若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~

おとら@ 書籍発売中

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強くなる理由

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事件が解決して翌日、儂はローザ殿からしきりに感謝の言葉を浴びていた。

昨日から、ずっと頭を下げ続けている。

「だから、もう良いというのに」

「ですが……本当に感謝してもしきれないよ」

「なに、儂は己の欲に従ったまで。勝手に救った故、感謝はいらない」

「……本当に変わった御仁だこと。わかった、それではせめて旅立ちまではゆっくりしてください」

「うむ、かたじけない」

そこでようやく、頭を下げることをやめた。
すると、タイミングを図っていたのかアルトが話しかけてくる。

「シ、シグルドさん! お願いがあるんだ!」

「……聞くだけ聞こう」

「僕に戦い方を教えてください!」

「ふむ……答えは見つかったかのう?」

「……俺、弱いの悔しかった。結局、薬を取ってくれたのはシグルドさんだし、エルを助けてくれたのもシグルドさんだ」

「ふむ……」

「だから俺は……いざという時に、誰かを守れる強さが欲しい。それを成し遂げられる強さが……こんな理由じゃダメかな?」

不安そうに顔を上げるアルトに対し、儂は頭に手を置く。

「いや、良き理由じゃ。自分のための強さなど、高が知れている。もちろん、それで極める者もいるが……儂は個人的には好かん」

「え、えっと?」

「つまりは、合格ということじゃ。儂は……そういう者が好きじゃよ」

復讐のために強くなった儂なんかより、よっぽど立派な理由だ。
きっと、この子は良き青年になるだろう。
ならば先達としてすべきことは、この子を死なせないことじゃな。

「じゃあ……」

「長居は出来ないが、儂が戦いの基本を教えてやろう」

「あ、ありがとうございます!」

「うむ。じゃが……厳しくいくぞ?」

「が、頑張ります!」

「良い返事じゃ。それでは、早速やっていくかのう。適当な棒切れを二本持って来なさい」

そうして、アルトが嬉しそうに駆け出す。
それを見送り、ローザ殿に向き合う。

「ローザ殿、勝手に決めてすまぬ」

「何を言うのさ、礼を言うのはこちらだよ。あの子があんな顔を……ずっと子供だと思ってたけど、しっかり男の子なんだね」

「うむ、彼奴は立派な男じゃよ。それはきっと、ローザ殿や父君の育て方が良かったのだ」

「ふふ、嬉しいこと言ってくれるね。それじゃあ、私は腕によりをかけて旅たちまでご馳走するとしようかしら」

「ほほっ、それは楽しみじゃわい」

すると、アルトが二本の棒切れを持ってくる。

「これで良いかな!?」

「ああ、構わん。では、まずは剣の振り方から……」

そうして、儂はアルトの指導に入る。

それはとても懐かしく感じ、つい幼き頃のユーリスを思い出すのだった。
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