真実の愛、上等です!

山葵トロ

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 ◆

 それからの大公の行動は迅速だった。直ぐに自分の臣下、騎士達を集め、帰国の途に就く。途中、実家で用意していた荷物を持ち出すと「君はどちらにしろ、家を出るつもりだったんだな? 」と聞かれて、リシェは「今日になるとは思いませんでしたけれど 」と笑うしかなかった。



 馬車の窓から見える月が綺麗だ。

 「聞いても? 」

 国境を越えた頃、今迄何も聞いてこなかった大公が口を開いた。リシェは小さく溜息を落とす。

 「私は、義妹が私のものを全て欲しがっていた事をずっと知っておりましたの 」

 小さな頃に亡くなった母。入れ替わりに伯爵家に入ってきた後妻には連れ子がいた。
 侯爵家から嫁いで来た新しい義母は、私の存在を疎ましく思っているのを隠しはしなかった。何かに付け嫌がらせをし、気の弱い父もそれに倣った。まぁ、実家の階級が格上で、多大な持参金を持って嫁いで来た義母に逆らえなかった気持ちは分かる。だが、それを止めずに見て見ぬふりをしたことの理由にはならない。

 あの女は自分の娘が私に負ける事をよしとしなかった。私がルシアン王子の婚約者に選ばれた時の悔しがりようは無かったから、ずっと諦められずにいたのだろう。
 セシル本人はというと、いつも下に見ている義姉の持っているものが、自分のものにならないというのは、それが何であっても我慢できない様だった。
 手に入らないものは、欲しくて堪らなくなるということなのか。

 義母はセシルを王子に近付けるため、私が登城する際には必ず伴わせた。私が王妃教育を受けている間、セシルはルシアンと親密にしていたらしい。    
 それでも私は、まさか第一王位継承権を持つ王子が、本気でセシルに誑かされるとは思ってはいなかった。そこまで、分別が無いとは思っていなかった。

 怠惰でプライドだけは強く浅はか、そんな人物が将来担う国など先は無いと思えた。私の全てを捧げて支える価値も。
 そして、この国の統治者となる人間をそんな風に育てた環境も、人間も同罪だと思った。

 「私の義妹は、聖女の力など持ってはいません。信じたいと思っている者は、いとも簡単に騙されてしまうという事です 」

 「一体、何をしたんだ? 」

 「神殿の、聖女が聖なる力を注ぎ込む聖柱に義妹が祈っているのを見て、こっそりと少しだけ私の力を貸しただけですわ 」

 柱が仄かに光るのを見た神官達は、期待以上に騒いでくれた。そして、それを何よりも喜んだのはセシルであり、義母であり、ルシアン王子だった。
 その後は早かった。彼らはまるで権利を得たかの様に、堂々と人前で仲睦まじい様を見せるようになった。

 魅惑的に笑ったリシェに、大公はゴクッと喉を鳴らす。

 「優しさだけでは大公妃は務まらない。やはり、君は何もかも私の理想そのものだ。俺は一層、君のことを気に入ったよ 」

 「変わったご趣味ですこと 」

 フッと微笑んだ大公の長い指が、リシェの赤い髪に触れた。

 「大公殿下は、本当はご存知だったのではありませんか? 」

 「さて? 1番興味があったことは、事実だね。当代一の聖女が蔑ろにされていると聞けば、訪ねない訳にはいかないだろう? もう1つ聞きたいことがあるんだがいいか? 」

 「何でしょう」

 「どうして君は、髪を赤く染めているんだい? 」


 本当に腹が立つくらいに聡い男だ。黙っていると、悪戯めいた蒼い瞳が、企みを誤魔化す様に細められる。

 「それはおいおい聞くとしよう。それよりも、ねぇ、リシェ。俺達は夫婦になるんだ、これからはフレデリックと呼んで欲しいな 」

 ウインクをしてきた大公に、リシェは瞳を瞬く。

 「そうね、フレデリック 」

 共犯者の提案に頷いて、リシェはフェルネ王国への加護を一気に解いた。
 後悔など微塵も無かった。


          




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