若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~

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旅立ち

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それから更に一週間後、儂は旅立ちの支度を終えてローザ宅に戻る。

すると、家の前でアルトとエルがオルトスとじゃれ合っていた。

「ウォン!(こっちなのだ!)」

「待てって!」

「待て待てぇ~!」

その姿は、儂やユーリスといる時とはまた違う。
まさしく、子供といった表現が正しい。
やはり、儂らに合わせて大人ぶっていたのであろう。

「……やれやれ、父親失格じゃな」

「ウォン!?(主人!? こ、これは違うのだ!)」

儂に見つかって慌てふためくオルトスに、ゆっくり近づく。
そして、その頭を優しく撫でてやる。

「オルトス、良いのだ。お主は慌てて大人になることはない。お主が大人になるその日まで、儂はのんびり待つとしよう」

「……ククーン?(……主人、それまで死なない?)」

「約束はできんが、前のように死んでも良いなどと思わんと誓おう」

「ウォン!(約束なのだ!)」

「ああ、そうじゃな」

此奴を焦らせたのは、間違いなく儂の責任じゃ。
これからは、ゆっくりと成長させてやろう。
そして儂は木剣を持ち、アルトに放り投げる。

「アルトよ、仕上げじゃ……思い切りかかってこい」

「はい! 師匠!」

あの日以降、師匠と呼ばれるようになってしまった。
儂はそんな柄ではないが、本人がどうしてもと。
少し照れくさく思いつつも、心を非情にしていく。
ローザ殿やエルが見守る中、アルトが打ち込みをする。

「やっ!」

「ふむ……もっとじゃ」

「は、はい!」

儂はアルトの攻撃に木剣を合わせ、軽くいなしていく。
アルトの身体はまだ成人ではないので、パワーが足りない。
それを補うために、全身のバネを使って剣を振ることを教えたのだが……。

「悪くないのう。しっかりと、教えたことができている」

「ほ、ほんと?」

「うむ。儂の言った通り、きちんと素振りをしたのだな」

アルトには申し訳ないが、儂とて暇ではない。
この一週間は旅立ちの資金稼ぎのために、冒険者ギルドで依頼を受けていた。
その間に、アルトには基礎を反復するように言っておいたが……それをきっちりやったようじゃ。

「へへっ……俺もシグルドさんみたいになれるかな?」

「ほほっ、研鑽を積むことじゃな」

「はい! 頑張ります!」

「さて……では、最後に儂が剣を授けよう。アルトよ、しっかりと見ていなさい」

儂の真剣な表情を見て、アルトがしっかり頷く。
儂はそれを確認し、上段の構えを示す。

「アルトよ、儂に教えられることは少ない。だが、この剣筋を通して教えよう」

「は、はい……」

「ふぅ……しっ!」

上段の構えから振り下ろし、そして逆袈裟斬りに持っていく。
そこから更に袈裟斬りをし、水平斬りに。
そこまで終えたら、剣を収める。

「す、すげぇ! 速くて見えなかった……」

「ほほっ、今のは基本の連続斬りじゃよ。お主には力が足りないので、まずは手数で補うと良い。幸いにして、お主は身軽で目が良い」

「が、頑張ります!」

その後、今度はゆっくりと動作をする。
そして、アルトが覚えるまで儂は剣を振り続けるのだった。



翌日、いよいよ旅立ちの日を迎える。

泣きそうになっている、アルトとエルの頭に手を置く。

「二人とも、泣くでない」

「グスッ……だってぇ」

「な、泣いてないよ!」

「ククーン」

オルトスが、二人の顔を舐める。
昨日は泣かないと言っていたのに、これである。
しかし、それはそれで嬉しいものじゃな。

「こら、シグルドさんを困らせるんじゃないよ」

「ローザ殿、大変お世話になりました」

「何を言うのさ、こっちのセリフだよ。本当に、色々とありがとうございます。ほら、二人もしっかりしなさい」

「「……ありがとうございました!!」」

二人が涙を拭き、笑顔で応える。
やはり、子供には笑顔が一番じゃな。

「うむ、皆達者でな……また何かあったら、きちんと大人を頼りなさい」

「はい! ユーリスさんが騎士の人達を派遣してくれるから大丈夫!」

「なに……どう言うことじゃ?」

「あれ? 聞いてないの?  なんか、師匠が安心して旅立てるようにしたとか……」

「……彼奴め」

儂が心配することを見越して手を打ちおったか。
しかし、儂に知らせることなく……やれやれ、成長したのう。
とにかく、これで後顧の憂いはない。

「言っちゃダメだったかな?」

「いや、そんなことはない。では……アルト、エル、元気でな」

「師匠もお元気で! 俺、強くなるよ!」

「うむ、楽しみにしてるわい」

すると、エルが服の裾を掴む。

「わんちゃんやお兄さんにまた会える?」

「ウォン!(会えるのだ!)」

「ああ、生きてさえいればな……また顔を出すと約束しよう」

「うん! わたし、料理覚えるね!」

「ほほっ、それは楽しみじゃ」

やれやれ、また生きる目的が増えてしまったのう。
だが、悪くはない気分じゃな。
別れを惜しみつつ、儂は門を出て行く。
街が見えなくなった頃、一度立ち止まる。

「ウォン……(……スン)」

「お主も、良く泣くのを我慢したな」

「ウォン!泣いてないのだ!)」

「ああ、そうじゃな」

それを茶化すような真似はしない。
大人ばかりと関わってきたオルトスにとって、子供と過ごすのは新鮮だったのだろう。
そのまま少し待ってから、再び歩き出す。

「ウォン?(どこに行くのだ?)」

「ひとまず、目指すは東の地にしよう。儂は本国と北の地しか知らんからのう」

「ウォン!(我も知らない!)」

「ほほっ、それはそうじゃろ。では……美味いものを食い、良い景色でも見に行こうか」

ここでの出来事が、儂にやりたいことを与えてくれた。

これからが、本当の意味で第二の人生の始まりじゃ。

さてさて、どんな出来事が待っているかのう。
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