王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都

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王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

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 ハァ……舞踏会って、疲れますわ。どこか、ひとりになれるところはないかしら。

 華やかなホールを抜け、なるべく人気のない道へと向かい、廊下を歩いて行きます。階段を上り、使われていない小ホールを抜け、そこからバルコニーへと下りました。

 あぁ、ようやくひとごこちつきましたわ。

 爽やかな風が髪を撫で、気持ちのよい冷気が人混みからの熱気を冷ましてくれます。

 その時、ガタンと扉が音をたてました。

 どなたか、入ってくるようですわ。隠れませんと……

 私はホールから視界に入らないよう、バルコニーの隅で身を潜めました。

「ようやく、ふたりきりになれた」

 あら……このお声は。

 瑞々しく透き通っていて、誰をも魅了する特徴的なお声は、間違えようがありませんわ……王太子殿下です。

 黒髪に黒曜石のような漆黒の瞳、キリリとした容姿端麗な王太子殿下はどなたにも紳士でお優しく、剣術にも優れた女性たちの憧れです。

 ご婚約の申し込みが後をたたないにも関わらず、どなたとも未だにご婚約されていらっしゃらない王太子殿下のご逢引きのお相手は、いったいどなたなのかしら……

 好奇心を抑えきれず、そっとバルコニーからホールを忍び見ました。

「王太子殿下……このような、場所で。見つかりでもしたら……」

 えぇっ!?

 思わず叫び出しそうになり、必死に手で口を押さえました。

「ロワール。ここでは王太子殿下ではなく、アルルと呼んでくれ。大丈夫だ、こんなところまで誰も来ない」

 ロワール様は王室直属の騎士団の団長です。金髪碧眼で甘く華やかな容姿でいらっしゃいますが、勇敢で漢気に溢れ、剣の腕では右に出る者はおりません。

 『麗しの騎士団長』と呼ばれ、多くの女性を虜にしていらっしゃいます。

 そんなお二人が、恋人同士だなんて……

 あまりの衝撃に目の前が真っ暗になり、倒れそうでした。


 なんて……尊いのでしょう!!


 私の目の前で美麗なお二人が抱き合い、口付けを交わしています。

「ロワール、愛している。私は、君だけいればいい」
「アルル、殿下……貴方は、将来この国を背負っていかれるお方……私は、いつまでも貴方を影からお支えいたします」

 あぁ、道々ならぬ恋……辛いけれど、素敵! 素敵ですわ……

 口付けを終えた王太子殿下が、ロワール様の肩を抱きました。

「今宵は月が綺麗だ。一緒に見ないか」
「えぇ、いいですね」

 ま、マズいですわ……おふたりがこちらに、向かっていらっしゃるわ。ど、どういたしましょう……

 バルコニーに隠れられるような場所はなく、扉も一箇所のみ。絶体絶命ですわ!!

 こうなったら、バルコニーを伝って横に移動するか、下に下りるしかありませんわね。

 ドレスを持ち上げ、バルコニーの欄干に足を載せようとしていると、背後から声を掛けられました。

「何をしている!?」

 慌てて足を下げてドレスを整え、お辞儀いたします。

「お、王太子殿下……ロワール、様……
 ご、ご機嫌よう」

 王太子殿下もロワール様も気まずそうな表情を浮かべていらっしゃいます。

「ソリティア男爵の令嬢、イリア嬢か。こんなところで、何をしている?」

 ロワール様が王太子殿下を庇うように、一歩前に進みでました。

「あ、あの……私、人混みに気分が悪くなりまして。ひとりで、バルコニーで涼んでおりました」
「レディーがこんなところに、ひとりで来るとは……予想外だったな」

 王太子殿下がマズいことになったというように、呟きました。

「イリア嬢。私たちの会話を聞いていたのだろう?」

 会話どころか……ふたりの熱い抱擁や口付けまで、しっかりと見てしまいましたわ。

「わ、私! 誰にも話しませんわ! お約束、いたします。お二人が恋人でいらっしゃることは、死ぬまで秘密にすると、誓いますわ!!」
「信用ならん」

 ロワール様が眉を顰め、腰から剣を抜きました。

 わ、わたくし……ここで、殺されてしまうのでしょうか。あぁ、おふたりの密会現場を目撃したばかりに。
 お父様、お母様、先立つ不幸をお許しくださいませ……

「待て」

 王太子殿下が制されました。

「ソリティア男爵は、経済的に貧窮しているそうだな」

 それを聞き、肩をビクッと震わせました。男爵とは名ばかりで、没落の一途を辿っている我が家の現状をまさか王太子殿下が把握してしているとは思いもよりませんでした。

「イリア嬢、そなた最近婚約破棄されたとか?」
「え。えぇ……マドリッド子爵と婚約しておりましたが、躰の関係を迫られまして……拒否しましたら、婚約破棄されてしまいましたの。マドリッド子爵はその話を大きくして噂を広めまして、それからは婚約のお申し込みをしてくださる方は、誰もいらっしゃいませんわ」

