静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

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それぞれの未来へ

綾視点

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 ……今、なんて?

 冬馬君は、なんて言ったの?

「俺は、この先もお前以外に好きな女性ができるとは思わない。だから、もし綾が良ければ……予約をさせてもらえないか?」

「えっ……あれ? どうして……」

「綾」

「ち、違うの……嬉しくて、びっくりして……涙が」

 気がつけば、わたしは涙を流していました。
 嬉しい、すごい嬉しい……すごいびっくりしたから。

「ああ、わかってる。俺は落ち着くまで待つから」

「ひぐっ……あぅぅ……!」

「おいおい……ったく」

 泣いているわたしを、冬馬君が優しく抱きしめてくれました。

「は、鼻水ついちゃうよ……?」

「いいさ、それくらい」

「あ、ありがとぅ……う、嬉しいです」

「そっか、なら良かったよ」

「わ、わたし、料理もできないよ?」

「別にこれから時間はあるさ。それに、二人でやればいい」

「冬馬君に迷惑かけてばっかりだし、これからもかけちゃうよ……?」

「いいさ、それで。惚れた女に頼られるなんざ、男冥利に尽きるじゃないか」

「嫉妬だってしちゃうし、わたしめんどくさい女の子だよ……?」

「それを言ったらお互い様だろ。俺は、お前が良いんだ。優しくて、人の気持ちに寄り添える綾が……人と関わることを恐れてた俺を……唯一綾だけが、その心を溶かしてくれた」

「そ、そんなの……それは、わたしのセリフだよ! 男子が怖くて、でも恋がしたくて……でも、みんなわたしの顔や体しか見なくて……もういいやってなってた時……冬馬君に出会ったの。それで過ごす中で、冬馬君がわたしを変えてくれたんだもん」

 そうだ……あの時の気持ちは今でも覚えている。
 ドキドキして、夜も眠れなくて……顔を見るだけで、なんだがふわふわして……。
 初めて話せた時、一緒に帰った時、デートした時……全部、覚えてる。

「なら、良いんじゃないか? 俺も大概めんどくさい男だし。今時の若者らしくないし、品行方正とは言えない」

「ふふ、それはそうかも。でも、わたしもそうかも」

「それでだな……返事を貰えると助かる」

 そう言った冬馬君の顔は、視線を上に向けて照れています。
 ……えへへ、こういうのを可愛いって思えるんだよね。
 だから多分……これが、好きなんだって思える。

「あ、あの……よろしくお願いします」

「ハ、ハァァァァ——」

「と、冬馬君!?」

 冬馬君が膝から崩れ落ちちゃった!

「す、すまん……ずっと、気を張っていたからな。き、緊張したぜ……生きた心地がしなかった」

「こ、断られると思ってたの?」

「いや、そんな事はないが……それでも緊張するだろ。仮にとは言え、結婚を申し込むようなものだ」

「えへへ、可愛い」

「勘弁してください……」

「冬馬君!」

 わたしは冬馬君の手を引いて、起き上がらせます。

「おっと、どうし——」

 そして……わたしからキスをします。

「ん……えへへ」

「ま、参ったな……あぁー! もう!」

「と、冬馬君?」

「嬉しすぎて、色々と段取りが吹っ飛んだ!」

「えっと……?」

「これ……一応、クリスマスプレゼントだ」

「ふえっ? ……そ、そう言えば、そうだったね」

「まったく、格好がつかん」

「冬馬君はかっこいいよ?」

「へいへい、ありがとな」

 そう言うと、頬をぽりぽりしています。

「えへへ~可愛い」

「いや、どっちだよ?」

「うーん……両方!」

「全く……ほら、一応確認してくれ」

 紙袋の中は……あれ?

「ふふふ……」

「お、おい?」

「もう! こんなところまで似なくても良いじゃない!」

「あん?」

「わたしは——これです!」

 カバンから、とあるものを取り出します。

「……なるほど」

「まさか、両方ともマフラーなんてね」

 わたしには、青いマフラー……冬馬君のは、黒のマフラー。

「はは……ほんとだな。いや、迷ったんだよ。指輪のサイズはわからんし、まだそれを渡すのは早いし……まあ、定番ですまん。なんというか、告白の方に色々と持ってかれてな」

「う、うん……嬉しいよ……だって、一番のクリスマスプレゼントだもん」

 でも……貰ったら飛び跳ねちゃうなぁ、嬉しくて。

「綾はどうして?」

「もちろん、冬だからっていうのもあるし……冬馬君って持ってないよね?」

「ああ、あんまりしないかもな」

「やっぱり。でも、首を冷やしたらいけないんだよ?」

「わかった。綾のプレゼントじゃ、しないわけにいかないな」

「そういうことです」

「さて……帰るとするか」

「うん……少し名残惜しいけど」

「ああ、そうだな……でも、まだ先は長いんだ。今は、それくらいの方が良いのかもしれない」

「うん、そうかも」

 明日は会えるかな?とか。
 次はいつデートかな?とか。
 もう帰っちゃうんだとか。
 もっと一緒にいたいとか……。
 きっとそれは……今しか味わえないことなのかも。

「それが過ぎたら……また、新しい発見があるんじゃないか?」

「例えば?」

「そ、そりゃあ……同棲とか、新婚生活とか……」

「はぅ……」

「お、おい? 聞いた本人が照れるなよ!」

「し、仕方ないもん!」

 えへへ……楽しいなぁ。

 ずっと、このまま……こうしていられたら……。









 そう……それだけで良かったのに。
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