【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

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 ばっさりと切り落とされる。髪を短くすると毛先がくすぐったくなるのをルイーズは初めて知った。

 綺麗にカットしてくれたので、悪くない仕上がりだ。ショートになった自分の姿を見ると、まるで少年のようだった。

 少年、と頭をよぎる。これは案外、良いアイディアかもしれない。


 切り落としてくれたのは店員の女性だ。素直で心やさしい女性にすっかり気を許したルイーズは、彼女に色々聞いてみることにした。

「あの、この服を売って、男の子が着るような服を着たいのですが」

 それで女性もピンと来たらしい。相づちを打った。

「ああ…そういう子はよくいますよ。髪を切った子は一時的に男装するんです」

 そう、ルイーズは男装したかった。少年のフリをすれば何かと都合が良い。

 女性は古着屋を教えてくれた。髪代もそれなりにいただいて、次の店へと向かった。



 古着屋で無事に服を手に入れて、着替える。シャツとズボンを履けば、どこからどう見ても少年だ。こんな身軽な格好をしたのは初めてで、今までなんて窮屈な暮らしをしていたのだろうと実感する。

 これなら何処まででも行けそうだ。いっそ冒険家になるのもいいかもしれない。体力には自信があった。

 その前に、まずは仕事と住む所を確保しなければならない。仕事は目星を付けていた。かつら屋と同じトゥールーズ通りにあるから、さほど距離は無い。早速そこへ向かう。

 歩いていると、何台もの馬車が我が物顔で走っていく。のんびり走っているのは余裕で避けられるが、それなりに走らせているものは気づかないでいると思わず轢かれそうになる。横断する時以外は端を歩くのが良さそうだ。

 街歩きは危険だと教えられてきたから、歩くのは今日が初めてだった。確かに危険もありそうだが、今はそれよりも期待のほうが勝っていた。

 一人で生きる。そう決意したからには暗い気持ちでいるべきではない。森で遊びが過ぎて一人で遭難した時も、持ち前の明るさと勢いで何とか屋敷に帰ることが出来た。今回はその何倍も大変だが、とにかくやってみなければ。

 

 目的の看板を見つける。どうやら一階は本屋で、二階が目的の店らしい。外から二階に上がる階段は無い。本屋から上がるようだ。ルイーズは本屋の扉を開けた。

「すみませーん。上の階に行きたいんですが」

 少年に見えるように大きな声で言ってみる。本屋の奥には店主らしき人が座っており、新聞を読んでいた。ルイーズの声がけに顔を見せる。かなりの太っちょだ。

「うえ?上は新聞屋だよ」
「知ってます。ネタを売りに来たんです」

 店主はジロジロとルイーズを観察すると、顎をしゃくった。どういう意味か分からずにいると、新聞を折り畳んで後ろを指し示した。

「ここから登っていきな」
「え…?でも」

 店主が示したのは、本棚だった。どう見ても登れない。

「どうやって登るの?」
「…あんた、貴族の坊っちゃんだな?」

 またも直ぐに見破られて、ルイーズはドギマギした。幸い、女だとはバレなかったが。こうも続けざまに言われると、せっかく身なりを変えても意味がないように思えてくる。

「うん。そうです」

 そう教育を受けてきたのだから仕方ない。無理に隠すとボロが出る。ルイーズは開き直ることにした。

「じゃあ知らないのも無理ないな。本棚の裏に階段があるんだよ。ここは土地が狭いからな。切り詰めて作ってんだよ」

 店主は親切に二階に付き添ってくれるという。意外に優しい。もしかして見返りが欲しいのかと思ってお金が入った袋を取り出すと、店主は驚いて手を振った。

「いらねぇよそんなの。しまっときな」
「え?いらないんですか?」
「お貴族様はこれだから嫌なんだよ。なんでも金出しゃいいと思ってやがる」
「ご、ごめんなさい」

 王宮の使用人達がそうだったから、てっきりそういうものだと思っていた。ルイーズは少し恥ずかしかった。

 店主の幅ギリギリの階段を登る。急だから犬のように手をついて上がっていくと、一枚の扉が現れた。そこには『グリーン新聞社』の看板がかかっていた。

 店主がノックしてから扉を開ける。

「おーいノックス、客だぞ」

 店主の手招きを受けてルイーズは中に入る。ルイーズはその惨憺たる有り様に開いた口が塞がらなかった。

 まず煙っている。煙草だ。煙が充満して、火事場のようだ。どの机を見ても紙やら本やら新聞が積み重なり、壁のようになっている。おそらくあるであろう窓が見えないから、部屋は昼間なのに薄暗い。
 病気になりそうな空間だ。ルイーズは袖で鼻と口を押さえながら奥へ進む。

 店主は奥の人物と何やらルイーズの事を話していた。店主の横幅で奥の人物は全く見えない。ルイーズは店主の背中から顔を出した。

「こんにちは」

 と言ってみる。ルイーズはそこに居た人物を見て悲鳴を上げた。

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