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おまけ2 ーユリアーノーとヒューバートの攻防ー
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ユリアーノは先ほど開け放った窓に腕をかけ、空を見上げた。下は真っ暗闇で何も見えないが、空には新月で月が出ていないせいか、星がいつもよりも輝いて見えた。
クロード様とルチア様、この別邸で二人の愛がどんどん深まってるみたい……
大切に想っているふたりが幸せそうにしている姿に、ユリアーノ自身も幸せな気持ちに満たされていた。
ユリアーノの父は前国王に対しての暴動に加わったことで殺され、母もまもなくして亡くなった。ストリートチルドレンとなって窃盗を繰り返しながら、危険と背中合わせの毎日を過ごす中、前国王への憎しみが日に日に増していった。
前国王に復讐するために忍び込んだ城内で出逢ったのがクロードだった。いきなり切り掛かったユリアーノの攻撃をいとも簡単に交わしたクロードは、こう言った。
「お前、私の下で働かぬか」
最初は反発したユリアーノだったが、クロードの人となりを知るにつれ、彼は父親とは性格も、志もまったく異なることが次第にわかっていった。誰よりも父が欲に溺れた腐敗政治をおこなっていることを憎み、なんとかせねばと奮起していることに心動かされた。
それから、ユリアーノはクロードに生涯の忠誠を誓ったのだった。
なにもかもなくし、希望を失い、ただ前国王への復讐だけを考えていた僕は、クロード様との出逢いによってすべてが変わったんだ。
前国王を倒し、シュタート王国の国王となったクロードは、これからどんどん他国を取り込んでいき、国を拡大していくことだろうとユリアーノは考えた。今までのクロードの恩になんとか報いたいと考えた末に出した結論は、隣国であるグレートブルタン国の城内に入り込み、スパイとなって情報を流すことだった。
ユリアーノはクロードに何も告げずにひとりグレートブルタン国へと入り、そこで執事としてグレートブルタン国のプリンセスであるルチアの下で働くようになった。
だが、そこで予想外のことがおこった。執事としてルチアの側で働いているうちに、彼女の明るさ、優しさ、そして芯の強さに絆されていったのだ。使用人としてではなく、友人のように、家族のように接してくれる温かいルチアの存在が、次第にユリアーノの心を柔らかくしていった。ユリアーノにとって、ルチアは特別な存在になっていた。
それから、クロードがグレートブルタン国を侵略するつもりはないし、スパイも必要としていないと分かった時に、自分の早とちりを恥じ、自分勝手な行動を反省し、グレートブルタン国が襲われることがなくなったことに安堵したのだった。
けれど、自分の軽率な行動がクロードがグレートブルタン国を侵略しようとしているのではないかと疑われることになってしまい、ルチアとクロードを危機に陥れてしまった。
ルチアからも、クロードからも去ろうとしたユリアーノをふたりは引き留めてくれた。ルチアは涙を流しながら、ユリアーノは大切な友人だから、これからも側にいてほしいと言ってくれた。
最初はシュタート国にユリアーノを連れて帰るつもりだったクロードだったが、ルチアの様子を見て、クロードはユリアーノにグレートブルタン国に留まり、ルチアの執事として留まるよう命令したのだった。
ユリアーノは漆黒の闇一面に輝く星を見上げ、呟いた。
「これからも俺は……クロード様とルチア様への忠誠を誓い、生涯二人を守っていく」
大切な人達が、側にいる……
ルチア様、クロード様に急な公務が入っちゃって寂しがってるだろうな。きっと、クロード様が帰ってくるまで起きて待ってるだろうし……
「美味しい紅茶でも入れて、ルチア様に持っていこうかな」
ユリアーノが窓を閉めて、くるりと背を向けると、廊下の向こう側からヒューバートが足早に近付いてきた。
「何してるんだ! 国王陛下の命令だ、お前も公務を手伝え」
「えっ、俺も?」
「当たり前だろ……グレートブルタン国とシュタート王国が統合した暁には、どちらの国の問題かなんて言ってられないのだからな」
「でも俺、執事だよ?」
「文句を言うな! シュタート王国で仕えていた時には、お前は国王陛下の片腕として働いてただろうが。
……それに、ユリアーノをグレートブルタン国に留まらせることにしたのは、単にお前を王妃殿下の執事として仕えさせるためなどではないぞ。グレートブルタン国の政治や制度、文化を学ばせるためだ。それだけ、国王陛下に信頼されてるってことなのだ。
わかったら、さっさと執務室に来いっ!」
「あ、ヒュービー。俺のこと、クロード様の片腕だって認めたね」
ユリアーノはクスッと笑って、ヒューバートを見上げた。
「そ、れは……言葉の、綾だ」
ヒューバートは顔を真っ赤にして動揺した。
「フフッ……つまり、本音ってことだね」
「っ……自分の都合のいいように解釈するなっ!」
「ほらほら、クロード様が執務室で待ってるよー」
ユリアーノはヒューバートの背中を両手で押して、執務室へと向かう。
「気安く触るな! 距離が近い!」
ユリアーノは手を振り払おうとするヒューバートに、微笑んだ。
ルチア様、紅茶持って行けないや。ごめんね……でも、頑張ってクロード様の公務を早く終わらせてルチア様の元へと帰れるようにするからね。
