたわ」

 とうとう目から涙が落ちる。怒りに震えながら涙を流すシャルロットの姿は、絵画の世界のように美しかった。

 シャルロットは悔しそうに唇を噛むと、こう言った。

「私を当て馬にして殿下の婚約者になるなんて、絶対に許さないわ」


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