 今夜の舞踏会でも、どこにいても皆様からの好奇の視線や陰口を感じ、居た堪れなくなってホールを出たのでした。

「そう、か……」

 王太子殿下のお言葉に、ピンときました。

「あ、の……私、どなたかを好きになったり、愛したりしたことがないというか、そもそも興味がないんですの。ですが、おふたりのご関係はとても素敵ですし、美しいと感じました。
 こんなご提案を私からするのは大変恐縮なのですが……もし、王太子殿下が私と婚約いただければ、これから婚約のお申し込みをお断りする手間もなくなりますし、ロワール様との逢引きも……お手伝いして差し上げられますわ」

 すると、ロワール様が激昂して踏み込みました。

「そんな甘い言葉に、乗るとでも思うか! もしや貴様、スパイではないのか!?」
「そ、そのようなことは決して……」

 ロワール様が凄みますと、空気が一変しました。さすが王室騎士団を纏め率いるリーダーですわね、風格が漂います。足が、ブルブルガクガクと震えました。

 王太子殿下が、ロワール様の肩に手を乗せました。

「ロワール、落ち着け。彼女からはそういった悪意は感じられない。
 それに……悪くない提案だ」
「アルル殿下!!」
「今まで婚約などしたくないと拒絶してきたが、父上と母上には、もう誰でもいいから婚約してくれと泣きつかれ、それに加えて臣下たちにも不安が広がり、この国の未来を憂うような発言が目立ってきている。このままだと、無理やりにでも婚姻を押し付けられることになりそうだと危惧していたところだ。
 イリア嬢を婚約者として迎え、ソリティア侯爵に新たな領地を与え、伯爵の爵位を授けよう。
 だが……もし裏切りが発覚したら伯爵どころか子爵としての爵位をも剥奪し、財産及び領地を没収するものとする。この意味、分かるな?」
「は、い……」

 お家、取り潰し……ということですわね。

 私は覚悟をもった瞳で頷きました。

「決して……王太子殿下とロワール様を裏切るような行為は致しませんわ」

 これは、私にとってまたとない絶好の機会ですもの。

 本来なら、男爵令嬢という身分で王太子殿下との婚姻など、望むことすらできなかったこと。

 それに加えて没落の危機に瀕していた我が家が王太子殿下とのご婚約により、お父様は伯爵の爵位を授けられる上に新たな領地を与えられる。そして、私は……男性と躰を重ねる心配に晒されることがなくなるのですわ。

 それどころか、美しい王太子殿下とロワール様とのラブラブぶりを目の前で拝めるようになるなんて……!!

 あぁ、これからの毎日を想像しただけで、興奮で血が沸き立ちますわっっ。

「それでは……」

 王太子殿下が手を差し出しました。

「近いうちに、婚約の申し込みがいくことになるだろう。
 よろしくな」
「えぇ、どうぞよろしくお願いいたします」

 手を差し伸べようとすると、ロワール様がそれを遮りました。

「待ってくれ! アルル殿下、私のために好きでもない相手と婚約するなんて……間違ってる!
 私は……アルル殿下に、無理強いしたくないんだ!!」

 すると、王太子殿下がロワール様の美しい金髪の巻髪に指を絡め、口付けを落としました。

「ロワール、君のためだけではない。私のためでもあるんだ。私は決して君を失いたくない。この関係を、なんとしてでも守り抜きたい。
 だから……辛いかもしれないが、受け入れてくれ。私が愛するのは、生涯君だけだ」
「アルル、殿下……」

 ロワール様が顔を赤らめた後、私がおふたりをまじまじと見つめているのを感じ、フイと顔をそらされました。

「お前……絶対にアルル殿下を好きになるなよ」
「フフッ、分かっておりますわ」

 ロワール様の王太子殿下への深い愛に、思わず笑みが溢れます。
 
 王太子殿下が改めて手を差し出しました。

「よろしくな」
「はい!」
「ほら、ロワール、君も」
「は、はい……」

 不本意な顔を見せつつも、ロワール様もおずおずと手を伸ばされました。

 あぁ、これからの生活が楽しみで仕方ありませんわ。
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