盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 10歳編

貴族に迅速な決断能力を付与した結果

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 今、兄さんは耳を疑うような話をしなかっただろうか。
 リーヴェ家を挙げて……何?


「あ、あの……開発、ですか……?」


 そんなサラサラ流れるように報告する事じゃなくない?
 点字開発って兄さんは簡単に言ったけれど、それってつまり、多くの人を巻き込まなければならないし、莫大な費用が伴うやつなのでは?

 ……いくらなんでもやり過ぎじゃない!?


「兄さん、私ハーン語もハーン語の点字も死に物狂いで覚えます!わざわざそんな……ただでさえ仕事がお忙しいというのに、そのような事にまで手を出されたら、兄さんが過労で倒れてしまいます!」
「もう始めている」


 事後報告だったんかい!!!


 私の手にハリセンやそれに準ずる物が握られていなくて良かった。
 全力ではたいてたところだった。


 確かに兄の目論見通り、落ち込んでいた気分は遠くの山にでもすっ飛んでいった。
 でもだからと言って、天気の話でもするかのような軽さで告げられていい事柄ではない筈だ。


 ちょっと前から気づいてたんだけど……もしかしてこの人、ミステリアスなんじゃなくて天然入ってないか?
 それはそれで素敵だとは思うけど!

 今度からはもう少し心臓に負担をかけない告知方法でお願いしたい。事前予告から入るとか。


 困惑で頭の中が忙しなかったので何も発しないでいたのだが、兄さんはそれをどう捉えたのか、慌てて弁明するような口調で話し始めた。


「ローナには被験者として開発途中のクロイツ語点字の感想や、どのようにすれば向上するか等の意見を聞かせてもらう事にはなるが……お前にとって苦痛になる事や嫌悪感を抱くようなものは決してない。安心して、また本が読めるようになるのを楽しみにしてほしい」


 点字開発で伴う苦痛や嫌悪感って何。点と線の距離感がイマイチで気にくわないとか?

 兄の言葉で一周回って冷静になった私は、とりあえず伝えるべき言葉を微笑みと共に渡す事にした。


「私の為に色々とありがとうございます、兄さん」


 どれだけの人がその開発に関わるのだろうかとか、それに伴う人件費を始めとする開発費用はいくらかかるのだろうかとか。

 正直まだ気になる事が多いけれど、でも私の為にと動いてくれたのには感謝しかない。
 ゲームのローナとイーサンの関係では考えられなかったような展開だ。

 兄は口角が上がったのかどうか怪しいくらい小さな音で笑ったかと思うと、肩と膝に腕を回して私の体を抱き上げた。


「当たり前のことだ。それに礼を言うなら、実際に本を出版できるようになってからだ」


 抱っこで目と鼻の先にある顔をさらに近づけて、兄さんは私の頬と自分の頬とを合わせる。

 子供のスベスベ肌に負けず劣らずの頬が私のよりも温かくて、そこで兄が珍しく上気するほど興奮気味である事に気がついた。
 たぶん、兄の表情筋は仕事を放棄して真顔のままだろうけど。


「兄さん、私とても楽しみです。でも無理はなさらないでくださいね」
「わかっている」


 リーヴェ家が点字開発をする事でクロイツ王国に住む私以外の盲目の人たちにも普及するのなら、これ以上人手や費用を嘆く必要はない。
 貴族という立場だからこそ出来る事だろうしね。


 そう思えば懸念はどこへやら、本が読める喜びだけが心を占める。


「ねえ、兄さん。点字で本が読めるようになったら、まず初めに兄さんのオススメが読みたいです。兄さんが好きだと思うのが良い。そうしたら、本の感想を一緒にお話してくださいね」


 私はそう言いっ放しにして、兄が返事をするよりも先に、猫がやるような仕草で重なったままの頬に擦り寄ったのだった。



    *      *      *



 ーーいや、だからさ。


「これが例の物ですか……」


 庭へ日向ぼっこをしにアンに車椅子を押してもらって訪れていた私のもとへ、慌ただしくも喜色を滲ませた執事が現れた。

 何事かと首を傾げていた私は丁重に渡された物を受け取って、軽く表面を撫ぜるように触るとーーそれが何なのかは一瞭然だった。



 これ…………点字だ。



「はや……」
「お嬢様、これでまた本がお読みになれますね、良かったですね!」
「イーサン様がローナ様の為にと、連日連夜、研究者の方々と大変に努力なさっておりましたから。ささっ、早速ご意見、ご感想を」


 三日前くらいに無理するなって私言わなかったっけ……気のせいだったかな。心の内に留めちゃってたかな。

 確かにあの後の兄さんといったら、やけに張り切ってるなとは思ってたけど。


 というか頑張ったの兄さんなんだ。開発研究に出資するだけの係じゃないんだ。
 お願いだから、出資者じゃ物足りないなら兼業するにしても指示者に留まって。休んで。忙しい身でしょ。


「ローナ様、さあ!」
「お嬢様、アンめにもどのようなものか教えてくださいませ」
「アッハイ」


 二人の勢いに押されるがまま、私は改めて理解する為に点字に触れた。


 前世で経験として見て触った事があるけれど、それに近い感触が再現されている。

 所々にまだ試作段階ゆえの甘さーー例えば凸凹が不揃いだったりーーが見受けられるが、文句は無い。


 ただ、気になる点が一つ。


「とても良いのだけれど……この点と点の集まりがどの文字を表しているのかの説明に文字そのものを浮き出させているのは、ちょっとだけ分かりにくいかもしれないわ」


 クロイツ語は表音文字で構成されており、アルファベットを繋げる事で単語を作り、文章が形成される。

 受け取った紙にはそのアルファベットの一文字一文字の形通りに凸凹が施されており、その隣に点字が打たれているーーのだが。


 目が見えないと、例え母国語として読み書きも習得していたとしても、文字を触っただけではそれがどれなのかの判断が難しいようだ。

 左から順に横書きに並べられているのは理解できるから、順番通りにいけばこの点字はあのアルファベットを指しているのだろうなと推測はできるが、如何せんわかりにくい。


「できれば、この点字が何を指しているか隣で読み上げてくださる人がいると助かると思うの」


 これから点字を使うのが私だけならこれで良いかもしれないが、そんな訳がないので。

 兄さんや研究者の方々が苦労してくださったのに文句を言うのは心苦しいが、後々に訂正する方がもっと大変だと考えると言わなければならなかった。


「ローナ様の貴重なご意見、イーサン様に必ずやお伝え致します!」
「いや、暫くは休ませてあげて。お願いだから」

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