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<第二章 ティパーティはしめやかに>
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翌朝。
ムシュは頬に人差し指を当てて、思案顔になった。
「そうですねえ、ユーフィニア様を擁護しようって人は、少なくとも国内には、リルベオラス様くらいしかいないかもですねえ。なにしろ私の生まれた村でも、悪いことをすると『そんなことをするとユフィみたいになるよ』なんて叱り文句があるくらいですから」
……少しでもユーフィニアについての情報を集めようと思ったんだけど、早くもくじけそうになった。
メサイアが作ってくれた朝ご飯は、バターを塗ったトーストに、スグリのジャムとクロテッドクリームみたいなもの(というかたぶんそのもの)を添えられて、別のお皿にはオムレツや色とりどりのサラダが乗っており、日本人的にさほど違和感のない洋風の朝食だった。
そして、ばっちりおいしい。
さらにカトラリーや茶器が、一つ一つ、どれもこれも、アンティーク調の高級感あふれるものばかりで、それを普通に使っていいっていうのがかなり楽しい。
リビングのテーブルは大きいのに、メイド三人はいつも別室で食べているというので、「一緒に食べようよ」と言うとまたもびっくりされた。
私としては、みんなでにぎやかな朝を過ごしたいという気持ちもあったものの、私やリルの情報を聞いてもみたかったのだ。
それにしても、落ち着いてみると、年下の女の子三人と同居することになったわけで、一人っ子の私としては、急に妹ができたみたいで、みんなかわいかった。
もっともマティルダだけは、むしろお姉さんぽいけども。
メサイアが紅茶のお代わりを入れてくれて、もうじき朝食の時間が終わるんだろうなと察したので、
「これだけこまごま食器があると、洗い物大変だよね。キッチンはそこそこ広いみたいだし、四人で流れ作業でやっちゃおうか」
なんて言ったので、またも目を丸くされた。
そうか、さすがに家事を私もやるのは変か……とは思いつつ、リルと離婚することになれば、その後グリフォーンには戻れなさそうなので、一通りこの世界での生活力は身につけておきたい。聞いている感じでは、のこのことグリフォーンへ出戻りすると、ヘルハウンズとの間で国際問題になりそうな気配さえある。
炊事選択のやり方や決まりごとは私の世界とは違うのか、買い物その他生活に必要なお店はどこにあってどういうふうに利用すればいいのか、知っておきたいことは山ほどある。
それと同時進行で、リルの今後のことを考える必要があった。
ハイグラでは、リルの恋愛シナリオはない。だからリルが、二ヶ月後に登場するヒロイン・アリスと結ばれることは、たぶんない。
私と離婚した後は、独身でいようが再婚しようがリルの自由ではあるんだけど、やっぱりどうしても怖いのは、リルが常に最前線に出ていく指揮官ということだった。
リルは戦争イベントでは毎回結果的には生きて帰ってくるけど、戦争なんだから、死んでしまってもおかしくないはずだ。メインシナリオ後の話は公式では発表されていないので、考えたくはないけど、その後戦死してしまうことは当然あり得る。
そして、アリスへの、ほんのり偲ぶようなリルの想い。
リルにはアリスとの恋愛成就ルートはない。だからいずれアリスがほかの王子と結ばれてしまえば、リルは心穏やかならない状態で出撃していくわけで、それでもいつも通りの戦勝を飾って帰って来られるものだろうか。
心のどこかにやけを起こしたような気持ちがあれば、命の危険に対して鈍感になってしまうかもしれない。
……大きなお世話ではある。あるんだけど、それを考えると、できればリルがアリスと出会う前に、誰か別のお妃様を迎えて欲しい。
それも、誰でもいいってわけじゃない。ユーフィニアみたいな、国の運営に関わるくらいの悪評がある人じゃなくて、心からリルを愛して、大事にしてくれる人じゃないと。
