静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

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それぞれの未来へ

試験を終えて

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 二学期の体育祭や文化祭の慌ただしさが嘘のように、静かに時間が過ぎていく。

 それは期末試験が終わったからだったり、寒い季節の変わり目だったり……。

 一部の人たちは、もう来年からの受験に切り替えていたり……。

 クリスマスに向けて、虎視眈々と彼氏彼女を作ろうとしたり……。

 とりあえず皆、祭りの余韻から少し落ち着いたようだ。






 試験も無事に終わり、いつものように綾と帰る。

「冬馬君、テストどうだった?」

「まあ、まずまずといったところか。とりあえず、大きく下がることはないと思う」

 真剣に試験勉強はしたが、こればっかりは運も絡んでくるしな。
 大学受験も来年に控えているから、みんなも真剣に勉強するし。

「冬馬君はもう大学決めた?」

「いや、まだだな。言い方はアレだが、教員免許ならどこでも取れるし」

「そうだよね。うーん、わたしはどうしようかなぁー」

「英文科だろ? まあ、二人とも私立大学になるのかもな」

「うん、それだけは確実かも」

「お互いに有り難いことだよな。学費が高い私立に、親が行かせてくれるっていうんだから」

「ほんとだよね! わたし、びっくりしちゃった! あんなに違うなんて……そもそも、クラスには大学に行けない子もいるし……」

「まあ、家庭の事情は人それぞれだからな。森川みたいに大学に行くつもりもない人や、行きたくてもいけない人もいるだろう。恵まれていることを自覚しないとな」

「うん、そうだね。当たり前のことじゃないんだよね」

「ああ、そこを忘れてはいけない気がする」




 そのまま歩いていると——突然冷たい風が吹く。

 二人で繋いだ手だけが、暖かく感じる。

「ひゃっ!? うぅー……それにしても寒いね」

「いよいよ冬って感じになってきたな」

「あのさ、今更なんだけど聞いても良いかな?」

「ん? どうした?」

「なんで、

「あん? ……ああ、そういうことか」

 そういや、話したことなかったっけ。

「うん。冬馬君が落とした生徒手帳を見たから誕生日は知ってるけど……なんで、四月なのかなぁって」

 確かに、俺の誕生日は四月十日だ。
 冬馬という名前は、おかしいかもしれないな。

「いや、うん、そうだな……」

 少し下を向いて考えをまとめる。

「あっ——聞いちゃいけないことだった……?」

 すると、俺の顔を伺うように下から覗き込む。
 その際には無意識なのか、長い髪をかきあげている。
 このアングル好きだな……って、今はそういうアレじゃない!

「い、いや、そういうわけでは……」

「あれ? なんで顔を逸らすの?」

 お前が可愛いからだよっ!

「ゴホン! いや、なんでもない。そうだな………死んだ母さんが、冬が好きだったんだ」

「お母さんが……そっかぁ」

「俺も知ったのは、母さんが死んでからだったけどな」

「えっ? そ、そうなの?」

「ああ。それ以前にも聞いたことはあったが、本当は冬生まれだったのが、生まれるのが遅くて春になったとか言われていたな」

「なるほど、そういうこともありそうだね」

「だろ? だから俺も、それを信じていたんだけど……最後の時に言われたんだ、嘘ついてごめんなさいってな」

「それで、なんで嘘をついたんだろ?」

「冬が好きな理由っていうのが、冬っていうのは家族が家にいるからだ」

「へっ?」

「前に言ったろ? 自分の病気を隠して、子供達が元気に外で過ごしてくれたら良いって」

「う、うん」

「もちろん、それも本心だとは思う。でも、どこかで寂しかったのも事実だと思うんだ。母さんは、子供を産む前から長生きできるとは思ってなかったら……冬って家にいるだろ? 寒いから出かける頻度も減るし、子供のうちはクリスマスや正月は家族で過ごすし、寒いからみんなでコタツでぬくぬくしたりさ」

「あっ——そっか。特に理由を作ることもなく、子供と居られるってことだね!」

「そういうことだ。だから、冬馬ってつけたんだとさ。馬は母さんが午年だったからだし」

「へぇ~ありがとね、冬馬君。大事な思い出を話してくれて……嬉しい」

「そりゃ、綾だしな」

「えへへ……あれ? じゃあ、麻里奈ちゃんも何かあるの?」

「ああ……うん、何もない」

「そ、そうなの?」

「母さんは二人目を産めるとは思ってなかったらしいから……あと、親父がつけたいって言い張ったらしい」

「へぇ~そうなんだ」

「綾はどういう意味なんだ?」

「わたし? わたしは、古風とか和風とかって意味でつけたってお父さんが言ってたよ」

「なるほど、綾に相応しい漢字だな」

 傷みのない黒髪ロングに、スレた感じがないところとか。
 俺もそうだが、少し現代っ子ぽくないところとか。
 言葉遣いなんかも、割と丁寧だしな。

「そ、そうかな? そういえば、お父さんから連絡あったよ」

「な、なに?」

「予定通りに、お正月に帰ってくるって」

「そ、そうか」

 ということは、いよいよか。
 挨拶をしないといけない……こわっ!
 いや、しかし、これを乗り越えないことには……。
 というか、自分から言い出したんだし……。

「冬馬君?」

「ど、どうした?」

「いや、冬馬君こそ……汗かいてるよ?」

「ハハ……ほんとだ」

 どんだけ緊張してるんだか。
 まだ、会ってすらもいないのに。

「えへへ、わたし知ってるんだ」

「えっ?」

「お母さんから聞いたの」

「ああ、そういうことか。別に口止めもしてないしな」

「試験が終わるまでは話題にしない方がいいかなって」

「それは正解だ。俺が今から緊張してしまうからな」

「そ、そうなんだ?」

「そりゃ、大事な娘さんとお付き合いしてるって言うんだからな……骨の二、三本までなら覚悟しておく」

「そんなことしないよ!?」

「そうなのか? 俺は麻里奈が連れてきたら、とりあえずぶん殴るけど?」

「それはそれで、麻里奈ちゃんが可哀想だからやめた方が良いよ?」

「ぐぬぬ……綾が言うなら仕方あるまい」

「ふふ、そんなこと言って。麻里奈ちゃんに甘いくせに」

「……否定はできない」

 麻里奈にも、親父の説得を手伝うと言ってしまったし。

「あのね……冬馬君、ありがとう。わたしは、冬馬君が彼氏さんで幸せです。だから、お父さんに紹介したいです」

「お、おう」

 そう言い、綾がとろけるような笑顔を見せてくれる。

 これだけでも、勇気を出した甲斐があるというものだ。

 実際にどうなるかは……神のみぞ知るって感じだな。
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