【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

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 まさか、と思った。実際、口に出していた。

「まさか、そんなわけ無いわ。シャルロットさんが婚約者なのよ」
「初めはそうだと思っていた。でも貴女が横から奪っていった」
「奪ってなんかいないわ。何か誤解してるのよ」

 いいえ、とシャルロットは首を横に振る。

「今日のお茶会で…殿下は貴女としか話さなかった。それが何よりの証拠」
「それは席が隣だったからでしょ?席順で言えばシャルロットさんの方が序列が上だったわ」
「ただのお飾りよ。私が伯爵家だったらあの場にも呼んでもらえなかった」

 またボロボロと涙を流す。シャルロットは拭いもせずにこちらをにらみ続けている。

「ルイーズさん、おめでとう。これで殿下は貴女のもの。貴女が選ばれたのは男ばかり産まれるお家の中で、唯一産まれた女だからよ」
「?どういうこと…?」
「貴女が産む子は必ず男の子でしょうね。それを期待されているのよ」
「…………誤解よ。私は、殿下の婚約者なんかにはならないわ」

 シャルロットはハンカチでようやく涙を拭く。怒りからなのか悲しみからなのか、笑みを見せた。
 
「何故そんな嘘をつくのか分からないけれど、この屈辱は一生忘れないわ。…お幸せにルイーズさん」

 と言って去ろうとしていく。ルイーズは慌てて追いかけようとする。が、かなわなかった。

 誰かに腕を掴まれたせいだ。振り返るとそれは殿下の仕業だった。

「無理に慰めない方がいい。そっとしておこう」
「殿下!殿下から誤解を解いてください!シャルロットさんが婚約者だと言ってやってください!」
「何を言ってるんだい。君が婚約者だ」

 ルイーズは全ての思考を停止した。殿下の言葉が理解出来なかった。

 何を言った?いま、殿下はなんと…?

 殿下の手がルイーズの髪を撫でる。一束取ると、口づけをした。

「私の可愛い小鳥さん。貴女を私の妻として迎えよう」

 ようやく意味を理解する。理解して、ルイーズは悲鳴を上げた。


「絶対にイヤ!貴方となんか結婚するわけないじゃない!」


 今度は殿下が止まる番だった。動きを止めた殿下から、何歩も下がって距離を取る。

「私が当て馬なのよ!シャルロットさんと結婚させるために手助けしてきたのに。なんでこうなってるわけ!」
「ど、どういうこと…?君は」
「それはこっちのセリフよ!なんで!?あんなにシャルロットさんと楽しそうにしてたじゃない!?なんで私なの!?」
「君は私を好きだと言ったじゃないか」
「言ってないわ!」
「お慕いしておりますと言った」

 確かに言った。それは、物語の当て馬のセリフで──。でも殿下はこちらの思惑なんか知るわけがない。
 ただ言葉通りの意味として捉えたなら、それはただの告白の言葉となる。

「私だけが好きなのだと思っていた。あの言葉を聞いて私がどれだけ嬉しかったことか」
「殿下は…私のこと好きだったの…?」

 まともに話もしてこなかったのに。話をしたとすれば、夜の庭の時くらい。なのに、殿下が私を好き…?

「ひと目見た時から君に惹かれていた。黒曜石のような黒髪と黒目。透き通るような白い肌。見た目だけじゃない。君は、給仕の男の子を助けていたね。勇敢でもある。君のような人は私の妻にふさわしい」

 手が触れ合う。握られて、殿下の顔が近づく。碧の瞳に自分の姿が映っている。驚きに目を見開いた自分の姿が──
 
 ──パンッ

 気づけば手を上げていた。殿下の顔が横を向いていた。その頬には真っ赤な手形が。

 王族に手を上げるなんて重罪ものだ。決して許されることではない。だからといって、簡単に婚約者となり、唇を許すなど、ルイーズには出来なかった。

「殿下、誤解させたのなら謝ります」
「誤解…?」
「ええ。私は本当はシャルロットさんを婚約者とするよう、当て馬を演じていたんです」
「当て馬…?」

 ルイーズは頷く。困惑の表情をしている殿下だが、こちらも困惑しているのだ。ここで当たり散らしていては何にもならない。とにかく冷静に話をしなければ。

「殿下、私とシャルロットさんは同じ侯爵家の者です。殿下には格のある家から妻を迎えてほしいという陛下の要望に沿うため、及ばずながらご助力しました」
「その話は父から聞いていた。君とシャルロット、どちらかをとも言われていた」

 言われていた?
 ということは、仲を取り持ったり当て馬してみたりする必要が無かったということになる。取り越し苦労だったのだ。どっと疲れがやってくる。

「…でしたら、明白かと。シャルロットさんこそ、殿下にふさわしいではないですか」
「そこで何故、君がいなくなるんだ。君も候補じゃないか」
「こんな容姿ですよ」
「嘘だろ。君は美しいよ」

 お世辞だと思ってルイーズは取り合わなかった。

「先のお茶会では下品にあれこれ馬鹿みたいに食べてしまいましたし」
「あんなに美味しそうに食べる人を初めてみた。ますます魅力的だ」
「今みたいに直ぐに手を出してしまいます」
「正義感が強い証拠だよ」
「…………」

 あれこれ言っても聞いてくれそうに無い。恋は盲目とはよく言ったものだ。
 ルイーズはもう不敬に不敬を重ねる覚悟で、告げた。

「そもそも私は殿下を好きではありません!」

 それまでにこやかだった殿下の表情が一変する。見たことのない冷たい顔。ルイーズは息を呑んだ。

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