戦費のことは気がかりだけど、私のほうから一方的に離婚をして、私にだけ問題がある形であれば、慰謝料みたいな形でまとまった金額をグリフォーンから出せるかもしれない。
……それだけだとグリフォーンには申し訳ないから、なにか穏便な方法をおいおい考えよう。
それにしてもユーフィニアは、あくの強いキャラクタだなあと思う。
こんな子が少しでもゲームに出ていれば私が知らないわけないので、企画段階でキャラ設定だけ作られて、製品版にはボツになって入らなかったとかなのかも。
ともあれ、今日はクラウン暦十月七日、日曜日。
あの二ヶ月のうちに、私の離婚とリルの再婚を――最低でもパートナーになりうる女の子と出会って親密になるところまで漕ぎつけたい。
洗い物への参加を断られたので、その後庭に出たマティルダを追いかけて、無理を言って洗濯を教えてもらうことにした。
「……本当に、本当に、本当に記憶喪失なのですね? さすがに一昼夜経ってもその調子であれば、わたくしも信じはしますけども」
「信じて信じて。それで、洗濯しながら教えて欲しいんだけど、マティルダは、次から言う人たち知ってる?」
そう言って私が口にしたのは、ハイグラのプレイヤーなら知っていて当然の面々の名前。
小国連合中心国ミッドクラウンの王子、アーノルド。その妹、ミルノルド。
最小国スモルヘンドの王子、ラビリオン。その妹、リビエラ。
知の国ソウソルの王子、ギネ。その妹、クライネ。
情熱の国アグリアの王子、モーセロール。その妹、ヒルダ。
四人の王子は、みんな、アリスの恋愛対象となるメインキャラたちだった。
ちなみのどの妹も、兄と髪や目の色が同じ。もともとはみんなサブキャラというか、おまけみたいな立ち位置だったんだけど、ハイグラはとにかくキャラデザがいいせいでこの妹たちまで人気が出て、それぞれにサブクエストまで作られた。
そしてキャラの掘り下げがされるとさらにファンが増えて、妹たちは攻略できないのかという問い合わせが運営に殺到して、乙女ゲームとしては前代未聞の事態になったのは有名だ。やっぱり女の子キャラ、かわいいもんね。
「ええ、どの王子様や妹君も有名なので、わたくしも存じておりますよ。ですが記憶喪失なのに、そうしたことは覚えておいでなのですか」
「あ、うん、そうみたい。えへ」
「両頬を指で突くポーズなどしても、かわいくありません」
「……どういたしまして」
とりあえず、彼らがこの世界に存在することは確かめられた。
あの子たちなら、ある程度人となりが私なりに分かっているし、リルの恋愛相手として充分候補になるんだけど。
でも大事なのは、本人たちの相性だもんね……。
「あ」
私は、ベッドシーツを大きなたらいの中で足で踏んで洗いながら、あることを思いついた。
「どうなさいました? そんなふうに口を開けているとそこから知恵が抜けて行って、代わりに水や洗剤が口に入りますよ。いい薬になるかもしれませんが」
「い、いちいち棘がある! あの、マティルダ。東のほうに、占いの魔女の森ってあるよね?」
「ございますね。なんでも、人の縁を見抜くことができる魔女が住んでいるとか」
「そこ行きたいな。できれば、……今日」
もうマティルダには口調が砕けてしまって、本当の姉妹みたいなしゃべり方になっていた。……泣き顔見られたからかもしれないな。
「今日ですか? 馬車の準備はできますが……帰ってくるころには日が暮れてしまいますよ?」
「あ。私って、なにか予定とかあるのかな?」
ユーフィニアの行動スケジュールは、いまいちまだよく分かっていない。
日常的に発生する、リルの妻の務め的なものがあったら、さぼるわけにはいかない。
「いえ、あなた様は王族としての義務とか務めですとかは、すべて放棄されていますので。あるとしても、かねてよりの酔いどれパーティの類でしょうが」
「酔いどれ」
「ですが、さすがのユーフィニア様も、一応最低限の人類的良識として結婚式後はそうした催しは控えておられてますので、特に用事というのはないかと」
「だ、だから棘があるってば!」
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