ヒュービーも、俺にとっては家族みたいなものだな。こんなこと言ったら、また怒るんだろうけど。
もちろん、俺が兄さんだけどね♪
クロード様とルチア様、この別邸で二人の愛がどんどん深まってるみたい……
大切に想っているふたりが幸せそうにしている姿に、ユリアーノ自身も幸せな気持ちに満たされていた。
ユリアーノの父は前国王に対しての暴動に加わったことで殺され、母もまもなくして亡くなった。ストリートチルドレンとなって窃盗を繰り返しながら、危険と背中合わせの毎日を過ごす中、前国王への憎しみが日に日に増していった。
前国王に復讐するために忍び込んだ城内で出逢ったのがクロードだった。いきなり切り掛かったユリアーノの攻撃をいとも簡単に交わしたクロードは、こう言った。
「お前、私の下で働かぬか」
最初は反発したユリアーノだったが、クロードの人となりを知るにつれ、彼は父親とは性格も、志もまったく異なることが次第にわかっていった。誰よりも父が欲に溺れた腐敗政治をおこなっていることを憎み、なんとかせねばと奮起していることに心動かされた。
それから、ユリアーノはクロードに生涯の忠誠を誓ったのだった。
なにもかもなくし、希望を失い、ただ前国王への復讐だけを考えていた僕は、クロード様との出逢いによってすべてが変わったんだ。
前国王を倒し、シュタート王国の国王となったクロードは、これからどんどん他国を取り込んでいき、国を拡大していくことだろうとユリアーノは考えた。今までのクロードの恩になんとか報いたいと考えた末に出した結論は、隣国であるグレートブルタン国の城内に入り込み、スパイとなって情報を流すことだった。
ユリアーノはクロードに何も告げずにひとりグレートブルタン国へと入り、そこで執事としてグレートブルタン国のプリンセスであるルチアの下で働くようになった。
だが、そこで予想外のことがおこった。執事としてルチアの側で働いているうちに、彼女の明るさ、優しさ、そして芯の強さに絆されていったのだ。使用人としてではなく、友人のように、家族のように接してくれる温かいルチアの存在が、次第にユリアーノの心を柔らかくしていった。ユリアーノにとって、ルチアは特別な存在になっていた。
それから、クロードがグレートブルタン国を侵略するつもりはないし、スパイも必要としていないと分かった時に、自分の早とちりを恥じ、自分勝手な行動を反省し、グレートブルタン国が襲われることがなくなったことに安堵したのだった。
けれど、自分の軽率な行動がクロードがグレートブルタン国を侵略しようとしているのではないかと疑われることになってしまい、ルチアとクロードを危機に陥れてしまった。
ルチアからも、クロードからも去ろうとしたユリアーノをふたりは引き留めてくれた。ルチアは涙を流しながら、ユリアーノは大切な友人だから、これからも側にいてほしいと言ってくれた。
最初はシュタート国にユリアーノを連れて帰るつもりだったクロードだったが、ルチアの様子を見て、クロードはユリアーノにグレートブルタン国に留まり、ルチアの執事として留まるよう命令したのだった。
ユリアーノは漆黒の闇一面に輝く星を見上げ、呟いた。
「これからも俺は……クロード様とルチア様への忠誠を誓い、生涯二人を守っていく」
大切な人達が、側にいる……
ルチア様、クロード様に急な公務が入っちゃって寂しがってるだろうな。きっと、クロード様が帰ってくるまで起きて待ってるだろうし……
「美味しい紅茶でも入れて、ルチア様に持っていこうかな」
ユリアーノが窓を閉めて、くるりと背を向けると、廊下の向こう側からヒューバートが足早に近付いてきた。
「何してるんだ! 国王陛下の命令だ、お前も公務を手伝え」
「えっ、俺も?」
「当たり前だろ……グレートブルタン国とシュタート王国が統合した暁には、どちらの国の問題かなんて言ってられないのだからな」
「でも俺、執事だよ?」
「文句を言うな! シュタート王国で仕えていた時には、お前は国王陛下の片腕として働いてただろうが。
……それに、ユリアーノをグレートブルタン国に留まらせることにしたのは、単にお前を王妃殿下の執事として仕えさせるためなどではないぞ。グレートブルタン国の政治や制度、文化を学ばせるためだ。それだけ、国王陛下に信頼されてるってことなのだ。
わかったら、さっさと執務室に来いっ!」
「あ、ヒュービー。俺のこと、クロード様の片腕だって認めたね」
ユリアーノはクスッと笑って、ヒューバートを見上げた。
「そ、れは……言葉の、綾だ」
ヒューバートは顔を真っ赤にして動揺した。
「フフッ……つまり、本音ってことだね」
「っ……自分の都合のいいように解釈するなっ!」
「ほらほら、クロード様が執務室で待ってるよー」
ユリアーノはヒューバートの背中を両手で押して、執務室へと向かう。
「気安く触るな! 距離が近い!」
ユリアーノは手を振り払おうとするヒューバートに、微笑んだ。
ルチア様、紅茶持って行けないや。ごめんね……でも、頑張ってクロード様の公務を早く終わらせてルチア様の元へと帰れるようにするからね。
ヒュービーも、俺にとっては家族みたいなものだな。こんなこと言ったら、また怒るんだろうけど。
もちろん、俺が兄さんだけどね♪
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