若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~

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未知なる物

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儂は怖がらせぬように残酷な場面は避け、勇者達の戦いを説明する。

仲間同士で助け合い、時にはぶつかりながらも妖魔達を倒していく様を。

それらは一人ではなし得ることではなく、一人一人が歴戦の勇者だったと伝えるために。

すると熱が入ってきて、あっという間に時間が経つ。

「ふぅ……こんなところか」

「凄い凄い! 冒険者で言うところのパーティーだ!」

「なるほど、そうかもしれんな」

儂は事情があり一人じゃが、冒険者とは本来なら数名のパーティーを組むとか。
そうしてダンジョン探索や、未知の遺跡などを調べたりするらしい。
騎士や兵士達も隊を組むので、似たようなものじゃろ。

「パーティーか……」

「アリア殿?」

「いえ、なんでもありません」

暗い顔を見て、何かを言いたくなるがグッと堪える。
いらんお節介をすると、またユーリスに言われてしまう故に。
すると、タイミングよくメリッサ殿がお盆を持ってやってきた。

「はーい、出来ましたよ」

「おおっ! いい香りじゃ!」

嗅いだことのない香りが鼻に広がる。
香ばしい香りの中にほのかな酸味。
それに、ワインの香りも僅かにあるだろうか。

「ふふ、当店自慢のシチューですよ」

「シチュー……煮込みではないのか?」

目の前に置かれたのは、何か茶色い煮込みに見える。
見たところ、肉や野菜などが入っているが。
ちなみにだが、煮込みというのは贅沢品とされている。
そもそも調理に時間がかかるし、戦場ではそんな暇はない。

「煮込みでもありますよ。ただ、私は西の国出身なんです。そこの伝統料理なので、見慣れないのは無理もないわ」

「ほう、西の国か……そちらの話も気になるが、まずは食べても良いかのう?」

「ウォン!(美味そうなのだ!)」

「ええ、熱いうちに召し上がってください。こちらのパンをつけて食べるのがおススメですよ」

「なるほど……頂戴いたす」

まずはスプーンでスープのみを掬う。
その際に意外な重さと、どろっとした形状に驚く。
恐る恐る口に運び……衝撃を受ける。

「——噛める?」

「ふふ、サラサラではないですよね」

「スープなのに……それに濃厚な味と、ほのかな酸味と苦味……いかん、儂の語彙力が足りん」

何やら食べたことのない味わい。
色々な味が複雑に絡み合っているかのようだ。
一つだけ確かなのは……とにかく美味い。

「ささっ、お肉もどうぞ」

「う、うむ……はむっ……はっ」

なんだ、この肉は。
口の中で、一瞬で溶けていきおった。
北の大地で食べてた肉など、噛みきれないものもあったというのに。

「旨い!」

「ウォーン!(これ旨いのだ!)」

「ふふ、お気に召したようで何よりです。一応、従魔さんのは子供用に甘口にしてますからね」

「なんと、そんな気配りまで。確かに、このワインのような苦味はオルトスは苦手かもしれない」

その後、試しに別皿によそってもらい食べるが……確かに食べやすくはなってる。
しかし、儂はこの苦味がたまらん。
同時にオルトスも、甘い方が好みのようじゃ。

「この味の深みが良い。やはり、煮込みの醍醐味……いや、シチューじゃったか」

「ビーフシチューって言うんですよ。では、次はパンをつけてくださいね。アリアさんも、食べてくださいな」

「ああ、頂くとしよう……相変わらず美味い」

「パンにつけるのか……どれどれ」

パンを浸すと、その重さのあるシチューがこれでもかと付く。
そのまま口に運ぶと……これまた美味。
濃厚なシチューをたっぷり吸ったパンの旨さは饒舌に難し。

「パンの硬さを残しつつ、それでいてシチューがパンの間に挟まって食べやすい。これは、いくらでも行けてしまうわい」

「ええ、そうなのです。良かった、紹介した甲斐がありました」

「お釣りがくるくらいじゃよ。アリア殿、改めて感謝する」

「ウォン!(ありがとうなのだ!)」

すると、アリア殿が照れ臭そうに頬をかく。
その姿と相まって、見るものが見れば悶絶しそうである。
……やはり、ユリア様に何処と無く似ておるか。

「いえ、お礼を言うのは私の方ですから」

「そういえば、どういう出会いだったのかしら」

「あっ! 聞いてない!」

「ははっ! 食べるのに夢中で忘れておった! じゃが、まずは食べてからにしたい」

「ウォン!(賛成!)」

そうして、儂らはビーフシチューなるものを堪能する。

それはとても贅沢な時間で、これこそが儂の求めていた目的の一つだと実感する。

やはり、人助けはしてみるものじゃな……決して、ユーリスたちに対する言い訳ではない。
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